塔の中に「穴」(後編)
桐生の位置からは相手の顔は見えないが、その声には聞き覚えがある。
「おい、羽田君。そいつらいま、我々といったな。複数人いるのか?」
「二人いる!」
「特徴は?」
「一人は赤い髪、もう一人は白い髪をした、二人ともスーツを着た大人だ!」
「赤髪に白髪… ああ、思い出した。数ヶ月前に俺たちで捕まえた『あちら側』の奴らか。おい、羽田君、君がいるとよく見えない」
珍しくこの場は文句もなく、羽田はすんなり言う通りにして身構えたまま数歩下がった。間合いを詰めに相手も数歩前に出る。鉄格子の前に現れたその顔、その髪。間違いはない。
「おっと、なかなか無様だな。牢獄に入れられた気分は如何かな?」と赤髪は冷笑して言う。
「誰かと思えば、お前たちが裏で絡んでいたとはね。ヴァイスの勘通りじゃないか。牢屋に入れられていたのに脱走したそうじゃない? この『穴』は何か? 俺たちの世界ではなくて『あちら側』に繋がっているのか?」
「そういうことだな。この世界は我々の世界と君たちの世界の間にあると考えられるのだよ」
「ふ~ん。それで、お前たちはここの首謀者と手を組んで、何をしようとしているんだ? 相変わらずの金儲けか?」
「ふうむ、金銭にのみ目が眩んだ金の亡者のように思われるのは癪だが、ビジネスマンとしてお金を儲けることは罪ではない。私はこの世界を作った相手に出資したわけだが、この新しい世界は今後、新たなビジネスを産むと思っている」
牢に閉じ込められても、桐生は普段の交渉の時と等しく冷静でいる。
「この世界を完成させて、その出来具合の実験として彼らの高校を引き込んだと、そういうことか? それにしたって幼稚な世界だ。何の実験か、この世界そのものの目的もいまいちわからないね」
「それを私に言われても少し困るかな。この世界を作ったのは私ではないからな。製作者には製作者の考えがあるからね」
「その製作者っていうのは管理人だろ? いまどこにいるんだ? この塔の中にいるんだろ? そいつは何故現れないんだ?」
「それはもちろん、諸々の制御で忙しいからだろう。下にはまだ、このゲームをクリアしないといけない生徒たちがいるようだからな。最後の難関として、今頃最強のモンスターと戦ってもらっているはずだよ。こうして君も抑えられたことだし、ようやくゲームらしくなってきたという所かな」
「しつこいな、ここの管理人っていうのも。そんなにゲームがしたいのなら自分の家で一人でしていればいいというのに。羽田君! とりあえず君は下の様子を見に行ってくるんだ。状況を知りたい!」
命令された羽田は炯々たる眼をして、
「そのつもりだ! でも、あんたのために行くんじゃない! みんなを助けに行くためだ! あんたの助けなんか必要はない!」
と、階下へ駆けていった。赤髪は羽田を追いかけるともしない。閉じ込めた桐生を前に、彼に恨みを返せて、唇をひん曲げながら嘲笑している。まあ憎たらしい顔である。
「ものは相談だが、俺をここから出す気はないよな?」
「当然だろう。もともと君たちはお呼びじゃないからな。しばらく大人しくしてもらうよ」
「人命が掛かっているというのに、御宅らもやはり結構に悪人だな。それじゃ、もう一つ訊ねるけど、この『穴』の下のパソコン、壊してもいいか?」
「何?!」
赤髪の顔からサァッと血の気が引いていく。
続きます




