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トロッコで一気に塔へ(後編)

 こう返事を濁すが、彼女の方も悪い顔をしない。


「そうね、まずは脱出よね。ほんと、私たち今とんでもないことに巻き込まれているのよね。いけない、いけない。気を引き締めないと。それにしても、ほんと揺れるね、この乗り物」


 トロッコは平野を走り、崖を飛び越え、森を抜ける。そのうち、塔の目前まで運ばれる。発車時はレールに車体のみだったが、終着には駅も用意されている。トロッコはそこで自動で停車した。


 いよいよ最後の難関、敵の総本山である。降りたときには誰もが身震いする。涼しい顔をしていられるのはやはり桐生のみである。彼は最後尾から誰よりも早く塔の袂へ走って、目分量で高さを測る。おそらく百メートルを超えている。石造りの円柱形、直径も五十メートルはある。外から進入出来ないかと窓や壁面の凹凸を探す。よじ登るに適した窪みは特にない。窓も低い高さにはない。入り口は一階、大きな朱色の鉄扉一つである。彼から遅れて滋や先生方、生徒たちも続々とやって来る。さてどうしたものか。


「これ、みんなで一斉に登るの?」


 そう桐生に聞きながら滋は集まった生徒たちを見回す。どれも不安に指示を仰ぐ頼りない顔をしている。桐生としても気の利いた慰めの言葉の一つでも口にしてやりたいが、情報もない。階数、中の広さ、敵の数、罠の有無、四十人を一斉に登らせるのは可能か否か。彼の予想でも易いものであるはずがない。


「一斉に行く前に先に下見が必要かな。中の造りを見て、行動を開始したほうがいいだろう。弥生も救出しなければならないし。そうなってくると俺が単独で潜入するわけだが、その間、お前が結界でこの場のみんなを守ってもらうことになるんだけど、大丈夫か?」


「結界を張ることに関しては多分、大丈夫だけど。ただ…」


 言葉尻を窄めて羽田の方を見る。桐生が調べている間、素直に待っていそうにない彼の性格なら、そうなってしまった時の対処に滋も自信がない。羽田には、彼に意見を合わせる仲間もいる。これまでの人生で学級委員や班長といった、リーダーや取りまとめ役を務めた経験がない滋には複数相手では手に負えないのだ。


「その辺りは先生と協力するしかないだろう」


「いっそ、結界を張りながらみんなで一斉に中へと入っていったほうが僕には合っているかも… そうなると、勝手に突き進む子もいないと思うし、協力し合ったほうが、誠司が単独で調べにいくよりも安全かもしれないし」


「俺なら一人でも問題ないけどね。この世界の敵の強さは大体わかったから。でも、なるほど、お前がそういうなら、それでもいいかもね。面倒も省略できて」


「さすが隊長。わかってくれてる」


「本当は、何でもいいから経験することが成長の上では大切なんだけど」


「いやいや、成長よりも人命優先。条理は立ちます」


 話をまとめて島田たち先生方にも報告する。ここまで彼らUWに任せてきたのだから異存はないと了承を得る。生徒たちもそれで納得してくれた。自分が結界を張り続けるが各々武器を持って互いをフォローしあってくださいと滋が頼むと、彼ら生徒たちも決意を一つにして頷いてくれる。これが指揮かと自惚れてしまうその快感は、彼には人生初であった。


「責任は重大だぞ」


 桐生には釘を刺されるものの、煩わしいとも思わないのだからよほど嬉しい様子。そして改めて気を引き締め、結界を生み出す。すると、やはり羽田は、その世話にならないと己がまず先に扉を開けようとする。桐生曰く、


「いや、あれは想定内」



続きます

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