誰が為のゲーム(後編)
「あんた、いちいち口を挟むわね。あんたがこの世界でどんな役割を果たしてきたかしらないけど、首謀者じゃないなら、ただの後見人みたいなものなら、少し黙っていてくれる?」
手には炎を纏って睨みつけると、弥生の能力を知らないわけでもない赤髪は怖気づいて、言い返す言葉も口を尖らせ我慢する。
「ニシ君、っていったわよね。君の言う、この世界の意味って何? それにあなたの病気って? 私だって何も聞かずに否定するような、そこまで頭の固い人間じゃないわよ」
「お姉さん…」
二人の心が接し始めたが、そこで急に天井に設置された赤色灯が回り出し、サイレンが鳴る。何事かと驚くのは弥生のみで、少年や赤髪たちの顔に緊張が走る。
「ニシ君、この警報は誰かがこの塔に接近していると、そういうことだろう?」
「そうですね。まだ四十人ほど、この世界に残っている生徒たちがいますから。彼らが一斉にこの塔に向ってきているんです。モニター室から様子をチェックできると思いますよ」
「四十人か。意外と少ないんだな。でも、よし、どんな奴らがこのゲームをクリアしようというのか、その顔を拝見させてもらうじゃないか。塔でのモンスターの配置は確定しているのかい?」
「いえ、まだ全部は…」
「なら急がなくては」
赤髪と白髪はすぐに下への階段へと駆け出す。少年もすぐに後を追いかけようと、弥生の前で踵を返す。
「君! まだこの塔で何をしようというの?! 人をモンスターに襲わせることに、何の意味があるって言うの?!」
踏み出しかけた足を止めて、少年は首だけ振り返る。
「僕は別に彼らを殺そうとしているわけじゃないです。彼らや、死に至る病気に苦しむことなく生きている世の中の人間に、恨みがあってこんなことをしているわけでもないんです。僕はあくまで、僕の残された命の中で、この類稀な能力を使って、同じ若い世代のみんなに、何か協力できることはないかと考えてやっているんです。それが世の中のためになると信じて。それに、あの残った生徒たちの中には、僕の昔の友人もいる。彼は僕のことをもう忘れているかもしれないけれど、僕は彼のことを今でも友人だと思っている。凄く助けられた友人です。その友人に対して僕ができる恩返しも、このゲームには含まれているんです」
普段の弥生は大学にて講義を受け、たまにバドミントンサークルで体を動かし、オフのときは友人たちと美味しいものを食べに出かけたり、ショッピングを楽しんだり、カラオケに行ったりと、普通の学生となんら変わらない生活を送っているが、この業界の仕事で急務があれば、文句はあっても予定をキャンセルして常に駆けつける。重大な任務であればあるほど、彼女は仕事を優先させる。責任感の強い性格がそうさせ、中途半端な気持ちで仕事と向き合うことを嫌う。働く者とはかくあるべきとの考えであるが、責任や責任感の正体については知らない。知らなくともこの業界、特に気楽とは無縁の時に怪我もすれば命の危険に晒される実行部にて五年も働いている。仕事があることに優越感があるとは言わないまでも、仕事をしていられることで居場所を得られていることは確かである。その居場所により、彼女は恒心も手に入れている。これらを踏まえて少年を思えば、この世界を一人で作った彼が孤独であったとも思えてくる。誰に指令を受けるでもなく、強制をされるわけでもない。個人の自由な発想のもとでの創造は、好きにできるが仕事と呼ぶには負うものも益もない。作るにあたって仮に大義を拵えても、誰にも理解されずに誰の目にも触れられなければ、自己満足の趣味で終わる。いや、下手に啓蒙的な思想で動いている分、趣味とも割り切れない。勿論仕事とも呼べないなら、ただ中途半端な代物と片付けられる。羨ましいと口にする少年は、おそらくこれを自覚している。情で曇った目で見ると、それは不憫である。
「な… 何よ、それ。どういう意味よ? 友人って誰のことよ?!」
サイレンの音量がまた一段大きくなる。少年は弥生に一つ微笑むだけで、答えもせずに階下へと走って行った。
続きます




