お姉さんたちが羨ましい(後編)
「すでにUWが動いているのか。なかなか面倒だな」
「このお姉さんと知り合いなんですか?」
「以前に少し。君たちの世界の、世界的な秘密公安組織みたいな連中だよ。我々が住む世界とのバランスを調整しているんだが…」
「あなた方からすると敵だということですか?」
「それは少し物騒な言い方というものでね、必ずしもそう言い切れるものでもない。ただ、仕事上、仲間であることは決してなく、出し抜かなければならないことも多々ある。閉じ込めてくれて、我々としては助かるというものだ。この女のほかにも仲間がいただろう?」
「いますね。直接、会ったわけではないですが、どの人もすごい力を持った人たちでした。あんなことができる人が現実にいるなんて僕としても驚きでしたよ」
「それで、君はどう手を打ったんだね?」
「あまりにも戦闘レベルが高いですからね。ゲームのバランスを崩してしまうので、この世界からの退出を交渉したんですが…」
「無理だったと。まったく、おせっかいな連中だ」
赤髪は弥生へ一瞥をくれて、こう続ける。
「この世界は君らのように、力もあり、任務もある人間のために作られたものじゃないというのに。そうだろう? ニシ君」
少年は赤髪に頷いて弥生を横目に見る。語らずともこの世界の意味を理解してくれと黙して訴えているようだが、弥生は以心伝心に付き合わない。
「それ、どういう意味よ? あんた、この世界を何の目的で作ったって言うのよ?」
仲の知れた友人、仲間ならともかく、仕事の上での取引相手、ましてや敵に対して、釈然としないものにはきちんと説明を求めなければ、彼女の性格上、そこに理解などはない。
「お姉さん、別に僕は日本や世界に対して反逆の気持ちでこの世界を作ったわけじゃないんです。最初は自分の能力で新しい世界を偶然にも作れてしまったところから始まったわけですが、でも、それ以後の製作はきちんと人のためを思って進めているんです」
「人のため? 一般人を危険に巻き込んで、何が、どこが人のためよ?」
「お姉さんならそう言うと思っていました。でもそれは見解の違いです。特に、お姉さん方のように、力もあり、また、ちゃんとした任務もある人からすれば、僕のように力の使いようを誰にも示されず、さらには余命も限定されている人間の、行き場のない苦しみはわからないと思います。別にそれは僕に限ったことじゃない。僕たちの住む世界でも、例えば今回この世界へと放り込まれた彼ら高校生たちにしても、自分の使命もわからず、くすぶるだけの毎日を送っている若者が何人もいる…」
「ちょ… ちょっと待って! 一度整理させて。あなた、余命がどうとか言っているけど、何かの病気なの?」
少年は微かに笑って頷く。そこには死の宣告をされている人間の儚さがある。人の情に弱い弥生の胸はただそれだけで締め付けられる。少年は、自身の病名も余命も具体的な話はしない。弥生もそれ以上は聞けない。
「お姉さん… 僕からすると、お姉さん方は羨ましい。ちゃんと国のため、誰かのためにできる仕事が与えられている。自分の存在意義をちゃんと示すことができている」
「そんなこと言われても… でも、こんな仕事、辛いことばかりだし、上手くいかないことばかりだし、きついし、辞めたいと思ったことも何度もあるし、羨ましく思われるほどの仕事でもないと思う…」
「でも、実際に仕事がある。時に死に狂うことがあっても、国のため、誰かのために働けていることは幸せです。たとえ自分のためであっても働かない、働けない人のほうが不幸です。それに気付くきっかけすら与えられない人が、いまの社会には多い」
幸福論まで挟まれると、何の会話を始めているのか、弥生は整理に手間が掛かる。
「ニシ君、だっけ? 君、いくつなの?」
続きます




