現れた首謀者(前編)
この業界に五年近く携わってきた弥生の直感が、この奇妙なほど落ち着き払って大人びた物腰の少年が、子供の形に関係なくタダ者ではないと訴える。間違いなく能力者、それもおそらく、いや、きっと、この世界を作った人間の一人に違いない。一度に数百人を巻き込み、すでに怪我人まで出しているこの件の首謀者の中に、こんな子供がいる事実は想像外である。こんな子供に振り回されていた事実も信じ難く、こう新しい空間を作り、一つの世界として成り立たせた能力者が自分よりも年下ということに嫉妬もする。弥生は、しばらく動けない。比べて羽田は何者かと聞いて、すぐに答えようとはしないその少年にズカズカと近づいていくので、彼女はその猪突にハッと我に返って、止めに入った。少年は羽田のことなど目もくれず、弥生をジィッと見据える。
「お姉さん、普通の人間じゃないですね?」
こう聞かれて弥生の足も羽田の足もすぐに止まった。弥生へと振り返った羽田の顔は口惜しそうである。
「君は、能力者ね。それも、この世界を作った人間…」
これを聞いて、少年に最も近いところに立っていた井村と女子生徒は、顔を青くさせて走り出し、弥生の脇を抜け、背後の男子たちのさらに背後に回る。少年は物悲しそうな目をしながら、口元で小さく笑う。
「僕のほかにも、普通の人とは違った才能を持った人に出会えたことは、正直、嬉しいです」
「それはつまり、全て『Yes』ということね?」
ゆったり喋る少年と比べて、弥生は間髪入れない。急かしているつもりはないが、馴れ馴れしくできるほど彼女にも余裕がない。
「こいつが、あのアナウンスの奴ってことか?」
そう聞くのは羽田である。弥生よりも少年の近くにいながら、この恐れ知らずは逃げようとも、改めて距離を取ろうともしない。弥生は無言で頷く。すると、少年は首を横に振る。
「あのアナウンスの声は僕じゃないです。協力者がいてくれたので」
「宗田君という子ね?」
弥生はやはり間を作らない。少年はゆっくりと視線を足元に落として小さく頷いた。
「君が、首謀者ね?」
少年は鼻から息吐いて、やはり緩やかな間を作る。
「首謀者か… 確かにあなたたちからしてみれば、そう呼ばれても仕方ないかもしれませんね。僕がこのゲームを作ったことに変わりはないですからね」
この白状に弥生の背中がゾクゾクとする。口が渇いてたまらず唾を呑んだ。男子たちも然りである。緊張で、中には武器を構える者もいる。
「待って! 攻撃しちゃ駄目!」
そう制してから、
「君はどうして、いま、このタイミングで私たちの前に現れたっていうの?」と聞く。
少年は勿論即答はしない。その「間」は、それでも冷静に頭を働かせるには都合が良い。
「あなたたちは本当に有り難い。こんなにまともに戦ってくれる人たちがいてくれて、僕としても作った甲斐があるというものです。ただ、お姉さん、あなた方の存在には正直、驚かされています。ゲームの中だけ、御伽噺の中だけだと思っていた超人的な人間が実在するんだから。いや、噂には聞いていましたよ。でも、こうやって、ゲームを開始して、いきなり出会えるとは思っていなかったんです」
続きます




