薄情な男と煙たい女
全身ずぶ濡れの弥生は、橋を狙って両手を突き出し火球を生み出す。掌、手首、肘と順に乾いたところで、
「あんたたち! ちょっと避けなさい!」
その声と共に発射。狙いが逸れて人形弁慶の得物の先端を掠めるが、そこから全身に引火する。痛みも熱さも覚えない人形は燃えながらも羽田たちへの攻撃をやめない。一心不乱に橋の上の彼らばかりを攻撃する。試しに弥生も橋まで走り、橋面の上に乗ると、弥生も攻撃の目標にされた。敵の攻撃を受ける手前でまた橋から出ると、敵はクルリと背を向け、目標を外される。これを二、三度繰り返しても同じ結果がでる。つまりはそういうプログラミングである。戦う男子生徒たちもこのパターンに気付くと、橋から出て遠距離射撃を始めた。その中で羽田のみ、橋の上に留まって一人で弁慶人形と接近戦を続けるのだが、弥生の橋の外からの二発目の火球によって敵は焼失させられ、全く活躍とならない。そうなると手柄を横取りされて卑怯と叫ぶ。弥生も、女子を助けなかった薄情と呼んでやる。そしてそれよりも橋に引火した火を踏み消せと命令する。指図されるのが嫌いな隊長気取りの羽田はなお歯向かって、
「お前が消せ!」
弥生も引かず、
「早く消しなさい! 馬鹿!」
「お前が馬鹿だ!」
醜い応酬が続くが、いつの間か羽田の足に引火しているから、
「ほら見なさい」
慌てる羽田は狂ったように橋の上を駆けて、気の動転からそのまま川へと飛び込んでしまった。彼が岸へと泳いでいくのを助けようと手を伸ばしたのは、弥生によって川から助け出されたあの女子であるから、人の情は奇妙である。
弥生や他の男子生徒たちの手によって橋の火も消し止められる。丁度羽田も川より上がって、橋の袂で弥生と対峙する。ごまめの歯軋りながら羽田に力強く睨まれると、
「な、何よ…」
と、弥生も一度はたじろいだ。もっとも、こちらも負けん気が強い女だから、すぐにギリリと睨み返す。川に流された際に武器を手放したのか羽田は丸腰である。
「あんたたちはいったい何者なんだ!? 魔法みたいな力を持って、本当に俺たちと同じ人間なのか!? 宇宙人か何なんじゃないの!? もしかしたら、この世界の住人なんじゃないのか!? 本当は俺たちをスパイしているんじゃないのか!?」
実力差を思い知らされると、今度は魔女狩りに出る。生徒仲間にもそう思わせようとするから、なかなか卑劣である。
「何よ、それ… 先に言っておくけどね、私はスパイでもなんでもないからね。あんたたちを助けに来ているって言っているじゃない。それに、確かにあんたたちとは少し違うかもしれないけど、これでもちゃんと人間なんです。ちょっと普通じゃない才能があるだけ!」
「そんな証拠はどこにもないだろう!」
「私がスパイだっていう証拠もどこにもないでしょうが!」
互いに眼光に熱が入って、いまにも火花が飛びそうである。弥生にしてみれば、羽田は恩も義理もない薄情な奴で、助けた甲斐もない。羽田にしてみれば、弥生はゲームの邪魔をする余計な御世話のでしゃばり娘、ひたすら煙たくて仕方ない。その超能力も気に入らないし、そんなものを使われては、生身の体と用意された武器で戦っている自分たちが馬鹿に思えてくる。
「羽田君、その人は、スパイだとか、そういうのじゃないと思うよ」
これに割って入ったのは、先ほど川に落ちて弥生が助けた女子生徒である。
「じゃあ、何者だって言うんだよ」
「だから、私たちを助けに来てくれた、救助隊の人だって。仕事だって、そう言ってた… 私たちを邪魔しているわけでも、力自慢をしているわけでもないと思う」
四面楚歌かと思っていたが、思わぬ味方に弥生の表情も少し緩む。
続きます




