首謀者の名前(後編)
ヴァイスはしばらく考える。宗田の濡れた眼球の震えたのを見ると、どうやらその場しのぎの嘘とも思えない。
「どうして君は、そんな子供相手に今回のような危険な役割を引き受けようと思ったんだい? 君のほうが歳上なんだろう?」
「多分… でも、なんというか、書き込みだけだと、言っていることが大人っぽくって、正直、最初、僕は彼を歳上だと思っていたんです。知識だって凄かったし、そんな彼が、リアルに体験できるゲーム世界を作ったとメールで送ってきてくれて、半信半疑だったけど、それは凄いと乗っかっていたら、君も手伝ってみるかいと、そう誘われて… 僕自身、あまりゲームは得意じゃないけど、それが嘘か本当か、本当ならどういう仕組みで作られているのか、科学的な興味が湧いて…」
「それで実際に参加してみると、本当だったと…」
「正直に言って、本当だったことに最初は興奮して… でも、すぐに恐怖のほうが強くなって… 仕組みが、僕には科学的に説明しきれないものでしたから… 超能力だとか、もともとそんなものを信じていなかったし。自分が関わって、何か危険な目にあうんじゃないかと… そんなときに、彼から直接電話があって、初めて声を聞いて… 子供の声だったからか、そこで少し安心して…」
「安心… ちなみに君のようにあの世界に参加した人間は他にいるのかい?」
「それは… わかりません…」
「では、君はその子供のことを何と呼んでいたんだい?」
「そ… それは…」
「言えないのかい? 首謀者を売って、我が身に危険が及ぶとでも? でも、その点に関しては、あの世界から出てしまった今となっては問題ないと思うけどね」
「そ… それは、ほ… 本当ですか?」
「君はその道の機関に確保され、保護される。首謀者が子供で、仲間が大勢いるわけでもないようなら、好きにいじれるあの世界ではない『こちら側』では君をどうこうできるものでもないだろう。それは君のほうが良くわかっているんじゃないのか?」
宗田は瞬きもせず頷いた。
「な… 名前は、『ニシ』君、です… そう呼んでくれと言ってました…」
「ふ~ん。それで、電話でもいい、君は、その名前を直接、その首謀者に向って呼んだことは何度ある?」
ヴァイスは急に変なことを聞く。勿論、すぐには返事が出てこない。
「そういえば、直接には一度も…」
と、宗田も言うが、それもまた変な話である。
「なるほど。君たちは余計な会話がほとんどなかったとみた。それで、君は具体的にはあの世界では何を担当していたんだい?」
宗田はしばらく黙る。思い出したように口を開くが、
「僕は… あれ? 僕は、あの世界を… あれ? 僕が自分の学校をあの世界に… あれ? 引きずり込んで、ボタンを押したのも僕で… あれ? 作ったのは誰だ? あれ? 僕か? いや、違う。でも、僕のような… あれ?」
急に言動がおかしくなってくる。
「どうした?」
「僕が引きずり込んで、僕がアナウンスして… えっと、あれ? 本当にそうだったか? でも、そうだったら、僕が… 首謀者か? 僕が… 『ニシ』君か?」
そう呟いたのを最後に、宗田は突然白目をむいて口からは泡を吹いて気絶してしまった。
「この子… 記憶を少しいじられているな」
続きます




