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羽田たちを追いかける弥生(前編)

 羽田たちの後を追いかけた弥生は、校舎を出て百メートルもしない所で彼らの背中を目にする。どうやら空で待機していた鳥の攻撃に手を焼いている。岩陰や木陰に隠れてボーガン、弓矢で反撃を試みているが一本も届かないようである。この調子ならどんどん先に行くともない。さて、そう気を緩めていると、鳥の一羽が弥生にも気づいて炸裂石を投下する。当たらずとも破裂した音は煩く、跳ね上がった小石、砂埃は目に危うい。ただでさえ羽田たちの身勝手に鬱積があるというのに、弥生はますますムカムカとする。癇癪に任せて火球を生み出すと、空へと放つ。衝動的な単発ながら、これがまた見事に一羽に命中して撃ち落とすから放った当人もビックリである。すぐに機嫌も取り戻し、自分の才能に浮かれていると、他の二羽が弔いとばかりに羽田たちから弥生一人に攻撃を集中させる。それも地上近くまで追いかけて来る。


「どういうプログラミングをしているのよ!」


 集中攻撃の嵐に弥生も逃げるしかない。校舎の玄関の方へと退いて庇の下に隠れた。彼女を鳥たちが追いかけていく隙に、羽田たちは先を急ぎ、みるみる離れて行って見えなくなるから弥生の苛立ちが盛り返す。庇の下から何発も火球を撃ち放って、そのうち二羽共に命中させ、焼滅させてしまう。倒した頃には彼女も肩で息をして、その場にへたり込んでしばらく休む。体育館よりビニール袋に入れて持ち出したスポーツドリンクを、喉を鳴らしながら飲んでいると、


「僕にも少しくれるかな?」


「え? ああ、はい」


 声がしたときには、疲れもあってか考えもせず、反射的に答えてボトルを手渡している。と、すぐにこのやり取りの不自然に気がついて、ゾクッと身震いしてしまう。いま声がした方へとすぐに振り向くが、誰もいない。ペットボトルもない。何が起きたのかもわからない。


「子供の声がしたような… 何? 私、疲れ?」


 その自問も虚しい。これを桐生に報告しに行くべきか迷うものの、今の自分の任務を思い出すと、再び羽田たちを追いかける。追いかけながら弥生は、いま耳にした声とボトルが消えた出来事を彼女なりに頭の中で整理する。声は子供、小学生くらいの男の子のもの。ペットボトルを手渡した際、「ありがとう」と言われたような気もする。もし「穴」を使っての所業なら、相手はおそらくこの世界を管理している首謀者である。ただ、それも俄かには信じがたい。その子供の声は子供らしからぬ沈着があり、一切の野暮ったさもなければ子供特有の甘えもなかった。優等生が目上の親しい大人に気さくに頼む物腰であった。仮にその子供が、歳若くとも才能を発揮できる天才型の能力者であったなら、同じ能力者として脅威と恐怖、若干の嫉妬を覚える。それでいて、その子供が真っ向自分の敵であるという気も抱けない。不意に、先ほど体育館にて深沢が自分や滋の才能を羨ましいと口にしていたことも思い出す。


 能力者は決して恵まれた人種ではない。圧倒的に稀な存在なら理解されないことも多々ある。時に白い目を向けられることもあれば、人の世に生きていくため隠さなければならないこともある。それでいて能力者だからといって、自分一人で世界を変えられる訳でもない。人の頂点に君臨できる訳でもない。能力以外は普通の人と変わりがない。超常的で特殊な能力であれ、ピアノやバイオリンが上手い人と何ら変わりがないのである。肩身の狭い自分のために、自分が住むに易しい新しい世界があれば、と願ったこともある。その為か、この世界を創出した者の気持ちもわからないでもない。ゲーム感覚で人の命を賭けさせるセンスに反感はあっても、子供ならと思えば、それも仕方がないと思えてしまう。



続きます

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