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出立の決断(後編)

 気の重いのを前にまだまだ拍子の抜けた口ぶりの桐生は、どうしたものかと首を捻る。そのうち舌打ちを一つすると、


「先生、俺たちもいまから出ましょう。休憩もここまでにして急いで適当に武器と食料を持って、ここにいる全員で彼らを追いかけましょう」


 と、言う。すかさず弥生が、


「それはちょっと危なくない? 先に行った子たちも追いかけないといけないし、それで残りのみんなも引き連れるとなると、うちらの戦力が分散されるわよ」


「いや、ここに残しておいた子たちが、先に行った彼らのように勝手に行動されても敵わない。先の彼らは勇んで出ていったかもしれないけど、取り残された生徒たちは取り残された恐怖からパニックになって、ここから飛び出すなんてこともありえない話じゃないからな」


 体育館に残った生徒や教師たちを見回すと、皆一様に、顔に不安が浮かんでいる。


「呑気なことを言っていられないのは確かね」


「弥生、お前はとりあえず先の彼らを追いかけて援護してやれ。何かあれば、何でもいいから合図しろ」


 弥生は真面目な顔して桐生を見つめた。


「わかった。こうなったらあんたたちはしっかりと校舎を調べて誰一人として残さずに連れてくるのよ」


「もちろんだ。多少、遅れてもお前たちに合流するつもりだから、決して無理や無茶はするなよ」


「了解」


 弥生は適当に食料をつかんで一人羽田たちを追いかけに体育館を出ていった。


「滋、先生たちと手分けして信用できそうな数人でこの校舎内に誰も残っていないか確認するぞ」


「うん」


 体育館に残った生徒の数はこれにて三十二人。うち教師が五人である。池田を体育館に残し、島田を含めた他の先生と滋、桐生、滋に指名された深沢と、同じく生徒代表として生徒会に所属するあの安川とで、手分けして校舎に残っている者がいないか見て回る。他の生徒たちは池田とともに食料と道具、身を守るのに最低限の武器の準備を整える。


 校内を調べに回った教師たちは二十代、三十代と若く、あまり時間も取れないと皆走る。どれも滋よりも足が速い。


 深沢と安川は二人一組となって調べに回るが、十代だからか桐生を除けば共に誰よりもよく走る。まるで二人、競うように走る。彼ら二人が任された二階には先ほどの放送室もある。調べてみるとそこには誰もいない。ほか図書室がある。最後にその図書室へと二人並んで入っていくと、ふと誰かのすすり泣く声が聞こえる。二人共に聞こえたので、聞き間違いでもない。声の質からおそらく女子、もしくは子供のものである。息を呑み、勇気を絞り出して、


「誰か、いるの?」


 と、安川は聞く。可愛らしい顔に似合わず、すっきりよく通った声をしている。すぐに深沢も同じ台詞を発するが、返事はない。すすり泣きも急に止んでしまう。深沢と安川は互いに顔を見合わせ、見開いた眼を突き合わせる。揃って生唾も呑んでいる。それでも二人して再び静かに足を運ぶと、部屋の隅や本棚の陰を一つ一つ調べてみる。そして、やはり誰もいない。気配もない。


「二人して幻聴?」


「まさか。俺ははっきりと聞こえたけど」


「そうよね、確かに聞こえたよね」


 得体の知れない不気味さに胸の鼓動が速くなる。そんな中でも、安川の顔を間近に見て、噂どおりに可愛いものだと深沢はふと思うのだから、その鼓動の出所が恐怖なのかは定かではない。当の彼女は先へ先へと進んで行く。


「深沢君、なんだかここ、濡れてる」


 部屋の一隅を指さし、安川は深沢を呼ぶ。確かにコップの水を零したように床が不自然に濡れている。その側に一冊の本が落ちている。


「何だ、これ?」



続きます

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