深沢の思い付き
ヴァイスを見送って後、島田と二、三、話した桐生は、顎に指を添え俯きながら弥生たちの側まで歩いてくる。それまでの女子生徒の品定めも止めて、弥生も滋も深沢も口を噤んで彼の出方を待つ。黙して刺さる三つの視線に桐生も、
「なんだ? 何かを期待した目だな。でも、何もないぞ」
「そんなのわかっているわよ。それより、これからどうするのよ?」
「ここから出るに決まっているだろ。ただ、どう出るかが悩むところだよ」
「あんた自身は実際どうしたいのよ?」
「俺か? 面倒なことを省きたいんで、一度に大移動するのがベストだね。それが駄目でピストン輸送するにしても、できる限り回数は減らしたい」
「要するに滋君次第って言いたいのね」
「四十人も包むような大きな結界は、ちょっといまの僕には…」と滋本人も頼りない返事をする。
「ガードする人間がもう一人くらいいればいいフォーメーションができるのに」
「ヴァイスさん、なんで出て行ったの?」
「あいつか? まあ、あいつにはあいつの仕事があるからな。ここまで手伝ってもらえただけでも有り難い話だよ」
「先生や生徒の誰かに活躍… は、期待しちゃいけないわね」
「やはりピストン輸送かな」
諦めかけるが、側で聞いていた深沢が、
「あの、さしでがましいかもしれないんですけど、さっきのあのロボット、あれは動かせないんですかね? もしあれを使えるなら、何か戦える人が必要みたいですから、役に立たないかと思うんですけど」
と、聞く。三人にすればそれは盲点であった。
「いや、賢い。なるほど、あれを使えれば相当な戦力だ」
「でも動くの? あんたたち壊していなかった? というか、動かせるの?」
「そんなのはやってみないとわからないだろう」
桐生は急に目を輝かせて、飛び跳ねるように一度島田の方へと何事か告げに行く。彼女と共にその足で体育館の出口へと向かい、手招きして弥生と滋、それに深沢も呼びつけて五人で外へと出て行く。いまだ旋回している敵鳥の空からの攻撃も滋の結界があれば問題ない。屋外で倒れて放置されたロボットまで近寄り、桐生が乗り込むと、スイッチやレバーをあれこれ触って起動に挑む。照明はつく、燃料メーターらしきものも十分にある、だが、操縦桿を動かしても反応がない。代りに足元からテレビゲームのコントローラーを発見する。弄ってみると何てことはない、機体の操縦はそれで行える。
「あ、立った…」
見事起動に成功しても、弥生たちにはたいした興奮もない。
「大丈夫? ねぇ、戦える?」
「いま試しているところ。武器の扱いはわからないけど、手足を動かすだけなら、こういったもんだろう!」
言葉通り、ロボットが殴る蹴るの動作をする。打撃の動きを一通り試すと、桐生はコクピットより飛び降りてくる。
「で、どうなのよ?」
「うん? いや、あれだけ動ければ十分だろう。巨大ってだけで戦力に数えていいと思うぜ。操縦もゲームみたいなものだったし、動かすだけならなかなか簡単だよ」
滋は丸口を開けながら機体を見上げて、
「でも、これ、誠司が乗るんだったら、あまり意味がないよね。僕や弥生さんでも同じ気がする」
「それはお前、そこの深沢君に乗ってもらえばいいだろう。彼が思いついた案なんだ、彼に乗ってもらうのがベストってもんだよ」
「え? 俺がですか?」
深沢はもっけな顔をする。案は出しても自分が操縦するとは考えていなかった。
「生徒を乗せるんですか?」
島田も不安である。とはいえ、彼女も桐生たちUWの人間が乗るのでは意味がないことは理解している。代わりに先生の誰かが、と言いたげに桐生を上目で見つめる。それを口にするより先に、戸惑っていた深沢が何かに駆られて、
「いえ、俺が乗ります。ゲームと似たようなものなら、一通りのジャンルは経験があるので、多分、大丈夫です」と臍を固めた。
「よし、それじゃ、一時間ほど休憩して早速行動に移そう。滋の頑張り次第で二班で済めばよし。一度にいけるようならラッキーだ。全員、体育館に集めて、校舎の中も全部調べて、誰一人としてこの世界に置いてけぼりをくらわないようにするぞ」
「夜のうちに出るの? もっと日が明けてから出たほうが、危険が少ないかと思うんだけど…」
滋はそう心配するが、この世界は、夜は夜でも辺りは闇とはならない。照明器具を使わずとも互いの姿を目視できれば色も区別できる不思議な世界である。
「この世界に朝があると限ったわけじゃないからな。時間すらわからない。どれだけ待って日が昇るのか、昇らないのか知れたものじゃないなら待っても仕方がない。それにこの世界で危険といったら作られたモンスターだろ? それなら昼も夜も変わらないね。お前の結界が全部を弾き返せば済む話だ」
「プレッシャーだね…」
ロボットを屈ませて五人は再び体育館へと戻る。彼らの試運転を館より眺めていた者が何人もいる。その中にはもちろん羽田たち生意気で血気盛んな連中の姿もある。ギラリと深沢へと一瞥をくれる羽田の胸中を察すると、普段の深沢なら遠慮して、ロボットを操縦することも羽田に任せていよう。だが、この時は違う。彼らに任せるくらいなら自分で乗ったほうがよいと譲る気はない。理由はわからない。そう思うから、そう決める。
続きます




