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屋根の上での確認(後編)

「おい、君、一人で出て行くと危険だぞ。それに先生の指示で体育館に集まるように言われたと思うけど」


 そう声を掛けても振り返りもせず、返事もない。背中を向けたままでは見るからに態度が怪しく、ヴァイスが瞬時に生徒の前へと回りこむ。さて、そいつはメガネをかけている。瞳を震わし、だらしなく口も開けて、何事か言おうとして声に出来ないでいる。体格も貧弱である。


「学校から出ると、モンスターが襲ってくるって、知っているよね?」


「あ、いや、その…」


 張りのない弱々しい声が漏れ聞こえたところで桐生も男子の前に回り込む。二人して自分より十センチは低いその男子の顔を見下ろす。男子は気圧されて、半歩後退すると足がもつれて尻餅をついてしまう。


「いったい君はどこに行こうとしているんだい? まさかとは思うけど、この世界を作ったとかいう犯人じゃないよね?」


 ヴァイスは物腰柔らかく訊ねる。桐生の長い付き合いの上で、ヴァイスが怒っている姿を目にしたことがないが、聞き方はたいがいストレートである。その問い詰め方も人の神経を抉るものである。


「う… あ…」


 男子生徒も返事を詰まらせる。


「おい、君、ちなみに名前はなんと言う?」


 桐生が聞いてもこれもまた返事ができない。ますます不審である。桐生とヴァイスで顔を見合わせていると、男子生徒はズボンの後ろポケットに慌てて手を突っ込み、そこから携帯電話を取り出す。極度の緊張で手を震わせながら誰かと通話しようとボタンを押して端末を耳にあてる。はて奇妙なことに、この世界では携帯電話の電波は届かないはずだが、


「あの、もしもし、お願いします、助けてください!」


 繋がったのか男子は早口で喋り出す。


「お前、いったい誰と喋っている?」


 繋がったことも驚きだが、自分たちを前に助けを求めることに耳を疑って、桐生はその端末を奪おうと手を伸ばした。が、届く手前で急に大地が揺れ始める。何事かと伸ばした手も止めて辺りを見回すと、その揺れが次第に激しくなり、途端に桐生たちと男子生徒を境に大地が割れた。二人は慌てて飛び退いた。


 裂け目に目を凝らしていると、そこから昇降機で持ち上げられた何か巨大なものが姿を現す。徐々に迫り上げられるそのフォルムは人の形をしているが、馬鹿に大きい。何より全体が金属でできている。額にはVの字の角が生え、目は黄色に光り、全身の色は白、関節部には黒いチューブも見え、胸だけ赤い。姿を現しきったその高さは十メートルを軽く超え、四階建ての校舎よりもまだ高かった。巨大な機械人形である。


「え~と、これも著作権や意匠権に問題ないの?」


「敵もやるねぇ」


 桐生とヴァイスは二人して見とれてしまう。その隙に男子生徒が機械人形目掛けて駆け出すと、その巨大な足元で携帯電話を弄って機械人形を操り、手を差し出させて赤い胸の辺りまで持ち上げてもらった。その胸が開くと、どうやらコクピットのようで、飛び移るやまた閉まる。


「まさかと思うけど、あれも敵になるのか?」


「いや、まさかじゃなくて当然そうなるだろうね」


 機械人形が右手で拳を握ったと思えば、桐生とヴァイス目掛けて振り下ろしてくる。間一髪それを躱すと、右手が駄目なら左手と、左手が駄目なら右手と、交互に拳を振り下ろして二人を殴り潰しに掛かるのであった。


 スピードはある。ただ、それでも二人に避けられないほどでもない。何発大地を叩いても二人を捉えられないなら、そのうち桐生とヴァイスが別方向に散る。これによって打撃を諦めると、機械人形はすっくと直立して、次には両の肩が開いて、そこから一発ずつミサイルを発射した。それぞれに逃げる桐生とヴァイスを追いかけて、地面に着弾すると激しく爆発。二人は風圧で吹き飛ばされてしまう。共に怪我なくすぐに立ち上がるが、


「冗談じゃない! これ作った奴、絶対馬鹿だろ!」


続きます

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