屋根の上での確認(前編)
滋たちが保健室へと向っている最中、桐生とヴァイスは送電線の状態を確かめに学校の外へと出る。跳んで壁を蹴ってまた跳んで、いとも簡単に屋根まで上って、地元の高校では珍しく臙脂の色をした瓦屋根の上を、四階建ての高さに怯えることも無くスイスイと歩いて、校舎から伸びた送電線を見つけてその先に目をやる。
「やっぱり」
と、線の途中が空中で途切れ、途切れているのに空中に漂い、先は漏電するでもなく焼けているでもなく、途中で消えて、今いるこの世界の次元から別次元に飛んでいるのがわかる。
「確かに言うとおり、これは『穴』だな。それにしてもお前、推測どおりでよかったな。これで違っていたら、体育館に集まっている生徒たちの期待を裏切ることになっていたぞ」
「正直に話すと、この校舎に入る前にチラッとこの線のことが見えていたんだよ。おそらく間違いはないと思っていたさ。でもね、ここから生徒たちまで逃がすっていう提案は君が勝手に言いだしたことだからね。本来、俺がどうこう言われる筋合いはないよ。それに、『穴』をこじ開けるとしても屋根の上だ。生徒たちをここまで連れてくるの、数が数だけに結構大変だよ」
「確かに。でも、できないことはない」
「できないことはなくても、まだまだ課題はある」
途切れた送電線の先目掛けてヴァイスの掌が翳されると彼の能力でこじ開けられた直径一メートルほどの「穴」が突然現れる。彼の弁では想像以上に「重い」。維持にも普段以上に神経を使う。また、所謂課題とはそれだけではない。桐生も目を凝らして「穴」を覗き込んで、ヴァイスの言わんとすることに気がついた。
「これは危険だな。『穴』が小さいから線に触れる可能性があるな。脱出できたはいいけど感電したんじゃ、やっぱり駄目か」
「それに『穴』を抜けた先も問題だ。明らかに空中だ。地上から十メートル以上はあるわけだからね。俺たちならまだしも一般人が線を避けながら直径一メートルの『穴』をくぐり、くぐった先で十メートルの高さから飛んで着地できることなんて不可能に近い。一人や二人ならできなくもないが、数が数だ。プラス敵に気付かれ『穴』を消滅させられたり、もしくはモンスターを送られるとその対処もしなければならない。こちらの頭数が少なすぎるね」
翳した掌を引っ込めると広げられた「穴」も小さくなる。どうしたものかと、ヴァイスは肩を竦めた。期待をさせて体育館に集まっている生徒たちの非難、顰蹙が目頭に浮かんでさすがの桐生も拙そうな顔をする。実に早計だったわけである。
ふと屋根から玄関先に目を落とすと、はて、おかしなことに男子生徒が一人外に出て行くのが見える。桐生とヴァイスは互いに顔を見合わせ、共に存じ上げぬと小首を捻る。
「あいつ、丸腰で出ていって何をする気だ?」
「さあね、四百人もいれば変わった人間もいるもんだよ」
「モンスターが出てきたらやられるだろうに。あの先生、ちゃんとまとめてくれるって言ったのに」
そう口から溢して桐生は屋根から飛び降りた。
「修学旅行と同じだね。集団からはぐれる人ははぐれる」
ヴァイスも後を追って飛び降りる。二人、すぐに出てきた男子生徒を追い掛け呼び止めると、そいつは吃驚して、背筋を伸ばして直立不動で固まった。
続きます




