第93話 そりゃあ、冤罪だよ。 俺は関係ねえ!
「フェルドさん、今日はどの依頼にしましょうか」
「あー、そりゃ、シャノンたちがやりたいやつでいいよ」
ギルドの依頼ボードの前に、シャノンたち『清廉なる赤い薔薇』と一緒に立っている。
そりゃいいんだがよお。
なんで、シャノンは腕を絡めているんだよ。
しっかりとホールドされていて、逃げ出せねえじゃねえか。
で、シャノンはにっこにこだよ。
「何でもいいはだめですよ。ちゃんと一緒に考えてくださいね。私も悩むんですから」
いや……
このレベルのパーティになりゃ、特別依頼とかじゃなけりゃあ、森の深いところに入って、高ランクの魔物を狩りゃあいいだけじゃねえか?
特に依頼がとか関係ねえだろう。
「とりあえず森に入りゃいいんじゃねえか?」
「だめですよ。計画はちゃんとしないと。今はよくても、将来どうなるかわからないじゃないですか。十年後、貧困しているなんて嫌ですよ。それでも一緒にいますけど。でも、一緒に普通に幸せになりたいと思っています」
何の話だよ。
十年後ってなんだよ。
そのときも俺はシャノンと一緒にいるのか?
十年後は、俺、現役の冒険者か……
いや!
そうじゃねえよ。
問題はシャノンと一緒にずっといるかってことだろうが。
「なんだい、フェルドさん。シャノンちゃんと熱々だねえ」
ドミニクの登場だ。
「いやです、ドミニクさん。そんなに熱愛に見えますか? 私としてはフェルドさんからの愛情がもっとほしいのですが。しかし、その不足分は私からの愛情で補えばいいと思っています」
どんな答えだよ、シャノン。
どうも一緒に生活することが前提みたいだな。
愛されてるってのはわかるが、しかしなあ……
「で、マリアンネさんはこれを認めてるのかい」
「そうですね……。魔将のときにシャノンさんも頑張ってくれましたから、ご褒美としていいかと思っています。やりすぎなければ問題ありません」
言葉とは裏腹に、マリアンネさんの顔が怖いんだが、気のせいか。
「だけど、フェルドさん、ずいぶん有名人ですねえ。街で人気者になってますよねえ」
「そうだなあ……面倒なんだよな。おらあ別に有名になりたかったわけじゃねえよ。そのうち飽きてくれるねえかなあ」
「どうですかねえ。こんな田舎じゃあ、有名人も少ないですからねえ。イーナちゃんがいない今は、フェルドさんが格好のおもちゃじゃないですかい?」
おもちゃって何だよ。
街の安全を守ったつーのに、おもちゃ扱いなのかよ。
「ま、娯楽が少ないですからねえ。フェルドさんとシャノンちゃんが一緒に歩いているのを見て、『英雄さんは可愛い彼女がいるねえ。美男美女のカップルよねえ。羨ましい』と街の奥様が仰ってましたよねえ」
……だから、嫌なんだよ、田舎町は。
イーナが帰って来たときにいらねえ噂を吹き込まれそうだぜ。
「まあ! 美男美女のカップルですって、フェルドさん」
んで、なんでそこで照れんだよ、シャノン。
「俺は美男じゃねえよ」
「そうですよね。フェルドさんは可愛い顔をしてますよね」
そうじゃねえって……
あばたもえくぼってか。
ま、いいか。
「そういえばさあ、フェルドさんはメリスちゃんとも散歩していますよねえ。それも噂になっていますよお。英雄さんはロリコンなのかしらねえ、って」
「ロリコンじゃねえよ!」
ここははっきりと訂正しておくべきだろう。
いや、しておかないといけない気がする。
のじゃエルフは放っておくと家から出ねえから、そのままじゃカビが生えちまうだろうよ。
俺が定期的に連れ出して歩かせねえと、そのうち歩けなくなるんじゃねえかって心配している。
俺くれえしか、あいつを連れ出せるやつがいねえじゃねえか。
エルフの保護活動くれえに思ってくれよ。
「まあ、デートには変わりねえですよねえ」
ドミニクよお、そういう火の種を放り込むなよ。
「フェルドさん」
ほら、マリアンネさんが反応するだろうが。
「もう有名人なんですから、女の子をとっかえひっかえみたいなことをしちゃダメです」
「そうですよね。私以外と街中を歩くのはダメですよね」
「シャノンさんもダメですって」
「じゃあ、マリアンネさんも歩けませんよね。それなのにこの間、一緒にスイーツを食べに行っていましたよね」
「う、それは……。フェルドさんが甘いものを食べたいって……」
あれはたしか、マリアンネさんが新しいスイーツ店ができたので行ってみたいということだったはずだが。
ちなみに、俺はチーズケーキのオレンジジャム添えとブレンドコーヒーで、マリアンネさんがレアチーズケーキのレモンカード添えとカフェオレだった。
とても美味しかったと記憶している。
「それにしてもあんな見せつけるようにテラス席に座らないでもよかったんじゃないですか」
「っ……見られていたか」
ああ、ありゃあ天気がいい日で、気持ちがよかったなあ。
その雰囲気ってのも、店の味になるよなあ。
「脇が甘いですよね、マリアンネさん」
「シャノンさんも、あまり見せつけるようなことはしないほうがよいと思いますよ」
マリアンネさんとシャノンがバチバチに火花を飛ばす。
そこへ、ドミニクがポンと手を打つ。
「あ、そういえばさあ……いや、なんでもないやね」
「なんだよ、ドミニク。気持ち悪ぃなあ、言っちまえよ」
「いや、これを言うと少々まずいんじゃねえかと……」
「余計に気になるじゃねえかよ。言っちまえよ」
「そうかい、フェルドさんが言えって言ったんだからねえ。それは覚えておいてくれよお」
何をもったいぶってんだかな。
「メリスちゃんとフェルドさんを見たときにさあ、メリスちゃんがフェルドさんの子供を生めばいいんじゃねえかと思ったんだよお」
「な、何言ってんだよ」
アホか、ドミニクよ!
何をぶち込んできてやがる。
本当に余計な一言じゃねえか。
「どういう理由でその結論に至るんですか! 私が子供を産めないからって当てつけですか!」
「あまり適当なことを言うなら、冒険者資格を剥奪しますよ!」
マリアンネさんとシャノンの二人が息ぴったりにドミニクにツッコミを入れる。
「いやさあ、ごめんよお。ちょっと思っただけだって。でもさあ、そうすりゃ、シャノンちゃんとフェルドさんがその子を一緒に育てりゃいいんじゃねえかい。きっと、メリスちゃん一人じゃあ子供を育てられねえんだからさあ。それで二人分幸せになるんじゃねえのかねえ」
いやあ、確かにメリスは子供を育てられなそうではある。
精神年齢が子供だからなあ。
だが、それを俺とシャノンが育てる?
「なるほど、妙案ではありますね。私とフェルドさんの子供でないところは引っかかりますが、しかし、フェルドさんの子供ではある。この際、半分で我慢しますか。贅沢は言ってられませんね。メリスさんを引き込めばこちらの戦力は二人になる。勝ち抜ける確率が上がりますよね」
そりゃあ、どうだろうか。
へっぽこエルフを一人分に数えていいのかは疑問が残るぞ。
たまに、いや、頻繁にマイナスになりそうに思う。
「フ、フェルドさんの子供を産む役割なら、私だってできますからね!」
マリアンネさんが顔を真っ赤に反論する。
「しかし、マリアンネさんは自分でしっかりと育てると思いますよ。私の入り込む隙がない」
そうだなあ。
しっかりした母親になりそうだ。
確かにそんな未来が見える。
「当たり前です! 子供は大切に育てますよ」
頑張りすぎて、疲れちまわねえかが心配だよ。
多少ざっくりでもいいと思うぜ。
周りに手伝わせるくれえがいいと思うんだ。
ああ、エルマさんがティムを育ててた頃を思い出したよ。
あの頃は大変だったが、楽しかったなあ。
エルマさんは大変だった記憶だけが残っているのかもしれねえがな。
マリアンネさんとシャノンが言い合いをしている。
マリオンは暇そうにしていて、アシュリーがちょこっとこちらに近づいてきた。
「シャノンは幸せそうなんでいいんだけどさー。私の相手はどこにいるのかなあ? ねえ、渋いおじさんを紹介してほしい」
知らねえよ、俺に聞くな。
そのへんのおっさんを捕まえとけよ。
だが、バルドゥルとブルーノには手を出すなよ。
妻子持ちだからな。
「ルッツにしておけよ。今フリーだからな」
ルッツを生贄にしておけ。
「ルッツさん、前の奥さんが大好きなんだよねー。なかなか難しいんだ。強敵」
アタックはしているのかよ!
この街の冒険者ギルドはどうなってやがるんだよ。
『その中心にいるのが、フェルドなのでしょう』
なんだよ、ジリ!
まるで俺が悪いようじゃねえか。
『原因の何割かはフェルドだと思いますよ』
そりゃあ、冤罪だよ。
俺は関係ねえ!




