表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
92/96

第91話 【涼葉視点】私たちは戦うしかない

魔法陣で転移した先は真っ暗だった。

アガサの魔法で明かりをつける。


埃っぽい、小さな部屋で、床には魔法陣が描かれている。

……ちゃんと機能してよかったよ。

転移先がずれて壁の中とか勘弁!


ここはトワルヴェイルの街の城の地下のはず。

そして、魔王がいるはず。

ああ、これは……


「いるね」


「これが魔王ですか」


私の呟きに、メイジーが頷く。

存在を感じる。

巨大な存在を。


「他にもいるね。大きいのが一人」


イーナの言う通り。

五魔将が一人ここにいるはずなんだ。

それを撃破しないと、魔王へはたどり着けない。


「ま、存在感が大きくていいかな。迷わなそうだよね」


この城はべつに迷路になっているわけじゃない。

それにもとは帝国の城だ。

構造は頭に入れている。


部屋にはドアがない。

石の壁で四方が囲まれている。

壁に手を這わせる。

このへんのはず……

あった。

少しの突起があり、そこを押す。

隠し扉になっていて、重い音を立てて通路が現れる。

廊下側からは開かない仕掛けになっている。

帝都からの一方通行になっており、帝都からの逃走ルートでもある。



通路に出る。

近くに気配は二つ。

扉の音に気付いたのだろう、こちらに向かってきている。

兵士たちの先に階段がある。

これからはすべて倒して進む。


「く、曲者だ!」


慌てた様子の兵士が走ってくる。

なるほど、あれが魔族だね。

ほとんど人間と同じ。

だけど、頭に角がある。

確か、人間よりも戦闘力が高い種族。

筋力と魔力が基本的に高い。

寿命も少し長いし、美形が多い。

だけど、人口は少ないらしい。


奇襲は時間の勝負だ。

速攻で倒す!


「私が行く!」


「スズハ、頼みます」


通路は狭く、二人が並んで戦闘を行えない。

一対一が二回。

勇者の力を見せる!


「邪魔よ!」


先頭の兵士の胸を突き刺す。

そのまま蹴り飛ばす。


後ろの兵士も巻き込んで倒れる。


「ごめん!」


その兵士にも突きを入れて、倒す。


人間型を倒したのは初めて……

ゴブリンとかオーガとは違う。

ほとんど人間。

だけど……今は考えない。

魔王を倒す。

それだけ。

考えると走れなくなりそう。

きっと後で夢に見るんだ。

だけど、私はメイジー、アガサ、イーナちゃんのために。

私に優しくしてくれた人たちのために戦う。



階段を駆け上がり、魔王を目指す。

途中に、魔王ではない、大きな魔力がある。

それを倒さないといけない。

そうしないと魔王にたどり着かない。


魔族の兵士を倒しながら走る。


大広間に出る。

十名程度の兵士と、そして女性が待ち受けていた。

その女性が高い魔力の正体。


身長は百七十くらいだろうか。

長い白髪で、眼鏡をかけた、知的な美人だ。


「勇者ですか。魔王様へは通しません」


凛とした声。

白い魔力が立ち上っているのが見える。

かなりの実力者だ。


「確かに私が勇者、久坂涼葉だ。貴方は?」


「私は五魔将が一人、金のカリヴァナ。貴方にはここで死んでもらいます」


それは許されないんだ。

現在、勇者は私一人しかいない。

私が負けたら、人類の敗北。

罪のない人たちが、魔族の支配でどんな虐待を受けるのだろうか。

それはできないんだ。


「私は負けない! 魔王を倒す!」


自分に言い聞かせるように叫ぶ。


「そうでしょうね。では、戦いましょう。命と信念をかけて」


兵士たちが声を上げながら、突撃してくる。


「メイジー、イーナ、兵士を止めるわよ。アガサを守るの。アガサ、魔法使いへの牽制をお願い。大きいのは撃たせないで」


「だめよ、スズハ」


イーナが叫ぶ。


「これは奇襲なんだから、時間の勝負! 一気に決めないと。スズハは突っ込んで! 私たちがサポートする」


確かにそうだ。

前線の城じゃないけど、兵士の数は五百はいるだろう。

時間をかけて兵士が集まってくるようなら、私たちの負けなんだ。

その前に魔王を倒す!


「ごめん。了解。サポート、頼む!」


「バフ、行くよ!」


イーナのバフがくる。

木の魔力が体を、剣を強化する。

そして、必殺技を打てるまで一気に魔力が高まる。


聖女の、イーナの力が高まっている。

ウェストフェルトの街のときとは全然違う。

そこからものすごく力が増している。

とても頼りになるが、怖いくらいだ。


イーナのバフはメイジーとアガサにもかかっている。


「私から行くわ」


さすが賢者。

アガサが《ファイヤーボール》を三発放つ。


魔法が弾けて、大爆発を起こす。

その爆発に突っ込むように、私とメイジーが走る。


「カリヴァナ様、私たちに構わず、大魔法を!」


「そんなこと!」


そう、魔法使いは火力が身上だけど、前衛に兵士がいる状態だと大きな魔法を使いにくい。

魔法使いを守る兵士は必要だけど、いると邪魔。

魔法の運用というのは難しいんだ。


恐らく彼女はそれほど前線で戦うタイプじゃないと見た。

そのへんの経験が浅いんだ。


「これならどうです!」


カリヴァナが魔法を発動する。

複数の魔法陣から、それぞれ一メートルほどの剣が出現する。

それらが私たちへと飛ぶ。

《サモンソードレギオン》だ。


「そんなもの、スズハには触らせません!」


メイジーが私の前に立ち、襲いかかる剣を撃ち落としていく。


「くっ、しかし、まだです!」


すべてを撃ち落とすことはできず、何本かに体を斬られる。


「メイジー!」


「大丈夫です。致命傷じゃありません。スズハは走って。カリヴァナを倒してください!」


メイジーの頑張りを無駄にしない。

私のやることをやるんだ。

心配はいらない、私たちにはイーナがいる。

生き残りさえすれば、回復させてもらえるんだ。


「うおぉぉー!」


叫ぶ。

カリヴァナは目前。

そして私の魔力が高まっている。


「くっ、サモンシールド!」


カリヴァナが魔法で、巨大な盾を召喚する。

だが、その程度!


歩行スキル《風の一歩》を発動する。

体が風のように軽くなる。

踏み込んで高く飛ぶ。

天井近くまで、高々と。


盾を飛び越え、そして眼下にカリヴァナを見る。


「これで終わりよ! 未来のために、私は勝つ! 隆流真空!!」


多量の風の魔力が剣に集中する。

それを真上から強引に、力いっぱいに振り下ろす。


「きゃあぁぁ!」


カリヴァナの体を深く切り裂いた。


私は床に転がるように着地し、カリヴァナを振り返る。


彼女から血が噴き出している。

この傷は助からないだろう。


「カリヴァナ様!」


それでも彼女を助けようと、兵士たちが私たちに襲いかかってくる。

だけど、イーナのバフで強化された私たちの敵ではない。

その力量の差がわからないわけではないのだろうけど、兵士たちは必死にカリヴァナに向かって走る。


……あっさりと全滅させる。

息をしているのは、カリヴァナ、ただ一人。

さすがは五魔将、しぶとい。

だけど時間の問題。


「ま、魔王様のところ、には……行か、せません……」


カリヴァナが血で真っ赤になった手を私に伸ばす。

だけど、その手は私に届かない。


「ごめん。だけど、私たちは行く。そして魔王を倒す」


そうしないと私たちが生き残れないから。

そうしないといけないんだ。


「だ、だめ……それは、だめ……」


カリヴァナが私へと手を伸ばす。

そして魔力を高める。


「スズハ!」


メイジーが私とカリヴァナの間に体を入れる。

彼女の傷はイーナが回復してくれたみたいだ。

服に穴はあるけど、傷はない。


「大丈夫」


カリヴァナの魔力が高まり、魔法陣が生成される、がすぐに崩れる。

魔法は発動しない。


「あ、ああ……」


カリヴァナは絶望の表情。

もう、彼女は終わりなんだ。

彼女の命はもうすぐ消える。

魔王を守ろうとした、忠実な部下。

それほど魔王は慕われているの?

大切な人物なの?

だけど、私たちは魔王を倒さなければいけない。



「……っ! スズハ、大きい魔力が来るわ!」


アガサが奥の階段を指さす。

一番大きな魔力が階段を下りてくる。


「カリヴァナ! どうした!」


現れたのは二メートルを超える男性。

年齢は四十を超えているだろうか。

黒髪の長髪で、体は太くはないが筋肉質で重みがある感じ。

黒く光る角が天を向いて生えている。

影があるイケメンというのだろう。

きっと女性にモテるだろう。


「だめ、よ……オルドヴァン……ここに……来ては……」


彼女は魔王を拒否する。

だけど、その表情は……激痛にゆがめつつも、どこか嬉しそうにも見える。

……あれは女性の顔だ。


「カリヴァナ、すぐに回復魔法を」


彼女を抱き上げる。

彼の手はカリヴァナの血で濡れる。


「……だめよ……もう助からない……」


「だが! 俺は……君もいなくなるのか、俺を残して!」


「大丈……夫……オルドヴァンは強い……わ……」


彼女は手を伸ばす。

オルドヴァンの頬に触れる。


「ありが……とう……最後に会えて……よかった……」


彼女は笑い――そして、手は力なく落ちる。


「カリヴァナ!」


せめて大切な男性の胸の中で……

私は彼女たちの関係を知らない。

魔王と五魔将。

それだけしか知らない。

だけど、きっとそれ以上の関係なんだろう。


彼が彼女の死に涙するくらいには。


魔王は彼女の遺体を静かに部屋の隅に横たえる。

そしてこちらを振り向く。


「勇者、か?」


「勇者、久坂涼葉だ。あなたが魔王だね」


「ああ、俺が魔王オルドヴァン・ブリスファードだ。待ってもらって感謝する」


「別にいい。戦士の命には敬意を払わなければいけない」


「だが……なぜ、勇者は魔族を殺す。彼女は死なねばならなかったんだ」


「それは……魔族が人間を殺すからだ。私たちはそれに抗うだけだ。私たちが生き残るために」


魔王は首を振る。


「人間は与えられていると思わないか。魔族は虐げられていると思わないか。なぜ、魔族は北の不毛の地に生きねばならない? 知っているか、魔族の子供の多くは栄養失調で死ぬんだ。だから魔族の数が少ないんだ。子供が死に、亡骸を抱きしめる母親を見たことはあるのか?」


私は知らない。

魔族のことは知らない。


「だが、人間も死んでいる! だから反抗するだけだ!」


「なぜ、神は魔族を愛さないのだろう。愛さないのならば、どうして我々を作った? 死すべき存在なら滅亡させればいい! だが、それすらしない。生かさずに、だが殺さずに! 我々は未来永劫、苦しまねばならないのか!」


「それならば! どうして話し合わないんだ! たしかに私は知らない。だが、魔族が人間を殺したのも事実! 侵略したのも事実だ。侵略にどんな理由をつけたって、それは侵略でしかない!」


「人間に魔族の話を聞くような懐の深さがあるのか? 土地を我々に分け与えるような寛容さがあると思うか? その慈悲があると? 同種族で土地をめぐって殺し合っているというのにだ。異種族に豊穣の土地を分け与える慈悲深さがあるのか?」


……たぶん、そんな寛容さは人間にはない。

きっと話し合いで魔族に土地を分け与えることはない。

それは断言できる。

悲しいほどに。


「だけど、それでも腕力で土地を奪い取るのは間違っている!」


「間違っているさ。だが、それでなくては魔族は豊かにならない。世の中は正しいことだけでは進まないんだ。私たちは幸せになりたい。そして、もがいているだけだ」


「だけど……」


他人を不幸にして、自分は幸せになれるの?

だけど、それはきれいごとなんだろう。

言ったところで、彼の心には届かない。

動かすことはできない。

力のない言葉だろう。

与えられた側の私の言葉なんて、彼には届かないんだ。


「私は魔族のために戦うよ。勇者よ、戦おう。それぞれの種族のために」


オルドヴァンが手を振る。

魔力で作られた黒い剣が現れる。


魔王は話ができる相手だった。

だけど、彼を説得することはできない。

私たちは戦うしかないのだろうか。

前の勇者も、その前の勇者も無力感を感じながら、魔王と戦い、勝利したのだろうか……


「悲しむな勇者よ。これが神の決めたこと。結局、我々は彼女たちの手のひらの上で踊らされているだけ。受け入れるしかないのだろうな」


彼は苦笑する。

無力を感じているような笑顔。


私は剣に魔力を込める。

最後の戦い。

これに勝たないといけない。

それがどんな相手でも、倒して、人類を救う。

いや、そんな大それたことじゃない。

私と近い人たちの顔が浮かぶ。

この世界で親切にしてくれた人たち。

それとメイジー、アガサ、イーナ。

今、一緒に戦ってくれている仲間たち。

メイジーとアガサは恋人でもあるんだ。

彼女たちを殺させはしない。

イーナはフェルドさんのもとに帰さないといけない。

そう、彼と約束したから。


だから、戦う。

魔王を倒すんだ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ