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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第90話 【涼葉視点】きっとこれは運命だって思っている

エヴァルレンドラ帝国に、トワルヴェイルの街がある。

王都から北に五十キロ程度の位置だ。

高い城壁に囲まれ防御に適した街らしい。

しかし、魔王軍に占領されている。


現在、魔王軍はエヴァルレンドラ帝国と交戦中。

帝国は敗退を繰り返し、現在の前線は、帝都の北三十キロあたりにある。


魔王は前線から近い街であるトワルヴェイルに駐留しているらしい。

前線から距離があると現場との連絡にタイムラグが生じて、重大な問題が発生するとのこと。

現場に全権を委任した優秀な将軍がいればいい。

だけど、それも同僚の嫉妬を買ったりして、問題が発生するらしい。

人間関係って一番難しいのかもしれないね。


とにかく、魔王は前線に近い街に陣取って戦況を見つめている。


魔王軍の勢いが強い。

帝国は敗退を繰り返している。

そして帝都に迫られている。

帝国が落ちれば、人類の敗北。

六大国家で残るのは、アーベランロード王国とティルヴァール諸島国になる。

だけど、戦力は帝国よりだいぶ小さい。

きっと負ける。


人類が負けたらどうなるのだろうか?

そうね、そもそも、私って魔族を知らないんだ。

彼らがどんな生活をして、どんな文化で、どんなことを考えているのか。

だからその予想はできない。

予想できないことって怖いよね?


もしかしたら過剰に反応しているだけなのかもしれない。

仲良くできる可能性もあるのかもしれない。


だけど、魔族が攻めてきていて、人間側の国を征服している。

それは事実。

それは許されないこと。



帝国の皇帝の話だと、戦線の後退は作戦らしいね。

まあ、半分は実力で、半分作戦かな。

この世界には転移魔法陣というのがある。

この帝都とトワルヴェイルの街が繋がっている。

トワルヴェイルの領主の城。

その地下に転移魔法陣がある。


私たちは明日、その魔法陣から魔王討伐に突入する。

奇襲作戦だ。

そして、きっと最終決戦。

そこで私たちが負ければ……



昼間、皇帝コンラート・マクシミリアンとの謁見があった。

コンラートは五十を超えたおじさん。

筋肉質でギラギラしている。

周りの部下たちは疲れた表情をしているけど、彼だけ精悍な顔つき。

こんなに魔族に負けているのにね。


確かにトップが疲れていては勝てないだろう。

だけど、彼は違う感じがする。

現場が見えていない?

さすがに、そんなことはないか。


「勇者スズハ。魔王など、勇者の前には塵芥よ。感謝するがよい、我々が舞台を準備しておいた。行って、首を取ってこい!」


「はい。感謝しております」


首を垂れる。

だけど、話は聞いていない。

どうでもいい。

皇帝のために戦うんじゃない。

突入に魔法陣があるのは助かったけど。

だけど、それだけ。

彼の功績でも何でもない。

あなたたち、ただ負けていただけでしょ?

あなたたちが勝っていれば、私が行く必要もなかったんだよね。

それ、わかっているの?


この帝国にも勇者はいたんだ。

土の勇者、山形純也君。

私と同じように、異世界召喚された日本人だよね。

彼はいない。

水の聖女に殺された。

水の聖女の怒りを買って、一週間大雨が降り続き、洪水被害で大変だったらしい。

帝国軍と魔法軍にも被害が出たらしい。

この国の人たちは何をしているのだろうか。

きっとバカなんだ。


皇帝のありがたい言葉が続いている。

どうでもいい。

私は行って、魔王を倒す。

そして、それは皇帝のためじゃない。

それはわかっている。



私はアーベランロード王国に召喚された勇者だ。

といっても、元の世界ではただの女子高生だった。

戦闘訓練もしていないただの女子高生。

学校帰りに女子だけでカラオケ行って、アイドルのアップテンポの曲を歌ったり、公園でただ話していたりする、ただの女子高生だった。


両親も普通。

共働きで頑張って働いていた。

そんなにお金はなかったけどさ、両親の仲はよかったから、幸せだったよ。


私は勉強もそこそこ、運動もそこそこ。

中途半端だね。

将来の夢は保育士さん。

子どもは好きなんだ。

友達には「精神年齢が一緒だからだよね」って言われてた。

「それって才能だと思うよ。涼葉の大切な才能」って。

幼馴染で、親友の井上小春。

小さくて、ころころ笑って、春の日差しのように、花が咲くように優しい子だった。

本当に好きだったんだ……


私は小春に恋をしていた。

ずっと、ずっとね。

小学校高学年で気付いて、それから高校二年生のあの日まで。

あの日のあとも、きっと恋をしている。

振られたんだ。

もう、気持ちを抑えきれなくなって、告白しちゃったんだ。

彼女は普通の女性だって知っていたのに。

普通に男の子が好きな女性だって知っていたのに。


「ごめんなさい。私、涼葉をそういう目で見たことなかったから……」


辛そうに断られたんだ。


「そ、そっか。そうだよね。ははは。そりゃそうだ。ごめんね、小春。変なことを言っちゃった。私、おかしいよね!」


怖くなって、走って逃げたんだ。

ああ、私たちの関係はこれで終わりだ。

小春の隣にはもういられないんだ。

泣きながら走ったんだ。


部屋に閉じこもって、泣いた。

そのあと、小春が心配して、家を訪ねてきてくれた。

本当にいい子だよね。

だけど、痛いだけだよ。

お母さんに言って、帰ってもらって、ずっと部屋のベッド上にいた。

どうして告白なんかしたんだろうって、ずっとぐるぐると考えていた。

後悔が押し寄せてきて、人生なんてどうでもいいって思った。

こんなに苦しいなら死んで終わりたい。

そう思った。


今から考えると、死にたいだなんて、そんなでもないんだよね。

過ぎるとちょっとだけ痛みは軽くなるのかな。

思い出すと痛いのは痛い。

でも、死ぬほどじゃない。

理性では、生きていればきっと他にいいことがあるってわかっているから。

その可能性があるからね。


でも、小春のことは忘れない、ずっと。

ずっと、ずっと好き。

きっとね。


召喚されたのはそんなときだった。

ちょうどよかったんだよね。

小春には顔を合わせないで、こっちに来ちゃった。

きっと心配しているね。


こっちの世界でメイジーとアガサに出会ったんだ。

メイジーはかっこよくて、ちょっと厳しいけど、実は私に甘々な女性だ。

アガサはすごく綺麗で、胸もおっきくて、本当に優しい女性。

本当に、二人とも好きなんだ。

彼女たちに会えたから、私はここでこうやって生きていけている。

きっと彼女たちと出会わなければ、私はダメになっていたと思う。

それだけで、異世界召喚に感謝している。

きっとこれは運命だって思っている。



夜、部屋。

ただ広い部屋に、豪華な家具がぽつりぽつりと置いてある。

一人で寝るには寂しい部屋だ。


ベッドも広くて四人でも寝れる。

だから、みんなで集まっている。

それぞれ一部屋割り当てられてるけど、寂しいじゃない。


私の右側にメイジー、左側にアガサ、さらに左にイーナ。

イーナは結局、ガードが硬くてダメでした。

残念。


ちなみに明日、魔王討伐に出発するので、元気なことはできないんだよね。

それも残念。

だから、せめてメイジーの胸に頭をうずめる。

柔らかい……ちょっと筋肉もあるけど、だけど、それが好き。


「スズハ、どうしました?」


「なんでもない」


「震えてます」


それは言っちゃダメ。

自覚したら、ダメになるから。


「怖いですか?」


「そりゃ怖いよ。私、死にたくないよ。まだ、十八だよ。ピッチピチだよ」


涙が出てくる。

私は弱いんだ。

ただの子供だ。


「そうですよね。まだ十八ですものね。死ぬのは怖いですよね」


メイジーは優しく私の背中を撫でてくれる。

剣だこがある手。

だけど優しい手だ。


「メイジーも怖いの?」


「私も怖いです。私は『剣聖』ではないのです。師匠より弱い」


「でも、私についてきてくれた」


「私がスズハの傍にいたかったんですよ。もし、スズハが死ぬときに私がいないのはもっと怖い。ただそう思ったんです」


「私、私、メイジーは、勇者の私の我儘で付き合ってくれているのかと思っていた」


「怒りますよ。私はそれほど弱くありません。スズハが好きだから、スズハだから一緒にいるんです」


今、そんなこと言わないで。

泣いちゃうじゃない。

もうダメだよ……


「じゃあ、一生一緒にいてよ。私から離れないでよ。一生だよ」


「もちろんです。私は一生スズハの傍にいます。スズハはおっちょこちょいですからね。私がいないとダメでしょう。だからずっと一緒です」


メイジーを抱きしめる。

しっかりと筋肉がついた体、だけど女性らしい体。


「スズハちゃん、私は……」


後ろからアガサが抱きついてくる。


「私はそこに一緒にいちゃダメ? 私もずっとスズハちゃんといたい。それはダメなの?」


ぐるりとアガサの方を向く。

アガサを抱きしめる。

アガサの大きな胸に顔をうずめる。

これは、これでよい……

こんなときにこんなこと思う私はダメな子だよね。


「もちろん一緒だよ。三人一緒にずっと一緒。アガサがいなきゃ嫌だもん。一緒に魔王を倒して、ずっと一緒に暮らすの」


子どものような言い分だ。

それはわかっている。

だけど、こんなささやかな願い。

それが叶えられるように頑張る。

頑張れば叶う夢なんだ。


「私は蚊帳の外だけど、別にいいよ」


「だって、イーナちゃんは私のにならなかったじゃない」


「そりゃそうよ。私はフェルのところに戻るんだもん」


このフェルドさん大好きっ子が。


「まったく、イーナは。あのフェルドさんのどこがそんなにいいの?」


おっさん冒険者だよ。


「フェルはね……おじさんだし、顔もイケメンってほどじゃないけど、ちょっと加齢臭が出始めてたりしたり、足も臭かったり、口も悪いし、話が長かったりするし、たまに説教臭かったり……」


ねえ、イーナちゃん、フェルドさんのいいところを言うんじゃないの?


「……だけどね、すごく、すごく格好いいよ。いつも私を守ってくれたし、見守ってくれるんだ。包容力があって、すごく安心できる大きな人。いつも私のことを真剣に考えてくれて、一緒に笑って、悲しんでくれる人。すごく、すごく素敵な人なんだ。すごく、すごく好きなんだよ」


すごく好きなのは知っている。

イーナちゃんを見てればわかる。

フェルドさんが素敵な人だってのもわかる。

もし、私が男性を好きだったなら、きっとフェルドさんに恋をしていたのだろうね。


「スズハ、フェルはダメだからね」


すごいプレッシャー。

きっと睨まれている。


「嫌だな、イーナちゃん。私にはメイジーとアガサがいるもの。男性なんて、ない、ない!」


「本当よね?」


「本当の本当!」


イーナちゃんは怖いよね。

可愛い見た目に惑わされちゃだめ。

きっとフェルドさんは苦労すると思う。


「スズハでもイーナには勝てませんね」


「イーナちゃんはダメよ、スズハちゃん。イーナちゃんとフェルドさんの間には誰も入れないよ」


メイジーとアガサに笑われる。

ちょっと癪だ。


「でも、フェルドさんモテるじゃない。エルマさんとかマリアンネさんとかシャノンさんとか。どうかなって……」


「スズハ! フェルがどうするって? ねえ、もう一回言ってみて。スズハの言葉をもう一度ちゃんと聞いて、私、怒るか、怒らないかを決めようと思うの」


プ、プレッシャーが……

もうすでに激怒じゃないの!


「スズハ、イーナに謝りなさい」


「スズハちゃん、今なら間に合うから、ね、ね」


すぐに土下座で謝りました。

口は禍の元です。

考えなしに言わないほうがいいと思いました。

ちゃんと反省しています。

今後、一切いじらないです。

はい。



深夜、地下の隠し部屋。

床に複雑な魔法陣が描かれている。


「じゃあ行くよ、メイジー、アガサ、イーナちゃん」


「はい、スズハ、行きましょう」


「準備はできてるわ。きっと大丈夫」


「魔王をちゃっちゃっと倒して、フェルのところに早く戻ろう!」


私たちは魔法陣を発動する。

いざ、最終決戦へ!


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