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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第89話 イーナが帰る場所を守れと言っているのか

フォルカスの上空、巨大な魔法陣が出現する。

十五メートルはあるんじゃねえかな。

そこからゴゴゴと轟音を鳴らしながら、強大な槍が出てくる。


フォルカスがそれを見上げる。


「おいおい、今度は土の究極魔法か。こんな田舎にそんな実力者が揃っているとはな」


「まあな。メリスはウチの隠し玉だよ。他の街じゃ、ほとんど見られねえ魔法だ。とくと味わってくれよな」


「いや、さっきの雷もだが、あれもずいぶん痛そうだ。今回は逃げさせてもらうよ」


「いやいや、つまらないことを言うなよ。せっかくのごちそうを前によ。食ってけ、食ってけ」


《激流ノ歩》で突撃し、《袈裟懸け》、《回転斬り》……連続でスキルを繋げる。

メリスの魔法が落ちてくるまで、フォルカスを足止めさせなきゃいけねえ。


「おい、おい。おまえも巻き添えを食らうぞ」


「いや、俺は逃げるね。あんなのもらったら死んじまうからよ。おらあ普通の人間だよ。お前とは違わい」


「お前も十分化け物だと思うがな」


俺は人間だよ。

で、おっさんな冒険者だ。

あまり持ち上げないでくれよ。

ぎりぎりでやっているんだからよお。


槍が轟音を立てて近づいてくる。

うおう、こりゃ怖えや。

だが、まだだ。

まだ、早い。


スキルを続ける。

フォルカスの反撃は《水流の構え》で受け流す。

やつの攻撃が重い……

が、流れをそっと変えるんだ。

逆らうわけじゃねえ。

ただ、変えてやるだけだ。


「俺の攻撃をここまで耐える人間がいるとはね。驚きだよ」


「俺だって、驚きだよ。こんな辺境の街に魔王軍の幹部が来るなんてなあ。何かの間違いだと思いたいぜ」


「ははは。俺もこんな田舎に来るとは思っていなかった」


「じゃあ、帰ってくれねえかな」


「いや、今は感謝しているんだ。こんなに楽しい戦いがあるんだからな。死ぬまで戦おうぜ、フェルド」


うっせえよ、戦闘狂。

面倒なやつにすっかり名前を覚えられちまったな。

こりゃあ、今後大変だぞ。


ゴゴゴ……


槍は至近。


「じゃあな、フォルカス。生きてたら、まだ付き合ってやるよ」


「それはありがたい。まだまだ楽しめそうだ」


余裕だな、フォルカス。

生物ならしっかり死んでおけよ。


俺は逃げる!

《激流ノ歩》、《激流ノ歩》。

全力で後退する。

ドミニクとメリスあたりだ。


「うおぉぉぉぉ!」


フォルカスは全力で剣を、上空から落ちてくる巨大な槍に打ち付ける。

凄まじい金属音。

だがな、きっと死なねえんだろうよ。


「メリス!」


ドミニクを振り返る。

……メリスはドミニクに背負われている。

紐でぐるぐると。


「赤ん坊かよ、お前は」


「う、うっさい。わらわは無理やり連れて来られたのじゃ! フェルドが危機じゃというから……」


そうか、急いできてくれたのか。

髪の毛に寝癖がついている。

きっと昼寝でもしていたんだろうな。


「ありがとうな、メリス。助かった」


「おう。感謝しとけ。お礼は後でたっぷりと頂くのじゃ」


「メリスさんの足じゃ、間に合わないと思ったからねえ。これなら多少は攻撃も避けられるだろう」


ドミニク、良い判断だと思う。

でだ。


「メリス、バフだ」


「あれは死なぬのか?」


フォルカスの剣とメリスの巨槍は力比べをしている。

あいつすげえ腕力だよ。


「死なねえだろうよ。まだ必要だ」


「わかったのじゃ。わらわの魔力を持っていけ!」


メリスからバフを受ける。

体に金の魔力が満ちる。

俺の剣が白く輝きだす。


水の魔力を練る。

水中に深く沈みこむように。

足の先から、頭の先まで、水の魔力が循環するイメージをする。

頭の芯が冷えていく。

吐く息が冷たい。

静寂だ。

音は聞こえるが、しかし、とても静かに感じる。

魔力を剣へと。

《魔法剣》を強める。

メリスの魔力と合わさって、剣が青白く輝く。


「がああぁぁ!!」


フォルカスは巨槍の方向をずらした。

轟音を響かせ、巨大な槍は地面に激突する。


さすがフォルカス。

しかし、さすがのフォルカスも肩で息をしている。


そう、ここだ!

《激流ノ歩》で突撃する。

お嬢様の回復が入る前だ!


「これで終わりにしようぜ。穿て、清風靇月!!」


やつが俺を睨む。

その目には戦闘への狂気が宿っている。


「だろうな。知っていたよ」


フォルカスが赤々と光る剣を振り上げる。


「すべて薙ぎ払え、火嘲浮月かちょうふうげつ!!」


火の魔力の塊と化した剣を振り回す。


最後の勝負ってわけか!


体が交差する。

金属音が響く。

やつの後ろで止まる。


……俺の剣が折れている。

魔力に耐えきれなかったか。


振り返る。


フォルカスの脇腹が少しえぐられている。

残念ながら、致命傷じゃねえんだろう。


「はっはっはっはっ。楽しいなあ。楽しいよなあ、フェルド。戦いとはこんなに楽しいものなんだよなあ!」


「楽しかねえよ。俺はもう限界だよ。お前一人で笑ってろよ。付き合いきれねえよ」


俺のほうは……体は……ぎりぎり動くか。

しかし、戦うことは……


「いや、まだだ。まだ足りない。まだやろう!」


フォルカスが歩み寄る。

無理だって言ってんだろうがよ。

俺は普通のおっさん冒険者だぞ。

死んじまうよ、ったく。


フォルカスが凶悪な笑みを浮かべる。

戦闘でハイになってんじゃねえか。

これだから火属性ってやつはいけねえや。

戦いは熱く、だが、冷静に冷徹にだぜ。


「まだ、やろうや!」


フォルカスが剣を振る。

くそが!

やらねえっつってんだろうが。

《水流の構え》でなんとか……


俺とフォルカスの間に魔力の防壁が現れ、フォルカスの剣を受け止める。

何だ、こりゃあ?

しかし、懐かしい魔力を感じる。


『やはりフェルドでしたか。フェルド、イーナ様のペンダントを取りなさい!』


ジリの言葉に、胸を見る。

イーナからもらったペンダントが光っている。

ペンダントトップの木の花が青く光り輝いている。


「ちょっとすまねえな、待っていてくれねえか?」


「ああ。なんか面白そうなことになっているな」


フォルカスに断りを入れて、ペンダントを首から外す。


『イーナ様の花を手で持つのです。そしてフェルドの魔力を注ぎなさい』


木でできた小さい花を手に乗せて、魔力を注ぐ。

花がドクンと動いたような気がする。

急に光が増して、木の花が……そこから木が成長する。

木の成長を何倍も速く見ているように、長く伸びていき、そして剣を形作る。

木剣。

だが、光り輝く木剣だ。


『木の聖剣イルミンスールです。木の聖女がもっとも愛した者に贈る聖剣。その者が生き残ることを祈って作られた剣です』


イーナの剣……

しかし。


そりゃあ、木の勇者が使うべきじゃねえのかよ。


『言ったでしょう。木の聖女、イーナ様がもっとも愛した人に贈るのです。それはフェルドなのです』


じゃあ、勇者はどうやって魔王を倒すんだよ。


『なんとかするでしょう。それは問題ありません』


ほんとかよ。

勇者、聖剣がなくてがっかりしてんじゃねえのか?


『知りませんよ。今はフェルドがイルミンスールを得たということが重要なのです。さあ、立ちなさい。そして戦いなさい。イーナ様のために勝ちなさい』


ジリよ、ずいぶん偉そうだな。

早々に戦線離脱したくせによ。

ったく、しょうがねえなあ。

もう一勝負しなきゃいけねえか。


だってな、イーナの魔力が体に満ちているんだ。

まだ行ける、まだ戦えるって思える。

いや、今が一番強い。


剣がドクンと脈打つ。

そうか、戦えと言っているのか。

生き残るために戦えと。

そしてイーナが帰る場所を守れと言っているのか。


じゃあ、しょうがねえな。

やってやろうや。

勝ってやろうじゃねえか!


「なるほどな。フェルドが木の勇者だったか」


「あほか、フォルカス。俺はただの冒険者だよ。だが、ただの聖女の養育者だ」


「養育者……? なるほど、育ての親か。それはいいな。子供の成長とはいいものだ。嬉しくなるよな」


「フォルカス、私、もう子供じゃないですからね」


「す、すみません。ヴィオレシア様。お嬢様のことを言ったわけでは……」


後ろに控えているヴィオレシアお嬢様に指摘され、しどろもどろになっている。

俺からしたら、まだ十分子供だと思うがな。

しかし、背伸びしたい年頃か。

もしくは恋する男に女性として見られたい年頃か。


ちなみにフォルカスはお嬢様に回復魔法で、回復済みだ。


さて。


「なあ、俺はもう疲れちまったよ。最後にしようや」


「俺はもう少し戦っていたいと思っているよ。だが、人間は限界か。それなら最後なのだろうな。俺の勝利で終わらせる」


「うっせえ。最後に立っているやつが一番強いんだぜ。人間の足掻きを見ろや」


「十分見ているよ。尊敬すらしている。じゃあ、最後の一本、やろうじゃないか」


楽しそうだなフォルカス。

少し、戦闘の狂気が去ったか。

少年のような顔をしている。

俺はもうそんな顔で戦えねえよ。

つーか、戦ったことはねえよ。

戦いってのは常に恐怖だったからなあ。

好きになるようなもんじゃねえよ。



少し間合いを取る。

そして、そこから《激流ノ歩》。


「馬鹿の一つ覚えか、フェルド」


だが、ここからだよ。

《フォグヴェール》の魔法を発動する。

霧が立ち込める。


「霧くらいでどうした。そこだ!」


知ってるか?

《フォグヴェール》ってのはよお、熟練度が上がれば、霧に虚構を映し出せるんだぜ。


「残念、そりゃあ、俺の幻影だ。これで終いだ。清風靇月!!」


「まだだ、火嘲浮月!!」


フォルカスの巨大な剣が迫る。

が、遅えんだよ。


《激流ノ歩》を発動。

《清風靇月》の速度をさらに上げる。


「そりゃ、反則だろう!」


できちまうもんは仕方ねえじゃねえか。

反則でも何でもねえよ。


フォルカスが剣を振り下ろす前、俺の突きの方が速い。

イーナと俺の魔力に満ちた聖剣イルミンスールがフォルカスを貫く。


フォルカスの後ろを通りすぎ、止まる。

振り返る。

フォルカスの左の肩に穴。

左腕が地面に落ちている。


これでどうだよ?

もう、俺は戦えねえぞ。

動けねえぞ。

おしまいにしようや。


「はっはっはっ。すごい、すごいじゃないかフェルド。俺がこんなに怪我をしたのは初めてだ」


元気だなコイツ。

なんでこの状態で笑えるんだよ、ったく。


「フォルカス、大丈夫? ハイヒールウォーター!」


お嬢さんが回復魔法をかける。

傷はふさがる。

が、腕は戻らない。


「どうするよ、まだ戦うか?」


「いや、負けだよ。俺の負けだ。だが、何故、俺を殺さなかった? 胸のど真ん中に穴をあけることだってできたはずだ」


「そりゃあよ。お前だって殺さなかっただろうが。何回も俺たちを殺す機会だってあっただろうによ。だから、俺も殺さねえ」


「そうかよ。まあ、俺は殺せとは命令されてないからな。魔王様には木の聖女の街に行けって言われただけだ」


なんだよ、そりゃ。

聖女を殺せじゃねえんだ。

魔王ってのは何をしたかったんだよ。


「で、オルドヴァンは娘を頼むと言ったんだ」


「な……私は守ってもらうような子供ではありません」


ヴィオレシアお嬢様は少し涙ぐみながら、フォルカスの腕のなくなった肩に回復魔法をかけている。

フォルカスは、その頭を優しくなでる。


「そうですよね。ヴィオレシア様はもう立派な大人です。大変うれしく思います」


「なら、もう少し大人の女性として扱ってほしいものですね」


「はい。そうしますよ」


なんかイチャついてらあ。


「なあ、フォルカス。もう終わりでいいんだよな。お前ら、帰るよな」


「そうだな。魔王様の任務は『聖女の街に行け』だったからな。任務は果たしたというところか」


「だったら戦う必要はなかったじゃねえかよ」


「強い相手がいるなら戦う。それが戦士ってもんじゃないか、なあフェルド」


俺に同意を求めるなよ、戦闘狂が。

俺は違うからな。

そっちにはいかねえよ。


「まあ、一旦帰って考えるよ。いや、報告しないといけないからな」


「そうしてくれ。そして、今後二度とここへは来ないでくれ」


「いや、多分来ると思う。また、戦おう。フェルド」


フォルカスは残った右の手を差し出す。

すっかり、俺の名前を覚えやがって……


しょうがねえから、握手してやった。

やつは満足そうに頷いた。


「で、その腕は治るのかい?」


「私が三日後にはちゃんと完治させます」


すごいもんだね、ヴィオレシアも。

聖女並みではねえが、しかし、部位欠損を完治させるんだな。


「愛のなせる業かね……」


あ、つい、呟いてしまった。


「ち、ちがいます。私、フォルカスとはそういうことじゃなくて……」


おー、おー、しどろもどろになっていじゃねえか。

どう見たって、フォルカスに恋愛だろうが。


「なるほど、ヴィオレシア様は、私も一緒に育てたようなもの。親のように思ってくれているということですね」


アホか、フォルカス。

わかっていねえのはお前だけだ。


「違うからね。フォルカスは親じゃないから」


「そ、そうなのですか? 私は一体」


「もう、悲しまないで。ちゃんと愛情はあります!」


「はあ……」


フォルカスが困り顔だよ。

ヴィオレシア、道は遠いな、頑張れよ。


『他人の恋愛ほど面白いものはありませんよね、フェルド』


んあ?

まあ、面白いがな。


『自分の胸に手を当てて、じっくり考えたほうがよいと思いますよ。くれぐれも後ろから刺されないように』


……だってなあ、イーナが帰ってくるまで保留ってことになっているだろう。

いいじゃねえか、それで。



で、フォルカスとヴィオレシアは帰っていった。

あいつら方向音痴じゃなかったっけ?

ちゃんと魔王のところまでたどり着くのかなあ。

まあ、俺の知ったこっちゃねえが。



「フェルドさん」


シャノンが近くに立っていた。

泣いているな……

一応怪我の応急手当はしてもらったようだ。


「よかった……生きています。フェルドさんが生きています」


胸に両手を合わせて、嬉しそうに泣いている。


「ああ、本当によかったよ。シャノンもご苦労様。生き残ってくれて、本当によかった……」


「フェルド、すごいのじゃー! 五魔将の一人を退けたのじゃー!」


しんみりとした雰囲気をのじゃエルフがぶち壊す。

走ってきて、ジャンプ。

俺にしがみつく。


「本当に、本当に心配したのじゃ。わらわはフェルドが死ぬかもしれぬと思ったら、もう生きた心地がしなかったのじゃ!」


「おい、メリスよ。ちゃんと生きているからよ。鼻水を付けるな、ばっちい」


「これくらい許せ。美少女の鼻水は尊いものなのじゃ。ありがたく受け取っておけ」


そんな言葉知らねえよ。

鼻水は鼻水だよ。

いらねえって。


「メ、メリスさん、ズルい。私もフェルドさんを心配していたのですよ」


シャノンが抱き付いてくる。

支えきれなくて、地面に倒れる。

で、二人が号泣している。

どうすりゃいいんだよ……?


しょうがねえから、二人の背中をさすってやる。


『どうです、フェルド。自分の恋愛も考えないといけないでしょう』


ジリが近くに来てチョンと座る。

もう黒猫に戻ってやがる。

なんでも黒猫の方が魔力の回復が速いんだとさ。

それは、黒猫が正体ってことじゃねえのかな?


だが、二人に心配してもらうと、生きている感じはするな。


『……イーナ様には報告しないといけないでしょうね』


ちょっと待てよ。

そりゃあねえよ。

勘弁してくれよ、なあ、相棒。


『情けない。自分の行動には責任を持ちなさい。いつまでもはっきりしないのは男らしくありませんよ』


だが、迷うのもまた男だろうが。


『男の言い訳程、醜いものはありません。覚悟を決めなさい、覚悟を』


歩いてきて、頭をぺしぺしと叩かれる。

猫パンチなのでダメージはねえ。

痛て!

爪は立てるなよ。



空を見上げると、白い雲がのんびりと浮かんでいた。

ああ、生き残ったなあ……

イーナ、生き残ったぞ。

だから、ちゃんと帰ってくるんだぜ。

俺たちはここにいるからよお。


とりあえず、俺は酒を飲んで寝たいね。

働きすぎだよ。

数日はダラダラしたいね。

おっさんには辛いわ!

無理させるんじゃねえよ!



<<ステータス>>

フェルディナント・エアハルト

 年齢:44歳

 冒険者:Aランク

 LV:56(Up!)

  生命力:382

  筋力 :269

  魔力 :166

  素早さ:218

 称号:無名の英雄(New!)


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