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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第88話 フォルカスよ、人間の足掻きを見やがれ

「俺はフォルカス。魔王軍、五魔将の一人。火の将軍だ。人間の戦士たちよ、楽しもうか!」


フォルカスが楽しそうに、凶悪に笑う。

あいつ、戦闘狂ってやつだ。

戦うことが楽しいタイプ。

何を言っても戦闘は回避できねえんだろうよ。

まったく面倒くせえ。


んでよ。

まだ分類があってな。

勝つことを至上とするタイプと、戦うこと楽しむタイプだ。

さて、こいつはどっちだ?

たぶん後者。

それなら、もしかしたら……



『五魔将ですか……聖女を狙うとしても、なぜそれほどの実力者を?』


「ジリ、やべえやつなのか?」


『魔王軍、最強の五人の一人ですよ。勝てるとしたら勇者……。我々の勝率は低いでしょうね』


「だが、やるしかねえんだろう」


『そうですね。あの男がやる気になっています。やらないという選択肢は逆効果でしょう』


「なら、やるだけだぜ、相棒」


『仕方がないですね。付き合いますよ、フェルド』


ジリが小さな手で俺の足を叩く。

そして黒豹に戻る。


こいつともずいぶん一緒にいたもんだ。

背中を任せられる相手ね。

昔はレナーテとエトムントだった。

そして、イーナとジリになった。

今はジリ、それに……


「おう、おう! やってやろうじゃねえか!」


バルドゥルが愛用の戦斧に《魔法剣》をかける。


「やるだけやりましょう、フェルドさん」


「……行こう」


「よっしゃあ、腹はくくったよ! どっかーんとでかいのを決めてやるんだからね!」


シャノン、マリオン、アシュリーも準備ができたようだ。

頼もしくなったもんだぜ、あんなに青臭かったのによお。


俺も《身体強化》、《魔法剣》を発動する。



「おう、五魔将だかなんだか知らねえが、足掻かせてもらうぜ! 俺たちが勝つ!」


勝てるかなんてわからねえ。

分の悪い戦いだ。

だが、勝つ気概で戦う。

戦うならそうしねえといけねえ。

それが冒険者ってもんだろうが!



戦いが開始される。

ジリとアシュリーが、こっそりと魔法を準備していたのだろう、合計十本の《ゲイルランス》がフォルカスを襲う。

小癪だな。

しかしよくやった!


同時に俺たちが突撃する。


「はっはっ! いい魔法だ。だが、俺には効かん!」


フォルカスが巨大な剣を振り回す。

《魔法剣》の力が強すぎて、その軌道が赤く尾を引く。

ジリとアシュリーの魔法を簡単に撃ち落としていく。


が、そこに隙ができるんじゃねえのか?


《激流ノ歩》で懐に飛び込む。

そこから《迅突》の五連だ。


「どうだ!」


「いい! が、当たらんなあ!」


デカい癖に、簡単に躱しやがる!

躱しざま、反撃が来る。


ギィィン!


「重てえじゃねえかよ!」


バルドゥルが戦斧でそれを迎え撃つ。


「行けえ!」


「……!」


シャノンが《疾突横閃》、マリオンが《ジャイアントスイング》で斬り込む。


「ふん!」


フォルカスが気合を入れる。

二人の攻撃は服を斬り、皮膚の一枚を斬った程度。


「おい、バケモンかよ。生き物なら、素直に斬られとけ!」


「それは、おまえらの攻撃が弱いだけだろうが! 俺に届けたいのなら、もっと気合を入れろよ!」


フォルカスが剣を横に振り回す。

くそが!

それだけで俺たちが弾き飛ばされる。

どんな腕力してんだよ!


「だが、まだだ!」


ここで《激流ノ歩》。


「そんなに単純に突っ込んでいいのかよ!」


フォルカスが迎え撃つ。

だろうな。


さらに《疾風突き》を重ねる。


「おい、そんなことできるのかよ!」


できたんだから、できるんじゃねえのか?

スキルの重ねができねえって、誰が決めたんだよ。


『システムではないでしょうか』


知らねえな、システムさんなんてよお?

そりゃあ食えんのかよ。

ジリのつっこみは無視だ。

フォルカスの懐に潜り込んで、突きを腹にぶち込む!


硬え……が、剣先が腹に突き刺さった。

すぐに引き抜いて、《激流ノ歩》で離脱する。


「ははは! やるねえ。やはりお前、フェルドだったか、一番怖いじゃねえか」


フォルカスはまだ余裕で笑っている。

奥のヴィオレシアを見る。

お嬢ちゃんも余裕そうだ。

心配もしてねえ感じ。


「一撃は入れさせてもらったぜ。お前一人に俺たち五人と一匹。卑怯だって言うんじゃねえだろうな?」


このタイミング、少し会話を挟めるだろうか。

バルドゥルたちの呼吸が整う時間があればいい。


「それはないさ。俺も実力差はわかっているからな。何人いようとなぎ倒してきた。それが五魔将が一人、火のフォルカスだ」


「あんたと同格なのが、あと四人いるってことかよ。勘弁してくれよ」


「違うわよ。フォルカスが最強。戦闘力ならね」


親切にお嬢ちゃんが答えてくれた。


「なんで、その最強がここに来るんだよ? 過剰戦力だろうが」


「戦力としては過剰だと思うわよ。だけど、お父様には考えがあると思うの。きっとね」


お父様?

きっと五魔将より偉いんだろうな。

つーと、そりゃ魔王以外にいなくねえか?

……その娘ね。

なおさら、なんでこんな田舎町にいるんだよ?


「ヴィオレシア様、俺が最強だなんて……」


「うるさいわね、フォルカス。あなたは私に素直に褒められておきなさい。私が認めたのはあなたなのよ。……さてと、休憩の時間は取ってあげたわよ。フォルカスの傷も回復したわね。それじゃ頑張って足掻きなさい」


ああ、そうかい。

フォルカスは回復力も高いのかよ。

本当に人間とは違うんだな。

まったく化け物じゃねえか。


わかったよ、じゃあ、続けようかね。



まあ、実力差は歴然だ。

バルドゥルとマリオンがフォルカスの攻撃を受け止める。

その隙に俺とシャノンが攻撃を当てるが、しかし、傷は浅い。

ジリとアシュリーの魔法も決定打になってねえ。

傷はつけられる。

が、その程度なら回復しちまう。


こっちは回復が少ねえ。

アシュリーの魔法で回復するが、イーナには及ばない。

イーナがいりゃあと思う。

が、いねえもんはしょうがねえ。

イーナも、イーナで頑張っているはずだ。


で、消耗が激しいのがバルドゥルとマリオンだ。

そりゃ、そうだよな。

あいつの攻撃を身を挺して受け止めてんだ。

もうギリギリだろう。


「マリオン、俺と交代しろ!」


俺には《水流の構え》がある。

なんとかやつの攻撃を逸らせるんじゃねえか。


「だめ! 私じゃ、ダメージを与えられない。フェルドさんが必要」


マリオンが叫ぶ。

だが……もう、ボロボロじゃねえか。

盾が、フルプレートがボコボコになってるじゃねえかよ。


「まだできる!」


マリオンがフォルカスの剣を盾で受ける。


ガゴン!


重い音がする。

マリオンは踏ん張る。

知ってるよ。

いつも兜で見えねえが、いつも歯を食いしばって頑張ってんだよな。

仲間が傷つくのが嫌で、自分が一番前に立ち続けているんだよな。

一番、仲間思いなんだ。

あんなに可愛い顔してんのによお。


少しでもマリオンの負担を軽くするために、俺とシャノンが攻撃する。

くそが!

傷が浅いんだよ。

攻撃力が足りねえ。


後ろで魔力が爆発的に高まる。


「ジリか!」


ジリの攻撃が少し頻度が下がっていた。

何かしていると思ったんだ。


『待たせました。これでどうでしょうか。雷の神よ、怒りのままに暴れまわり給え。ヤツイカヅチ!』


《ヤツイカヅチ》、木属性魔法の最上位に位置する攻撃魔法らしい。

話には聞いたことがあるが、見たことはねえ。

やるじゃねえか、ジリ。

使えたんだな。


フォルカスの頭上十メートルくらいの距離に、一メートルほどの黒い球体が出現した。

バチリ、バチリと放電してやがる。

おっかねえな。


「バルドゥル、マリオン、退避! 巻き込まれるぞ!」


「うがあ! 先に言っておけよ!」


「了解」


二人が距離を取る。

フォルカスも危険を察知し、引こうとする。

が……


「なんだ?」


「ウッドバインドだ! 逃げちゃダメだよ。黒猫ちゃんのせっかくの魔法なんだから食らっておきなよ!」


アシュリーの魔法だ。

地面から出現した蔦がやつに絡みつく。

一瞬で引きちぎられるが、それで十分だ。


ドガァァン!!


轟音と共に、空の黒い球体から複数の雷がフォルカスへと落ちる。

衝撃がこちらまで届く。

通常の人間なら間違いなく即死。


『まだまだですよ!』


ドォガァァン!!

ドガガガアアァァン!!


合計三発。

雷がフォルカスを貫いた。


どうだ?

フォルカスの動きが止まっている。

死んじゃいねえっぽい。

が、今がチャンスか?


「ハイヒールウォーター」


ヴィオレシアの声が響く。

おい、おい。

回復魔法かよ。

しかもすげえ魔力じゃねえか。

さすが魔王の娘だよ。


「あなたたちも複数で戦っているのですから、私が魔法を使っても卑怯ではありませんよね」


にっこりと微笑む。


「ヴィオレシア様、ありがとうございます。少し驚きました」


フォルカスが健在じゃねえか。

せっかくダメージを与えたと思ったのよ。


「さあ、続けなさい。フォルカスを満足させなさい」


お嬢ちゃん、それはねえよ。

俺たちゃ人間なんだよ。

疲れちまうって。

やってねえな。

だが、やらねえといけねえんだろう。

まったく面倒な。


ヴィオレシアを倒すべきか?

身体能力はフォルカスに比べりゃ、ずいぶん弱そうだ。

だが、おそらく悪手。

きっとな……


『フェルド……。すみません魔力切れです。あとは頼みます』


ジリはよくやったよ。

ありがとよ。

しかし、正直一人抜けると……


戦いは続く。

が、状況は悪化する。

ジリからの援護射撃がねえ。

アシュリーは回復に専念している。

バルドゥルとマリオンはボロボロ。

俺とシャノンの攻撃も効いてねえ。


で、フォルカスは元気だよ。


「これでどうだ! まだ耐えられるか!」


巨大な剣を腕力に任せてぶん回す。


ガギン!


マリオンが盾で防ぐが、体ごと、飛ばされる。


「……ぐ!」


マリオンはすぐに立ち上がろうとするが……ガチャリと鎧の重さに負けたように地面に倒れ込む。


「うらあぁあ! 剛気苛断!!」


バルドゥルが、フォルカスの攻撃終わりに必殺技をぶち込む!

が、体力がな……

《剛気苛断》にいつもの迫力がねえよ。


「ふんぬ!」


フォルカスが気合を入れ、腕で攻撃を受ける。

バルドゥルの戦斧は腕の途中で止まる。

腕を斬り落とすまではいかねえ。


「残念だったな」


フォルカスが剣を持った手で、バルドゥルをぶん殴った。

バルドゥルは吹っ飛んで、地面にたたきつけられた。

剣で斬らねえあたりは、フォルカスの優しさなのかな?


フォルカスは手にめり込んでいる戦斧を引き抜いて、捨てる。


「ハイヒールウォーターよ」


ヴィオレシアが回復させる。

どうしろってんだよ……

こいつら倒せるのかよ?


「フェルドさん、隙を作ってください」


シャノンの顔が真剣だ。

「隙を作れますか」じゃなくて、「隙を作ってください」かよ。

しょうがねえな。

どうせ必殺技を叩きこむんだろ?

やるしかねえじゃねえか。


「行くぞ、シャノン!」


「頼みました、フェルドさん!」


馬鹿の一つ覚え見てえに《激流ノ歩》で突撃する。


「それは見たぞ」


フォルカスが待ち構える。

が、ここでさらに《激流ノ歩》、横に無理矢理移動する。

フォルカスの横に回り込む。

ここから《疾風連撃》だ!

突撃からの連撃だ。


だが、フォルカスにはさしてダメージは入らない。

が、続けるぜ。

《剛燕返し》、《剛迅突》の四連。


「うぜえな!」


フォルカスが力任せに剣を振る。

逸らせ!

《水流の構え》。

そこから《剛袈裟懸け》、《剛回転斬り》。


「フェルドさん!」


シャノンが叫ぶ。

なら、《剛横一閃》。

横切りの動作で、離脱する。


「ここで決める! 美しく散りなさい! 三刺水明さんしすいめい!!」


シャノンの剣が水色にきらめく。

高速の連続突きがフォルカスに突き刺さる。

フォルカスは……あえて受けて、そのままカウンターでシャノンを殴り飛ばす。


「きゃあ!」


シャノンが吹き飛ぶ。

これでシャノンも戦闘不能か……


くそっ!

フォルカスのやつ、どんな身体強化してんだよ。

いくらシャノンの攻撃力が低いったって、あの濃度の魔法剣を受けきるか。

俺の《清風靇月》でも、無理じゃねえのか?

だが、シャノンが作った好機、ここで……



「フェルドさん!」


この声はドミニク!?


「神代の槍よ、我らに敵する混沌を貫け! 出でよアマノサカホコ!!」


この魔法は……メリス?

そうか、ドミニクを見ねえと思ったら、メリスを連れてきたのか。


ナイスだ、ドミニク、さすが頼りになるぜ。

そして、ここで、賢者に近いメリスさんの登場だ。


まだ、まだだ。

俺たちは戦えるぜ。

フォルカスよ、人間の足掻きを見やがれ。

若干一名、エルフだがな。


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