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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第87話 あ、ダメそうなやつらだ

シャノンたち『清廉なる赤い薔薇』との帰り道。

森を出たところ、その先にウェストフェルトの街が見える。


……いや、なんだ、この感覚。

心臓をギュッと掴まれて、冷や汗が出る感じ……


「シャノン、変じゃねえか?」


彼女は街の南側を睨みつける。

その表情は険しい。

そっちの方向からプレッシャーを感じる。


「何かいます……。これはSランクの魔物? いえ、違う……」


「え、え? シャノン、フェルドさん、何? 何? どうしたの?」


「……アシュリー。敵だ」


アシュリーは感知できてねえようだな。

魔法職だからか。

マリオンはさすが感度が高い。


「行くぞ、街が危ねえ!」


シャノンたちと走り、街に向かう。

アシュリーは俺がおぶって走る。

……こんな緊張の場面で、シャノンが羨ましそうに見ている。

余裕があるなあ。

頼もしいと言っておこうか。


『フェルド、気を付けなさい。これは今までの敵ではありませんよ』


ジリ、わかっている。

しかし、ウェストフェルトの街のような田舎になんでこんなに問題が起きるんだよ。


頭の芯がしびれるような焦りを久しぶりに感じる。

これは……俺は弱者だ。

変えられねえ運命に立ち向かうような無力感。

だがよお。

俺たちは何とかしてきたんだぜ。

足掻くだけだ。

足掻いて、足掻いて、今回も生き残る。

俺にはそれしかできねえからな。



街に到着する。

南側の門、冒険者と衛兵たちが集まっている。

テオ、ルッツ、ドミニクが先頭で緊張した顔をしている。


相手が近づいているのだろう、圧力が強くなっている。

アシュリーが体を抱えて震えている。

シャノンが彼女を抱いている。


この圧力……


「よお、ご苦労様」


ルッツに話しかける。


「ああ、フェルド。こりゃあ……」


ルッツが渋い顔だ。


「お前なら、どうだ?」


「無理いうなよ、テオ。俺はちょっと強いだけの普通の冒険者だぜ」


「はは……そうだよなあ。さすがに」


テオの笑いにいつもの豪快さがねえな。


「しかし、やるしかないのだろうねえ」


ドミニクのいつものゆったりとした口調。

しかし、その響きには不穏さが満ちている。


「だな、ドミニク。だがな……」


「おー、おー、おー。おめえら、邪魔だよ! どけ、どけ!」


巨漢の男が衛兵を押しのけてくる。

うちのギルドマスター、バルドゥルだ。

相変わらずガラがわりいね。


「おー、おめえら集まっていたか! 真面目に仕事してくれて助かるぜ!」


あー、見つかっちまったか。

働かされるんだろうな。

だが、助かった。


「衛兵のやつらと、Cランク以下のやつらは逃げとけ! 邪魔だ、邪魔!」


「しかし、バルドゥルさん! 街の危機に俺たちが守らないと!」


衛兵の隊長が反論する。


「うっせえ、邪魔つってんだろうが! おめえらじゃ勝てねえってんだ。無駄死にする気かよ。俺たちが死んだら、おめえらが住民連れて逃げんだよ!」


そうだ、無理に戦わねえでいい。

生き残ることを考えろや。

どうしようもねえ状況でも、最善のことを考えろ。


相手に勝つだけが手じゃねえだろうよ。


んで、どうも俺たちは戦わされるらしい……

ま、そうなるとは思っていたがな。


「っ……。バルドゥルさん、冒険者の方々、よろしくお願いします。街を守ってください。そしてきっと生きてください」


「俺たちゃ自殺はしねえよ。勝てる戦いしかしねえから心配しろよ!」


「よろしくお願いいたします! 衛兵、街の中へ退避! 急げ!」


衛兵たちが街に戻っていく。

その様子を見ながら、バルドゥルに話しかける。


「よお。勝てる戦いしかしねえのかい? 自信あるじゃねえか」


「がっはっはっ。そんな自信あるわけねえだろが。フェルドだってわかってんじゃねえのかよ。そんな軟な相手じゃねえよな」


「死ぬ気か?」


「もちろん勝てるつもりで戦うぜ。だが、負けることもある。死にたかねえが、死を覚悟してるのも冒険者だろうが」


「引退したのにご苦労なことだな」


「しょうがねえや。この街じゃ、俺とお前がトップだ。頼りにしてるぜ」


「俺は強制参加かよ」


「もちろんだ。逃げるんじゃねえぞ」


バルドゥルに背中を叩かれる。

痛えな!

だが、昔より痛みは少ない。

レベルが上がって、ステータスが上がってるんだ。

もしかしたら俺の方が強くなっているかもなあ。

こいつに言ったら激しく文句言われるだろうがな。


コイツとも長い付き合いだよ。

片手で大した貢献もできねえ俺を拾ってギルドにおいてくれたんだ。

感謝している。

まあ、言葉にするこたねえがな。



「なあ、バルドゥルさん。俺たちも戦うんだよなあ」


テオが情けない声を出す。

相手が近づいている。

その圧力が増している。


「そうだなあ。こりゃあSランクの相手だぜ。さすがに無理か。Bランクのやつらは遠巻きに守ってろ。絶対に手を出すんじゃねえぞ」


「ああ、わかった。死ぬんじゃねえぞ、ギルドマスター」


「俺たちが死んだら、テオが次のマスターだぜ」


「おりゃあそんな柄じゃねえよ。フェルドがやりゃあいんだ」


「なんで、俺に振るよ? バルドゥルが死ぬまで、バルドゥルだ。んで、バルドゥルは死なねえよ」


アホか!

なんで俺がマスターだよ。

つーか、バルドゥルが死ぬなら、俺も死んでんじゃねえか。

ギルドマスターはテオに譲るぜ。

きっといいマスターになると思うぞ。

俺は死なねえがな。



南へと続く道、人影が見える。

大きいな……二メートルを軽く超えてんじゃねえのか。

頭に角が生えている。


『魔族ですよ』


ジリが静かに呟く。

初めて見たな、魔族……


なぜ、こんな辺境の街に?

なぜ、南側から?

魔族の国ってのは北にあったはずだが。


それ以上に……


「なんで女の子をお姫様抱っこで歩いて来るんだよ! ずっとそれで来たのかよ。恥ずかしくねえのかよ!」


『それだけではなくて、二人だけというのもおかしいでしょう。この街に軍隊を差し向ける必要もないと思いますが、さすがに二人だけというのはおかしいですね』


ジリもそう思うよな。


男性が女の子を抱いて歩いてくる。

男性は人間年齢で四十くらいか。

筋肉質でがっちりした体型。

髪の毛は白く、ぼさぼさに伸びている。

頭の角は太く力強い。


女の子は人間年齢で十二歳くらいだろうか。

黒髪の長髪。

角は細く、上品だ。

抱きかかえられ、男性の肩に頭を預けている。


自分の足で歩けや、お嬢ちゃん。

おっさんのほうも疲れるだろうがよ。


「がっはっはっ。フェルド、よくこの状態でツッコミを入れられるなあ!」


「さすがフェルドさんです。頼もしい、余裕がありますね。私なんて足が震えていますよ」


いや、バルドゥルとシャノンよ。

俺だけじゃねえからな。

ジリもツッコんでたからな。


『私の声はイーナ様とフェルドにしか聞こえませんからね』


言いたい放題かよ!

ジリがボケたときは、俺しかツッコめねえじゃねえか。


『私が指摘する側だと思いますが』


おりゃあそんなにボケてねえぞ。

そんな歳でもねえ!



「なんだ、ずいぶんと騒がしいところだな」


そんなこんなで二人が近づいていた。

男の声は低く良く響いた。

俺も、プレッシャーにやられてるな。

まったく、嫌になるぜ。


「フォルカス、降ろしてください」


女の子は年齢にしては落ち着いた声だな。


「ヴィオレシア様。しかし、危ないのでは」


様付け?

身分が高い子供、自分の子供じゃねえってことか。


「よいのです。フォルカス、ご苦労様です。アナタも見世物になるのは嫌でしょう」


お、少し恥ずかしかったのか。

なるほど、魔族も俺たちと同じような感覚をもっているんだな。


「いや、俺は問題ないです。ヴィオレシア様だったら、一生だって抱き上げていられますよ」


ヴィオレシアはにこやかに、無邪気に笑う。

いや、そりゃあ……プロポーズか?

ヴィオレシアは頬を染める。


「バ、バカ。いいから、下ろしなさい!」


フォルカスは不思議そうな顔をしながらも、ヴィオレシアを降ろした。


「まったく、フォルカスは……」


恥ずかしそうに下を向いている。

うん、フォルカスは無邪気なバカなのかもしれねえな。


『フェルドに言われるとは、あの魔族も可哀想だと思いますね』


俺はあんなに無邪気に口説かねえよ!


『口説けたら、ずいぶん今の状況は変わっていたでしょうね』


どこへ変わるんだよ!

そりゃあ、いい方向か、悪い方向か?

いや、今は俺のことはどうでもいい。


「で、あんたらはこんな田舎までどうして来たんだよ」


「あら、私たちに普通に話しかける人間がいるのですね」


俺の言葉に答えたのはヴィオレシアのほうだ。

やはり、主導権はこの女の子の方にあるらしいな。


「魔族だろう。こんなところ用事はねえと思うんだがな」


「魔族ならば、用事があるのは勇者でしょう。そして、聖女ですよね」


女の子が微笑む。

うーん、頑張って大人っぽくしているのかなあ……


『生まれが高貴なら、大人に囲まれて過ごしてきたと考えるほうが妥当だと思います』


そうかあ?

子どもなんて子供っぽくしてりゃあいいのに。


『あの年齢というのは難しい年ごろなのでしょう。特に年上に恋をしているのならば』


お、やっぱり、そういうことか!


『でしょうね、きっと。外からわかりすぎます。気付いていないのはフォルカスだけというパターンでしょうね。フェルドとよく似ています』


俺なら気付くよ!

ったく、俺を見くびるじゃねえ。


『どの口が言うのでしょうか』


ジリがため息をつく。

猫の溜息ってのも珍しいよなあ。


「猫と見つめ合って、何をしているのですか? こちらの話の途中でしょう。失礼ですよ。今は聖女の話でしょう」


おっと、お客さんのご機嫌が悪くなっちまったか。


「いや、いねえよ、聖女」


「そんなはずはありません! ここはアーベランロード王国、ウェストフェルトの街なんでしょう!」


「合ってるよ」


「なら、木の聖女がいるはずです!」


「いや、もう旅立ったんだよ。魔王討伐に。うーん、ちょっと前だから、追いかけても追いつけねえかもなあ」


「そ、そんな……」


ヴィオレシアがへなへなと地面に座る。


なるほど、聖女をどうにかするのは任務だったわけだ。

それが失敗ってことだな。


「ヴィオレシア様、どうしましょうか?」


「フォルカスがいけないのですよ! あなたが方向音痴なんだから! 山の中を一か月も彷徨って、開けたと思ったら海だったときはどうしようかと途方に暮れましたからね!」


「ですが、ヴィオレシア様も自信満々に『こっちの方が正しい』と導いてくれたじゃないですか」


「ち、違います! フォルカスが方向音痴なんです!」


あ、ダメそうなやつらだ。

このままじゃ話が進まねえな。

俺が収めてやろう。


「いや、両方とも方向音痴だってだけじゃねえのか?」


「うるさいです。外野は黙っていてもらえませんか! 今は原因を追究することが大事なんです。二度と同じ過ちを犯さないようにしないといけません!」


いや、社会人としては立派な心得だがな。

しかし、今じゃねえだろうが。

んで、原因は方向音痴の二人だけで来たってことだろう。

案内が必要だったんじゃねえのか?

いっそ、よくここにたどり着いたな。

南から来たってことはそういうことか、なるほどなあ。

苦労したんだろう。

大人しく帰ってくれねえかな?


二人は少し言い合う。

で、結局フォルカスが折れて、「俺がわるかったです。申し訳ありません」で、終わった。

まあ、そうなるわな。

しかし、ヴィオレシアも恥ずかしそうにしているから、自分のせいもあるって思っているんだろうよ。



「つーわけで、お二人さん、魔族の国に帰ってくれねえかな。もう用もねえだろう?」


提案してみる。

のってくれねえかなあ。


「そういうわけにはいきません」


ヴィオレシアがキッと俺を睨む。


「せっかくこんな田舎にまで来たのに何もしないで帰るなんて、お父様にどのように報告すればよいのですか?」


いや、ここは確かに田舎だが、他人に「田舎」といわれるのはちょっとイラっとするね。

そりゃあ、来訪者が言っちゃいけねえと思うぜ。

それと、間違いは素直に認めちまった方が傷口は小さくて済むんだ。

俺はそんな感じで生きてきたんだぜ。


「フォルカス!」


「はい、ヴィオレシア様」


フォルカスが魔力を放出する。

火属性か!

赤く視認できるまで高まった魔力が俺たちを通り抜ける。

それは一瞬だった。

だが……


「くそお! 何だよこりゃ。どうなってんだよ! どうしろってんだよ!」


「さすがにこれは……無理かもしれませんね」


テオ、ルッツたちBランクの冒険者は、それだけで戦意を喪失したようだ……

Aランク冒険者は何とか踏ん張っているか。

つーても、俺とジリ、バルドゥル、シャノン、マリオン、アシュリーの五人と一匹だけだがな。

アシュリーはよく頑張っている。

そういや、ドミニクどこ行ったよ?

まあ、あいつがいても、この相手じゃ、どうしようもないがな。


「おお! さすがヴィオレシア様!」


フォルカスの顔に喜びの表情が浮かぶ。

凶暴な笑みだ。

「さすが」はフォルカスじゃねえのかよ。


「さすがヴィオレシア様。ここにこれだけ骨のある冒険者がいるとは思いませんでした」


「そうでしょ、フォルカス。聖女を育てた街なのよ。アナタの相手をしてくれる相手がいるのよ」


このお嬢さんいらんことを!

大人しく帰ってくれりゃあいいのによお。


フォルカスは腰のマジックバッグに手を入れ、剣を取り出す。

巨大な剣だ。

黒くくすんだ刀身。

凶悪な圧力を発している。


「おい、フェルド。やらなきゃいけねえようだぜ!」


バルドゥルが言葉と裏腹、楽しそうじゃねえか。


「フェルドさん、微力ながらお助けいたします」


「……戦うだけ」


「やるしかないの? ねえ、僕、怖いんだけどお! ねえ、ねえってばあ」


シャノンたちも戦う気だ。

アシュリー、意外に余裕あるじゃねえかよ。


『まあ、こうなりますよね。生き残りますよ、フェルド』


逃げるという選択肢はねえのかよ?


『わかっているのでしょう。この相手が見逃してくれるはずがありません』


だよなあ。

まったく面倒な。

だが、やるってなったんなら、全力でやるだけだ。

足掻くぜ、足掻いてやる!

簡単には死なねえぞ。

イーナにもう一度会うまでは死なねえんだからな。

覚悟しろや!


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