第8話 魔法ったって、訓練は地味だ
『基本的にダメダメなのです、アナタは』
ギルドの裏庭。
イーナとジリと一緒だ。
んで、ジリから訓練を受けている。
剣については基礎ができていると思う。
長年これで戦ってきたからな。
『他ですよ。例えば魔法。前回のゴブリン討伐。アーチャーへの対応がまるでなっていません。それは遠距離攻撃を持っていないからです』
確かに遠距離攻撃があれば頼もしい。
が、俺は剣士だ。
中途半端に魔法を習ったって、ものにならないだろう。
『やる前から、それを言ってどうなるのです? やってダメだったら言いなさい』
「いや、しかし……時間がもったいない……」
黒猫のジリが地面を、タシタシと前足で叩く。
うーん……人間だったら青筋立っている?
猫の姿だと、ただ可愛いがな。
『私のほうが格上でしょう。なら、その意見を聞いてみてはどうですか? 私はアナタを強くしたいのですよ。イーナ様の養育者として相応しいように』
イーナのことを出されちゃあなあ、やるしかねえか。
しかし、気が重い。
俺は魔法が苦手なんだがなあ……
ちなみにイーナは、地面の蟻の行進を観察している。
「あーい! あーい?」
蟻だ、蟻。
まだ、言葉ははっきりしないらしいな。
ちょいと指を置いて、その行進の邪魔をしてみている。
「おー」
蟻はイーナの妨害にも屈せずに、迂回して行進を続ける。
イーナ、楽しそうだな、おい。
俺もそっちで蟻の行進を見てちゃダメか?
意外に集中できるんだよなあ、あれ。
『フェルドは女神の加護のおかげで、魔法適性が向上していますよね』
ジリの授業は容赦なく続く。
「ああ、水のDになった」
『低いですね』
うるせえよ。
だから、魔法は苦手だって言ってんじゃねえか。
『ですが、最低限の魔法は覚えられるはずです。まずはウォーターガンを覚えましょう』
《ウォーターガン》。
水魔法の攻撃魔法の中で、最弱のやつだ。
「それじゃあ、ゴブリン・アーチャーは倒せねえんじゃねえか?」
『倒す必要はないでしょう。木から落とせればいいんです。落として、斬ればいい』
まあ、確かにな。
俺の剣じゃ、木の上のアーチャーは攻撃できない。
高位の剣スキルには遠距離攻撃があるらしいが、それを使えるような奴は冒険者Sランクだ。
俺がどれほど訓練したところで、使えるようにはなりゃしねえだろう。
しかし、飛ぶ斬撃……
憧れはする。
『ほら、フェルド。聞いていますか?』
「おう……聞いてはいる。しかし、魔法を買う金がねえぞ」
情けないが、金はない。
魔法は高いんだ。
魔法を覚えるには魔法屋から魔法陣を買う必要がある。
それを買って、使う。
魔法陣を使うってのも変なもんだが、そういう作りになっているらしい。
世界がか?
よくわからねえが、使うと、頭に魔法が刻み込まれる。
が、まだ、魔法を使える状態じゃない。
そこからの訓練が必要だ。
そのへんにもセンス、才能ってのが関わってくる。
俺が使える《ウォーター》、《クリーン》、これは生活魔法と呼ばれる。
攻撃魔法より覚えやすく、冒険者ではなく、一般人でも覚える人もいる魔法だ。
つまり、習得難易度が低い。
が、俺は覚えるのに苦労した。
それは、それは苦労をした。
普通の冒険者の十倍は苦労した。
そして、自分の才能のなさを思い知った。
これでは攻撃魔法を買ったとして、覚えられるのか?
覚えたとして、まともに使えるのか……
『例えば』
ジリが真面目に語り始める。
猫が真面目というのも面白い。
前足をちゃんとそろえて、座っている。
そんな置物が売っていた気がするな。
おう、睨まれた……
『一瞬で魔法を覚えた者、苦労しなければ魔法を覚えられない者。魔法の才能があるのは前者。それは確かでしょう』
そして、俺は後者だ。
『魔法の真髄。それはまた、それとは違う話なのです』
魔法の真髄だあ?
『魔法の理解でしょうか。才能が本当にあるものは魔法を理解し、瞬時に魔法を覚え、魔法を行使します。が、中途半端に魔法の才能があるものは、魔法の理解をしていない。なまじ簡単に魔法を覚え、使えるために、それを思いつかない、努力しない。魔法の才能のない者は魔法を覚えるにも努力する。その間ずっと魔法と共にある。そして考える。どうしたらよいかと、もがき苦しむ』
ああ、なるほどね。
確かに考えてはいた。
どうして魔法が発動しない。
魔力の使い方か?
それともタイミング?
イメージ?
ずっと、魔法のことを考えていた……
『それでも諦めずに魔法を使えるようになった者は、すんなりと魔法を覚えた中途半端な天才より、魔法を理解しているのです。そして魔法を使うときにそれが大事になります』
やっとウォーターが発動したときは嬉しかった。
手の平程度の水ができただけ。
だが、それだけで、俺がどれだけ救われたか……
『貴方の魔力は少ないのです。しかし、習得した魔法は不便なく使えている。それは普通の人より効率的に魔法を扱えている証拠。そして、今、貴方には女神の加護がある。ウォーターガンを覚えることができるのなら、それなりに使えるようになるのではないかと、私は思っています』
俺が攻撃魔法……か。
そりゃあ、若いころは憧れたさ。
魔法戦士。
タイプとしちゃあ、『清廉なる赤い薔薇』のシャノンがそれだ。
確かシャノンも、俺と同じ水属性だったと思う。
回復から、攻撃まで、幅広く魔法を使う魔法戦士だったはず。
あれみたいに……あれが手本……?
イメージが湧かねえな。
『ということで、魔法を買いにいきましょう』
「だから、金がねえって!」
『トイチで貸しましょう』
どこからか金の入った袋を出した……
マジックバッグを持っているのか?
いや、それより。
「トイチは高えって! 悪徳高利貸しかよ!」
『冗談です。利息はいりません。しかし、キッチリ返してもらいますが』
冗談も言うのかよ、この猫……
まあ、利息がないのなら借りといてもいいか。
というか、借りるべきだろうな。
俺は弱い。
少しでも強くなれる可能性があるなら、それにすがりつかなきゃいけねえ。
そんな立場だ。
やらなきゃいけねえんだから、やりゃあいいんだ。
街の魔法屋、店主は元Bランク冒険者のノーマおばさんだ。
身長の小さな、人の良さそうなおばさん。
だが、元冒険者だ。
舐めちゃあいけねえ。
「おばちゃん、魔法を買いに来たよ」
「おー、フェルドちゃんかい。また珍しいねえ。こないだクリーンを買ったばっかりじゃないのかい。お金はあるのかい?」
鋭いね。
俺の懐事情はお見通しってとこだろう。
まあ、仲間に借りました。
ジリは仲間ってことでいいんだよなあ……
「ちゃんとあるよ。で、今回はウォーターガンな」
「そうかい、そうかい。フェルドちゃんも遠距離攻撃を覚えようって気になったんだね。弓でも使えりゃあ、良かったんだろうが。フェルドちゃんは不器用だからねえ」
放っておけよ、おばちゃん。
確かに弓も苦手だよ。
マジックバッグを貰ったんだから、装備の持ち替えってのもできるかと思ったんだが、俺は剣くらいしか使えねえ!
あとは棍棒をブン回すくらいか?
なら、剣だけでも変わらねえな。
「ああ、その子だね」
おばちゃんは、俺の背中のイーナを見る。
……変な噂を聞いたか?
「ちゃんと面倒を見るんだよ。子供を育てるのは大変だからね。だけど、気負わなくてもいいよ。親がどんなにろくでなしだろうが、ちゃあんと子供は育つからね」
俺はろくでなしじゃねえ!
ん……?
おばちゃん、もしかして、イーナが『聖女』だって気付いたか……
まさかな。
いや、おばちゃんならあり得るか。
「おうよ、ちゃんと育てるさ」
なんかな、もう家族のようなもんさ。
ちょっとは愛情もわくってもんだ。
「おー!」
イーナが背中で威勢よく手を上げている。
話の内容はわかっていないと思うがな。
「頑張んなよ、フェルドちゃん。何かあったら、このおばちゃんも手伝うから、心配ないよ」
「おう、ノーマおばちゃん。そのときは頼まあ」
店を出て、冒険者ギルドの庭に戻る。
相変わらず、人がいない。
どうなんだよ?
冒険者も常に依頼で出ているわけじゃねえ。
暇している奴だっている。
そんなときくらい、訓練しとけよ……
ま、他人のことを言ってもしょうがねえ。
まずは、俺が強くなることだ。
《ウォーターガン》の魔法陣を取り出す。
これは特殊な紙に、特殊なインクで描いてあるらしい。
高度な錬金術が使われているそうだ。
まあ、俺にはまったくわからん。
ノーマおばちゃんも仕入れて、売っているだけだ。
作れるわけじゃねえ。
地面に置いて、その上に手の平を当てる。
そして魔力を流す。
紙の魔法陣が光り、細かく分解していき、浮き上がり、そして俺の体にしみ込んでいく。
紙からは魔法陣が消えている。
体に異物が入って来る感じ……
気持ち悪りい……
んで、慣れねえな。
光っている時間はそんなに長くなくて、すぐに終わる。
これで魔法を使う下地というか、権利というか、そういうのが完了するらしい。
手を伸ばす。
「ウォーターガン」
唱えてみる。
魔法陣も発生しない。
が、少しだけ引っかかる感じがある。
俺は魔法を覚えている。
発動する訓練が足りないだけだ。
さて、魔法ってのはイメージが大切らしい。
まあ、流派があって、理論先行、実践重視とかあるらしいな。
俺はただの剣士。
だから、使えりゃあ、なんでもいい。
昔の仲間に教えてもらった、コツってのが、イメージだ。
そいつは水魔法じゃなかったがな。
で、水の魔法のイメージだ。
俺が想像するのは、湖。
ドブンと体全体が水に落ちるイメージだ。
体全体を水に包まれて、圧迫される。
冷たい水だ。
気持ちがいいが、息ができない恐怖もある。
そんな水のイメージだ。
「ウォーターガン」
魔法陣が一瞬出現し、しかし消えた……
続ける。
何回か失敗した後……
ピシュ。
魔法陣から本当に子供の水鉄砲程度の水が飛び出した。
『まあまあじゃないのでしょうか。あとは繰り返しです。使い続けて体にしみ込ませてください』
……まあ、そんな感じだ。
魔法ったって、訓練は地味だ。
基本、繰り返すだけ。
んで、体にその感覚をしみ込ませるんだ。
まあ、子供の頃に想像したヒーローって感じじゃねえな。
……おりゃあ、ヒーローでもねえんだけどな。
ん……?
今まで、比較的静かにしていたイーナが暴れ出す。
「ナアーン!」
「もうちょっと待ってろよ。すぐ終わりにするから。じゃあ、ウォーターガン……!」
《ウォーターガン》を撃つ瞬間、イーナの魔力が流れ込んだ。
ドパアアァァ!
うおおっ!
魔法陣から大量の水が、凄い勢いで噴き出した。
向こうの木の柵にあたり、ぶち壊した……
おい、おい……また、イーナのバフか。
凄い威力だ。
それはいいんだが……
「イーナ……勘弁してくれよ。強化するときは強化するって言ってくれ」
「あー?」
首を傾げている。
俺の言っていることがわからないらしい。
ギルドの柵を壊しちまった。
それはよくあることだ。
何せ、訓練場だからな。
問題は、壊したヤツが直さなきゃいけねえってことだ。
つまり、俺だ。
「おい、イーナ。お前にも責任はあるんだぞ。手伝えよ」
「おー!」
元気がいい。
が、まあ、無理だろうな。
言ってみただけだ。
お前は近くで遊んでおけや。
マリアンネさんに報告。
「今後は壊さないように注意してくださいね」と、チクリとされた。
で、柵を直した。
イーナはバッタと格闘していた。
捕まえることはできなかった。
イーナの負けだな。
悔しそうだ。
戦略を練ればいけるんじゃねえか。
夜に少し話し合った方がいいかもしれねえ。
膝を突き合わせて作戦会議。
イーナは「あー、ふぇー」とかしか言わないんだろうな。
が、まあ、いいさ。
俺が納得することが大事だ。
冒険者ってのはちゃんと反省会をしなきゃならねえ。
直せるところなら直せってな。
イーナも冒険者の娘だ。
がんばれよ。
バッタなんかに負けちゃいけねえよ。
んで、ジリは日当たりの良いところで、寝ていた。
こいつがイーナを見ててくれるから、俺も安心して作業ができる。
……こいつ、ちゃんと、イーナを見張っているよな。
ガチ寝じゃねえよな?
『私を見くびらないでもらいたい。眠っていたとしても、イーナ様の危機は察知できるのです』
眠ってんじゃねえか!
護衛ならちゃんと仕事しろよな。
聖女は大切なんだよな?
有能な護衛なんだよな?
一応は信じているからな!
<<ステータス>>
フェルディナント・エアハルト
冒険者:Cランク
魔法:
ウォーターガン(New!)




