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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第9話 気合いだ! 気合いだ、フェルド!

んで、引き続き、俺の強化月間らしい……

といっても、依頼もこなさなけりゃ生活費が稼げねえ。

ほどほどに依頼をこなし、メインは修業……

ジリが結構なスパルタなんだよ。

そのおかげでそこそこ《ウォーターガン》は使えるようになったがな。

イーナの強化により、度重なる柵破壊……

DIYも得意になったなあ、俺。

きっと、宿の修繕で、エルマさんに喜んでもらえるはずだ。

ポジティブにいこう。


で、相変わらず誰もいない、冒険者ギルドの庭だ。


『続いて、バフスキルを覚えてもらいましょう』


ジリが、尻尾でイーナを遊ばせながら、言う。


「おー、あ! あうー」


尻尾はギリギリイーナの手から逃げている。

このギリギリが重要らしい。

あっさりと逃げるとつまらない。

捕まるのは勘弁したい。

お前も大変だよなあ。

文句言ってごめんよ。


イーナは時々、勢い余って転んだりしている。

頭が重いからバランスが難しいんだろう。

だが、泣かねえな。

それよりもジリの尻尾を捕まえることが重要らしいぜ。

ま、洋服とか、イーナ自身とかは《クリーン》で綺麗にすりゃいいから、いいがな。


「ああ、身体強化か。バルドゥルも使っていたな」


もちろん、俺との手合わせのときは未使用だ。

実力差がありすぎるからな。

少なくともAランク冒険者、戦士系は保有しているだろうアクティブ・スキルだ。

魔力を使い、一定時間、自分のステータスを強化する。


『貴方の属性は水。水系の身体強化となります』


「しかし、アクティブ・スキルは条件を満たし、あとは確率で覚えるんじゃないか?」


そして、必要な条件の情報は冒険者ギルドが売っている。

ギルドの収入源の一つとなっている。

まあ、条件を自然に満たしていれば、確率で習得できるんだがな。

ただ、自分がその条件を満たしているかを知りたいと思うじゃないか。

情報があるとないとではまったく話が違わあな。


「つーこたあ、ジリは条件を知っているということか?」


『私は女神様の部下ですからね。その程度、簡単なことです』


猫は表情が分からないと思っていた。

が、あるもんだな、ドヤ顔……


「……で、その条件とは?」


『水魔法D、魔法を三種類以上習得、および攻撃系アクティブ・スキル五種類以上習得です』


……なるほど。

魔力でステータスを上げるスキルだから、魔法の条件はあるか。

そして、攻撃系アクティブ・スキル五種類ね。

低レベルのスキルならば、それほど難しいことではない。

俺も現在でも五種類保持している。

昔は、盾系のスキルも覚えていたな。

それほどキツイ条件じゃない。

が、以前なら習得できなかったってことだ。

最低の水魔法Eだったからな。

なるほど、長い間冒険者をやってきたが、習得できなかったはずだ。

魔法適性が低い奴は、習得できないようになっているってことか。

悲しいねえ……


「確かに条件は揃っている。だが、アクティブ・スキルの習得は確率。運じゃねえんか?」


ジリの目、あれは呆れている目か。

猫の表情も侮れない。


『貴方は魔法の習得で何を学んできたのですか? 確率で技能を習得できるわけがないでしょう。繰り返しの練習でしょう。技術は鍛錬で身につくものです』


まあ、そうなのだが。

しかし、世間では確率で習得が定説で……


ジリの目が……


そうだな。

彼女の言葉を信じてみるわけではないが、しかし、やってみる価値はあるのだろう。

スキルが技術なら、体にしみ込ませることで習得できるのは自然なことだ。

しかし……


「身体強化の鍛錬のやりかたって、どうやるんだ?」


ああ、《身体強化》はわからん。

剣なら、誰かが使っていれば、それを見て体の動かし方がなんとなく分かるのだが、体の内側で行っていることなんて他人が見えるもんじゃねえだろう。


『それを私が教えるということですよ』


なるほど、優秀な猫だった。

ジリはこちらに歩いてくる。

イーナは……尻尾遊びに飽きて、寝ていた。

尻尾が捕まらず、つまらなくなったんだろう。

どうにかして掴ませてやりたいものだ。

ジリへの嫌がらせじゃねえぞ。

ただ、少しだけ尻尾を掴まれたジリを見たくはある。

にゃあと鳴くんだろうか?


んで、イーナは地面に大の字だよ。

女の子だよなあ……

これで大丈夫なんかなあ。

豪快に育ちそうだよ。

まあ、いいか。

冒険者に預けたんだ。

女神様も、これくらい許容範囲だろう。


ピョンとジリが俺の肩の上に乗る。

そして、テシと前足を俺の頭に乗せる。


『まずは水の魔力を感じなさい。私が送ります』


「しかし、ジリは木属性だったはずだが?」


『私は女神様の部下ですよ。それくらいはできます』


見えないが、きっと、ドヤ顔なのだろうね。

言葉の通り、水らしい魔力が俺に流れ込んでくる。

……そうだ、この感覚。

温かく、優しい水に包まれる感覚。

しかし、また、水の中は、人間の領域じゃないと体が叫びだす感じ。

圧迫され、息苦しく、恐怖がある。

水……


『人間の体は多量の水でできています。半分以上は水分でできているのです』


そんなこともないだろうと思う。

こんなにもしっかりと立っているんだ。

水のような形のないものでもないだろう。

が、最初から疑うというのもいけない。

まずは信じて、受け入れてみる。

そのあとで疑えばいい。


『水の身体強化は、その水分に魔力を行き渡らせるのです。魔力を含んだ水は体全体に行き渡る。それゆえ、体全体をまんべんなく強化できる。安定した身体強化です』


違和感が全身に……

気持ちが悪い。

吐き気がする。


『違和感はあるでしょう。私の魔力だからです。しかし、今は我慢しなさい。悪いものではないのです。貴方が、貴方の魔力で行使できるようになれば、その違和感はないのですから』


なるほど、これはジリの魔力だからか……

まあ、我慢してやろうか。


『その体中の魔力を運動に使いなさい。筋肉の動き、内臓の動き、そして頭の思考。その全てに魔力を使うのです。それが水の身体強化です』


ゆっくりと魔力が抜けていく。

……ジリの魔力を俺の体が使うことができないということか。

俺が魔力を体に満たし、使えるようにならないとダメだ。


『あの状態をよく覚えておいてください。そして、あの状態で動くのです。走り、剣を振り、戦う。長くない時間で、身体強化のスキルを習得できるでしょう。スキルを習得すれば、より容易に使用することができるようになる。そういうことです』


ジリは俺の背中から降りた。


さて、俺は魔力の訓練だ。

水の魔力を体に満たす練習をする。

魔法を使うときと同じようなもの。

それを体に留める。


『循環させなさい。ゆっくりと体の中を回る感じです』


ジリにアドバイスを聞きながら進める。

ん……


「フェー、フェー」


いつの間に起きたんだか、イーナが呼んでいる。

しゃがみ、イーナを見る。


「フェー、なー、なー」


手を振り、何かを伝えようとしている。

おそらく《身体強化》のコツなの、か?

しかし、わからん……


「なるほど、こうか?」


わからんが、わかったふりをしてやってみる。

《身体強化》は発動しない。


「あー! フェー! だー、あー!」


ダン、ダンと手で地面を叩いている。

「ちがうー!」って感じなのだろう。


「じゃあ、こうか!」


わかっちゃいないんだがな。

なので……


「フェー! フェー!」


失敗しちゃあ、イーナに怒られる。

で、四度ほど失敗したら、イーナが何も言わなくなった。

どうやら、弟子、破門らしい。

それはそれで、少し寂しい……


『フェルド。イーナ様の養育者なのに、言葉がわからないのですか?』


「ジリはわかるのかよ……」


『わからないわけがありません』


多少目が泳いでいるが……


『気合いだ! 気合いだ、フェルド! とおっしゃっている』


んなわけねえだろうが。


「ジー、な!」


合ってるんかい。

イーナが嬉しそうだ。

気合、かよ……

イーナ、脳筋じゃねえか。

少し将来が不安になったぜ。


で、やっぱり俺の修行には飽きたらしく、イーナは草むらのほうへと這って行った。

バッタがいる。

リベンジマッチらしい。

ま、俺の《身体強化》よりも、バッタの方が大事だよな。

がんばれよ、今度は勝てるといいな。



まあ、あれだ。

俺は魔法については才能がない。

ということで、この訓練に二日かかりました。

ジリには「やはり、貴方はダメダメですね」と言われました。


《水の身体強化》。

水だからだろうか、少し体が冷えた感じになる。

頭も冷えた感じだ。

冷静になる。

体は……動く。

いつも以上に動く。

だから、動きすぎる。

慣れるまで時間がかかるかと思った。

が、制御できる。

思考が加速して、感覚が研ぎ澄まされているからだろうな。

《水の身体強化》が全体的に強化するため、使いやすいのかもしれない。


『どうですか。世界が変わったでしょう。Aランクへの道が開けたのです』


なるほど、Aランク冒険者に必須のスキルね……


「くっ……維持が難しい」


《身体強化》が解ける。

とたん、体が重くなる。

いや、元に戻っただけなのだが、その感覚に戸惑う。


『慣れと魔力でしょう。魔力はレベルアップですね。貴方はレベルが低すぎる。身体強化を使い、魔物を倒すのが良いと思います』


ちなみにイーナだが、バッタを手に勝利のガッツポーズだ。

ようやく勝てたらしい。

……が、そいつだいぶ弱ってねえか?

体調が万全ならイーナに捕まらなかったんじゃねえかな。

まあ、相手のコンディションも含めて勝負ってことか。

野暮なことは言わぬが花だな。



街の東には平野が広がっているんだが、魔物が少ない。

この辺だと、スライム、ゴブリン、シザーズアントとかだな。

スライムは実入りが少ないし、シザーズアントは攻撃力が危険だし、群れている。

ちなみにシザーズアントの素材はなかなかに優秀で、武器や防具に使える。

危険だが実入りはある。

まあ、アイツらはテリトリーに入らなければ、襲ってこないし、リスクを冒して討伐する必要もないだろう。


で、消去法でゴブリンたちになるってことだ。

ということで、いつもの森だ。

こいつら森にも、平野にもいるんだよな。

まあ、平野のやつらは隠れるところもねえんで、対処がしやすい。

つーことで平野のゴブリンどもはあっさりと討伐されていく。

それでもいなくならねえんだがな……

森だと遭遇率が高くて、ゴブリンには事欠かない。

それもどうよ?

たまには滅んでおけよと思うが、そうならねえんだから不思議なもんだ。

しかし、冒険者に倒され続けるゴブリンか……

こいつら何のために生きているんだ?

少し、哀れにも思うが。

だが、コイツら放っておくと無限に増えるからな。

情けは無用だ。


イーナは背中。

ジリは念のために黒豹化している。


イーナは何故か俺の背中がお気に入りなんだよな。

降ろすと泣き出すこともある。

エルマさんに聞いたら「子供ってそういうもんですよ」と言われた。

よくわからねえが、まあ、いいか。

イーナに頼られてるってことでいいんだよな?

ちと、暑いのと、動きにくいのが難点だが。

あと、漏らしたときがなあ。

俺の背中まで、浸みてくるんだよなあ。

ありゃあ、よしてほしいぜ。


「イーナ、手出しは無用だからな」


イーナがバフを掛けると、急に強度があがり、制御ができなくなる。

で、俺の訓練にもならない。


「おー!」


能天気で、元気のいい返事だ。

こいつ、本当にわかってんだろうな……


少し奥に進んだだけで、すぐにゴブリンを発見する。

……本当にいなくならねえな、コイツら。


『ノーマル2、ソルジャー2ですね』


ここでもソルジャーがいるのかよ。

最近ゴブリンの勢力が拡大していねえか?

他の魔物はどうした?

ヴィシャスピッグっていう、豚の魔物がいるはずなんだ。

まあ、凶暴なだけの豚。

奴は食える魔物だ。

そして、かなり美味い!

たまに食べたくなるんだよなあ。

ひょっとしたらゴブリンに食われてるんじゃねえか?

気合を入れて、ゴブリン退治しといたほうがいいんじゃねえか?


とりあえず《身体強化》を発動する。

アクティブ・スキルとして習得しているため、発動は簡単だ。


頭がクリアになる。

感覚が研ぎ澄まされる。

左の木の後ろがノーマル、右の奥の方にソルジャーか。

《身体強化》が切れるリスクを考慮すると、右のソルジャーから倒すか。

仲間がいるなら奥から倒すのは、囲まれる危険がある。

が、《身体強化》でなんとかなるだろう。

ジリもいるしな。


右手の茂みの奥。

ソルジャーへ、先制攻撃。

姿を確認した瞬間に、アクティブ・スキル《疾風突き》。


ギギャ!


喉を貫く。

だが、魔物というものはそれぐらいですぐに死なねえ。

剣を横に引き、首を落とす。


ギャアア!


もう一匹のソルジャーが俺に気付き、戦闘態勢をとる。

奴の獲物は錆びた片手剣。

盾は無し。

アクティブ・スキル《袈裟懸け》。

ノーマルならこれで斬れるが、ソルジャーは受ける。

……少し押し合い。

今の俺のステータスなら押し切れるが……

後ろに引き、力を逸らす。


ギャ!?


ゴブリン・ソルジャーが前のめりにバランスを崩す。

首が丸見えだ。

それを落とす。


残りはノーマルのゴブリン。

剣スキルを使うまでもなく、難なく倒した。


『まあまあですね。続けていきましょう』


そうだよな。

これで終わりってこたあねえよな……


魔物の討伐を継続する。

日が暮れるまで森を走り回らされた。

さすがに、疲れた……

俺の年齢も考えろよな。


イーナは、たまに飽きたらしく、俺に大量の魔力を注入したりした。

で、体が制御しきれねえで、前のめりに倒れるんだ。

戦闘中だから、危ねえっての!

ジリがフォローに入るんで、問題はねえんだがな。

イーナはキャッキャッと大喜びだよ。

聖女ってのはこういうもんだっけ?


で、今は、背中で寝ている。

はしゃいで、遊び疲れたらしい。

魔物が徘徊する森の中なんだがなあ。

さすがは聖女、大物だな……



『もう一つアドバイスです。この街の戦力を上げておきましょう。フェルドだけでは対処しきれない事態が発生する可能性があります。水の身体強化をシャノンに覚えさせましょう』


「なんで、アイツに!」


確かにシャノンは有能な冒険者だ。

そして、俺と同じ水属性。

だが、あれと関わりあいたくないんだが……


『イーナ様を守るには一人でも強い冒険者が必要です。そして、戦力アップが比較的お手軽なターゲットが一人いる。人物的にもイーナ様を裏切るようなことはなさそうな人ですよね』


「ああ」


まあ、確かにいいヤツだ。

真面目だし、信頼も置ける。

が、俺を狙っているのがなあ……


『もちろん、フェルドが彼女に教えるんですよ。私は手伝えません。教えることも、またよい勉強です。より、身体強化の理解が進むでしょう』


うげえー、俺がシャノンに教えるのかよ……


『これもイーナ様のためです。おやりなさい』


……イーナのためねえ。

それを言われるとなあ。

冒険者仲間が強くなるのはいいんだがなあ。

だけど、シャノンなんだよなあ。


『……おやりなさい』


「なんで、前足あげて、爪、出してるんだよ! わーったよ。やるよ、やりゃあ、いんだろ!」


『素直に引き受ければよかったのです』


なんだろうなあ。

おりゃあ、ジリの従者じゃねえんだが。

女神様の部下でもねえ。

イーナの育ての親なだけなんだがなあ。

まあ、女神様に借りはあるから、しょうがないとこもある。


……俺のない頭で考えてもしょうがねえ。

やるだけやる!

ダメだったら、謝る!

シャノンに襲われそうだったら、逃げよう。

アイツ、俺より強いよなあ……

逃げられるかなあ……?



<<ステータス>>

フェルディナント・エアハルト

 年齢:40歳

 冒険者:Cランク

 LV:24(Up!)

  生命力:155

  筋力 :104

  魔力 : 57

  素早さ: 83

 アクティブスキル:

  身体強化(水)(New!)


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