第7話 雨の日くらい休んでもいいよな
雨の日。
最近はレベルアップのために、魔物討伐を忙しくこなしていた。
……ああ、疲れたよ。
雨の日くらい休んでもいいよな。
冒険者は自由業だ。
それくらいの自由はあっていいだろう。
心が死んだら、体も死ぬんだぜ、きっと。
心の健康が重要ってことだ。
それにイーナがいる。
彼女はまだ小さい。
雨の中を駆けまわって、風邪とか引いたらどうする?
そう、言い訳をする。
『まあ、悪くないでしょう』
ジリがベッドに座っている。
尻尾を動かす。
イーナがそれを追いかけている。
「あう、あう」
ペタペタと手で尻尾を掴もうとしている。
が、尻尾は手をすり抜ける。
ジリがイーナと遊んでやっている。
結局、この黒猫は宿に住み着いちまった。
問題は宿でペットを飼っていいのかってことだ。
『私はペットではなく、イーナ様の護衛ですから、問題はありません。それとも私がただの猫だと思っているのでしょうか?』
そう言って爪を見せつけるんだぜ。
そりゃあ、脅迫ってもんだよなあ。
エルマさんに聞いてみたら、「イーナちゃんの猫ちゃんですか。可愛いですね。柱で爪とぎしないなら問題ありませんよ。猫ちゃん、どうですか?」と。
で、ジリが可愛らしくミャーと鳴くんだ。
猫を被りすぎだぜ。
だが、吹き出すのをなんとか堪えた。
しかし、その後に、何故か引っかかれた。
なんでだ?
『フェルドはさすがに顔に出すぎでしょう』
バレバレだった……
つーことで、ジリは一緒に住むことになった。
まあ、イーナと遊んでくれたりして、なんだかんだ助かっている。
子供と遊ぶってのもなかなかにハードだ。
いつ終わるとも知れねえ繰り返しの作業。
結構しんどいぜ。
しかし、顔には出しちゃいけねえんだ。
子供とは同レベルで一緒に遊ぶ。
それが、大人な対応だ。
けっして俺が子供レベルなわけじゃねえ。
『人間には休養も必要です。それは理解しています』
貴方がスパルタなのが主にいけないのでは……?
聖女の養育者に相応しくなれといって、俺をシゴキ倒すのは誰でしょうかね?
「追い込まれた方が、人間は伸びる、はずです」ってなんだよ?
「はずです」って推測で、人を追い詰めんじゃねえよ!
「ゴブリンくらい無双しなさい」って、ゴブリンの巣に突撃させるんじゃねえよ!
少しは養育者側にも優しくしてくれよな。
『何か、言いたいことがあるのですか?』
「いや、特にありません……」
そう、確かに強くはなった。
レベルは二つ上がって、23だ。
感謝は……したほうがいいのか……?
まあ、それはそれとして。
今日は休養日。
何をしようか……
とりあえず、オムツの洗濯だ。
雨の日に洗濯ってどうよ?と思うが、冒険者は忙しいので、しょうがない。
オムツの汚れは《クリーン》の魔法で落とせる。
魔法万歳!
《クリーン》の魔法を使えない家庭は大変だろうね。
手洗いして、天日干しだ。
しかも何回か使えば、匂いが定着しちまう。
買い替えも必要になる。
ウチの場合は《クリーン》で問題ないのだが、たまには水で洗いたい。
そのほうが気持ちがいいだろ?
本当は天日干しがいいんだが、贅沢は言ってられねえ。
まず《クリーン》で汚れを落とし、次に《ウォーター》の魔法で、タライに水を張り、ジャブジャブと洗う。
部屋に紐を張り、そこに干す。
部屋はオムツに占領される。
まあ、子供がいる家はこんなもんだろうよ。
さて、イーナと遊ぼうか……
イーナはジリに遊んでもらっていたが、少し飽きてきたみたいだ。
きっと一度も尻尾を掴めなかったんだろう。
この猫、レベルも相当高そうに見える。
俺でも無理じゃねえか?
猫の状態なら何とかなるか……
黒豹状態だと、あっさりと殺されそうだ。
そんな実力差もあり、彼女の言うことを素直に聞いている。
まあ、情けねえやな。
いつか彼女と同じくらいの強さになって、対等に会話したいと、ひそかに思っていたりする。
で、何をするかというと、絵本だ。
エルマさんから借りてきた。
ティムが幼児のときの物が色々あるようで、それを貸してもらえる。
とても助かる。
まあ、イーナはまだ一歳とかそんな程度で、どれだけ言葉を理解しているか……
そもそも生後数週間?
だが、体の大きさは一歳児相当になっている。
言葉を覚えるには時間が足りないんじゃないか、普通。
だが、なんとなくこちらの言葉を理解しているように思う。
優秀なんだろうな。
「イーナ」
「あう?」
名前を呼べば、こちらに顔を向ける。
自分の名前を理解しているように思う。
そのへんが『聖女』なのかもしれない。
俺の名前「フェルディナント」も覚えさせようとしてる。
長いので「フェルド」で。
しかし、まだ「ふえ、ふえ」とかだ。
気長に、しかし根気よく覚えさせようと思う。
まあ、言葉がわからねえでも、楽しそうな絵が描いてあって、親が構ってやりゃあ、満足するだろうよ。
子供ってのはなぜか絵本の読み聞かせが好きなんだ。
で、重要なことは俺が楽しむってことだ。
読んでいるほうが楽しんでいねえと、子供もそれを敏感に感じて、しらけちまう。
ノリノリで読むぜ。
今日の俺は、お化けだって、赤鬼だって、なんだってなってやろうじゃねえか!
「イーナ、ご本を読んであげよう」
「??」
イーナは首を傾げる。
ま、いいやな。
胡坐をかき、そこにイーナを座らせる。
で、エルマさんから借りた絵本を適当に取り、開く。
ん、神話か……
聖女に神話……大丈夫か?
まあ、いいか。
さて、内容は創世の神話を子供向けにしたもの。
まあ、こんな感じだ。
始まりは、まだ世界と呼べるものではなかった。
ただ、色々なものが混じり、分離し、とどまることなく変化を続けていた。
混沌とした空間だった。
そこに異世界から創造神アウヤナヴァルが現れる。
彼は他の世界の神、異世界神。
異世界を旅し、この世界にたどり着いた。
それが偶然なのか、必然なのかはわからない。
が、結果、この世界がある。
そういうものなのだろう。
彼は変化し続け、混沌とした状態を見た。
「変わりゆくこと、それ自体は悪しきことではなかろう。だが、命が芽吹くには、静けさと優しさが欠かせぬだろうな」
そう言うと、光と闇を分けた。
昼と夜ができた。
しかし、まだ、昼と夜が繰り返すだけで、何も生み出さない。
「美しくない光景は見るに堪えぬ。我が望むのは、花の咲き乱れる大地ぞ」
そう言うと、大地を作り、花を咲かせた。
彼は、そこで満足した。
そこには、昼と夜が繰り返す、花の咲き乱れる世界があった。
今の世界とはおよそかけ離れた、停止した世界だ。
彼は満足した。
完全に調和した世界。
争いもなく、永久の平和を約束された世界。
しかし、停止した世界、彼はすぐに飽きた。
彼は停滞した時間を進めるために、生物を生み出した。
海に魚を、空に鳥を、陸に動物たちを。
魚は日の光を反射し、目を楽しませた。
鳥は美しい鳴き声で、耳を楽しませた。
動物たちは食うか食われるか、逞しく動き回り、彼を楽しませた。
しかし、それらは文明を持たなかった。
小さな揺れの中、まだ完璧な平和を維持していた。
彼はもう少し迫力のある盛衰を見たかった。
だから、エルフを、ドワーフを、獣人を、魔族を、人間を生み出した。
それらに種族の違い、文化の違いを与えた。
それらは争い、戦った。
それぞれの正義を掲げ、相手を屈服させようとした。
戦いは常にあり、世界は混沌とした。
世界は混沌に戻った。
だから、彼は失望した。
そして思う。
「この世界は我にふさわしくない。次の世界へ旅立つときだ」と。
しかし、さすがに自分が作った世界だ。
このまま放置するのもためらわれた。
自分の代わりに世界を統治する者が必要だ。
彼は世界を五つに分けた。
すなわち木・火・土・金・水、五柱の女神を作りだした。
木と風の女神メルフェイーナ。
火の女神ヘルミヴィエノ。
土の女神エーリヘンリーッカ。
金の女神オイヴィアーダ。
水の女神ウルアリッリ。
「創造主よ、我らは何をすればよいのでしょうか?」
金の女神が問う。
「そなたらにはこの世界を見守ってもらいたい。だが、もしこの世界に絶望するなら、この世界を壊し、最初から始めるのもよかろう。そなたらにすべて任せる」
そう言って、創造神は次の世界へと消えていった。
残った五柱の女神は、創造主の言葉に実直に従った。
「では、我らはこの世界を見守りましょう。そして正しく導きましょう。しかし、それが叶わないときは、我ら五柱の力を合わせ、新たな世界へと作り直しましょう」
五柱の女神はいつでも我々を見ている。
そして、我々が生存する価値があるかどうかを測っている。
だから、我々人間は正しく生きねばならない。
まあ、こんな感じの話を絵本にしている。
……なんだあ、この神話は?
こんなんだったっけか?
おいおい、創造神よ。
あまりに無責任じゃねえか!
手に負えなくなったからって、五柱の女神に放り投げて、次の世界に行くなよな。
もう少し、例えば、それぞれの種族ごとに地域を分けて、接触できないようにするとか。
闘争心を少しだけ押さえるとか。
神のお告げとして「隣人を愛すること」とか言ってみる、とか。
何かできただろうが!
しかし、正しくなんて言われたってなあ……
正しさとはなんだよ?
誰の基準だ?
人間か、女神様か?
女神様だとすると彼女たちの考えなんて、人間にわかるはずがねえ。
無茶だ。
とすると、宗教か……?
それもなあ……
宗教が創始されたころは、少しは女神様の考えに従っていたかもしれねえが、今の宗教はどうなんだよ。
時が経つにしたがって、宗教家の都合のいいように教えは変えられてないかい?
宗教家の都合じゃなくたって、今の人々に受け入れやすいように変えられているかもしれねえ。
それは人々にはいいけど、女神様の正しさにはそわないかもしれねえよな。
女神様の正しさねえ……
人間にとっていいことなんだろうか?
しかし、それに沿わないと世界が作り直される。
人間とか一旦リセットして、別の種族が作られるんだろうか……
まあ、神話が全て現実にあったことだとは思わねえが、一定の事実を含む可能性が高いのがなあ……
ふむ……
「むふー!」
何故か、イーナは満足しているらしい……
内容は理解できてないよなあ。
いや、もしかしたらできているのか?
女神様の話だしなあ。
まあ、どちらでもいいか。
まだ小さいしな。
そういや、この創造神ってのは、今は信仰されてねえな。
こんな内容の絵本ができるくらいだから、人気のなさがわかるってもんだ。
今は五柱の女神が信仰されている。
国によって、どの女神とかあるらしいが、俺は適当だ。
何か願うなら、全部の神様に願っている。
まあ、それじゃあ、願いは届かないかもしれねえな。
が、神様なんて、個々人を助けねえだろ?
そんな暇じゃねえだろう。
人類レベルの大きな方向なら修正するかもしれねえがな。
ま、そんなもんだ。
とりあえず、神頼みはするが、期待はするなってこった。
そういや、ジリは木の女神様の使いみたいなもんだよな。
何か知らねえのかな?
「おい、ジリ……」
ベッドの隅っこのところで、丸くなって眠ってやがる。
起きやしねえ。
こいつ、黒豹じゃなくて、正体は黒猫なんじゃねえか?
今日、俺に休みを認めたのも、自分が眠たいだけだったんじゃねえか?
イーナも眠そうにしている。
……昼寝でもしようか。
雨だしな。
武器の手入れは……後でやりゃあいいか。
休みのときはゆっくり休む。
これも重要なこった。
イーナが舟をこいでいる。
倒れそうで危ねえな。
「ふみゅう……」
優しくベッドに寝かせる。
その横に、俺も横たわる。
なんとなく、くっついてみたりする。
温かいねえ……
雨だからいいが、夏場は少し暑いかもしれねえな……
俺もイーナも汗だくになるかもしれねえ。
次の絵本はもうちっとまともなやつを読んでやろう。
動物とかが冒険する、ドキドキワクワクな絵本がいいねえ。
単純にパンケーキを作ったり、みんなで大きな野菜を引っこ抜いてるだけでもいいのかもしれねえな。
迷子になった子猫が、他の動物の親切で、母親のところに帰宅する話もいいかねえ。
よく、母ちゃんに読んでもらったっけな。
結局、子供ってのは母ちゃんのところに帰るのが一番だ。
いたずらしたら叱るけど、最後は笑って抱きしめてくれるような母ちゃんが一番安心するわな。
んで、ビターエンドなものはなしだぜ。
絵本だから、気持ちよく終わりたいよな。
ビターな現実を経験するのは、もう少し成長してからで十分だ。
<<ステータス>>
フェルディナント・エアハルト
年齢:40歳
冒険者:Cランク
LV:23
生命力:149
筋力 :100
魔力 : 54
素早さ: 79




