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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第85話 たぶんベターな回答というのはねえんだ

「どうして! こんな感じなんじゃあ!」


『さすがに滑稽ですよね。大きなお子さんを授かった感じでしょうか』


森で魔物狩りだ。

まあ普通は魔物討伐って言われるんだが、俺たちは目的もなく魔物を殺していっている。

間引きってことで、意味がねえってことでもねえんだがな。

ま、ぶらぶら、のんびりと魔物狩りだ。


『果物狩りみたいに言わないでくださいね。油断大敵ですよ。フェルドが怪我でもしたら、イーナ様がお帰りになられたときに、悲しみますから』


んなこた、俺だってわかっているよ。

これでもベテラン冒険者だぜ。

のんびりと、だが、油断はしねえ。

そんな感じだ。


まあ、今のところゴブリンとか雑魚だけなんで、ちと物足りねえがな。


「さすがにこれはないのじゃ。わらわはもうちゃんとした大人なのじゃ。これじゃ、赤ちゃんなのじゃ!」


背中のメリスがうるさい。

俺の背中におんぶ紐で括りつけている。

でっけえ赤ちゃんだな。

はたから見たら滑稽だ。

だが、これがベストじゃねえだろうか。


「おめえ、まともに歩けやしねえだろうが」


「このアホが、さすがに歩けるわ!」


「いや、この森の中を歩けるのかって言ってんだよ」


森の中ってのは木の根っこやら、草やら、起伏があって結構歩きにくくて、体力を消耗するんだ。

メリスが自分で歩くとなったら、下手すりゃ十歩ごとに休憩が必要じゃねえか?


「しかし、妙齢な女性がこれは無体なのじゃ」


自分で妙齢って言うか?

胸もぺったんこのくせに何言ってんだか。


「フェルド、失礼なことを考えたじゃろう?」


おう、ジリじゃねえんだから他人の考えを読むんじゃねえよ。


「いや、そんなこたあねえよ」


「絶対考えたのじゃ。嫌なのじゃあ、降ろせ、降ろすのじゃあ!」


ポコポコと頭を叩かれる。

が、ステータスの違いだよなあ。

ダメージ0ってやつだ。



「おい、ほら、メリス。オークだ。とっとと倒せよ」


「いやあ、あれは醜いのじゃよ。ゴブリンといい、魔物というのは哀れな存在ではあるのじゃな」


「いいからやれや」


メリスが《サモンソード》を発動し、オークを串刺しにする。

この魔法、上級者になれば、一本のソードを巧みに操って、複数の魔物を攻撃できるんだが、メリスにはそれはまだ無理。

一匹を一つの魔法で殺していく。

まあ、こいつの魔力量なら問題はねえんだ。


しかし、魔物ねえ。

たしかに醜いのが多い。

ひょっとして、オークからみたら人間の方が醜いのかもしれねえが……

いやあ、あいつら人間の女性を襲うんだから、それもねえか。

とすると自分が醜いってことを自覚して生きているってことか?

そりゃあねえよな、さすがに。

それじゃあ本当に哀れな存在だぜ。

そんなこたあねえはずだ。

あれはあれなりに真剣に生きているんだろう。


「こ、これで。ここ! 貫くのじゃあ!」


後ろがうるせえ。

オークごときになに真剣なんだよと言いたいところだが、まあ、メリスが頑張ってんだ、温かく見守ろうじゃねえか。

こいつの魔力なら制御だけできるようになりゃあ、すぐAランク冒険者程度の実力はあるんだ。

ちゃんとレベルを上げりゃあ、すぐにSランク相当の実力になるだろう。


「おっと、危ねえ!」


こっちに飛んでくる《サモンソード》を剣で弾く。


「お前、俺を殺す気じゃねえだろうな!」


「すまぬのじゃ、ミスった!」


まだまだ他の冒険者と組ませることはできそうにねえなあ。

こりゃ当分、俺が面倒を見ないといけなそうだな。


『暇つぶしにはいいんじゃないでしょうか。子供を育てるような感じが懐かしいでしょう』


おう、そんな感じだ。

俺の背中にいたイーナも大きくなっちまったしな。

その後、肩車とかしてたっけか。


「メリス、次は肩車でいってみるか?」


「アホかあ、そんなもの落ちるにきまっているじゃろうが! 頭から地面にダイブじゃ!」


自信満々に言うんじゃねえよ。


「それにのお……肩車はちと恥ずかしいのじゃ」


「ん? おんぶと変わらねえんじゃ」


「ふ、太ももとか、そのなあ、密着度が……」


何を恥ずかしがってんだか。


「お前と俺の仲じゃねえか。別にいいだろう」


「どんな仲じゃ!」


まあ、そこそこ仲良くなったつもりでいるんだがな。

子供のことは置いておく。


「そろそろ、その仲とやらをはっきりしてほしいものじゃが」


なにやら、メリスがぶつぶつ言っている。


「なんだよ、メリス」


「なんでもないわい。アホフェルド」


「なんだよ、へっぽこエルフが。アホ呼ばわりされる理由がねえぞ」


「ありまくりなのじゃ! アホ、アホ、このアホぅが!」


……おんぶってのもダメだな。

後ろで騒がれるとうるせえ。

いっそ、ここで降ろして帰ろうか。

まさか、そんなこたぁしねえよ。



そんな感じでメリスの強化月間をしている。

それなりに楽しく頑張っている感じだ。

収入もそこそこ。

生きていくぶんには困らねえよ。


メリスのレベルも少しずつ上昇してる。

体力は……少しだけ改善したらしい。


「ふーん、メリスさんも少しは体力ついたんだ」


ティムがハンバーグを頬張る。

夕食をエルマさんとティムとジリで一緒に食べている。

宿の客はもう食べ終わり、その後だ。

イーナがいるときは四人と一匹だったんだがな。

今は三人と一匹だ。


メニューはハンバーグとサラダ、スープ、オレンジ等のフルーツだ。

ちなみにハンバーグのソースはカレー味だ。

もう、ハンバーグカレーでいいんじゃねえかとも思うが、作ってくれたエルマさんに感謝だ。

うん、期待通り美味い。


「まあ、なあ。しかし、あの体格だからレベルアップしたとしても大したことはねえよ」


「うーん、でも、魔法制御が上達するだけで強くなるんでしょう?」


「まあな。あいつの魔力は賢者並みだからな」


「ちょっとうらやましいなあ」


そうは言うがな、ティム。

あいつはあれでそれなりに悩んでたんだぜ。

それでエルフの国を出て、彷徨っていたんだ。

他人にはわからねえ悩みなのかもしれねえがな。


「あいつもそれなりに大変らしいぜ」


とだけ言っておく。


「だけど、あれだよね。フェルドさんすっかりメリスさんの保護者になっているよね」


「保護者っつーか、なんつーかなあ」


どんな関係なんだろうかなあ。

子供、じゃあねえよなあ……


「関係って、奥さんになる可能性もあるってことだよね?」


「おい、ティム!」


カチャン。


「あら、すみません。スプーン落ちちゃいました」


エルマさんがスプーンを床に落としたらしい。

彼女はスプーンを拾い、キッチンで洗う。


「だって、子供を作る約束をしたんだよね」


「いや、してねえって」


おう、約束はしてねえ、まだ……


「そうなんですか? 私、メリスさんがフェルドさんにプロポーズしたと聞きましたよ」


エルマさんの声が、視線が冷たいんだが。


「まあ、そりゃあ本当というかなんというか……」


「はっきりしないんですね。断ったんですか?」


「いや、なんというか……」


なんか、保留というか。

そんな感じでダラダラきているというか。


「男らしくないですよ、フェルドさん」


確かに男らしくはねえよな。

言い訳もできねえ。


「イーナちゃんがいないときに女性を作って、彼女が帰ってきたときにどう思うのでしょうね。イーナちゃんはフェルドさんが待っていてくれると思っているんですよね」


そりゃそうだよなあ。

確かになあ。

イーナだよなあ……


「すみません。私、行きますね」


エルマさんが立ち上がった。

食器をキッチンへと運び、そのまま自室へと向かった。

ちなみに食器洗いは俺がする。

それで少しだけお得に夕食を食べさせてもらっていたりする。

まあ、それはどうでもいいことだよなあ。


「イーナちゃんも爆弾を置いていったよね。でも、それを置いていかないと、フェルドさんが誰かのものになっていたかもしれないから、作戦勝ちなんだよね、きっと」


「そんな感じなのかなあ?」


「そんな感じなんじゃない。それくらいしておかないと、きっとフェルドさんと離れられなかったんだよ。可愛いじゃない」


「ティムよ。さっきはメリスのこと推してなかったか」


「ううん。別に誰も推してないよ。ただ、そういう未来もあるのかなってね」


ティムも、エルマさんに爆弾を落としたんじゃねえのかよ、まったく。


「だけど、フェルドさんなら、メリスさんを選ぶ未来っていうのもいいのかなって思っちゃったんだよね。それでもきっと幸せを見つける人かなって。僕は別の人がいいと思っているけどね」


「……で、ティムのお勧めは?」


「それは内緒。だけど、僕はフェルドさんも好きだから、誰を選んでも尊重するよ」


「そりゃあ、ありがとな」


誰を選ぶだ?

まったく、俺も偉くなったもんだな。

愛想つかされねえようにしねえとな。

まったくよお。

俺が恋愛沙汰で悩むとは想像していなかったぜ。



自室、ベッドに仰向けになって、考えている。

なんで俺なんかを好きだって言ってくれるんだろうな。

イーナにメリス、マリアンネさん、か……

ジリは足元で丸くなって寝ている。

いい気なもんだよ。


イーナとマリアンネさんは俺とずいぶん年齢差もあるんだがな。

メリスも年齢差はあるか。

こっちは逆にずいぶん年上だよな。

とすると年齢ってのはどうでもいいことだよな。


考えがまとまらねえよ。

どうしたもんか。


コン、コン。


ノックがある。

こんな時間に誰だよ?


「すみません。エルマです……」


ドアを開けるとエルマさんが立っていた。

俯き、視線は合わない。


「どうしたんだい? こんな時間に」


「すみません。さっき私、感じ悪かったですよね。嫌なことを言ってしまって」


夕食のときのことか。


「いや、いいんだよ。そりゃ、俺の方が悪いんだ。エルマさんの言う通りだと思うぜ」


考えなきゃいけねえことなんだよな。

俺が、俺の結論を出さなきゃならねえんだ。


「イーナのことを思ってくれたんだよなあ」


「違うんです。そうじゃない、そうじゃないんです」


エルマさんの声が震える。


「私……イーナちゃんのためじゃないんです。私のことなんです。私の感情なんです。それをぶつけただけなんです。酷い女なんです」


エルマさんの目から涙が床に落ちる。

泣いている……


「私、嫉妬しただけなんです。ただ、フェルドさんがメリスさんと仲良くしていることが気に入らなかっただけなんです。ほんと、子供みたい」


そりゃあ、どういうことだ……?


「これでもわからないですよね? 鈍感なんですよね、フェルドさん。そんなところも好きですけど」


好き……?

エルマさんが俺を見る。

泣きながら、でも微笑んで。


「はい。好きなんですよ、ずっと。気付いてくれたらよかったのに、こんなに一緒にいるのに」


「しかし、エルマさんはハーラルトの妻で……」


「そうですよ。私はハーラルトの、あの人の妻だった。ですが、今、ハーラルトはいません。未亡人です。私、ずっと一人じゃないといけないですか?」


「そんなことはねえよ。エルマさんは素敵な人だ。いつか、再婚して幸せになるんだろうなとは……」


「ねえ、それって、フェルドさん以外の人ってことですか? フェルドさんはそれでいいんですか? それがフェルドさんになる可能性はないのですか?」


「いや、俺は……」


「すみません。私、困らせるようなことを言っています」


「いや……」


「イーナちゃんがいないのに、イーナちゃんが帰ってくるまで待っていようと思っていたのに。本当に嫌な女だわ」


エルマさん……


「ですが、この際だから言っておきますね。私はフェルドさんが好きです。ハーラルトと同じくらいに。できたら結婚して一緒に生きていきたいと思っています」


「そりゃあ、プロポーズってことかい」


「はい。そうです。マリアンネさんも告白したんですよね?」


どこからその話を……


「私も負けてはいませんよ。負けるつもりはありません。でも、いいんです。イーナちゃんが帰ってくるまで返事は待ちます。それまではいつも通りでお願いしますね」


エルマさんが微笑む。

いや、いつも通りなんてできるわけがねえじゃねえか。

……それも策略?


「ふふふ。困った表情が可愛いですね。じゃあ、おやすみなさい」


ドアが閉まり、エルマさんは少しそこに立っていたみたいだ。

それから、彼女の小さな足音が遠ざかる。


さて、ね……

エルマさんか。

そりゃあ可愛くて、しっかりしていて素敵な女性だよ。

俺も好きだが、しかし……


『悩むことでしょう』


「よお、ジリ。起きてたのかよ」


『猫はそれほど熟睡しませんよ』


黒豹じゃねえのかよ。


『女性問題など、太古の昔からあるものです。とすると、それは最善の解決策などない問題ということ。ゆえに悩むことでしょう。フェルドができることは』


「まあな」


そりゃあ、そうだ。

最善の解決策なんてねえ。

んで、たぶんベターな回答というのはねえんだ。

俺が選ぶ、一つの結論。

それは誰かを傷つけるのだろう。

そういう問題なんだよな。


『まあ、フェルド側に選択肢があるかもわかりませんが』


ジリの黄色い目が静かに俺を見ている。


「どういうことだよ?」


『強い女性たちですからね。フェルドが選ぶのではないかもしれません。まあ、わかりませんが』


よくわからんが、俺の意思と関係なく進む可能性もあるってことかよ。


『男などしょせんそんなものなのでしょうね。しかし、私はあなたを評価しているのですよ。イーナ様をちゃんと育てて、送り出してくれた。それは感謝しています。そして、それはあなたが思っているよりもずっと大変なことだったと思うのですよ。この世界を救うほどに』


「まあ、聖女だからな。人類滅亡の案件だよ」


『あなたはそれほど重く受け止めてはいないようでしたが』


まあな。

それほど真剣でもしょうがねえだろう。

子供なんて、俺の予想通りには動かねえんだ。

いつもアドリブだよ。

そんなもんさ。


『フェルドはそれほど悪くないと思うのです。ですから、女性が求めるのですよ。女性だって幸せになりたいのです。幸せになるための伴侶を必要としている。あなたはその条件を持っているということでしょう』


「そんな冷静に言われてもなあ……」


『まあ、気持ちの問題なので、合っているかはわかりませんがね』


ジリなら、恋愛も理性なのだろうか?


『そんなことはありませんよ。あれは感情の産物。しかし、一緒に生きていく未来は感情だけではダメでしょう、きっと』


そんなもんかねえ。


『悩むことですよ、フェルド。それがあなたにできる誠意。それが無駄だとしても』


「無駄って何だよ、無駄って」


『しかし、イーナ様には幸せになってもらわねば困ります。イーナ様を泣かせたら――どうなるかわかっていますよね』


ジリは結局イーナの味方じゃねえかよ。

まあ、しょうがねえがな。


『そして、もう一人残っていますよね。気を付けなさい、手ごわいですよ』


「なんだよ。もう誰もいねえだろうが」


エルマさん、マリアンネさん、メリス、そしてイーナ。

それだけだろうが?


『脇が甘いのですよ、フェルドは。気を付けなさい。もし私があなたを襲ったらどうするつもりですか?』


「そりゃあ、攻撃的な襲撃ってことでいいんだよな。男女の仲ってことじゃなくてよお。で、猫に襲われたって大丈夫だよ。さすがに負けねえと思うぜ」


『黒豹ならどうでしょうか。そしてもしかしたらですが、黒豹でないかもしれませんよ。まあ、可能性の話ですが』


「そりゃ、どういう意味だよ?」


ジリは俺を見つめて、答えずにベッドの隅で丸くなって、寝た。

なんだよ、そりゃ。

……黒豹以外にも変化できるってことか?

いや、本体が黒豹だから、黒猫に変化してるってことだよな。

もしかしたら黒豹も本体じゃねえのか?

わからん!

余計なネタをぶっこんできやがって。


結局、寝れねえよな。


なかなか寝れねえで、朝方寝付いた。

昼頃、エルマさんにたたき起こされたんだよな。

格好つかねえなあ。


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