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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第83話 どういうことだよ、メリス

「だから、フェルドよ。いつも、いつも、ここで何をしているのじゃ?」


「んー、何にもしてねーなー」


魔法屋、今はメリスが店主になっている。

で、ノーマおばちゃんの記憶も、少しずつ思い出になって、少しずつお客も来るようになっている。

てことで、のじゃエルフも何とか食いつないでいけるようになってきた。


「来る日も、来る日もだらけおって」


勝手に奥の方から椅子とテーブルを引っ張り出してきて、店の中でテーブルにつっ伏して、だらけている。

ベッドでも持って来て、寝っ転がりてえ感じはあるが、さすがにそのスペースはねえよな。


「あー、そうだな。なんか、メリスと話しているくらいがちょうど心地いいっていうかなー。なんかなー」


と言ってみる。

場所を借りているんだ、少しくらいは褒めねえといけねえや。

まあ、若干本心でもあるんだがよ。


「ほ、褒めても何も出さぬぞ!」


なんか照れてるよ、このエルフ。

んで、お茶と茶菓子が出てくるんだぜ。

なんだかんだ優しいんだからな、コイツ。



煎餅をかじりながら思う。


イーナは旅立った。

俺は聖女の養育者。

その称号は以前のまま保持している。

ということはだ。

今までの時間てのはなくなるってわけじゃねえんだ。

俺は聖女……じゃねえな、イーナを育てた。

成長は早くて、世間一般の両親の苦労とは全然違うだろう。

だが、育てたんだ。

その事実は変わらねえと思う。


で、イーナは旅立った。

なんかさあー、やり切った感がある。

なんで、ちょっとさぼっている。

やる気が出ねえ。

なあ、そんなときってあるよな?

やる気がねえのに無理に動いたって、結果は付いてこねえよなあ。

そういうことにしておいてくれ。


ちなみにジリもそのへんでのんびりと日向ぼっこしている。

あいつ、俺よりも脱力がひどいんじゃねえか?

そっとしておいてやろうと思う。



「イーナが戻る場所を守っていくんじゃないのか?」


「んあ、ああ、そうだな。だがよぉ、後輩たちもしっかりと成長しているんだぜ。あいつらに、そろそろ俺を抜いてもらわなきゃ困る。俺程度軽く超えてもらわねえとな。だから俺はちょっと小休止だ。あいつらが頑張れるようにな」


メリスが俺を睨む。


「それは方便じゃないのかの。Aランク冒険者であるところの、そして勇者とも互角以上に渡り合う冒険者であるところのフェルドを超えるのはなかなかにハードだと思うぞ」


「あー、俺はそんなに大したもんじゃねえよ。んで、勇者もすぐに俺を超えるって。だめだめだよ、俺は」


「どうしてこんなにも卑屈になっているかのぉ。まったくしょうもない」


メリスが深いため息だよ。

お前だって、それほど働いてねえくせに、偉そうに。


なんとなく本の表紙に指を這わせる。

なぞった通りに跡がつく。

埃があるじゃねえか。

掃除はどうしたよ?


埃で汚れた指に息を吹きかける。

店全体に埃が舞う。


「ごほ、ごほ……何しとるか、フェルド! 埃が舞うのじゃ」


「うっせえわ! 掃除くらいしろよ、このへっぽこエルフが!」


言い合いをしていてもしょうがねえ。

んで、このままだと病気になりそうなので、二人で掃除をしたよ。

体を動かすのはいいことだ。

へっぽこエルフは体力が赤ん坊なので、三十分も動けねえんだがな。

せっかく、木の女神様に少しだけ動けるようにしてもらったんだから、魔物討伐に連れて行ってレベルアップさせたほうがいいかもしれねえな。

エルフの寿命は長いからな。

この先何年もこんなんならしょうもねえよな。



本っていうのは日焼けしちゃいけねえから、魔法屋の窓ってのは普段は閉じているもんだ。

だが、閉めっぱなしでもいけねえ。

風を通したり、掃除のときとかな。


つーことで窓を開けている。


「いやあ、風が気持ちいいのじゃ」


「……どんだけ窓を開けてなかった?」


「んー、まあいいのじゃ。こうして、今は風を通しているのじゃ。本たちも喜んでおる!」


まあいいか。

俺はこいつがへっぽこだって知っているしな。

このゆるさがこいつの持ち味かもしれねえよな。

だが、本が傷むことは許さねえぞ。

たまには強制で掃除させねえといけねえか。



「のう、フェルドよ」


「んだよ、へっぽこエルフ」


「誰が、へっぽこじゃ! まあ、よいわ。お主、さすがにやる気がなさすぎると思うてな」


「おう、心配してくれるのか? ありがとよ」


「誰がお主の心配なぞ! ……少しだけじゃよ。お主はわらわを助けてくれたのだからな」


ああ、別に感謝されるようなことはしてねえよ、俺は。

メリスを世界樹のところに連れて行っただけだ。


「そりゃ、イーナだよ。んで、木の女神様だよ。俺じゃあねえよ」


「そうかもしれぬ。じゃが、わらわはお主に感謝しておる。それはわらわの勝手じゃろう」


「屁理屈だな」


このエルフも頑固だからな。

よくわかんねえところで律儀だよ。


「お主が子供を育て終わって、そしてやり切って、抜け殻のようになっておるのなら、の……」


こいつ、何を言いたいんだ?


「なら……子供がおればいいのではないかの?」


「子供だあ? 孤児でも育てろってのか」


「そ、それもよいがの……お主の子供があってもいいんじゃないのかと思ったりもしたりするのじゃ」


ん……わかりにくいが……俺自身の子供を作れということか。


「そりゃあよお。それもいいが、しかし、そりゃ相手が必要なことだろうが」


頼み込んで済むような問題でもねえよな。

「すみません、俺の子供を産んでください」ってか?

プロポーズにもなってねえ。

ただの変態だ。


「そうじゃよな。お主、相手がおらぬのだよなぁ。そうじゃ、そうじゃ。お主はモテぬからのぉ」


嬉しそうに言うんじゃねえ!

おい、俺を侮辱しているのか。

しまいにゃ、怒るぞ。


「じゃから――わらわが、それになっても、いいかと思っておったりも、しなくもない……」


あん?

メリスがもじもじとごにょごにょと。


「どういうことだよ、メリス?」


「じゃぁかぁらぁ、わらわがお主の子供を産んでも良いと言っておるのじゃ!」


怒り気味だよ。

なんで、怒られなきゃいけねえんだよ。

……?

メリスが俺の子供を産む……?


「メリスよぉ、そりゃプロポーズってもんじゃねえのかい?」


いや、しかし、メリスだぞ。


「違うのじゃ! ただ、フェルドの子供を産んでいいと言っておるだけなのじゃ! 結婚とは言っとらん!」


子供を産んでもらうだけの関係ね。

まあ、そういう関係があってもいいのか?

だが、メリス側のメリットは?

人間関係を利害だけで見ようとするのもおかしいよな。


彼女との子供を想像してみる。

ハーフエルフか。

メリスは小さいから、子供もきっと小さいのだろう。

メリスに似るなら可愛い子供になるんだろうな。

だが……エルフの寿命は長い。

成長速度も人間より遅い。

とすると、その子が大人になるまで俺は生きられるのか?

うーん……


「まあ……結婚せんとも言っておらんのじゃがな。フェルドがよいのならわらわは……」


メリスがテーブルに『の』の字を書きながら、何やらブツブツ言っている。

やっぱり寿命がなあ。


「メリスは可愛いからなあ、子供も可愛いんだろう。しかし……」


「な、何を言っておる! わらわが可愛いじゃと!」


何をいまさら照れてんだよ。

たまには言っているだろうが。

……初めて言ったか?

まあ、いいや。


「だけどなぁ。その小さくて可愛いメリスが妊娠なんて想像できねえなぁ」


「わらわはちゃんと大人なのじゃ! ちゃんと妊娠できるわ。試してみるか!」


「どう試すんだよ!」


「フェルド、ちょっと服を脱げ! 怖くないぞ、怖くはない。痛いのは最初のうちだけじゃ!」


「ちょっと待て、メリス。勝手に脱ぐな。こ、心の準備が……」


メリスが服に手をかけて、俺に迫ってくる。

まあ、ステータス差があるんで、ちょんとつまんで捨てることもできるんだがな。

女の子を手荒に扱うってのもねえ。


「あーっと。こりゃあ、お取り込み中だったか。すまねえなあ、出直すかねえ」


「あ、ドミニク」


「ち、ちがうのじゃ。フェルドが悪いのじゃ!」


メリスが慌てて服をなおす。


「メリスさんの言葉だとフェルドさんが襲っているように聞こえるけれど、俺が見た感じじゃあ、メリスさんがフェルドさんを襲っていたんだがねぇ。はて?」


「ドミニクよぉ。流しておいてくれ。何も見なかったことにしておいてくれ」


「しかし、フェルドさんよぉ。後ろにアポロニアたちがいたりするんだけどねぇ」


おい、ドミニクよ!

そりゃあ、最悪なパーティを連れてきてんじゃねえ。


「何、何ー? 楽しいこと起こっているの?」


「フェルドさんの名前が聞こえたんだけど」


「剣の稽古の約束が果たされていません。催促したいです」


アポロニア、ラーレ、エラの声が聞こえる。

ほんとにいるじゃねえかよ。


「わらわは無実じゃあぁぁ! ただ、フェルドの子供を産んでやると言っただけなのじゃああぁぁぁ!」


おい、メリス、何口走ってんだよ!


「えー! 何、何!? メリスちゃん、フェルドさんにラブラブだったの!」


ドカンとラーレが突入してきた。

こいつ色恋沙汰が大好きだからな。


「ち、違う、違うのじゃ! ただ、子供が欲しいだけなのじゃ!」


「それは『フェルドさんの』じゃないとダメなのよね! あらー、フェルドさんも満更じゃない?」


ラーレ、嫌らしい顔してらぁ。

おめえ、そりゃあ、男にモテねえぞ。


「フェルドさん、メリスさんが好きだったんですか? イーナちゃんは? 私、イーナちゃんならあきらめようと思ってたのに……」


で、エラは、目に涙をためながら、何を言っているんだ?


「ダメだよ、エラ! イーナちゃんにもメリスちゃんにも負けちゃダメだって。恋は先着順だ! 先制攻撃あるのみ。受け身に回ったら負けちゃうからね!」


で、アポロニアは煽るんじゃねえよ。


「なんかねえ。大変だねぇ、フェルドさんも」


「ドミニクも、アポロニアに腕を組まされて、何言ってんだよ。奥さんに報告してやるからな」


「やめてくれよ。この間もこっぴどく怒られたんだからさあ。ほんと、情けねえもんだねえ、男ってやつは」


「そうだな……こういうときに、無力を感じらぁ」


女性たちがわきゃわきゃしている。

俺たち男が口を挟んでも、いい方向には行かねえんだよな。

んで、逃げると、それはそれで後で酷いことになる。

とりあえず鎮火するのを待つか。


「だーかーらー! わらわはフェルドの子供が欲しいだけなのじゃ!」


「よく言った、メリスちゃん! フェルドさんを襲っちゃえ、襲っちゃえ。既成事実を作るんだ!」


だから、ラーレよ。

煽るんじゃねえよ。

お前、酔っ払ってねえよなあ。

しらふでこれができるから、怖いんだよなあ……

おっさんには付いていけねえ、ノリだよ。



<<ステータス>>

フェルディナント・エアハルト

 年齢:44歳

 冒険者:Aランク

 LV:54(Up!)

  生命力:369

  筋力 :260

  魔力 :160

  素早さ:211


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