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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第79話 さすが勇者、天才ってところかな

「だーかーらー、スキルを使うタイミングが遅いってーの!」


「だから、そのタイミングってのを教えてって言ってんの! なによ、そのスキルがギュッと止まる直前で、グハァって使うっていうの。それじゃあ、わからないよ!」


スズハが苛立たしげに地団駄を踏む。

汗をかき、顔は土で汚れている。


ギルドの裏庭で、スズハに稽古を付けている。

俺が教えられる技術ってんで、スキルの連続発動を教えている。


何度もスキルを繋げるタイミングを失敗して、不完全なスキルになり、地面に叩きつけられている。

だが、やる気は失せてねえみたいだ。


「まあ、アレだよ。フェルドのような技術ってのは、他で使っているのを見たことねえからな」


エトムントが頭を掻く。


「フェルドさんは変態なんですよね」


「普通じゃないことは確かでしょう」


「プリシラとロレッタよ。バカムントもやっていたらしいぜ。火の剣聖、サミュエル・パーセルと戦ったときによお。つーことは、バカムントも変態ということじゃねえか」


「さすがはエトムント様」


「常人が身に付けられない技術を身に付けておいでとは」


二人は頬を染める。

おい、俺との扱いの差よ!

まあ、この二人に好かれる必要はねえけどな。

……わかっているよ、強がりだよ!



「よく見ておけよ!」


スキル《疾風突き》を発動する。

その終わりのタイミング、ここだ!

《横一閃》へと繋げる。

剣を横に振りつつ、そのまま左に駆け抜ける。


「どうだ、わかったか!」


スズハを振り返る。

……微妙な表情だな。


「見ていてわかるわけないじゃないか。スキルを発動しているタイミングなんて」


確かにそうか。

外から見ていたら、ただスキルが連続で実行されているようにしか見えねえ。

そいつがどんなタイミングでスキルを発動しているかなんてわからねえよな。


「だけど、確かにスキルは繋がっていた。それはわかる。だから、できるということは認識した。今までスキルのキャンセル、連続はできないと言われて教えられていた。だけど、それが間違いだっていうことは確かにわかった。私の常識は更新された。ならば、それを求められる!」


スズハの瞳には光が宿っている。

やっぱり、いいじゃねえかコイツ。

根性と向上心がある。


「なに笑っているの、フェルド」


イーナの冷たい視線が俺を突き刺す。


「別にエロい目線で見てねえよ」


「私、エロいなんて言ってないんだけど。そういう目でスズハを見てたの?」


「いや、だから、見てねえって言っている」


「ふーん、本当かなぁ?」


なんでスズハだよ。

あいつは女性が好きなんだろう。

なら、俺は対象外じゃねえか。


「じゃあ、やってみる。……っ、ダメだ、失敗だ! だが、まだだ! まだ、私はできる!」


そして、やかましい。

悪いやつじゃねえってのはわかったが、うるさい。

俺はノーサンキューだな。


「フェルは若い女の子が好きだよね」


『口ではなにやら言っていますが、結局、男性というものはそういうものなのでしょう。いやらしい』


「いつも女の人の胸やお尻ばっかり見てるよねえ。どうしてそんなのかな?」


『動物から進化が止まっているのでしょう。男ではなくて雄なのです。人間になれていないのですよ』


……イーナとジリが話している。

それって俺が聞こえていねえところでやってくれねえかな。

俺の精神がガリガリ削られるんだが。



「正直なところ、やり続けて、体にそのタイミングを染み込ませるしかねえと思っている」


休憩中だ。

水分を補給しながら、ちょっとだけフルーツを食べている。

バナナとブドウでリフレッシュだな。


「あれだねー、フェルみたいに長い間の経験が必要かもね」


イーナはブドウを一粒口に放り込む。

この品種は皮ごと食べられて、種もねえんだ。

ちなみにどうやってブドウの木を増やすかっていうと、接ぎ木で増やすんだ。

種のあるブドウの木をバッサリとやって、種なしブドウの枝を差し込むんだ。

それで種なしブドウができるって寸法だ。

すげえもんだな。


「だが、イーナ。スズハにはそんな時間がねえんだよな」


「うーん、旅をしながら訓練するとか?」


「そうだなあ、だが、きっかけくらいは掴んでいねえとなあ」


バナナを頬張る。

やっぱり運動つったらバナナだろうが。

ねっとりとした甘さが口に広がる。

爽やかさがねえのが、ちょっとだがな。


「私は勇者だ。大丈夫、何とかなる!」


「いや、スズハ。そりゃあ根拠のねえ自信じゃねえか」


「私は強くなる。必ずだ!」


まあ、強くなるだろうよ。

勇者だからな。

だが、一人の女性。

それに背負わせる重みってのも、可哀想に思う。


「ああ、そうだな。スズハは強くなる。俺よりもな」


「そうだ、次やったらフェルドに勝つ! そしてイーナをもらう!」


「イーナはやらん!」


「私は物じゃない! そう言ったよね、スズハ」


「あ、イーナ、止めて。うごぁ!」


イーナの拳がスズハの顔面にのめり込んだ。

なんだかなあ、この勇者。

少しだけ不安だよ。



その日、スキルの連続発動は成功することはなかった。

だが、スズハは諦めず、練習を続けている。

晴れの日も雨の日も……

雨の日くれえ休んでくれねえかなあ。

付き合っている俺たちが大変じゃねえか。

いや、スズハが頑張っているんだから、文句も言えないがなあ。



そして、数日後。

毎日使っているギルドの裏庭、地面はスズハの訓練で荒れている。

後で土魔法使いに直してもらわねえといけねえだろう。


スズハは静かに剣を引き、構える。

スキル《疾風突き》を発動する。


スズハ、そのタイミングだぞ!


スキルの終わり、一瞬のタイミング、《横一閃》へと繋げる。

そのまま左に駆け抜ける。

そしてスキル硬直。

一瞬の間。

スズハの真剣な表情が崩れる。


「やったあー! 繋がった、繋がった! できたんだー!」


スズハが両手を上げて喜ぶ。


「やりましたね、スズハ」


「スズハちゃん、よく頑張ったね!」


メイジーとアガサがスズハを祝福する。

二人は自分のことのように喜んでいる。

ずっと訓練の間、ずっと一緒にいたもんな。

こいつらは本当にスズハが好きなんだな。

感心するぜ。


「やるじゃん、スズハ」


見学のイーナも満足そうにしている。

ちなみにイーナはすでにこれができるんだよな。

俺のをずっと見て育ってきたからか?

まあ、剣士の腕だけでもAランク冒険者だ。


しかし、スズハが本当にできるとはな……

正直、この短い期間で成功するとは思っていなかった。

さすが勇者、天才ってところかな。

一年かからねえで、俺よりも強くなるだろうよ。

まあ、悔しくねえと言えば嘘になるよ。

だが、俺が最強でなくちゃいけねえってこともない。

最低限、俺の周りの人たちを守れる強さがあればいいだけだ。

勇者が敵ならまた話は別だがな。


「実際、頑張ったと思うぜ、スズハはよ」


俺の指導なんて要領を得ねえだろうが、しっかりと付いてきてくれた。

逃げ出さずに、しっかりと向き合ってくれた。

そういうところが勇者なんだろうな。


「フェルもスズハを褒めてあげてよ」


「イーナが褒めたほうが喜ぶんじゃねえのか?」


「弟子でしょ、彼女」


弟子かあ?

んなもんじゃねえと思うが、しかし……



スズハへと歩く。

何を言やあいいんだよ、まったく。

口下手だぞ、俺は。


「よお、スズハ。できたじゃねえか。よくやった」


ま、これでいいじゃねえかな。


「あ、フェルド」


俺を見るその目には涙が浮かんでいた。

そうか、泣くほど嬉しいか。

そりゃあ、いい経験をしたんじゃねっか。

と、俺のことを棚上げして思った。


「ま、お前はすげえ頑張ったよ。正直、この街にいる間に成功するたあ思っていなかった。さすがは勇者……いや、スズハだな。スズハ・クサカが凄えんだ、そう俺は心底思うよ」


「フェルド。私をフルネームで呼ぶな」


一瞬睨まれるが、すぐに笑顔。


「だけど、ありがとう。本当にありがとう。私、できたよ。ちょっとだけ強くなれたかな?」


「そうだな。ちょっとだ、ちょっと。まだ完全に習得したわけじゃねえ。システムさんがスキルに登録するくれえ繰り返せ」


「システムさん……? 何よ、スキル登録って」


スズハが首を傾げる。

そういや、スキルって、システムさんが俺に作ってくれたんだっけか?


「ああ、『無型の流派』ってパッシブ・スキルだよ」


「『無型の流派』……? 何よ、それ。自分の流派を創設しているじゃないの。フェルド、もう剣聖じゃない!」


違えよ。

勝手にスキルをくっ付けられただけだ。

だが、これが付いたら、スキルを繋げるのが楽になるんだ。

確実に強くなる。

ちなみに変な体勢からもスキルが発動できるようになるんで、だいぶ戦いが楽になる。

勇者に必要なスキルだと思うがな。


「なんだ、フェルドも、チートじゃん。私が負けるのもしょうがなかったんじゃない」


そう言って、笑ったんだ。

すごく爽やかに。


「チートじゃねえよ、ただの田舎の冒険者だ」


「ただのか、どうかはフェルドが決めることじゃないと思うけどね」


「放っとけよ」


んだよ。

素直なら可愛いんだよな、コイツ……


「痛っ!」


イーナに尻をつねられた。

んで、睨まれる。


「フェルド、お尻硬い」


つねって、文句言うなよ。


「ねえ、スズハ、フェルを好きになっちゃダメだからね!」


「誰がおっさんなんて。私は可愛い女の子が好きだ! だから、イーナ、結婚しよう!」


「……ねえ、スズハ。私、あなたのこと嫌いになりたくないんだけど。ねえ、それでもいい?」


イーナが優しくスズハに微笑む。

迫力があるなあ。


「あ、あ……ちょっと、待って、ね。私、冗談を言っただけだからね、ね」


スズハは狼狽える。

どうもイーナの方が一枚上手みてえだな。


「んー、本当に冗談でいいんだよね。今後そんな冗談は言わないよね」


だから、圧が強いんだよ……


「ご、ごめんなさい。ちょっと、調子に乗っちゃっただけだから。これからはしないから!」


素直に負けを認める。

負けを認める余裕が出てきたのか?

ちょっとだけ大人になったのかな。

いや、イーナの迫力に負けただけだよなあ。


『大人になったのだとしたら、フェルドがしたんでしょう。おっと、そうですね、この言葉はちょっと誤解されそうですね』


だったら言うなよ、ジリ!

誤解を招くだろうが、主にイーナに!


「えっと、フェル、隠れてスズハに何かした?」


「してません! 女神様に誓って、してません!」


何故か俺まで謝る羽目になったじゃねえか。

アホジリめ。


『信頼があればこんなことにはならないのでは? 日頃の行いを思い返してはいかがでしょうか』


うっせえ、ジリ。

何もねえからな、イーナ!


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