表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/96

第76話 餃子も美味い、揚げ出し豆腐なんて絶品だぜ

あれだ。

落ち込んでいてもしょうがねえ。

気分が沈むことはあるが、とりあえず体を動かしゃ、なんとなく元気っぽくなる。

しかし、別れってのは結構堪えるもんだね。

これまでいくつも別れを経験してきたが、しかし、慣れるってもんでもねえらしい。


朝の鍛錬をした。


「フェルドさん、何かありました?」


「グレーテ、気にしすぎだよ。違いなんてないわ!」


「うーん、やっぱり魔法使いの僕には剣の鍛錬は必要ないと思う」


グレーテに心配されちまった。

クリスタは訓練量を増やそうな。

ディーターは冒険者における体力の必要性をじっくりと語ってやらなきゃならねえ。


で、プリシラとロレッタは起きてきやしねえ。

エトムントへの報告が増えちまったなあ。



ちょっと今日は魔物狩りを休んで、宿でだらけている。

休みってのは必要だ。

疲れたら休みゃいいんだよ。

一日休んだくれえで、仕事は変わらねえって。



昼、エルマさんの宿の一階。


「えーと、フェルの好きなのって、餃子とか?」


イーナとエルマさんが昼飯を作ってくれるということ。

イーナはエルマさんの料理を手伝っていたから、結構、料理上手になっていたりする。

俺のために娘が手料理を作ってくれるとはなあ。

お父さん、泣いちまうよ。


「あとは鶏の唐揚げとかかしら?」


エルマさんのエプロン姿もいいねえ。

いつも見ているが、それでも改めて認識する。


「焼き鳥とか、ソーセージを焼いたのとか、お刺身、揚げ出し豆腐、たこわさ、枝豆とか」


「うーん、なんか居酒屋のメニューっぽいわね」


「フェルはお酒飲むからねえ」


「それって栄養、大丈夫なのかしら。ちゃんとしたご飯を食べてほしいわね」


エルマさんに少しだけ怒られる。

だが、俺なんてそれほど飲んじゃいねえって。


「だってよお。俺の酒量なんて大したことないんだよ。テオとルッツなんか……」


「他の人は他の人ですよ。比べちゃいけません。フェルドさんにはいつまでも元気でいてほしいんですからね」


エルマさんにそう言われるとなあ。


「あー、エルマさん、ずるい。私もそんな可愛い怒り方を覚えたい!」


「いやあ、イーナ。怒っているから可愛いってことじゃねえんだよ」


エルマさん、本当に怒ったらかなり怖いんだからな。


「でも、フェル。可愛いって思ったでしょ?」


「そ、それを言うか?」


それは答えられねえ質問じゃねえか。

可愛いとも言いづらい。

しかし、おっかないと答えりゃあ、角が立つだろうが。


「ふふふ。本当に仲良しですよね」


ほら、エルマさんに笑われたじゃねえか。



まあ、そんな感じで料理は進んでいく。


メニューは結局居酒屋になった。

唐揚げ、焼き鳥、餃子、揚げ出し豆腐、焼きおにぎりだ。


エルマさんとイーナが楽しそうに餃子を包んでいる。


「なんか、親子みたいだよね、母さんとイーナちゃん」


「なんだよ、ティム。お姉ちゃんが欲しかったのかよ」


「うん、最初は妹だったのに、すっかりお姉ちゃんになっちゃったよね。なんか、最近、母さんのライバルかなと思っていたけれど、仲がよくてよかったよ」


なんのライバルだよ。

エルマさんとイーナは何も競争してねえだろうが。


「でも、こうやってさあ、ゆっくりできる今がいいよ」


ティムもなんとなく魔王の足音を感じているのかな。


「ああ、そうだな。俺は怠け者だからなあ。こんなのんびりした日が好きだぜ」


「僕もだよ」


「冒険者になりたいんじゃなかったっけか」


「そうだよ。だけどさ、フェルドさんとかテオさんみたいな冒険者になりたいと思うんだ。サボっているようで、だけどちゃんと仕事をしている、そんな冒険者がいいな」


いや、俺はサボっちゃいねえよ。

テオは知らんがな。


「俺みたいにはなるなよ。お前の父ちゃんは俺よりずっとすごい冒険者だったんだからな。目指すならハーラルトにしろよ」


「うん、父ちゃんはすごいと思っているよ。だけどね、フェルドさんも父ちゃんだと思っているよ」


なんだよ、ティムめ。

俺を泣かそうとしているのかよ。


「ありがとよ。俺も息子のように思っているぜ」


「えーっとね、フェルドさん、そうじゃなくてね、僕と母さんとフェルドさんで……」


「ちょっとティム! 何してるのかな? 誰の許可を得ているのかな?」


「ティム、フェルドさんに変なこと言ってないでしょうね!」


うむ。

イーナとエルマさんがかなり怖い感じの怒り方になっている。


「あーあ、見つかっちゃったか」


ティムがこそっと舌を出す。


「でも、フェルドさんのこと父さんだって思っているのは本当だからね」


ティムがこっそりと呟いた。


「ありがとよ、ティム」


照れ隠しにティムの頭を乱暴に撫でてやった。


「そういうとこだよ、フェルドさん。自分の感情は素直に表現しないとダメなんだからね!」


なんかティムに説教を食らっちまったよ。

こいつも成長してるんだよなあ。



テーブルの上には料理が並んでいる。

豪勢だが、ラインナップが誕生日とか祝いの席じゃねえなあ。

居酒屋だよ。

だが、俺の好きなもんだ。

結局こういうものが美味いと思うぜ。


「どう、フェル」


イーナが胸を張る。

ドヤ顔だがな、愛おしい。


「おう、ありがとよ。これで麦酒があればいいんだがよ」


さすがに昼間から、エルマさんの目のあるところじゃあ、無理だよな。


「ふふふ。そう言うと思ってました。はい」


エルマさんが麦酒のコップを渡してくれる。


「いいんですか?」


「でも、一杯だけですよ」


「そりゃ殺生な」


一杯飲めば、勢いがついて、次が欲しくなるんだよ。


「じゃあ、いらないですか?」


「それはもっと殺生ですよ。ありがたくいただきます!」


受け取って、《コールド》の魔法でキンキンに冷やす。


「フェルって、その魔法、お酒飲むために習得したよね」


いや、違えぞ。

ちゃんと冒険者としてだな。


『戦闘で使っていることを見たことはないですね。主にお酒を飲むときだけに使っていますよね』


うっせえ、ジリ。

魔法っつーのは生活を便利にするのが、重要だと思うんだ。

戦うだけじゃねえと思う。


『生活に応用するのも重要です。しかし、嗜好品だけに使っているように見えますよね、フェルド』


うっせえよ。

使えるんだから、いいんだよ。


「ふふ。ジリちゃんとお話ししていないで、いただきましょう。せっかくイーナちゃんが作ってくれたんですから、温かいうちに食べましょう」


「エルマさんだって作ってくれたじゃないですか」


「今日はイーナちゃんが主催ですよ。フェルドさんはイーナちゃんに感謝してくださいね」


「感謝はしてるって、何度も言うよ。ありがとう、イーナ」


「うん。召し上がれ、フェル」


なんかこそばゆいね。


みんなが見つめる中、俺は唐揚げを一つつまむ。

衣は薄く、カリッと、中は柔らかくジューシー。

この鶏肉、いい肉を使ってねえか?

いつものやつよりも味が濃い。

俺のために……


「美味いなあ、美味いよ、イーナ」


そのちょっとした優しさが沁みてくる。

歳を取ると、ちょっとしたことで、泣けてくるんだ。

だが、俺は泣かねえよ。


「すごいでしょ、フェル。私、料理、結構上手になったんだからね!」


「ああ、すげえや。餃子も美味い、揚げ出し豆腐なんて絶品だぜ」


「ほんと言うとね、練習したんだ。フェルの好物だからね」


「そうか、そうか。そりゃすげえや。ありがとうな」


「ふへへ。じゃあ、私も食べる。はふふ、唐揚げ熱いね。よくフェルは食べられたね」


バカ言え、唐揚げはアツアツが美味いんだぜ。

ちと火傷をするかもしれねえが、冒険者ってのは回復魔法も持っていたりするんだ。

有効利用しないとな。


エルマさんとティムも料理を食べる。

美味しい、美味しいと言っている。

みなが笑顔だ。

そう、温かい笑顔がある……


なんだろうなあ……

なんかさ、今も、凄いことだと思うんだ。

こんな小さな日常がとても凄えことだと思う。


そして、俺はきっとこれでよかったんだと思うんだ。

今まで足掻いてきたことがな、どこかへたどり着いたとは思っていねえんだ。

だけど、それほど悪くもねえと思ったんだ。

動けなくなって、立ち止まって、だけど周りを見渡せば誰かがいて、そして微笑んでくれる。

一緒に少しだけ休んで、また、歩き出す。

そんな感じでいいじゃねえか。

一直線で、最短距離じゃねえさ。

振り返れば、歩いてきた足跡はぐにゃぐにゃしてる。

だが、最初の地点はもうずっと向こうだ。

ちゃんと進んでいたんだ。


きっと俺はそんな感じで歩いていくんだろうな。

ふらふらと迷いながら、でも一歩ずつゆっくりだよ。

まあ、それでいいさ。

しょせん俺はそんなもんだよ。

それでさ、幸せならいいさ。

十分だぜ。



そういや、プリシラとロレッタはどうしたよ。

たぶん自分の部屋にいるはずじゃねえか。

下でこんなに美味しい匂いをさせていたら、下りてくるはずだがなあ。


「エトムント様ですよ!」


「はい、帰ってきます!」


プリシラとロレッタの二人が階段をドタドタと慌てて下りてくる。

少し考えたくれえで、本人が登場するたあ、どんなタイミングだよ。


「エトムントがどうしたよ?」


「手紙が届いていました」


「そうです、エトムント様からの手紙です」


プリシラの手には手紙が握られていた。

力いっぱい握ったんでぐちゃぐちゃになっている。


届いていましたってことは、どこかに放っておいて、開け忘れていたな。

読んでなかったんだろう。


「明日ですよ、到着予定は明日」


「勇者を連れて、明日到着する予定です!」


ついに、か。

ついに勇者の登場か。


イーナとの別れ。

それが近づいている。


イーナの顔に影がよぎる。

そりゃあ不安だろう。

俺は、イーナに何をしてやれるだろう……


「あ、美味しそうな唐揚げ」


「一ついただきますね」


食うんじゃねえよ。

締まらねえなあ。


俺のシリアスな感情を返せよ。

んで、その唐揚げは俺のだからな!

プリシラが伸ばした手をブロックしてやった。

その俺の手の下へとロレッタが手を伸ばす。

だが、甘えよ。


俺の手は二本あるんだ。

ロレッタの手を防御する。


「くそ。意地汚い」


「余裕がない男性はモテませんよ」


「どっちが意地汚ねえんだよ。欲しいなら自分で作ればいいじゃねえか」


「私たちが料理をすると思っているんですか?」


「認識が甘いですよね」


「唐揚げくらい、作れろよ」


俺だって、これほど美味くはないが、作れるからな!

一人暮らしが長えんで、一通りはできるんだ。

おうよ、エトムントへの報告が一つ増えたからな。

覚悟しておけよ。


勇者、勇者ね。

お前らのせいで、なんかどうでもいいかって思っちまったじゃねえか。

なるようになるか。

まあ、そんな感じで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ