第70話 若き日の残光:だけど俺はレナーテの手をしっかりと握りしめていた
「ウチも魔法使いが必要だと思うんだ」
エトムントが小柄で人の好さそうな男性を連れてきた。
「トム・ベイリーと言います。Dランク冒険者です。土属性です」
レナーテと顔を合わせる。
レナーテはちょっと眉間に皺を寄せている。
「ねえ、エトムント、どういうこと? 私たちは三人で大丈夫だと思うけど」
「レナーテ。わかっているだろう? 俺たちはこのままじゃいけない。魔法使いが必要だと思うんだ」
再度、レナーテと顔を合わせる。
俺は首を振る。
「だが、エトムントよお。大丈夫なのか、その……」
トムという男は信用できるのか。
そして、その実力は確かなのか?
「試験期間ってことでどうかな? つまり数日ともに依頼をこなしてから、それからパーティに入るか決めようじゃないか」
レナーテが首を振る。
しょうがねえなあ。
試してみるか。
確かに俺たちには魔法使いが必要かもしれねえ。
何事もやってみなきゃ、わからねえからな。
つーわけで、遺跡に来ている。
「ストーンバレット!」
対しているのはグレイウルフという魔物。
そいつに土の塊が飛ぶ。
キャイン!
ウルフの体に命中する。
魔法に連携して、エトムントが斬り込む。
スキル《袈裟懸け》。
ウルフを真っ二つだ。
「どうだ!?」
エトムントがドヤ顔だ。
お前の腕は知っているよ。
「すごいと思わねえか。魔法って便利だよな!」
目を輝かせて、少年かよ。
「知っているって。まあ、戦いが楽にはなるよな」
確かに遠距離攻撃はいい。
相手に先制攻撃ができるのは利点だ。
そして、レベルが上がって、高位の魔法が使えるようになりゃあ、さらに戦略の幅は広がる。
「いいんですよ。すぐに信頼なんて生まれません。一つずつの積み重ねなんです。なので、僕はただしっかりと僕の仕事をするだけです」
トムが微笑む。
いい人だよ、実際。
が、いい人だからって、ウチのパーティに合うかどうかはわからねえんだ。
それは相性ってのがある。
相性が悪けりゃあ、双方にとって不幸になる。
見極めは慎重にだよ。
トムには悪いがな。
「そういや、トムはどうしてウチのパーティに? Dランクってことは別のパーティにいたんだろう?」
「ああ、そうですよね。それは気になりますよね」
トムは視線を下に落とす。
パーティを抜けたんだ、何かしら悲しいことがあったのだろう。
「おい、フェルド! 失礼だろうが」
「いいえ、いいんです、エトムントさん。フェルドさん、単純な話ですよ。僕が生き残っただけです。僕だけが……」
トムの前パーティはこの廃墟の弱い魔物のエリアで狩りをしていた。
しかし、はぐれと呼ばれる、ときに迷い込む強い魔物に襲われて壊滅したらしい。
前衛の二人が魔物を食い止めている間にトムが脱出。
彼だけ助かったとのこと。
「彼らのためにも、僕は一人前の冒険者にならないといけないと思うんですよ」
なるほどねえ……
仲間がやられても、彼は冒険者として戦おうとしているのか。
見た目よりも心が強いのかもしれねえな。
「なるほどねえ……そういうことか。トムも大変だったんだねえ」
「ふーん、そうなんだ……」
レナーテはまだちょっと苦手そうだな。
そんなに人見知りだったっけか?
幼馴染でパーティを組んでいつもいると、そうなっちまうのかな。
「あ、こっちに行くと、売値の高い魔物がいたりするんですよ」
トムが細い通路を指さす。
「おい、それって俺達でも倒せるやつかい?」
「ええ、フェルド。意外に知られていないDランクの魔物なんですよ。レアなので素材が高かったりします。いないときもあるんですけどね」
「んー、私はいつもの稼ぎでいいかな。無茶する必要はないんじゃない?」
レナーテは反対、俺は保留だ。
Dランクなら倒せそうだが、初めての魔物は気をつけるべきだ。
「エトムントどうするよ?」
エトムントがリーダーだからな、一応。
「そうだな。行ってみようか。Dランクなら大丈夫だろう。俺たちももうすぐCランクなんだぜ。どうにかなる。が、気を付けろよ。問題があればすぐに撤退だ」
「じゃあ、決まりだな。行こうか」
「しょうがないわね。男の子は無茶をしがちなんだから」
細い通路へ入っていく。
二十メートルくらい行くと開けた場所に出る。
が、そこには魔物がいない。
そして。
「よお、久しぶり」
男性冒険者が三人。
一人は、前日、料理屋で見たいけ好かねえ先輩冒険者だ。
他の二人も、装備から判断するに俺たちより上。
Cランク冒険者あたりだろうか。
「先輩……? すみません、取り込み中ですか。俺たちはすぐに引きます」
エトムントがお辞儀をして引き返そうとする。
「まあ、そう急ぐなよ。なあ、ダン、そうだろう?」
ダンとは誰だ?
「ああ、ちょっとエトムントたちに用があるらしいんだ。僕は退出するよ」
トムが答える。
「おう、ご苦労様。助かったよ。報酬はまたあとでな」
「ありがとう、毎度あり。じゃあね、エトムント、フェルド、レナーテ」
トムが手を振り、そして魔法を発動する。
「ストーンウォール!」
土の壁を発動。
細い通路をふさぐ。
どういうことだ?
「んー、わからねえかなあ。頭が悪いんじゃねえか、お前ら。トムは偽名だよ。あれはダン・ピークマンって冒険者だ。よく手伝ってもらってんだぜ。若い冒険者をここへ連れてきてもらってんだ。つーことで、お前らはまんまと罠にはまったってことだよ。楽しいなあ、おい!」
先輩冒険者たちは声を上げて笑う。
ああ、そうか。
最近、若い冒険者の死者が増えているらしい。
その傷は剣のようなもので切られた傷らしいぜ。
冒険者にやられた可能性もあるとか、な。
なるほど、こいつらか。
「よお、知っているか? 冒険者を殺すとなあ、レベルアップしやすいんだぜ。効率よくレベルアップできるんだ。すげえだろう? コスパ最高!」
経験値のためか、ゲスが。
「そんなことして冒険者ギルドにバレたら、どうなると思っているの?」
レナーテが先輩たちを睨みつける。
「ま、バレたときはバレたときさ。この街を出て、他に行くよ。レベルも上がってりゃあどうにかなるだろうよ。強い冒険者ってのはどこだってほしいだろうさ」
先輩たちは笑っている。
冒険者ギルドをあまり舐めない方がいいと思うぜ。
あれは世界レベルの組織だ。
ネットワークを張り巡らせて、きっと捕まえるよ。
冒険者殺しってのが一番嫌われるんだからな。
「お嬢ちゃんはなかなかかわいいな。俺たちにサービスしてくれりゃあ、命だけは助けてやるよ。どうだい?」
下卑た笑い。
ああ、やだね。
男の嫌な部分を集めたような奴だ。
「誰がお前のような不細工と!」
レナーテは歯をむき出して、拒否する。
それをしたって、恐らく殺される。
冒険者殺しを知られちまってるんだ。
生かしておけば危険だ。
そうか、ダンってあの魔法使いも、いつか殺されるんだろうな。
秘密を知っている人数は少ないほうがいい。
さて、どうするよ。
俺たちが生き残るには……先輩たちを倒すしかねえか。
この場所は袋小路。
先輩たちの向こうは壁だ。
じゃあ、後ろの壁は壊せねえのか?
剣じゃ時間がかかりすぎる。
せめて俺の武器がハンマーか、メイスだったらな。
先輩たちの実力はどうだよ?
後輩狩りをしてレベルアップをしてきたんだ、レベルは高いだろう。
技術は?
簡単にレベルアップしてるんなら、鍛錬が足りない可能性もあるか。
どちらにしろ、やるしかねえ。
エトムントを見る。
目が合う。
ヤツもやる気だ。
レナーテとザカリーが話している隙。
横の二人の冒険者はニヤニヤと笑っている。
余裕そうだな。
なら、今なら!
エトムントの動く気配がする。
それとタイミングを合わせる。
ザカリーの右の冒険者へ走る。
ヤツは俺を見る。
驚いた表情。
行けるか?
突きをやつの胸へと。
ヤツはたどたどしい動きでそれを躱す。
チッ!
だが、まだだ!
足を踏ん張り、そこから横斬りにつなげる。
「うお?」
ヤツはびっくりしながらも剣で受ける。
ダメか?
「うぜえんだよ! 雑魚があ!」
ヤツが力任せに剣を振る。
俺は弾き飛ばされる。
やはりステータスはヤツが上。
筋力が違いすぎる。
「フェル、エトムント!」
レナーテが叫ぶ。
おう、エトムントも失敗したみてえだな。
が、技量は俺たちのほうが上みたいだ。
勝ちの可能性はある。
意外にいけるんじゃねえか?
エトムントも口の端を持ち上げて、厭味ったらしく笑っている。
勝ちの可能性があるなら、足掻こうや!
無くても足掻くがな!
「ああーん。抵抗するってのかよ?」
「当たり前でしょ、バカ! バカなの、バカ。襲われれば抵抗するのは当たり前でしょう。そんなこともわからないのバカ!」
「バカじゃあねえよ! 実力差がわからねえのはそっちだろうがよお! 女よお。手足を斬り落としてやるよ! ポーションで回復させてやるから死ねねえよ。で、犯してやるよ、仲間の死体の前で、壊れるまで犯してやる!!」
はん!
最悪な奴だな。
顔も悪くて、性格も最悪なら、救いようがねえや。
こっちも罪悪感なく殺せるってもんだぜ!
さて、今度はレナーテも参戦かな……
ん、上。
気配がある。
ブーンと低い音がする。
ザカリーはまだわめいている。
気付いていない。
しかし、視線を上に動かすこともできねえ。
冒険者たちから視線を外すのも危ねえ。
上から下へ、気配が下りる。
ドスン。
ザカリーたちの後ろにそれは降りた。
「あん、なんだよ?」
ザカリーがやっと気付き、そして振り向く。
ズブリ……
「ああん……? 何、しやがる……」
ザカリーの腹を、そいつの鎌が貫く。
「カマキリ……?」
カマキリは鎌を振り、ザカリーの腹を切り裂く。
ザカリーの体は上下に分かれて、上半身が地面に落ちた。
巨大なカマキリだ。
灰色の体に、体長が三メートルくらいか。
カマキリはザカリーを切り裂いた鎌を舐める。
ザカリーの血を。
……もう片方の鎌も血の色。
既に誰かが殺されている。
いや、別の魔物かもしれねえが。
「ひいぃぃぃ! ジャイアントグレイマンティスだあ!」
ジャイアントグレイマンティス?
ああ、たしかBランクの魔物だったか。
冒険者二人が慌てて、逃げようとする。
が、マンティスは二人を獲物と決めたらしい。
大きな鎌を振り下ろし、彼らの首を刈った。
首から大量の血が噴水のように吹き出す。
「なあ、フェルド。静かにしてれば見逃してくれねえかなあ?」
「おう、エトムントよお。そんな未来だったら俺も嬉しいんだがな」
「何言っているの、二人とも! やるしかないじゃない! 生き残るためには戦うのよ!」
だよなあ、レナーテ。
気は乗らないが、気合を入れて戦うしかねえか。
生き残るためだ。
「しょうがねえ、死なねえぞ、俺は!」
「当たり前じゃないの! 私たちは生き残る! それだけを考えるの!」
「はは……元気だな、お前ら。付き合う俺の身にもなってよ」
そういうエトムントも武器を構えてるじゃねえか。
よし、じゃあ、いこうや。
俺たちは人間様だぜ。
カマキリなんて昆虫に殺されちゃあ、やらねえぞ!
一番速いレナーテが先鋒をとる。
鋭い突き。
カマキリはそれを鎌で受ける。
「クッ、硬い!」
カマキリは反対の鎌で、レナーテを襲う。
レナーテは地面に転がって避ける。
「こんにゃろ!」
エトムントが中脚に剣を叩きつけるが、剣が弾かれる。
「おい、エトムント。関節を狙えよ!」
「動いている相手に難しいことを!」
カマキリがエトムントを鎌で攻撃する。
それを俺が盾で受ける。
「重!」
盾が弾かれる。
ぎりぎり攻撃は逸れた。
「腕が持っていかれそうだぜ!」
「盾持ちはフェルドしかいねえんだから、しっかりしてくれよ!」
お前も盾を持ちゃあよかったんだ。
盾も大変なんだぜ。
「お腹はギリ斬れる!」
レナーテがカマキリの腹に攻撃している。
「俺たちが正面を引き付けるから、レナーテは後方から攻撃をしてくれ!」
「おい、フェルド。俺も正面かよ!」
「あたりめえだろうが。俺一人で抑えきれるわけねえだろうが!」
俺たちがカマキリの前でウロチョロして注意を引きつける。
が、レナーテが後ろで腹を斬り付けるんで、痛いんだろう、そっちへ向こうとする。
「こっちを無視していいのかよ!」
「俺たちだって攻撃できるんだぜ!」
俺とエトムントが後ろ脚の関節に斬り付ける。
くそっ硬てえじゃねえか!
が、筋力は俺たちのほうがレナーテより強いんだ。
「もういっちょお!」
「斬れろやあ!!」
カマキリの後ろ脚の先の方、一関節を斬り落とすことに成功する。
「よっしゃあ、次だ!」
「足一本じゃ、バランスは変わらねえか!」
ぐるりと、カマキリがこちらを睨む。
複眼ってんだっけか?
気持ち悪いじゃねえか。
ギチギチギチ!
苛立たしげに口を鳴らす。
「怒りやがったな、この虫公が!」
「フェル、怒らせすぎ!」
「怒ってたほうが戦いやすいだろうが!」
カマキリは鎌を振り上げ、力任せにぶん回した。
回転蹴りみたいな感じだ。
「ぐわあ!」
「くそお!」
「きゃあ!」
俺は盾で防ぐが、弾き飛ばされた。
左手は……折れた、か?
エトムントは剣で防いだようだが、剣が折れている。
足を斬られたようだな。
動けねえみたいだ。
レナーテは……
壁に叩きつけられて、ぐったりしてる。
カマキリ野郎がレナーテを目標にする。
「くそがあ!」
カマキリへ走る。
スキル《疾風突き》だ。
今、俺の最高の攻撃。
腹へと突き刺す。
意外に剣の柄まで、ずぶりと突き刺さった。
「どうだ、カマキリ野郎!」
カマキリ野郎が俺を睨み、鎌を振りかざす。
左手の盾で……
ああ、骨が折れていたっけか。
「がああぁぁ!」
左腕、二の腕の上の方から斬り落とされた。
痛みが脳に突き刺さる。
「フェルドおぉぉ!」
エトムントが叫ぶ。
目の前にはカマキリ野郎。
鎌を振り上げて、振り下ろす。
くそっ!
ここまでかよ。
こんなところで!!
ドン!
レナーテが手を伸ばし、俺を突き飛ばす。
ブシュッ!
レナーテの腹にカマキリの鎌が突き刺さる。
なんで……
「レナーテェェェ!!」
エトムントの叫びを、停止した頭で聞く。
カマキリは前脚を持ち上げて、首を傾げ、獲物を確認する。
俺じゃなかったのが不思議なのだろうか。
「こ、昆虫の目って……硬かったっけ……? 確かめさせてね!」
レナーテがカマキリの目に剣を突き入れる。
ギギギギ!
カマキリが鳴く。
「ははは! ……意外に柔らかかったね」
レナーテの手から剣が落ちる。
最後の力だったか。
カマキリが前脚を振る。
レナーテの体は鎌から外れ、壁に衝突した。
レナーテが……
くそぉ!
動け、動け、動けぇ!
ここで、俺が行かなきゃ、レナーテが死んじまうだろうが!
左腕を失って、バランスがとれねえ。
倒れ込むように、カマキリの腹へと飛び込んだ。
腹に刺さっている剣の柄を握る。
「これでどうだ、カマキリ野郎が!」
渾身の力で、剣をひねる。
そしてスキル《横一閃》を発動。
腹を切り裂く。
ギャギャギャ!
カマキリが叫ぶ。
うるせえよ。
近くででけえ声を出すんじゃねえ。
バサリと翅を広げた。
で、それを羽ばたかせる。
ブーンと低い音がして、カマキリの体がゆっくりと宙に上がる。
逃げていく。
ああ、逃げて行った。
そうか、生き残ったか……?
いや、出血多量で死ぬか。
それはいいや。
レナーテだよ。
アイツは死んじゃ駄目な奴だ。
俺なんてどうでもいい。
アイツはいなきゃいけない奴なんだ。
「フェルド!」
バシャリとエトムントが液体を俺の左腕にかける。
「あのザカリーたちだよ。ポーションを持っているって言っていたからな」
バシャリとポーションをかける。
「どうだ! 死ぬんじゃねえぞ、フェルド!」
「うっせえよ。俺じゃねえよ、レナーテだよ」
「わかっている! 行くぞ、フェルド!」
レナーテは――地面に横たわっている。
まるで血の海に浮かんでいるようだ。
「エトムント、ポーションを!」
「ああ! レナーテ、死ぬんじゃねえぞ! ポーションがあるんだ。使いたい放題だ! だから大丈夫だ!」
両手のポーションをバシャ、バシャとレナーテにぶっかける。
だが……血が止まらねえ。
「もっとだ、エトムント!」
「わかってる!」
もう一本、もう一本。
ポーションをかける。
だが……血が止まらねえ。
「……いいよ、もういいよ……ポーションは……死ぬような傷は……治せないよ……」
「バカレナーテ、諦めんじゃねえ! お前が、お前がこのパーティを立ち上げたんだろうが、冒険者に一番なりたかったのはお前だろうが! ここで諦めるのかよ! 違うだろうが、まだ、まだだろうが!」
「ごめんね……フェル……私に付き合わせちゃって……でも、楽しかった……フェルと……エトムントと……だから、いいんだ……」
「アホレナーテ。俺は許さねえぞ。死ぬなんて許さねえ!」
「エトムント……私……二人が生き残った……それだけで……満足……ごふっ」
レナーテが血を吐く。
「レナーテ!」
「……あ、フェル……手を……」
レナーテが手を上げる。
その手を握りしめる。
「死ぬんじゃねえよ。ダメだよ。俺を置いていかないでくれよお」
「……バカフェル……生きて……生きてね……」
「おりゃあ、生きてるよ! 全然生きてるよお!」
「……フェル……泣かないで……お願い……笑って」
笑えねえよ。
どうして笑えるってんだよ。
頬を上げて、口の端を上げてみる。
「……ぶさいく……だけど……ありが……と……」
レナーテが笑う。
少女のように。
「ねえ、フェル。一緒に冒険者にならない? きっと楽しいよ! 色々なところを冒険しようよ! エトムントと三人で」
そう言って笑ったあの頃の笑顔で。
手が……
レナーテの手から力が抜けて。
だけど俺はレナーテの手をしっかりと握りしめていた。
「レナーテェェェェェ!」
エトムントの叫びが遠く聞こえる。
俺はレナーテの血の海に跪いて、彼女の胸に頭を付けて、泣いていた。
そして俺たちは二人だけになっちまった。




