第69話 若き日の残光:俺はこのパーティの空気が好きだ
――フェルド十八歳。
王都アーベランロードから歩きで二日ほどのところに廃墟がある。
アーベランロード王国よりもだいぶ前の王国の王都だった場所だということだ。
んで、ここは魔物が多く発生する。
つまりは冒険者にとっての狩場ってことだ。
王都から距離が少しだけあるんで、廃墟の周りには冒険者相手の商人が集まり、小さな集落のようになっているんだ。
一応、冒険者ギルドの出張所もある。
冒険者から魔物の素材を買いそびれたら、冒険者ギルドの報酬が減るからな。
まあ、金のためなんだろうな。
ご苦労なこった。
で、俺たち『蒼穹を支える白銀の塔』はここで狩りをして、糧を得ながら、実力をつけている。
俺たちはまだDランク冒険者だ。
Eランクからレベルが上がって、今の俺のレベルは十八。
もう少しでCランク。
Cランクまでいけば、冒険者として一応の合格ラインだ。
生活も安定してきて、余裕もできてくる。
もう少しで俺たちもそこまで行けるってことだ。
「フェルド! スケルトン、右手からだ!」
エトムントが叫ぶ。
朽ちた屋敷の外壁、その陰からスケルトンが骨をカチャカチャ鳴らしながら現れる。
その数は三。
装備は兜、剣、盾。
オーソドックスな兵士装備。
全て錆びているけどな。
「一人一体ずつね。楽勝!」
レナーテがスケルトンの一体に攻撃を仕掛ける。
「おい、レナーテ、息を合わせろよ! 隊列を考えろ。囲まれるだろうが!」
俺が注意したって聞かねえんだけどなあ。
しょうがねえよ。
俺とエトムントがそれぞれのスケルトンを押さえりゃあいいだけのことだ。
俺は左のスケルトンと対峙する。
左手の盾を上げて慎重にだ。
俺はレナーテやエトムントのように才能はねえ。
だから、オーソドックスにだよ。
基本に忠実に戦う。
スケルトンの剣ってのは錆びているから、切れ味は悪い。
だが、斬られた傷からの破傷風が怖い。
慎重に行かないといけない。
冒険者は体が資本だからな。
病気なんかで数週間動けないだけで、収入が大きく減っちまう。
スケルトンはカカカと顎を鳴らす。
笑っているのか?
俺を挑発している?
脳みそがねえ頭でよく考えるよなあ。
じゃあ、乗ってやろうじゃねえか。
剣を袈裟懸けに振り下ろす。
ちょっとスキルっぽくな。
ヤツがスキルだと思って、俺の硬直を狙ったら儲けもんだ。
俺の剣はスケルトンの盾で防がれる。
カカカ……
スケルトンが喜ぶ。
俺が硬直したと思って大振りだよ。
甘いんだよ。
盾で簡単に受けて、その後ろで、剣を小さく引き、小さな動きで確実にスケルトンの腹あたりの背骨を切断する。
カカカ……
まだ笑ってやがる。
上半身と下半身が切り離されたが、上半身だけで、地面に倒れたまま剣を振り回している。
一応、頭とつながっているほうが生きているってことらしいな。
冷静に腕を切り離してから、攻撃手段がなくなったスケルトンの頭を砕く。
ちと手数はかかるが、確実に仕留めた。
スケルトンの骨を砕くのならハンマーやメイス系の武器の方がいいんだがな。
いや、しかし、男は剣だろう!
つーかウチのパーティは剣士しかいねえ。
俺もレナーテもエトムントも剣がメイン武器。
パーティのバランスはどうなってんだよ?
「よっしゃあ! 勝ちだよ! エトムント、フェルもどうだ!」
「俺は楽勝だよ。フェルドが苦戦していたがな」
「いや、俺は確実に戦っただけだぜ。危なげなく勝っているだろうがよ!」
俺らはワキャワキャやりながらだ。
幼馴染パーティの気楽さだよな。
パーティのバランスが悪くても、まあいいかと思う。
変な奴を入れて、空気が悪くなるのもどうかと思う。
だが、これ以上、上に行くのなら考えなきゃいけねえんだろうな。
俺たちも仲良しごっこじゃいけなくなってきているんだろう。
だが、俺はこのパーティの空気が好きだ。
冒険者ってのは命を懸けた危ねえ仕事だけど、だが、今は楽しいんだ。
さて、スケルトンの骨ってのは売れねえんだ。
ほとんど人間の骨と同じだからな。
だが、その装備は売れるんだ。
錆びていたって鉄は鉄だ。
溶かしゃあ、鉄として再利用が可能だからな。
「あったりー♪ ここスケルトンの兜、金が使われてるよ!」
レナーテが兜を高々と持ち上げる。
スケルトンの黒ずんだ兜だ。
たしかに俺のスケルトンの兜とは違う。
飾りが多くて、ちょっと高級そうには見える。
「本当かよ、レナーテ。装飾は細けえが、ただの鉄じゃねえか?」
「ダメだなあ、フェル。見る目がないよ。それだから甲斐性なしって言われるんだよ」
今は甲斐性なしってのは関係ねえだろうが!
んで、それを言っているのはレナーテだけだぜ。
他の女性に言われたことはねえ。
つーか、まともに女性の知り合いってのもレナーテしかいねえがな。
レナーテが服の裾でゴシゴシこすると、表面が金色に光り出す。
「ほらね! 私の勝ちだ!」
レナーテのドヤ顔だよ。
その笑顔に見とれちまう。
可愛いと思っちまう自分が、我ながらバカだと思う。
「じゃあ、今日の夕食はレナーテの奢りだな」
エトムントが喜ぶレナーテの頭を叩く。
「いいわよ、奢ってやるわよ。喜びなさい、男ども! 女性に養われて、涙を流すがいい!」
レナーテが高笑いだよ。
まったくしょうがねえなあ、レナーテは。
女性らしさってのをどこに置いてきたんだか。
まあ、女性冒険者ってのはこれくれえのほうがいいだろう。
な、そう思うだろう?
廃墟横の冒険者ギルド出張所で換金をした。
やっぱり金だった。
おかげでいい感じの臨時収入になったよ。
最近は廃墟の魔物を効率的に狩れるようになってきて、収入も安定してきた。
集落に一軒しかない料理屋で、食事をする。
まあ、こんなところだから、簡単なものしかねえんだ。
奢ってもらうったって、それほど高級なヤツはねえ。
普通に干し肉とくず野菜を使ったスープと、固いパンと、少しのチーズと、ベーコン。
それに今日は贅沢に何の肉かわからねえ肉を使ったステーキが付いた。
そして、酸っぱい安物のワイン。
まあ、それだけで嬉しいもんだぜ。
「いいねえ、このチープなワインがいいじゃねえか!」
「フェル、高いワインなんて飲んだことないでしょう」
「言うな、レナーテ。気分だ、気分!」
「レナーテ、フェルド、バカ言ってないで、ステーキを食べろよ。せっかくだ、冷めて固まる前に食えよ!」
そんな感じで食事をする。
店は満席。
冒険者たちでごった返している。
酒と汗の混じった匂い。
もうそんなのも慣れちまった。
冒険者ってのはそんなもんだぜ。
「おい、レナーテ、寝ちまったじゃねえか」
エトムントがテーブルに突っ伏しているレナーテをつつく。
「うああ……あ……フェル、そっちじゃない……それはポルチーニだ、松茸じゃない……」
なんの夢を見てんだよ。
なんで俺はキノコ狩りをしてんだよ。
高級キノコを狙ってるってことは、キノコハンターにでも転職したのかよ?
そんな予定はねえよ。
んで、ポルチーニと松茸は生えているところが違うんだぜ。
「こいつな……ちゃんと面倒見てやれよ」
「んだよ、エトムント。なに言ってんだ?」
「こんな奴を頼めるのはお前くらいだからな。すっかり女冒険者になっちまって」
「んだよ。女冒険者ってのは悪くねえだろうが」
ほんと何を言ってんだ、こいつ?
「いや、お前の頭の中の一般的な常識ってやつなあ。疑った方がいいぞ。世間一般とはかけ離れている。レナーテに毒されてんだよ、すでにな」
失礼な奴だな。
「お前だって毒されてんじゃねえのかよ。レナーテが女性の基準になってんだろうが」
「んなこたねえよ、俺はよ。ちゃんと女性っての見てるんだからよ」
「おい、モテの自慢かよ」
こいつ顔がいいから、女性にモテまくるんだよなあ。
レナーテに言わせりゃ、顔だけで中身が伴ってないらしいがな。
「顔に騙されるなんて二流の女よ。エトムントも、ちゃんとした女性に捕まってくれるといいんだけど」ってな。
何の心配だよ。
「ああ、そうだよ。俺はどうにかなるからな。問題はフェルドとレナーテ、お前たちだよ。俺は心配しているんだ。素直じゃねえからな、二人とも」
「うっせえよ! で、なんで俺だけに言うんだよ」
「そりゃあ、レナーテに言ったってきかねえだろう。お前が折れるしかねえんだよ。お前が下手に出て『本気なんです、レナーテ。大好きです』って拝み倒せよ」
「アホか。話にならねえ」
なんで、俺がレナーテと……
「お前が折れない限り、平行線だと思うんだよなあ。そりゃあ、つまらねえよ」
つまる、つまらねえの話なのかよ。
「ははは、まあ、たまには親友の話を聞いておけ。損はしねえって」
「どうだか。楽しんでいるだけに聞こえるぜ」
「ははは。楽しんではいるよ。楽しませてくれよ」
まったくこいつはよお……
まあ、少しは考えておいてやるよ。
「よお、お兄ちゃんたち、景気がいいじゃねえか」
冒険者に声を掛けられる。
年のころは二十代の中ほどかな。
この料理屋でたまに見る顔だ。
たぶん俺たちよりは実力があるんだろうな。
装備の質がいい。
「まあ、ボチボチですよ。隅っこの方で細々やらせてもらっています」
エトムントがそつがなく返す。
あまり景気がいいところを見せて、生意気だと思われるのは避けたい。
変に悪く思われて、ちょっかいをかけられるのは面倒だ。
レナーテが寝ていてよかったよ。
その辺の加減ができないからな、コイツ。
「いいことだと俺は思うぜ。優秀な後輩ってのはいいことだよ。頑張れよ、後輩!」
エトムントの肩をバシッと強めに叩いて、彼は立ち去った。
ずいぶん「後輩」を強調するヤツだったな。
たぶん面倒そうな「先輩」だ。
まあ、関わらねえほうがいいだろう。
「俺たちが、ああならなきゃいいだけだぜ」
「だな、エトムント。まあ、俺たちは俺たちで、俺たちなりにやっていこうや。それでいいだろ」
先輩の嫌な笑みが頭に引っかかっている。
冒険者にはいいヤツも、悪いやつもいる。
どこの世界だって同じだよなあ。
俺たちも子供じゃないんだ。
それくらいの現実ってのはわかってきている。
で、自分の正義を押し付けるってのが、ときに問題を起こすことだっていうのもわかってきた。
関わらなきゃ、起きねえ問題ってのもあるんだよな。
そんな感じで大人になった。
まあよお。
楽しいだけじゃねえよな、人生なんて。
全てが思い通りに行くわきゃねえよな。
俺だって子供の頃は英雄になるんだって、毎日、剣を振っていたよ。
いつだかな、俺にその才能がないって気付いたのは。
だけど、生きてはいけるんだ。
笑って、美味いものをたまには食べられる。
それでいいのかもなあ、と思いはじめている。
そんな感じだ。




