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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第68話 ああ、俺たちの街に帰って来たぜ

ゴトゴトと馬車が揺れる。

聖女様が乗るってことで、豪華で高性能な馬車らしいぜ。

だが、この程度だよ。

ちょっと石が転がっていただけで、ガッツリと衝撃が来る。

ありがてえのは分厚いクッションだ。

多少は衝撃を和らげてくれる。


もうだいぶ王都からは離れて、ウェストフェルトの街の近くまで来た。

やっとという感じだ。


風景もなじんだ感じになってきている。

例えば山とかだよな。

王都方面から見る山と、ウェストフェルト側から見る山ってのは違う。

角度が違うから表情が違うんだ。

見慣れた山だとそれが顕著で、違和感しかねえんだ。

だから、帰って来たなあという感慨になる。


『イーナ様は寝てしまわれたでしょうか』


俺の隣にイーナは座っている。

体を俺にしっかりとくっつけて、寝ている。

振動で倒れないように俺と腕を絡めてな。

……ちと、近いような気もする。

誘拐の一件以来、距離が近くなった。

怖かったんだろうな。

当分はこんな距離感だろう。


ウェストフェルトに帰って、知り合いに見られるのは恥ずかしいが、しょうがねえなあ。


「ああ、疲れたんだろうよ。ずいぶん乗馬の練習をしていたからな」


王都からウェストフェルトまで馬車で二週間程度。

ガタガタ揺れるだけの旅だ。

そりゃあ飽きるだろう。

途中、プリシラとロレッタに頼み込んで乗馬の練習をさせてもらったりして、暇をつぶしている。

イーナはだいぶ上手くなって、一人で馬に乗れるくらいになっている。

俺はまだまだだな。


『幸せそうに寝ていらっしゃいます。本当に心が安らぎますね』


黒猫姿のジリはイーナの横に飛び乗り、体を寄せて、丸くなった。

会話する相手も寝てしまって、静かになった。

イーナの微かな寝息を聞きながら、なんとなくゆったりとした時間を感じる。

なんとなくな、眉間に入っていた力が抜ける感じ。

まあ、だらけているだけだ。



馬車の窓から、ゆっくりと流れる雲を眺めながら、今回のことを思い出す。


魔王教『真なる黒の福音』にイーナが攫われたが、ギリギリで救出することができた。

エトムントが負傷。

右腕を斬り落とされ、胸を切り裂かれた。

これはイーナによる治療により、完治している。

プリシラとロレッタが泣いて喜んでいたな。

二人はがっしりとエトムントを抱きしめて、生き残ったことを喜んでいた。

エトムントも苦笑しながら、二人を抱きしめてたんだ。

エトムントよお、もう逃げられねえんじゃねえのか?


で、階段を上り、地下から出た。

そこは王都アーベランロードにある貴族の屋敷だった。

ちなみに持ち主の貴族ってのは、グレアム・ノーフォルド公爵ってやつだ。

娘のアンが国王の第二王妃になっている。

そして、その息子がルパート・ヨークってことだ。

俺が斬り殺した王子だな。


母親のアンはあの場にいた。

魔王教の信徒だった。

そして、息子の死を見ていた。

魔王教に入ったのは、母が先か息子が先か、まだわかっていない。

彼女は捕まって、現在は城の一室で監禁中だ。


父親のノーフォルド公爵も捕まって、事情聴取中だ。

知らぬ存ぜぬでしらを切っているが、どうなるかな?


さて、第二王子死亡の話。

第二王子が魔王教徒だってのは、大したスキャンダルだ。

王室としても素直に公表できねえ。

つーことで、王室も考えたみてえだぜ。

祖父のノーフォルド公爵と母アンが魔王教だったということで、第二王子は失脚。

第二王子を他国への留学とした。

本人は死んじまっているから身代わりを立てて、他国へと送り出す。

いい感じのときに、事故死かなんかで処理をするということだ。

てな方向で、体裁を保つらしいぜ。

面倒くさいことこの上ねえな。


じゃあ、俺が殺した魔王教の司祭は誰だってことだ。

あの現場にいて、魔王教の信者でもあったブレント・エセックス伯爵だったということにしたらしいぜ。

ノーフォルド公爵の派閥の貴族だってよ。

もちろん、すでに処刑されている。

というか、あの場にいた魔王教の教徒たちは上級貴族以外はすでに処刑済み。

問答無用だ。

上級貴族もいずれ処刑されるだろうな。

口封じの意味もあるだろう。

怖いもんだよ。


そんな感じで勝手に事件は処理されて、終わりになっていく。

まあ、俺としちゃあ、誘拐犯が罰を受けて、イーナが無事ならいい。

実行犯のコンラッド・オコンネルも逮捕されているらしい。

ウェストフェルトの街からの情報は迅速に王都に上げられらしいな。

そのうち処刑されるだろうな。


ウェストフェルトの街も、魔王教徒の調査が厳重に行われたらしい。

コンラッドの他にも数人の魔王教徒が発見されているってことだ。

まったく油断ならねえな。

聖女守護騎士団なんて必要かと疑っていたが、結構仕事はありそうだ。



でだ、王都だよ。

イーナと俺は、聖女とその父親だよ。

まー、本当に面倒だった。

プリシラとロレッタの父親であるハートフォード侯爵と会うまではしょうがねえと思っていたんだ。

が、リチャード・ヨーク国王にまで謁見だよ。

おりゃあ、地方のいち冒険者だよ?

まったくガラじゃねえ。

俺とイーナで敬語をやっつけで覚えて、何とか乗り切ったよ。

下手に無礼なことをすりゃ、死刑だよ。

さすがに聖女とその父を死刑にはできねえらしいがな。


だが、まあ、国王との謁見なんてどうでもいいか。

俺たちの今後には関係ないさ。

ウェストフェルトの街に帰って、ゆっくりしたいね。


一応迷惑料ってことで、一生働かなくてもいいくらいの金はもらったよ。

だが、冒険者ってのは少し休むと腕が落ちるからな。

魔物討伐は継続かな。


……そうすると金が余るか。

孤児院にでも寄付しておくかな。

使わねえ金を持っていたってしょうがねえ。

もったいないやな。



逃げるように王都を飛び出して、副団長のプリシラとロレッタが率いる聖女守護騎士団に護衛してもらって、ウェストフェルトの街へと帰る。

で、エトムントはまだ報告、書類作業があって、王都に居残りだ。

偉くなると大変だねえ。

俺はああはなりたくねえなあ。


プリシラとロレッタにエトムントを王都に残して大丈夫かを聞いてみた。


「ええ、エトムント様は私たちを愛してくれていますから」


「裏切ることはありません。信じていますわ」


二人は左手薬指の指輪を愛おしそうに見つめる。


エトムントも、ついに指輪をはめたらしいぜ。

左手薬指に二つ重ねて……

両方と結婚するのかよ?

まあ、いいけどな。

片方だけってのも、問題になるだろうからな。

頑張れよ、エトムント。

夜に色っぽい店も行けなくなるよなあ。

今度、誘ってみようか。

アイツ、どうするだろうな。


「ええー、いいなー。私も指輪ほしいなー」


イーナも物欲しそうに俺を見るなよ。

まだ、結婚は早いと思うぞ。

イーナの結婚ねえ。

勇者か……

手塩にかけて育てたイーナを、ちょっと出の勇者に取られるのも癪に障る。

が、イーナがいいなら、いいのか……

なかなか覚悟はつかねえがな。



そうそう、勇者な。

既に異世界から召喚されてたらしいぜ。

だが、まだ修行中。

イーナと会わせるわけにはいかねえって言われた。

俺はそっちのほうがよかったんで、勇者をスルーしたがね。

少しだけ怪しくも感じた。

勇者ね、大丈夫なヤツなんだろうな?

そいつはイーナと一緒に旅をするんだぜ。

変な野郎だったら、殴って、根性を叩き直さなきゃいけねえ。


イーナももう少しだけ成長が必要だろう。

もう少しだけ一緒にな……



思考から戻る。

馬車に揺られる。

そして、やっとウェストフェルトの街が見えてくる。

俺たちのホームタウンだ。

懐かしい街。

数日だけだが、そう感じる。


「おい、イーナ、起きろ。ウェストフェルトに帰って来たぞ」


「うんん……あ、本当だ。街だ! 私たちの街だ」


背後に森を背負い、対魔物用の城壁を持った街がある。

城壁は秋の少し柔らかくなった太陽に照らされて、少し輝いて見える。

近づくと、所々崩れて、補修が必要な箇所が見えるんだがな。

まあ、そんなもんだよ、建築物なんて。


「フェル、ありがとうね」


「なんだよ、イーナ」


「助けてくれたこと! 私、信じていたよ、フェルが助けに来てくれるって。だから大丈夫だからって」


「俺だけじゃねえよ。エトムント、プリシラ、ロレッタ、それとジリにも感謝しておけよ」


「うん! だけど、フェル、ありがとう!」


イーナが抱き付いてくる。

で……


「ど、どうしてだよ?!」


「感謝はほっぺにキスで示すんだって! プリシラちゃんとロレッタちゃんが言ってたよ」


変なことを教えるんじゃねえよ、侯爵令嬢よお!


「なに、照れてるの? ちょっと赤くなってる」


「いや、そんなこたねえよ。ちょっと驚いただけだ!」


娘に頬にキスされたくれえで……

まあ、いいもんだなとは思ったが、それは言わねえでおこう。


イーナの笑い声を聞きながら、ウェストフェルトの城壁を眺める。

ああ、俺たちの街に帰って来たぜ。


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