第67話 俺は娘を助けに来たんだ
エトムントがいる。
転移は成功のようだ。
が、しかし。
「エトムント様!」
「隊長、大丈夫ですか! 死なないでください!」
プリシラとロレッタがエトムントの元へ。
エトムントはボロボロだ。
右手の肘から下がなくなっている。
胸にも深い傷がある。
もうすぐに死にそうだな。
が、まあ、侯爵令嬢がいる。
高級なポーションをバシャバシャかけている。
命はどうにかなるだろう。
「おう、エトムント。ボロ雑巾じゃねえかよ」
「はは……腕がなくなっちまった。あのときのフェルドと同じか……いや、俺は利き手だから、もっとひどいぜ」
おっさんの体の悪いところマウントができるなら大丈夫だろう。
「で、そっちの男だよ。……剣聖だ、気を付けろよ」
剣を持っている男がいる。
剣は血で濡れている。
エトムントを斬った男だ。
剣を肩に担いで、だるそうにしている。
俺たちの会話を待っていてくれたんだろうな。
余裕だな。
「おっと、こっちに話がきたな。そうだねえ。このまま引いてくれると嬉しいんだがねえ」
「そうもいかねえんだよ。イーナはどこへ行ったんだ! 連れてくりゃあ、引いてやるぜ」
「連れてくることはできないんだよねえ。残念ながら。でもさあ、どこにいるかは言っていいんだよねえ。そっちの通路の奥の部屋だよ」
言って良いのかよ?!
「まあ、あれだ。俺を倒して行けってやつだ。俺が死んじまった後にさあ、魔王教がどうなったって知らねえってことだよ。死んだんだから、世界なんてどうでもよくなるだろう?」
そりゃ、賛成できねえなあ。
俺が死んだとしても、そこには知り合いたちが生きているんだ。
人間は、生物は生きているんだ。
世界は存在する。
なら、悪くする方向には行きたくねえじゃねえか。
せめて俺のせいで世界を悪くしたかねえな。
ま、俺にはそんな影響力ねえけどな。
さて、剣聖を倒す?
ユージンにも、全然届かなかったのにか。
『フェルド。聖女の養育者とは、聖女の危機に能力が上昇するのです』
ジリはすでに黒豹に戻っている。
「本当かよ、ジリ」
『と、言われています。正直、それはどちらでもいいのです。思い込みなら、思い込みなさい。そうしなければ足りないのなら、そうすればいいだけ。フェルド、イーナ様を助けますよ』
「ふん……了解だ、ジリ。じゃあ、行くぜ。俺たちで剣聖を倒す!」
だが、確実に俺が格下。
そしてジリは上位剣士との相性が悪いだろう。
接近は危険。
しかし、援護は助かる。
ジリの《ウィンドジャベリン》が飛ぶ。
それに合わせて俺も《激流ノ歩》で飛び込む。
「二人がかりが卑怯だというほど間抜けじゃあねえけど、面倒くせえよ」
剣聖はゆったりとした動き。
に見えるだけの、滑らかで速い動き。
《ウィンドジャベリン》を撃ち落とす。
その隙、俺が飛び込む。
《剛唐竹割り》へと繋げる。
体当たり気味にツッコむ。
勝っているのは体格。
それが活かせれば……
「おっと、本当に珍しいスキルの使い方をするねえ、あんたたち」
チッ!
剣で軽く受けやがった。
なら、奥の手だ。
「うおおぉ!」
《剛唐竹割り》を上乗せする。
力で押し切る。
バルドゥルが力押しのときに使う手だ。
アイツの真似をする日がくるとはな。
「おっと、それは強いねえ」
剣聖はするりと体を躱した。
俺のスキルが終わり、少し硬直時間が発生する。
だが、心配はねえ。
『ウィンドカッター!』
ジリが五発同時の《ウィンドカッター》を撃つ。
風の刃は弧を描いて、剣聖に襲いかかる。
「まったく、面倒な連携だよお。一人でも面倒くさいのにねえ」
剣聖は言葉とは違い、剣で簡単に叩き落としていく。
ん?
若干動きに引っかかりがねえか?
右足だ。
恐らく怪我をしている。
上手く動きで隠しちゃいるがな。
エトムントか。
奴との戦闘で、怪我を負ったんだ。
でかしたぜ、エトムント。
硬直時間が終了。
じゃあ、攻めるぜ。
《疾風突き》、《疾風連撃》へと繋げる。
こちらの連撃を、剣聖は簡単に防御しやがる。
さすがだな。
「そらよっと」
連撃の隙間、剣聖が反撃する。
高速の突きだ。
スキルをキャンセル、《水流の構え》へと切り替える。
足の傷のせいだろうな、俺でも受け流せるぜ。
剣聖の剣を上に流し、その勢いのまま体をぶつける。
「なんと!」
剣聖を弾き飛ばす。
追撃だ。
《疾風突き》!
しかし、剣聖は更に後ろに飛び躱す。
更に追撃……
ゾクリと背筋に悪寒が走る。
たぶん危ねえ。
追撃を止める。
剣聖の剣が赤く輝いている。
そうか、必殺技と言うやつが発動できる状態か。
「まったく、面倒な……。前の冒険者も面倒だったけれど、お前さんは更に面倒だねえ。しっかりとした基礎があるくせに、だがしかし、型がないんだからねえ。やりにくいったらありゃしないよ」
「おう、『無型の流派』というらしいぜ」
「『無型の流派』かい? 知らねえなあ、聞いたことないがね」
システムさんの名付けらしいからな。
現在俺しかいねえかもしれねえな。
いつかイーナにもつくかもしれねえが。
つーと、イーナは俺に弟子ってことになるのか?
それもなんか違和感があるがな。
「さて、さて。俺の怪我もバレちまったみてえだしねえ。後ろの黒豹さんも優秀だし。長引くと更に面倒くさいことになりそうだ」
長期戦は俺も望んじゃいねえ。
イーナを一刻も早く助けないといけねえんだ。
「やるかい、必殺技の交錯ってやつを。バカバカしいがな」
「ははは。バカバカしいよねえ。だけど剣聖の技を上回れるかねえ?」
「怪我人が偉そうによお。こっちは聖女の危機でパワーアップしているらしいぜ。差はそれほどねえんじゃねえか」
「確かにねえ。だから余計に面倒なんだよねえ」
「俺っていう存在は結構、面倒らしいぜ」
さて、問題はヤツの技だ。
エトムントがやられたのもそれだろう。
とすると、エトムントのあの怪我。
右手を斬り落としたのと、胸の傷。
剣筋が二つとみるのが妥当。
なら、高速の二連撃。
たぶん剣筋は固定じゃなくて、変幻自在、かな。
ヤツの剣のくせをみるに、そんな感じがする。
背筋に悪寒が走る。
来る!
「これで終わってくれると嬉しいねえ。泰然寺雀だよ!」
「すべての流れを見極めろ!」
俺は必殺技じゃなく《水流の構え》を発動する。
必殺技を打ち合っても、おそらく負ける。
流せ、力を流せ。
剣聖の剣の力の流れを見極める!
剣聖は剣を中段に構えたまま突撃してくる。
たぶんエトムントが対峙したときより、速度が落ちているはず。
足の怪我の分な。
これで負けたらエトムントに何を言われるかわかったもんじゃねえな。
……トプンッ……
ああ……この感覚か。
水の中に入っちまったなあ。
粘っこい空気の重さを感じる。
相手の動きもゆっくりになっている。
ああ……なんだ?
前回と少しだけ違う。
体は重いが、しかし、力がある。
奥底から力を感じる。
まとわりつく重さを引きちぎり、体が動く。
危ねえなあ、万能感がある。
飲まれないようにしなきゃいけねえ。
剣聖が迫る。
剣聖の横斬り……と見せかけての袈裟懸け。
剣を添えて、打ち落とす。
剣聖の剣は跳ね上がる、逆袈裟懸けだ。
俺の剣は、剣聖の剣にまだ添えたままだ。
その力をそのままコントロールする。
俺には当たらねえなあ。
剣聖の腕が上がり、体ががら空きだ。
ここで。
「疾く穿て、清風靇月!」
俺の突きが剣聖の胸を貫く。
そして時間の流れが元に戻る。
「なんだあ、そりゃあ? いきなり強くなったんじゃねえかあ。奥の手を隠してやがったかあ。これだからベテラン冒険者ってのは面倒なんだよお。ごふっ……」
剣聖が血を吐く。
胸の中央に二十センチくらいの穴が開いている。
助からねえだろうな。
「なんで、こんなところに……こんな面倒な奴らが来やがったんだよお……まったくなあ……ついてねえなあ……だが、まあいいやあ……終わっちまったもんは……しょうがねえよなあ……はは……」
剣聖は床に崩れ落ちる。
終わりだな。
こいつは何のために戦っていたんだろうな。
しかし死に顔は満足そうだ。
こいつ、これで良かったのかよ……
せっかく剣聖と呼ばれるまで剣を極めたのによお。
その力をもっと別のことに使えなかったのかよ?
『フェルド、急ぐのです。イーナ様を!』
だな。
剣聖はどうでもいい。
重要なのはイーナだ。
エトムントは……プリシラとロレッタが看病している。
大丈夫だろう。
右手の通路を駆ける。
「よお、ジリよお」
『なんですフェルド、この忙しいときに』
「聖女ってのは死なねえんだよなあ。魔王戦に常に五人集まるんだよなあ」
メリスに聞いた話だ。
それが本当だとすれば、イーナは死なねえってことだ。
『最後、五人集まるのはそうでしょう。しかし、聖女は死にます』
そりゃあどういうことだ?
『死んでも、最後に集まるのですよ。形はどうでもいいのです。存在すればいい。体はなくてもいいのでしょう』
なんだそりゃあ?
それじゃあ、聖女ってのは何だよ。
対魔王に縛られた存在ってことか。
死んでも、魔王と戦わされる。
そんな悲しい存在なのかよ?
『悲しいか……幸せなのか……それは彼女たちが決めること。私たちは普通に接することしかできないでしょう。普通の少女として。そして、今は助けること、それだけを考えなさい』
なんだそれは。
わからねえよ。
わからねえ……
が、イーナは助ける。
それだけはやらなきゃいけねえんだ。
俺がアイツの父親だからな!
奥に豪華な扉がある。
「ジリ!」
『ウィンドジャベリン!』
風の槍が扉を破壊する。
中から悲鳴が聞こえる。
信者たちがいるようだな。
部屋の中はとてつもなく広かった。
すり鉢状になっていて、扉は最上階。
途中は階段状になっており、信者がうごめいている。
突然の乱入者に混乱し、騒いでいる。
中央は広場になっており、更に真ん中に祭壇のようなものが設置されている。
それに人が寝かされ、拘束されている。
イーナか!
その横に男性が一人。
ローブが豪華だ。
一番偉いヤツだろう。
その手には刀身が黒いナイフが握られている。
あれでイーナを殺そうというのか?
『結界が張ってあります。聖女を殺すにも手順が必要なのでしょう。魔王教の儀式。イーナ様は普通の少女だというのに』
中央へと走る。
「どうすりゃいい?」
『ありったけの力で壊すしかないでしょう。あの変な名前の技でもぶつけなさい』
アホか、俺の《清風靇月》は、バルドゥルの《剛気苛断》や、エトムントの《勇矇火瞰》よか、ましだろうがよ。
エトムントの《勇矇火瞰》はひでえ名前だよなあ。
まだ、さっきの剣聖の《泰然寺雀》のほうがマシってもんだ。
『いいから、やりなさい! イーナ様を助けるのです!』
やるよ!
ちょっと文句を言っただけじゃねえか。
イーナを助けるんだ!!
《激流ノ歩》でツッコむ!
で、そのまま剣を突き入れる。
「いらねえ結界なんぞ貫けや! 清風靇月!!」
水の魔力が怒涛の如く剣へと流れる。
その勢いのまま突きを結界へ叩きつける。
力と力がぶつかる。
簡単には壊させてくれねえか。
結界の中央、祭壇の上、イーナが繋がれている。
イーナと目が合う。
「フェル!」
ああ、そうだな。
俺は娘を助けに来たんだ。
ただ、それだけだ。
父親が娘を助けるってのは、当然の権利だよなあ。
返してもらうぜ、イーナをよお!
「全部ぶっ壊せよ。靇靇と!」
力がほとばしり、雷のような轟音を発する。
バキリッ!
結界が割れる。
「イーナ!!」
「フェル!!」
イーナが涙目だ。
泣かせんじゃねえよ、俺の娘をよお。
イーナの前に立つ男が俺を呆然と見つめる。
結界が破られるとは思っていなかったようだな。
「その危ねえもんを離しやがれ!」
《激流ノ歩》で距離を詰め、袈裟懸けに、ヤツの手を斬り落とした。
避けもしねえのかよ。
剣は素人か?
「うがああぁぁあ、貴様っ!」
男が切られた右手を握りながら、俺を睨みつける。
「我を誰だと思っているのだ! 第二王子ルパート・ヨークなるぞ!」
声は震えている。
そりゃあ、手を斬られりゃ痛いだろうな。
男の顔を見る。
いい歳したおっさんじゃねえか。
しかし、さすがに王家だ。
端正な顔立ちをしている。
「だが、俺は知らねえよ。田舎育ちなんでねえ。国王とか、王子なんて見たこともねえよ」
「我を斬ったこと、大罪なるぞ! 覚悟しておけ!」
「知らねえよ。魔王教の信者になってんのは大罪なんじゃねえか? んでよお。俺にとっちゃあ、イーナを攫ったってことのほうがもっと大罪なんだぜ! さっさと死んどけや!」
「な、何を!」
自称王子の首が宙に飛ぶ。
ま、いいや。
俺が切ったのは魔王教の信者だ。
王子だったってことは知らなかった。
それでいいじゃねえか。
それよりもイーナだ。
イーナを拘束していた鎖を剣で切る。
「フェル、フェル、フェル!」
イーナが抱き付いてくる。
泣いている。
そりゃあ怖かっただろう。
「おう、すまねえな。遅れて。こっちも、これで大変だったんだぜ」
ちょっと言い訳がましいか?
だが、転移に、剣聖との戦い。
本当に大変だったんだからな。
「フェルー! うわーん!!」
聞いてねえな。
ま、いいか。
「おう、よしよしだ」
頭を撫でてやる。
そういや、こんな感じで撫でてやるってのも久しぶりだな。
いつ以来だ?
イーナが友達から怖い話を聞いて、夜眠れなくなったときか……
そうすっともう二年前、イーナが十歳くらいの大きさだったか。
今はちょっと胸のふくらみが当たって、アレだ。
が、そんな表情は見せられねえぜ。
俺はいい父親ってのを目指しているからな。
まあ、目標だよ。
目標を高く持ってもいいじゃねえか。
現実とのギャップがあってこその目標だぜ。
『イーナ様、ご無事で……とても心配いたしました……』
ジリも泣いているようだ。
黒豹だから、涙は無いんだがな。
さて、これからどうやって帰るんだ?
んで、ここはどこだよ?
まだ問題は山積みだよなあ。
そういやあ……
「なあ、イーナ。エトムントのヤツを治療してくれねえか。アイツ死にそうだったわ」
さすがに、この時間なら死んじゃいねえよな?
<<ステータス>>
フェルディナント・エアハルト
年齢:43歳
冒険者:Aランク
LV:49(Up!)
生命力:337
筋力 :238
魔力 :146
素早さ:194
アクティブスキル:
水流の構え(水龍の構え:フェルドの集中による変化)
パッシブスキル
女神の加護(大)(Up!)
ジリ
年齢:不明
黒豹
LV:50(Up!)
生命力:268
筋力 :237
魔力 :233
素早さ:218
エトムント・ベルゲングリューン
年齢:43歳
冒険者:Aランク
LV:46(Up!)
生命力:172
筋力 :150
魔力 :122
素早さ:132




