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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第65話 【エトムント視点】侯爵様、ちゃんと指輪のこと説明しているんだよな?

転移魔法の光は徐々に減少し、転移が完了した。


喧騒が聞こえる。

戦いの音、剣と剣がぶつかり合う音だ。


目を開ける。

暗い部屋だ。

恐らく地下。

湿気った匂いがする。

空気が重く、少し息苦しさを感じる。


「囲め! 相手は女性一人……なんだ、もう一人転移してきた!」


「聖女でないなら、仲間では?」


「いや、あの魔道具は聖女以外に使うことを許されていない! 違反している奴だ! そいつは殺してしまえ!」


ロウソクの火がゆらゆらと頼りなく部屋を照らしている。

石造りの壁の四角いシンプルな部屋だ。

床には魔法陣が描かれている。


黒いローブに身を包んだ魔王教の兵士が、剣を手に、叫んでいる。

室内に四人。

恐らくこれから増えるだろう。


そしてイーナがいる。


「聖女のくせに、この、ぐはあ!」


一人が斬られる。


「エトムントさん! どうして!」


イーナが剣を手に、兵士たちと戦っている。


「よお、助太刀に来たぜ。酒は抜けたかい?」


剣を引き抜く。

魔王教の兵士はただの兵士だ。

俺たちはAランク冒険者相当。

この程度の戦力なら、ずいぶんもつだろう。

が、問題は数だ。

どれだけいるか?


「あ、お酒は回復しました」


少し赤くなっているか?

酒じゃなくて恥ずかしさかな。

酒の席での記憶はあるようだ。


「ここはどこです? なんでエトムントさんが!」


「ああ、俺も知らねえんだ。すまねえ」


魔道具は受け取った。

が、聖女に使用しろと言われただけだ。

聖女転送用の魔道具で、お前が使うんじゃないと。


ま、一人転送用の一回のみの魔道具だ。

そりゃあ、聖女だけだろうよ。

そんなもんでも高価だからな。

それを信者にいくつ配ったんだか。

それだけで魔王教の資金力がわかるだろう。


どれだけ上の地位のヤツが信者にいるんだかな。

俺は信用されてねえから、会わせてはもらえなかったがな。



イーナ、聖女か。

フェルドが養育者となった聖女。

ずいぶんちゃんと育っている。

強く、まっすぐと、そして美しく。

親がフェルドだったからだろう。

育ったのがウェストフェルトだったってのもあるだろう。

王都じゃあ、こうもいかなかったかもしれねえな。

さすが、女神メルフェイーナ様。

お目が高いってことだ。


ちと、やんちゃ。

しかし、魔王退治なんて行くんだ。

これくれえじゃねえと、やっていけねえと思う。


まさか俺が国王直属の『聖女守護騎士団』の隊長になって、そして魔王教に潜入するとはなあ、一年前は思わなかったぜ。



――一年前。

プリシラとロレッタの父親、ハートフォード侯爵と会っていた。


「エトムント。お前、フェルディナント・エアハルトという冒険者と知り合いだったよなあ?」


驚いた、侯爵様からフェルドの名前を聞くなんて。

侯爵様の執務室に呼び出されたのは、この件か。


「あいつ、何かやらかしましたか?」


「はははは! 違う、違う。そうじゃないんだよ。彼は聖女イーナの親に選ばれたらしい。その情報が上がってきたのだ」


聖女イーナ?

初耳だ。

聖女が現れたってことは、魔王が出現するということか。

最近、王都では魔王教によるテロが頻発している。

そして北の魔族どもの動きも活発だ。

魔王が現れているか。

その懸念もあったが、確証はなかった。

これから人間と魔族の戦いは激化する。

そんな時代を生きるか。

よかったのか、悪かったのか?

俺ももう四十を超えた。

それほど英雄願望もなくなったんだがな。

……若い奴らがたくさん死ぬな。

嫌な時代だ。


「どんな男だ、そのフェルドというのは?」


フェルドねえ……


「しょうもないヤツですよ。面倒くさがりで、大した才能もない。しかし、悪いやつじゃありません。だから、きっと今も誰かに助けてもらって生きていると思います」


「そうか、そうか。しょうもない男か! なかなか良さそうな男だな。才能がないというが、しかし、Aランク冒険者になったらしいぞ」


Aランク冒険者、フェルドが?


「しかし隻腕で……」


「それがな、女神様に治療してもらったらしい。羨ましいことだ。私も腰痛を治してもらいたいぞ」


そうか……左腕は治ったのか。

そしてAランク冒険者まで上り詰めた。

よかったじゃないか、フェルド……


「それでだな。エトムント、お前を『聖女守護騎士団』の隊長にと国王陛下に推薦しておいたぞ」


「え、聖女守護騎士団ですか?」


「そうだ。知り合いのエアハルトが聖女様の父親なのだろう? なら、お前が適任だろう」


「いや、しかし俺は……」


「うちの娘たちが副隊長になることは決まっていたんだがな。娘たちがどーーしてもお前を隊長にと言うものでな」


「プリシラとロレッタが?」


「さっさともらってくれると、私としては嬉しいのだがな」


さすがにそれは厳しいだろう。

侯爵様の娘さんだぞ。

そして侯爵の子供はその二人しかいない。


「しょうがないだろう。見合い相手を殴り飛ばすような娘を、誰がもらってくれるというんだ?」


よよよ、と泣きまねをする。

白々しい。

殴り飛ばされるような相手を見合い相手に選んだのを知っている。

娘を自分の手元に置いておきたいだけだろう。


「私はエトムントを気に入っているんだぞ」


「また、ご冗談を」


ははは、と笑ってごまかしておいた。

あれは本気だったんだよな。

どうして俺を気に入っているかはわからない。

が、貴族ってのはさすがに窮屈だろう。


それから国王陛下と謁見し、『聖女守護騎士団』隊長に就任。

そして、国王陛下の友人である、侯爵様からの内密な任務が追加された。


「魔王教ですか?」


「ああ、魔王教だ。最近、活発になっているのは知っているな」


「はい、知っております」


数日前に貴族が一人襲われ、死亡した。

有名ではない貴族だ。

ただの男爵。

しかし有能な男爵で、王国の運営では必要な男だった。

まさか、自分が襲われると思っていなかったのだろう。

一人街を散歩していたときに襲われ、死亡。

犯人は地方から出稼ぎに来ていた貧乏人。

「魔王様に祝福あれ!」と叫んでいたらしい。


「貴族の方も疑心暗鬼なのだよ。誰が魔王教なのかわからん。で、信頼のおけるエトムントを頼りにしているのだ」


「俺が魔王教ではない保証がないでしょう」


「だが、魔王教ではないのだろう?」


侯爵様が俺を見つめる。

その目はどこかプリシラとロレッタに似ている。

苦手だ。


「確かに違いますよ。あんな胡散臭いのに入るまで落ちぶれちゃあいません。そして、俺は人類にそれほど失望もしていませんよ」


「期待もしてないよな?」


「はは。確かにそうですね」


「お前は『聖女守護騎士団隊長』という肩書があるからな。逆に上手く入り込めるだろう」


「まあ、うまくやれば、ですがね」


「その能力を高く買っているのだよ、私も陛下も」


どこからその信頼が来るのだか……

俺が何かしただろうか?

だいぶ迷惑だ。


「それに、これは聖女イーナを守ることでもある。友人の娘を守りたいのだろう?」


……そうだな。

魔王教について調べたことがある。

魔王が出現する時期に毎度活発になる宗教団体だ。

叩いても、叩いてもどこかで生き残るしぶとい団体。


そして、毎度、聖女を狙う。

ときには成功し、聖女を殺害している。

が、そのときも魔王は討伐されている。

聖女は魔王討伐に不必要なのだろうか?

いや、別の文献では常に五人の聖女が集ったともある。

ならば、どちらかが嘘。

いや、両方とも正しいとしたら……


「この国の魔王教。誰が司教かを突き止めてもらいたい。そしてできるなら入信している貴族もな」


「それは……どの程度までの貴族が参加していると想定しているのですか」


「さてなあ。侯爵、もしくは公爵。もしくは王子、王女、あるいは王妃……」


そこまで国に食い込んでいるのか、魔王教!

すでに、ただの胡散臭い宗教ではないな。


「ただの可能性だ。それを確かめてほしい」


「しかし、私は魔王教の伝手などありませんよ」


「それはこちらが持っている。ウチのメイドの一人が魔王教徒でなあ。それを口説いて、上手く使え」


おい、侯爵よ。

メイドに魔王教徒がいるのかよ!

泳がせていたな……

危なくねえのかよ。


そして、娘の婿にしようってやつに、それを口説けとはなあ。

貴族ってのは怖いものだ。


「ああ、もちろん、プリシラとロレッタには気付かれないように。そして本気になるなよ。ついでに美人だぞ。役得だな」


……ああ、俺の負けだよ。

やりゃあいいんだろう。

俺は侯爵様には結局逆らえねえんだよな。



メイドのキャロルを口説き落として、無事に魔王教に潜入した。

キャロルなあ、まだ十八歳だったよ。

そしてうぶすぎるだろう。

若干、良心が疼く。

彼女とは、ウェストフェルトの街に旅立つときに、お別れした。

涙の別れだ。

プリシラとロレッタが訝しんでいたがな。


そして、俺の元にも聖女イーナの誘拐の指令が届いた。

転移の魔道具と一緒に。

よもや、こんなところで魔王教への潜入捜査が役に立つとはな。

巡り合わせだよな。


問題は俺とイーナの二人の戦力でここから脱出できるかだ。


もしくはプリシラとロレッタがあの指輪に気付くか……

侯爵様、ちゃんと指輪のこと説明しているんだよな?

忘れちゃいねえよな?


それならフェルドを連れてくるはずだ。

そんなに時間はかからないはず。

俺とフェルド、ジリがいりゃあ、大概のところなら何とかなるだろう。

プリシラとロレッタも相当腕を上げている。

戦力になる。



ここで騒ぎを起こせば、信者たちが集まってくるだろう。

とっとと脱出するのが吉だろう。


「イーナ、脱出するぞ!」


「エトムントはここがどこだか知っているの?」


「いや、知らねえ。が、行くしかねえだろう」


イーナは一瞬キョトンとする。

が、すぐにニヤリと笑う。


「そうだね。行くしかない! こんなところで縮こまっていても意味はない!」


強い子だよ。

さすが聖女……

じゃねえな。

さすがイーナ。

フェルドの娘だよ。


「強行突破するぞ、イーナ!」


「わかった! 行こう、エトムント!」


切り倒した信者を蹴り飛ばす。

後ろの信者を巻き込んで、扉の向こうの壁に激突する。


どけや!

俺は、イーナをフェルドに届けなきゃならねえんだ!

必ずな!


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