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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第64話 なら、信じようじゃねえか

外に飛び出す。


プリシラとロレッタがいる。

彼女らを野次馬が遠巻きに見ている。


「うがあ!」


プリシラとロレッタが男性を殴りつけている。

その足元にジリがいる。

イーナがいねえ。


「何をしたの!」


「言いなさい! イーナちゃんはどこなの!」


プリシラが男の顔を殴りつける。


「ぐはあ!」


男は鼻血を流している。

鼻が折れている。

あの男は……確かコンラッド?

衛兵のコンラッドか!


「どうした、ジリ! イーナは?」


『転移です! イーナ様は転移で移動されてしまいました。この魔道具です!』


ジリが前足で魔道具を押さえている。

手のひらサイズの丸い黒ずんだプレートだ。

表面には見覚えのあるマークが刻まれている。

王冠を被った黒いヤギ。

魔王教、『真なる黒の福音』か!


「転移!? そんな高等な魔道具! で、どこへイーナは転移されたんだ!」


『コンラッドが魔道具を発動したのです! イーナ様は転移の魔法陣の中に消えました。コンラッドは魔王教でしょう。二人がコンラッドを捕まえました。彼女たちが今、転移先を問いただしています』


コンラッドが魔王教?

こいつ、ただの情けねえイケメンじゃねえのかよ。


「この魔道具で飛べねえのか?」


『一度だけしか使用できない安物のようです。一度の使用で焼き切れて黒くなっています。もう発動できません』


くそっ!

コンラッドから聞き出して、助けに行かなきゃいけねえ!

魔王教は聖女の敵だ。

聖女がいなきゃあ、魔王は負けねえからな!


「……フェルド、すまない」


エトムント?

一緒に魔道具を見ていた。

立ち上がり、懐から何かを掴み、取り出す。

魔力の発動。

魔法陣が足元に表れる。

魔力の筒がエトムントを包み込む。


『転移魔法陣です! 先ほどと似た魔力の発動! フェルド、逃がさないで!』


くそっ!

どうなってやがる?

魔力に手を伸ばす。


パチリッ!


ダメだ、弾かれる。


「じゃあな。よろしく頼む」


エトムントは格好をつけた苦笑をして――消えた。


「え、隊長……」


「どうして」


プリシラとロレッタもそれを呆然と見ていた。


コトリ。


エトムントの足元に魔道具が落ちる。

黒ずんだプレート。

王冠を被った黒いヤギのマークが描かれている。


「ははははは! そうか、そうか、僕の他にも入っているよなあ! ヤツも信者だったんだ! 『我らが正義の上に祝福があらんことを』!!」


コンラッドが狂ったように嗤う。


「そうか、そうだよなあ。聖女誘拐なんて重要な役割、僕だけに任せるはずがないんだ! なんだよ、なんだよ。もっと僕を信用してくれよ!! ちゃんと任務を達成したじゃないか! 僕は優秀なんだよ!!」


笑い、怒っている。


「違う! 隊長は魔王教じゃないわ!」


「エトムント様はそんな怪しい宗教に入っていません!」


「じゃあ、なんでその魔道具を持ってんだよ? しっかりと魔王教のマークが入ってるじゃないか! ヤツも魔王教だ! 魔王教はそこにも、どこにもいるんだぜ! そして俺が聖女を攫ったんだ。成功したんだ。その功績で、幹部だ! そうだ俺は偉い、凄いんだ! お前たちとは違う! 特別なんだ!」


知らねえよ。

お前はどうでもいい。

重要なのはイーナだ。


コンラッドの近くへと。


「おう、コンラッドよお。イーナだよ。イーナをどこへやった?」


「はははは! 魔王様に祝福あれ! 王族死ね! 王国よ崩壊しろ! これで世界は魔王様と庶民に帰ってくるんだ!」


……どうでもいい。


「ぐは!」


顔を蹴りつける。


「そんなこたあ、どうでもいいんだよ! イーナはどこだよ! 俺の娘はどこだ!!」


「知らない、おごぁ!」


腹を蹴りつける。


「お前しか知らねえだろうがよ! どこだよ! ええ! 言えよ!」


「ごがあ!」


頭を蹴る。


「ああ、どこだって言ってんだよ! 死にてえのか、おい! げふん!」


ジリの猫キックが俺の後頭部にクリティカルヒットだ。


『落ち着きなさい、フェルド!』


意外にこの猫足も攻撃力があるんだぜ。

Aランク相当だからな。


いや、案外、俺は冷静だぜ。

きっとな。

俺は冷静に切れている。

うん、カッコいいじゃねえか。

まあ、ジリには礼を言っておくぜ。

だが。


「ぐへえ!」


ついでにもう一回コンラッドを蹴っておく。

結局はむかつくからな。


「まあ、どうせ、下っ端にゃあ教えてねえよなあ。使い捨てだものなあ。すぐ捕まるような奴だからな」


「うぅぅ……」


おう、蹴りすぎたか。

まともにしゃべれねえか。

地面に大の字で動けもしねえようだ。

一応、俺を睨んでやがる。

少しは根性があるかな。


「……俺は……下っ端なんかじゃない……」


苦しそうな声だ。

頑張ってんなあ。

それだけは尊敬してやろう。


「だが、実際、どこに上のやつがいるかは知らねえんだよなあ。なら下っ端じゃねえか。それが証明してるじゃねえか」


「……くっ……僕は……ち、ちがう……」


こりゃあ、本当に知らねえみてえだな。

なら、どうする?

どうしたらイーナを助けられるんだ?


『だから、落ち着けと言っているでしょうが、フェルド!』


ジリが再度ジャンプ。

しかし、今度は防御成功だ。

後ろ足を防ぎ、そのまま足を掴む。

黒猫を捕獲した。

だらりと黒猫が宙に揺れる。


「だから、なんだよジリ。うっせえよ。俺はイーナをどうやって助けようかと真剣に考えてるんだぜ」


『だから、おそらくその方法があるんじゃないかと言っているのでしょう』


「おい、本当か!?」


腕を引き上げて、ジリの顔を前に持ってくる。

……こいつ、情けねえ姿してるな。


『何か失礼なことを思っていますよね?』


「それは良いから、教えろよ!!」


『プリシラとロレッタの指輪ですよ。魔道具と言っていたでしょう。何の魔道具ですか? 見たところ移動系だと思います』


移動系の魔道具だと?


「おい、プリシラとロレッタ!」


『その前に私を離しなさい! 頭に血がのぼります』


面倒だ、後だ、後。


「フェルドさん……」


「なんでしょう……」


二人は力なく地面に座っている。

その手元にはエトムントが落とした魔王教の転移魔道具。

その表情は今にも泣きそうだ。

口ではエトムントが魔王教じゃねえって言っていたが、信じ切れなかったか。


「アホ、アイツが魔王教なわけがねえだろうがよ。弟子で、部下であるお前たちが信じねえでどうするよ? お前たちのアイツへの気持ちってのはそんなもんなのかよ。つまらねえな」


「つ、つまらない? 私たちの心が!?」


「そんなことはありません! 私たちはエトムント様を愛しております!」


二人は俺を睨む。

いいじゃねえか、それくらいの気概が必要だぜ。


「なら、信じようじゃねえか、エトムントをよお。でだよ、その指輪は何なんだよ。転移の魔道具じゃねえのか?」


俺には魔道具なんてわかんねえ。

だからジリを信じるぜ。


「指輪ですか」


「これはお父様から大事にしろともらった物。大事な人に渡せと。大事な人が大変なときに助けるだろうと」


二人は薬指の指輪を見つめる。


『フェルド、私に見せてください。もう少し近く』


ジリの頭を彼女たちの指輪に近づける。

……変な絵柄だな。

ぶらりと垂れた猫が指輪を見つめる。


『確かに転移系の魔道具です。話から推測すると、対の指輪を持つ人をこちらに召喚するか、もしくは……』


「エトムントの元にこちらから転移できるかってことか!」


二人が顔を上げる。

目からは涙が落ちている。

だが、今はその瞳に希望がある。


「そ、それは……」


「確かにその可能性は……」


「おう、プリシラとロレッタ。やってみようじゃねえか。試しだ。間違っていたら、次を考えりゃいい」


俺はジリを信じてるからな。

間違いとは思っちゃいねえよ。


「はい! やりましょう」


「エトムント様の元へ!」


二人は指輪に魔力を篭める。

地面に魔法陣が発現する。


つーか、待てよ!

早えよ!

俺もちゃんと連れてけよ。


二人に抱きつくように、飛び込む。

この際、セクハラは許せ!

ジリも手に捕まえたままだ、一緒に来るはずだ。


よかった。

間に合ったようで、俺の周りを魔力が包む。


じゃあ、行こうか。

魔王教だ。

イーナを返してもらおう!


あ、コンラッドだ。

あいつ、放置だった。

まあ、いいか。

優先はイーナだ。

誰か衛兵が逮捕するだろうよ。

どうでもいい話だな。


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