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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第62話 やっぱり叫ぶんだよな、必殺技名

「で、だ。なんだ、最近じゃ、こういうのも森に出るようになったってことか?」


エトムントがそいつを見上げる。


「いや、知らねえよ! 俺も始めて見るやつだ!」


でっかい犬だ。

白いわんこだな。

ただ、高さが五メートル以上ある。

体長何メートルだよ……

で、頭が三つある。

可愛かねえや。


ガルルルゥゥ!


元気に吠えてやがる。

頭が三つあるから、うるせえ。

そう、こいつはあれだ……


「なあ、ケルベロスってやつだよなあ?」


いや、初めて見たよ。

つーか、この森に出るんだな。

つーか、この森って、女神メルフェイーナ様の森だよなあ。

こんな魔物が、こんな田舎に出ていいのかよ?


「フェル、ケルベロスって?」


「気を付けろ、イーナ。Sランクの魔物だ。火を噴くぞ」


「プリシラ、ロレッタ、後ろに下がれ! お前たちじゃまだ無理だ! 俺とフェルドで対処する」


エトムントが二人に下がるように合図する。


「しかし隊長! 相手はSランクです」


「Aランク冒険者二人では!」


「そこは聖女さまのバフだぜ」


勝手にイーナを当てにするんじゃねえよ。

が、やるしかねえな。


「イーナ、お願いする」


「了解。その後、魔法で援護するよ」


「よろしく。ジリ! 緊急事態だ、やるぞ!」


『承知しました。しょうがないですね、やりましょう!』


ジリは黒猫から黒豹へと変身する。

いや、正体を現す。


「なんだあ、隠し玉を持っていたのかよ?」


「ジリはAランク級だ。頼りにしていいぞ」


『ケルベロス相手だと、決定打になりませんが』


「いや、頼りにしてるぜ、相棒」


『……承知しました。相棒』


さっそく、ジリの風攻撃魔法がケルベロスに先制攻撃。

しかしヤツの防御力が高い。

ダメージは軽微。


だが、その間にイーナのバフが来る。

能力が上がった、この全能感よ。

イーナのバフも成長している。


「すげえな、こりゃ。これが聖女か! 確かに勇者パーティだぜ!」


エトムントが手を握り、開き、上昇した力を確認している。


「行くぜ、エトムント。しくじるなよ」


「誰に言っている、フェルド。Aランク歴は俺の方が長いんだぜ。Aランク、ペーペーがよ」


うっせえわ。

Aランクに初心者も、玄人もねえよ!


「Aランク冒険者、フェルディナント・エアハルトだ! 覚悟しやがれ、犬っころ!」


「Aランク冒険者、聖女守護騎士団団長、エトムント・ベルゲングリューンだ。お前を殺す名前だ、憶えておけよ!」


死んだら覚えておく意味はねえよ。

「胸に刻み込んで、死んでいきな」くらいにしておけよ。



ガルウゥゥゥアアァァ!


ケルベロスが吠える。

別の頭から火の玉が発射される。

それを避けながら、接近する。

とりあえず斬り付けてみるが、毛皮が硬い。

ダメージは小さい。


ケルベロスの注意が俺に向いている隙に、エトムントが斬り付ける。

やはりダメージは小さいが、俺より有効。

エトムントは火属性。

火属性は攻撃に特化している。

身体強化、魔法剣を発動済みで、俺より、攻撃力が高い。

少し悔しい。


さて、戦いは続く。

ブラックオーガと戦った、あの頃の俺じゃねえ。

だいぶやれている。

だが、決定打が無い。

まだ三つある頭の一つも落とせてねえ。


ケルベロスの爪を避ける。

一回でも当たれば致命傷だ。

死ななきゃ、イーナに治してもらえるが、しかし、この戦闘の中じゃその暇がねえだろう。

俺かエトムントが負傷すれば、戦力のバランスが崩れ、負けが確定だ。


《水流の構え》を発動する。

敵の攻撃の流れを逸らす。

気を付けるのは逸らせない噛みつき攻撃だけだ。

あいつの噛みつきは相手の急所を狙ってくる。

頭が俺の近くに来るってことだ。

それは紛れもない好機!


今まで、噛みつきを逸らせなかっただけだ。

次は逸らせればいい。

逸らし、反撃を加えるんだ。

臆するな!

ケルベロスの前に立て!


グルアアアァァァァ!


爪による引っ搔き攻撃。

ケルベロスの巨大な前足の流れを少しだけ変える。

別の首が火の玉を吐く。

その進行方向を上へと導いてやる。

首の一つが大口を開けて、噛みつこうとする。


ここだ!

いや、しかし、これを逸らせるのか?

《水流の構え》は線での攻撃の流れを変えるもの。

できるのか?

ケルベロスの下あごに剣を当て、横に逸らす……

重い。

いや、ここでいかねえでどうするよ!

動けやぁぁ、このデカ頭が!


あ、ダメかあ?


噛まれはしなかったが、頭を振り回され、体が弾かれた。

地面に叩きつけられるが、しかし、身体強化してるんだ。

ダメージはねえ。


「フェル!」


「大丈夫だ、イーナ。魔法で援護を頼む!」


ジリの《ゲイルランス》がケルベロスを襲う。

ケルベロスはそれを前足で払いのける。


エトムントが斬り付ける。

剣が赤く輝いている。

火属性の魔法剣・火の効果か?

徐々に赤みが増しているような気がする。


イーナの《ウッドバインド》。

ツタがケルベロスの前足と後ろ脚に巻き付き、ヤツの動きを止めようとする。


ガルルルゥゥ!


ケルベロスは力任せにツタを引き裂いていく。

動きを止めたのは一瞬だけ。


だが、その数秒が必要なんだ。

息を整えるその一瞬が。

イーナは前衛もできるからそれをわかっている。


じゃあ、また、試させてもらうぜ、犬っころよ。

ケルベロスへと突撃する。


《水流の構え》で、ヤツの前に陣取る。

エトムントよか、俺の方が防御が上手え。

なら、俺がヤツの前に立って、エトムントは横から攻撃をやってもらうのが効率的。

付き合ってもらうぜ、犬っころよ。


ケルベロスの左右の前足、火の玉。

攻撃パターンが少ねえなあ。

それはもう見てるんだよ。


ガアルルゥゥゥ!


おい、苛立ってやがるな。

俺に攻撃が当たらねえのが、そんなに悔しいかよ。

俺は楽しいぜ。

ははは、おめえの攻撃なんざ、届かねえんだよ!


ケルベロスがその巨体で突撃してくる。

体当たりだ。

ああ、そりゃあ確かに逸らせねえよ。


「フェル!」


イーナが叫ぶ。

が、心配ねえさ。

ちと、わかったんだ。

真面目にやる必要はねえってことをな。


そうだ、これは逸らせねえんだ。

だがなあ、水ってのは流れるんだぜ。

流すのは敵の攻撃だけかい?

違うよなあ!


剣を、突撃してくるケルベロスの口に添える。

その力を逸らそうとはしない。

力の流れを見る。

そして、俺の体がその流れに逆らわねえように、奴の横に抜けるように動く。

俺自身が相手の力から逃げればいい。

真面目に受け止める必要はねえんだ。

逃げろよ、避けろよ。


ケルベロスの体当たりを躱す。

少しだけ、飛ばされて、距離ができた。

それだけで、ダメージはねえ。

上手くいったじゃねえか。


ガルルルゥ!


ケルベロスが振り返る。

何事もなく立っている俺が邪魔かい、鬱陶しいかい?


だがよお。


『ゲイルランス!』


「ゲイルランス!」


ジリとイーナの魔法が降り注ぐ。

俺だけじゃねえんだぜ、お前の相手をしてるのはよう。

それほどダメージはなさそうだが、無傷ってわけでもねえみたいだな。


ははは、調子が出てきたぜ!

水の魔力が高まっている。

今ならいけるかもしれねえな。


「おう、フェルド。いいじゃねえか、強くなっているな!」


「エトムントもいいねえ。だが、決定力が足りてねえぞ。火属性なんだろ? 攻撃力だけが取り柄だろうが」


「ははは。見てろ、見てろ。これからだぜ。……フェルドも持っているよなあ、奥の手ってやつを」


エトムントがニヤリと笑う。

イケメンで、胡散臭い。

が、いいじゃねえか。


「さてなあ、どうだか。だが、そろそろ飽きてきたよなあ、犬と遊ぶのも」


「そうだな。じゃあ、行くか、フェルド!」


「応! 終わらせようや」


ま、俺は馬鹿の一つ覚えだよ。

《水流の構え》で、ヤツの前に陣取る。

アレをやるにもタイミングってのがあるからな。


ケルベロスが心底嫌そうな顔をする。

いいじゃねえか。

相手の嫌がることをやるのがベテラン冒険者ってもんだぜ。


お、いきなり噛みつき攻撃か。

引っ掻きと、火の玉は効かねえって学習したか?

だがなあ、俺はそれを待っていたんだぜ!


右の頭、大口を開けて迫ってくる。

その流れに逆らわず、少しだけ躱す。

今度は最小の動きで躱せた。


お、頭が目の前にあるじゃねえか。

ギロリと金色の目が俺を睨む。

はは、いいねえ、怖いなあ!


しかし、頭は澄んだ水のように冷静。

体には水の魔力が溜まっている。

それを一気に剣に流してやる。

そう、いつの間にか覚えていたアクティブスキル。

それを発動する。


「知ってるかい? 水滴だって岩に穴を開けられるんだぜ。『涓滴岩を穿つ』ってんだぜ。つーことで穿たれとけや! 清風靇月せいふうろうげつ!!」


なんか、必殺技ってのは叫ばないといけないらしいぜ。

このシステムどうにかならんかなあ……


水の魔力を一気に剣へ。

その突きをケルベロスの目ん玉にくれてやる。

俺を睨んでいた金色の目を貫き、そして、脳へと。

剣をひねり、脳をかき回してやる。

いやあ、えげつないねえ。


ケルベロス、右の頭が痙攣する。

剣を引き抜く。

なんか変な汁が付いている。


グルルルアアアアアァァァァァ!!


ケルベロスはその痛みから、体をのけぞらせ吠えた。

が、それが隙ってもんだぜ。


「いいねえ、フェルド! 俺も行こうか。俺に眠る覚悟の炎よ、空に燃え上がり、天を焦がし、目の前の敵を焼き切れ! 勇矇火瞰ゆうもうかかん!!」


おお、やっぱり叫ぶんだよな、必殺技名。

で、前口上が長えよ。

で、空に上った炎が、なんでいきなり敵を斬るんだよ?

途中がはしょられてるじゃねえか。

ちゃんと流れを考えてくれよ。


まったく、どんなシステムだよ。

システムさんってのはおかしいだろう。

無駄が過ぎるし、恥ずかしすぎる。


赤々と燃えるエトムントの剣が、袈裟懸けにケルベロスの体を斬り割く。

さすが攻撃力重視の火属性。

ケルベロスの防御力を突き抜けて、たぶん心臓まで到達している。


おれの《清風靇月》にゃあ、あそこまでの攻撃力はねえかもなあ。

ま、俺の技も完成形じゃねえ。

もう少し力を点に集約すりゃあ、貫通力が増すだろうよ。


ケルベロスの残った二つの頭が、口から血を吹き出した。

お?

ケルベロスの身体強化が切れたみてえだな。

じゃあ、俺でも斬れるか?


「頭が多けりゃ、偉いわけじゃねえだろうがよ! 少し減らしてやろうじゃねえか!」


《激流ノ歩》から《剛唐竹割り》へと繋げる。

おー、斬れる、斬れる。

いいねえ、一つ首を落とした。


最後の一つは……


「最後は俺がもらうぜ!」


別にいいよ。

俺には必要ねえよ。


エトムントが最後の首を斬り落とした。

念のため、俺が最初に脳を破壊した頭も切り落としておく。

三つの頭が地面に転がっている。

体は頭を失って、胸の傷から血を吹き出し、地面に倒れた。


あー、疲れた。

やっと終わったよ。

が、Sランクの魔物を狩れた。

俺は強くなっている。


「フェル!」


イーナが飛びついてくる。

それをガッチリと受け止める。


「おう、勝ったぜ。イーナも魔法ありがとうな」


イーナと、ジリ、エトムントがいなきゃ無理だった。

だが、それでいいんだろう。

俺一人で倒す必要はねえ。

倒せれば、生き残れりゃいいんだ。


地面はケルベロスの血が海を作っている。

そこにケルベロスの巨体と三つの頭が地面に横たわっていて、白い毛は赤く汚れている。

もう動かない。


だが、魔物が強力になっている。

これは魔王の影響なのだろう。

魔物が活性化している。


そうか、イーナの旅立ちが近いんだな……



<<ステータス>>

フェルディナント・エアハルト

 年齢:43歳

 冒険者:Aランク

 LV:47(Up!)

  生命力:310

  筋力 :215

  魔力 :126

  素早さ:172

 アクティブスキル:

  清風靇月せいふうろうげつ(New!)


ジリ

 年齢:不明

 黒豹メス

 LV:49(Up!)


エトムント・ベルゲングリューン

 年齢:43歳

 冒険者:Aランク

 LV:45(Up!)


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