第61話 この世界の問題を異世界人に頼るってのも情けねえ話だよ
「しっ!」
イーナが剣を振る。
ゴブリンの首がはね飛ぶ。
その体は切り口から赤い血を吹き出しながら、ゆっくりと倒れた。
落とされたゴブリンの頭は、何を見るでもなく、見ている。
イーナはそれを気にするでもなく、次のゴブリンを斬る。
「まだまだあ!」
すっかり冒険者だな。
聖女ってのはどんな存在だっけか?
もう、知らねえよ。
本日はイーナ、ジリと森へ魔物討伐に来ている。
で、エトムントとプリシラ、ロレッタも一緒だ。
仲良くなるためにとイーナが提案した。
魔物退治で仲良くなるったあ、どういうことだい?
イーナよ、すっかり思考が冒険者に染まっちまったなあ。
「あー……なんだ。まあ、元気でいいと思うよ。魔王を倒すための旅をするんだものなあ。強いことには問題ないさ。きっとなあ」
エトムントが苦笑いしているじゃねえか。
そうだぜ、体力はあったほうがいいんだ。
旅なんて体力がねえともたねえからな。
「しかし、少し凶暴かもしれねえなあ。聖女ってイメージがあるからなあ」
エトムントが頭をかく。
「いいじゃねえか、イメージなんてな。そりゃあ、他人が押し付けるもんだ。本人には関係ないだろうよ」
「まあな。だが、国も支援するんだから、イメージがなあ……」
うむ、まあ、そういうこともあるか。
『人間が持つイメージが何ですか! こちらは女神様の勢力なんですよ。堂々としていなさい!』
いや、ジリよ。
俺がいつ、女神様の勢力に入ったよ。
そりゃあ、ジリだけじゃねえか?
『先日、相棒といったじゃないですか。それなら強制でしょう』
あ、そうか、強制か。
まあ、良いがな。
どこにいたって、俺は俺がすることをするだけだ。
「イーナ、なかなかやるじゃないですか。やるときは確実にですよ」
「守られるだけじゃ、女はいけませんよね。男を尻に敷くくらいじゃないといけないですよね」
おい、侯爵令嬢がうれしそうに何か怖いことを言っているが?
侯爵も育て方をしっかりと間違えてんじゃねえか。
嬉々としてゴブリンを斬り殺しているぜ。
……いや、もしかしたらエトムントの教育か?
「エトムントよお。お前こそ、ずいぶんプリシラとロレッタをいい感じに教育したじゃねえか。あれでいいのかよ、侯爵令嬢?」
「いや……俺じゃねえよ。俺が教え始めたころには、すでに元気いっぱいのおてんば娘だったぜ。そりゃ大変だったんだからな……」
その言い方だと矯正できた感じじゃねえな。
全然、治ってねえよなあ。
むしろ悪化してるんじゃねえか。
まあ、一番悪いのは侯爵様ってことにしておこうや。
プリシラとロレッタ、侯爵令嬢。
彼女たちはエトムントの弟子だってよ。
その太刀筋はエトムントに似ている。
エトムントも冒険者としての活動があるから、いつも付きっきりってわけじゃなかったらしい。
だが、すっかりエトムント流だな。
で、すっかりお転婆が治らずに、嫁ぎ先が見つからず、軍人として身を立てているってことらしいぜ。
そうかな?
エトムントのそばにいたかっただけだと思う。
ま、ヤツもそれに気付いているだろう。
が、侯爵令嬢だからなあ、そりゃ難しいだろう。
ちなみに俺だったら怖気付いちまうぜ。
まあ、逃げるね。
「ねえ、フェル、どうだった!」
イーナが満面の笑みだ。
きっと褒めてほしいんだろうな。
「ああ、いいと思うぜ。だいぶ剣が素直に出てきていると思う。が、ゴブリンだって気を抜くなよ。何があるかわからねえからな」
「わかってる! もっと強いのを狩るんだから、見ててよね!」
イーナは張り切って戻っていった。
「イーナはこの森も慣れているから大丈夫だと思うが、プリシラとロレッタはどうなんだい?」
俺は彼女たちの実力を知らない。
まあ、ジリもついているから、大丈夫だとは思う。
ちなみにジリは猫型だ。
まだエトムントたちを信用していないみたいだ。
黒豹の姿は見せていない。
「ああ、彼女たちはBランクだ」
「ほう、あの若さでな。すげえじゃねえか」
同年代のラーレたちがCランクだ。
Bランクに行くには相当の訓練と実戦が必要だろう。
「魔物狩りも相当やったんだろうな」
「ああ、まあな。強くなるには基礎も大事だが、レベルも大事だからな。彼女たちの望みだよ。この世界で生きるのなら、なるべく強くしてやらなきゃいけない。それが生き残る可能性を上げることだからな」
ふーん、彼女たちを結構大事にしてるんだな。
まあ、それがラブかライクかは知らねえが。
「お前も聖女をよく鍛えてるな。同じ理由だろう?」
「さてな。聖女にそれほど戦闘力が必要かは、俺にはわかんねえよ。だけど、俺に教えられるのは剣くらいだからな」
「ああ、そうだな。俺たちはそれくらいしか持ってねえや」
勇者がどうかってのも気になる。
どんな奴なんだろうな、イーナと旅をするそいつは。
いいやつならいい。
悪いやつなら?
さて、どうすっかな。
勇者ってのは物語では英雄として描かれている。
しかし、みんながみんな聖人なんだろうか?
人間性はわからねえよな。
「どんな人間が勇者になるんだろうな」
「ああ……まあ、お前ならいいか。聖女の父親だからな」
エトムントが髪をかき上げる。
なに格好つけているんだよ。
「そろそろ召喚するらしいぜ、その勇者ってやつをよ」
「召喚か? 異世界から」
「ああ、異世界だ。エヴァルレンドラ帝国もだし、このアーベランロード王国もな」
異世界勇者ね。
しかし、この世界の問題を異世界人に頼るってのも情けねえ話だよ。
この世界の人間には魔王を倒せないんだろうか?
「俺らが魔王を倒せない理由があるってことかな?」
「いや、それは俺も知らねえな」
エトムントは首を振る。
「しかし、毎回、異世界勇者だ。異世界の若え奴だよ。戦ったことのないヤツらしいぜ。それを訓練して戦士に仕立てる……それは正しいのかねえ」
「いや、エトムント。国の偉いところに行ったおめえがいうセリフかよ。そうやって国を守るしかねえんだろう? 勇者を利用して国を守る。そうやってこの国は、人類は生き残ってきたんだろう?」
「まあなあ……だが、正しくねえかもしれねえ」
「ああ、それは正しくねえかもしれねえなあ」
勇者も勇者で大変かもしれねえなあ。
聖女も聖女で大変だと思う。
俺は勇者に会ったことはないんで、想像するだけだ。
俺は聖女を育ててるんで、イーナにはできるだけのことをしてやりたい。
そうだな、イーナが幸せならいいな。
全てが終わったら、その役目が終わったとき、イーナは何を望むんだろうな。
「死になさい、この豚野郎!」
「その破廉恥な顔をこちらに向けるんじゃありません!」
プリシラとロレッタがオークを切り裂く。
彼女たちが使用する剣は、俺やイーナが使っている剣と同じように無骨な実戦的なものだ。
きっとエトムントの趣味だな。
普通の侯爵令嬢なら派手な装飾の剣を好みそうだ。
いや、普通の侯爵令嬢は騎士にならねえか。
その時点ではみ出し者だな。
「しかしなあ。言葉遣いよ……」
「いいじゃないか。お前のイーナだって相当なもんだぜ」
「だが、侯爵令嬢だぜ」
「ははは。いいんだよ、彼女らは。親父さんも了解している」
「そりゃあ……どんな侯爵様だよ」
エトムントは笑う。
コイツは侯爵様に拾ってもらって、今の地位になったらしいからな。
俺との付き合いがあったから、更に聖女関連に取り立てられたらしいが。
しかし、それがなくてもそこそこの地位についているっぽいな。
まあ、偉くなったもんだぜ。
あのエトムントがよ。
「イーナちゃん、そっちに一匹行ったよ」
「対処よろしく!」
「オッケー。問題なし! ちょん切るよー!」
ま、イーナも、プリシラとロレッタと同程度の口の悪さかな。
彼女らもイーナが聖女だとしても普通に接してくれる。
いい友達になれるかもな。
……もう矯正は無理だよなあ、ははは。
『いいじゃないでしょうか。口が悪いくらいなんです。民衆からの人気など気にする必要はないでしょう。イーナ様はれっきとした聖女なのです。それだけで正しいのです』
ジリよお。
正しさなんて持ち出す時点で、無理矢理感が出てるじゃねえか。
ま、俺もこのままでいいと思うがな。
イーナはイーナだ。
それでいいじゃねえか。




