第60話 出世話を自慢しても面白くも何ともねえからな
エトムント・ベルゲングリューン。
昔の仲間だ。
パーティを組んでた、生き残りだな。
今は王都の方で冒険者をやっている。
で、Aランク冒険者だぜ。
俺もずいぶん離されちまっていた。
だが、俺もAランク冒険者になった。
ようやく追いついたってことさ。
「で、エトムントよお。なんだ、その服は?」
黒をベースにして、銀でアクセントをつけた軍服のような服を着ている。
なんだあ?
国軍にでも取り立てられたか。
政府の犬か?
「似合わねえなあ」
正直に言おう。
エトムントはイケメンだ。
だから似合っていたりするんだが、それを認めるほど、俺はできたおっさんじゃねえんだよ。
「フェルドがいつまでも汚ねえだけだ。ある程度の年齢が来たらキッチリとした格好をしねえとバカにされるんだぜ」
「すっかり王都にかぶれやがって」
「ははは! 羨め、羨め。田舎者が!」
すっかり金持ちになりやがってこの野郎!
人間格好じゃねえんだぜ。
ハートだハート!
『フェルドはもう少し身なりに気をつけたほうがいいでしょう。そこは素直に認めたほうがよいと思います』
ジリまでエトムントの味方かよ!
イケメン、絶滅しろ!
「隊長、遊んでないでください! クリフォード様たちがポカンとされております!」
「昔のお仲間と再会されてテンションが上がっておられるのでしょうが、隊長としての威厳を示していただけないといけません」
エトムントの後ろに、やはり同じような制服、しかしこちらはミニスカートの女性が二人。
ミニスカートにする意味はあるのかなあ?
おそらく、エトムントよりさらに上の役職のヤツとデザインしたヤツの趣味だろう。
さすがにこのおっさんは、年頃の女の子に強制でミニスカートをはかせる趣味はねえだろう。
んで、二人の顔はほぼ同じに見える。
双子かな?
その二人に叱られるエトムント。
「いやあ、だって、プリシラとロレッタだってさあ……」
「だってさ、じゃありません。言い訳は無用です」
「仕事はちゃんとしなければいけません。その上で再会を喜んでください。順番が違います」
おおう、なかなかに厳しい部下じゃねえか。
困り顔のエトムントが面白え。
『なかなかしっかりした部下たちですね。好感が持てます。おじさんたちはサボりがちになりますから、お尻を蹴りつけるくらいの女性が隣に必要でしょう』
なぜかジリが納得している……
おまえ、そういう感じで俺を見ていたのかよ。
俺はサボっていたわけじゃねえぞ。
ただ暇だっただけだ。
「あー、ということで、俺はエトムント・ベルゲングリューンです」
エトムントがクリフォード母に頭を下げる。
息子は無視なんだな。
蚊帳の外で、ちと寂しそうだぞ。
「『聖女守護騎士団』の隊長を拝命しております」
『聖女守護騎士団』?
なんだそりゃ。
聖女ってイーナのことだよなあ。
イーナと目を合わせ、首を傾げる。
「騎士団。そうですか。それでしたらこの失礼な冒険者を排除しなさい」
おおー、奥様、偉そうじゃねえか。
もう少しお仕置きが必要ってか。
「クリフォード様。聞いておられたでしょうか。私たちは『聖女守護騎士団』なのですよ。聖女様をお守りするのが役目なのです。そして、貴女様方が聖女様にしておられたことを拝見しておりましたよ」
おおう、エトムントの野郎、嫌みのねえ笑みを覚えやがって。
前はもっといやらしい笑い顔だったじゃねえかよ。
その笑顔がありゃあ、マダムはイチコロってか?
「な、何を言っているのです! 先に聖女と冒険者が暴力をふるったんですよ!」
ダメじゃねえか。
全然篭絡できねえじゃねえか。
「そうかもしれませんね。しかし、私たちは、ご子息が聖女様を連れ去ろうとしていたところも拝見させていただきました」
お、エトムントの笑顔がいやらしくなってきた。
そうこなきゃな!
「……っ」
「そして、我々は国王陛下の直属の騎士団なのです。さて、報告してよろしいでしょうかね。ご子息と貴方が聖女様にされたことを。確か国王陛下からお達しがあったはずですよ。聖女様に手を出すなと」
「そ、それは……」
「さてさて、どうなりますかね。あの国王陛下ですよ。面白いことになりそうですよねえ。クリフォード様は伯爵様でいらっしゃいましたよねえ。さてさて、獲り潰しにならなければよいのですが……」
悪魔みたいな笑みだな。
なかなか様になっていじゃねえか。
楽しそうだ。
「そ、そんな!」
「見逃してもよいと思っておりますよ。何もなかったんですよ。この街に貴方がたはいらっしゃっていない。だから、何もなかった。聖女様ともお会いにならなかった。そうですよね?」
「……くっ……」
「どうですか? 貴方がたはここにいらっしゃって、そして聖女様と問題を起こされたのでしょうか? それならば報告しないと我々が怒られてしまいますねえ」
「わ、私たちはここには来なかった! ウェストフェルトなんていう田舎町なんかには来ていません! それでいいのでしょう!」
「はい、ありがとうございます。さすがはクリフォード伯爵夫人。大変助かります」
エトムントは手を打つ。
「そう、今日は何もなかったんです。我々も何も見なかった。それでよいじゃありませんか。世の中平和でよろしい!」
おー、エトムントよ。
いつもの胡散臭さが出てきていいじゃねえか。
イケメンだから余計に胡散臭いよなあ。
それが持ち味ってもんだろうよ。
貴族様たちが立ち去るのは時間がかかりそうだってので、俺たちが移動した。
冒険者ギルドだ。
まあ、あれだ。
俺が馬車の車輪を壊したのが悪いんだがな。
「隊長、すっぱりと罰すればよかったんじゃないですか? 何です、あんなおばさんがよかったんですか」
「あんなおばさんにそんなに微笑みかけないでください。勘違いしかねないじゃないですか」
どこをどう見たらその感想になるかな、この子たちは。
どう見たって仲違いしてたじゃねえか。
それに伯爵夫人をおばさんて……
「ああ、この子たちは侯爵令嬢だぜ。ま、お父様に頼めば問題なしだ」
「おい、なんでそんな子たちがおめえの部下なんだよ」
「私たちは隊長を『慕って』、ここに入隊したのです」
「そうです。『慕って』です。聖女様は……まあ、そうですね。そこそこでいいでしょう」
ずいぶん「慕って」を強調するじゃねえか。
んで、熱い瞳でエトムントを見るじゃねえか。
が、エトムントは気付かねえふりで、無視か。
うん、あの顔は気付いてやがるよな。
「お前たちダメだぜ。俺たちは聖女様を守るために結成された部隊なんだ。第一優先は聖女様の安全だ」
気付いていて、そう言うんだ。
イケメンだから慣れてんだよなあ。
俺にはできねえことだ。
「でも隊長!」
「私たちは!」
「お前たちのこともちゃんと考えているからな。ちゃんと見ているよ。それは本当だぜ」
エトムントはニコリと笑う。
まあ、隊長だからな。
そりゃあ部下のことは考えるだろうがよ。
「そ、それならいいんです」
「まったく隊長ったら」
で、赤くなって俯くお嬢様方……
チョロすぎだろうが。
『フェルドだと似合わないでしょう』
「そうだね。フェルはダメだよね。私、笑っちゃうかも」
ひでえな。
俺だって若い頃は……
何もなかったわ。
で、エトムントは俺と同い年だよ。
「というわけで、イーナ様、よろしくお願いします。フェルドの友人のエトムントです」
「あ、フェルのお友達なんですよね。イーナでいいですよ。それに敬語もいらないです」
「お、そうかい。それは助かるよ。敬語ってのも疲れるからなあ」
エトムントは手を差し出す。
「よろしくな、イーナ」
「うん、よろしく、エトムント」
イーナはその手を取って、握手した。
「で、その『聖女守護騎士団』ってなんだよ、エトムントよお。騎士じゃねえじゃねえか」
馬に乗っていないから、騎士じゃねえよな。
「おう、バカか、フェルド。だいたい国王直属の武力団体は騎士団つーんだよ。馬に乗る必要はねえんだ」
「バカは余計だ、バカ、エトムント。で、なんでおめえがその聖女の騎士団なんだよ」
「おう、バカフェルド。ウチの国は基本、聖女をそのまま育てる方針なんだぜ。だが、聖女だ。貴族どもが権力のために欲しがるのもいつものこと。つーわけで騎士団だ。んで、聖女の父親であるバカフェルドの友人つーことで、いい感じで近くにいた俺が選ばれたってわけだ」
良い感じって何だよ?
「じゃあ、バカムントは俺のおかげで出世できたってことか?」
「そんな感じだと思って結構だぜ、バカ……」
「違います!」
「隊長は優秀ですから選ばれたんです!」
お嬢さんたちが口をはさむから、「バカ」で止まっちまったじゃねえか。
なんか「バカ」だけで呼ばれるんはダメじゃねえか?
ただの悪口だよな。
「プリシラ、ロレッタ、いいんだよ。フェルドじゃなけりゃあ、俺が選ばれなかったのは本当だと思うぜ。ま、いいじゃねえか。それでな」
はははと笑う。
ま、エトムントが優秀なのは知っているからな。
お嬢さん方は納得がいってないようだが、ただのじゃれあいだぜ。
おっさん同士なんて、こんなもんだ。
出世話を自慢しても面白くも何ともねえからな。
バカだバカだと言っていたほうがずいぶんまともだと思うぜ。
「あれえ、エトムントさんじゃないですかあ。四年、いや五年ぶりですかねえ」
「おう、ドミニク、久しぶり。お前もずいぶんおっさんになったなあ」
「そりゃあ、もうアラフォーですからねえ」
ドミニクが依頼から帰ってきた。
のだが、一緒にラーレ達がいる。
結構仲良くやっているよな、ドミニクも。
が、ドミニクは妻子持ちなんだからな、気を付けろよ。
「あー、イケオジがいる!」
ラーレが叫ぶ。
そうなるよなあ。
「誰、誰です! 結婚してますか? まだフリーですか!」
いやあ、圧がすげえなあ。
ラーレ、すげえな、エトムントを引かせるなんて。
つーことで、俺が答えてやろう。
「ああ、こいつは俺の友人で、エトムントってんだ。Aランク冒険者だぜ。のくせに独り身だ。狙い目だぜ」
うん、独身だってことをアピールしてやろう。
幸せになってくれよ、エトムント。
「Aランク! わ、私もフリーなんです! どうです、今度!」
ラーレはテンションが上がって、エトムントはため息、お嬢さん方は俺を睨みつける。
はっはっはっ!
面白えじゃねえか!
『フェルドも意地が悪い。ですが、楽しいことではありますね』
「ジリも意地が悪いと思う。フェルもね」
なんか最近イーナの俺の評価が落ちている気がするんだが……
「エトムント隊長は仕事でここに来ているんです!」
「冒険者の女性に関わっている暇はないんです! むしろそんな暇があるなら私たちと一緒に遊んでほしいです!」
お嬢さん方がラーレ達に凄む。
が、なにか本音が混じっているようだぜ。
「あなたたち、ただの部下でしょ? なら他人じゃないの。私と条件は一緒だね!」
「た、他人!? じゃないわよ! 私たちと隊長には長ーい歴史があるんです!」
「あんたのほうこそ、ただの冒険者のくせに何言ってんのよ!」
「あー、あー、冒険者を差別するんだー! そんな心の汚い子たちより、私のような純粋な女の子の方がいいよねー!」
「女の子って歳でもないでしょうに!」
「鏡を見たことがあるの、あなた!」
「あー、そんなことを言う? あんたたちだって二十歳越えの行き遅れじゃないの!」
ああ、そうだな。
早い女性は十代で結婚するからな。
しかし、お前ら、まだ二十歳かそこそこだろう。
それでそのセリフかよ。
向こうでマリアンネさんが……
いや、怖えから見ねえよ、俺は。
俺はとても若いと思うぜ、マリアンネさん。
んで、美人だと思う。
ま、四十過ぎの俺に言われても意味はねえと思うがな。
「あーと、フェル。私たち帰ろうか」
「ん、いいんじゃねえか。俺たちは必要なさそうだしな」
「おい、フェルド。どうすんだよこれ! 収拾つけてからにしろよ!」
エトムントはイケメンだから、こんなこと慣れてるだろうよ。
もう少し待てば、シャノンたちも帰ってくるだろうな。
そうすりゃアシュリーあたりがエトムントに食いついて更に混沌とするだろう。
それも面白い……
が、さすがに混沌がすぎらあ。
俺には重いって。
「つーわけで、さらばだ!」
「何が、つーわけでだ! 話が全然進んでねえだろうがよう!」
「ま、それは後ででいいよ。頑張れ、エトムント!」
帰って、エルマさんの料理を食べたいねえ。
向こうのほうが静かでいいや。
これはエトムントの修羅場だからな。
俺には関係ないことだぜ。
『しかし聖女守護騎士団ですか。怪しい名前の団体ですよね。怪しい行動をしなければよいのですが……』
「ジリ、まあ、心配するこたあねえんじゃねえか。エトムントがトップなら問題ないだろうよ」
『そうでしょうか? トップが友人でも、しかし、その部下はどうなのでしょう。人が増えると問題は発生しますよね、比較的』
国王直属の騎士団ねえ。
聞いたこたあねえや。
が、ま、大丈夫じゃねえんだろうか。
エトムントだから、どうにかしてくれるだろうよ。
バカだが信用はできるやつだ。
『フェルドはそれでいいんでしょう。しかし、くれぐれも気を抜かないようにお願いしますよ』
「おう。ジリも頼りにしてるぜ」
「イーナ様を守るのが私の役目ですしね。……私も少しはフェルドを頼りにしてますよ」
少しだけかい。
ま、いいがな。
王都、騎士団、貴族……か。
ま、俺とジリがいりゃあ何とかなるかな。
最悪逃げちまえばいいしな。




