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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第5話 恋愛の対象が男性な人たちの冒険者パーティだ

「おっと、そうだ。おめえ、金、ねえだろ?」


バルドゥルとの手合わせの後。

いきなりなんだよ、このおっさん。

失礼極まりねえな。

だが……


「……ああ、ねえよ。だから、なんだよ!」


嘘をついたところでしょうがねえ。

ギルドにはこちらの懐事情はばればれだろうよ。


「イーナに貧乏生活まではいいんだが、食べられねえで死んだら元も子もないからな」


うるせえよ。

そこまで貧乏じゃねえよ。

Cランクに戻ったし、左腕もあるし、依頼をこなせばいいだけだ。

今、手元にねえだけだ。


「少しギルドで援助してやろうかと思ってな」


「ありがとうございます。さすが、持つべきものはギルドですね。助け合いの精神は美しいものです」


さすが、バルドゥル。

最高のマスターだぜ。


「……ああん? 気持ちわりいな。下手なゴマすりはいいから、ついて来いや」


ギルド内に戻る。

マリアンネさんはいつの間にかギルドに戻っていて、すでに用意済みだ。

さすが、できる子だな。

このマスターと一緒に仕事ができるだけはある。


「フェルドさん、こちらです。他に必要なものがあったら言ってくださいね。用意しますから」


当面の資金、子供服、オムツ、タオル……


「お前、マジックバッグ貰ってるよな」


さすが、バルドゥル、それもお見通しか。


「気をつけろよ。それは人を狂わせる。見せびらかすんじゃねえぞ」


「んなこたあしねえよ……」


マジックバッグな。

中の空間が拡張されている魔法の鞄だ。

そして、こいつは女神様から貰ったもの。

容量もでかい。

んな希少な品なら、人を殺してでも奪おうとする奴もいる。

まあ、俺の命なんて、マジックバッグより軽いってもんだ。

昨日まではな。

今は、イーナを育てねえとならねえ。

死んでいる暇はねえんだ。

これはこれで、世界を背負ってしまったってことか……

まあ、いいさ。

俺なりにやろうと腹を括った。

どうせ、俺の命なんて、昨日終わっていたはずだ。

女神様に助けられた命。

この依頼に使ってもいいんじゃねえだろうか。


「で、ちゃんと剣も買えよな」


……本当によく見てやがる。

さすがは、ギルドマスターってところか。


「あれ……フェルドさん、剣はどうされたんですか?」


マリアンネさんは、イーナに気を取られすぎだな。

受付嬢として、もう少し観察力が必要だろう。

と、偉そうに言っても……

冒険者のくせに武器がない俺に言われてもって感じだよな。

んで、ちと恥ずかしい。


「ははは、昨日、その、転がったときに落としちまってね」


なるべく冷静を装って言ってみる。

まあ、情けねえことには変わりがねえんだがな。

マリアンネさんがカウンターに用意してくれた物を、素早くマジックバッグに詰め込む。


「本当にありがとう、マリアンネさん。いつも助かります」


「困ったことがあったら、すぐに相談してくださいね! なんでもですよ!」


マリアンネさんにお礼を言って、ギルドを出た。

マリアンネさんには情けない姿ばかり見せている気がする。

が、情けない男なので、しょうがねえやな。

今更、格好なんて付けても、意味ねえよなあ。



その足で、鍛冶屋のブルーノのところへ寄る。

この街にも一応鍛冶屋はあるんだ。

これがなきゃ、冒険者なんてできやしねえ。


「おう、フェルド。なんでも女に騙されて、子供だけ押し付けられたんだってな。おう、その子か。可愛い子じゃねえか。そうか、可哀想になあ。こんなに可愛いのに」


……どんな噂になってんだよ!

俺が女に騙されて、こいつを押し付けられた?

意外に間違っていないのか?

いや、女神様を疑っちゃあいけねえ。

騙されたわけじゃねえよ。


ブルーノとはずいぶん長い付き合いになった。

俺がこの街で冒険者をしている時間分だ。

俺よりも年上の、髭面の鍛冶屋だ。

んで、腕は確か。

近場の街の鍛冶屋じゃあ、一番腕がいい。

どうしてこんな辺鄙な街にいるんだって不思議に思う。

が、こいつも何か事情やら、物語があるんだろう。

聞くのも野暮ってもんだ。


弟子がいねえのが気になるがな。

こいつが廃業したら、冒険者連中も廃業か?

どっかから後継者候補を引っ張って来ねえといけねえんだが、しかし、こいつ頭が固えからなあ。

好みがうるせえんだよ。

若手なんて、自分で育てるもんだぜ、ブルーノよお。


「イーナは違うぞ、ブルーノ。まあ、お前にはすぐに伝わると思うから言っておくが、この子は聖女だぜ」


「あん? この子が聖女様だあ?」


ブルーノがイーナの頬っぺたを突く。

それなあ、柔らかくて突きたくなるんだよなあ。

だが……


「なー!」


イーナがブルーノの髭を掴み、引っ張る。


「おいおい、嬢ちゃん、やめてくれよ! 俺の自慢の髭が抜けらあ!」


反撃にあうんだよなあ……

俺は髪の毛を引っ張られた。

この歳になると、髪の毛ってのは敏感な問題なんだぜ……



「女神様ねえ……。まあ、お前の腕を見りゃあ、信じざるを得ないやなあ」


ブルーノはイーナに乱された髭を撫でている。


「すげえもんさ。左腕、完璧に復活しているぜ」


腕を回して見せる。

違和感も、ひきつれ感もねえ。


「この嬢ちゃんが聖女ねえ」


「ああ、昨日は赤ん坊だったんだが、だいぶ成長したよ。……何年で大人になるんだろうな。で、勇者と旅立つんだろうな」


「なるほどねえー、成長速度が速えのか。まあ、あれだ。お前はこの子に楽しい思いをさせればいいんだろうよ。そうすりゃ、辛い戦いも何とかなるってもんだ。あの楽しい日々を守るためってなあ……。それも悲しいか?」


「ああ、悲しいなあ、そりゃ」


魔王と戦う宿命を持った少女、か……

そのために育てる。

そりゃないよ、女神様さあ。


だけど、俺が悲しい顔はできねえさ。

悲しいのは俺じゃなくて、この子なんだ。

周りの大人が悲しい顔をしてちゃいけねえよなあ。

笑顔で、楽しく、それが一番だろうよ。


「で、剣なんだがな……」


ブルーノから剣を買う。

前使っていたのと同じ長さ。

だが、ちょっとだけ質がいい物を。

ギルドからの援助様様だ。

これで冒険者復活ってこったな。


「もう落とすんじゃねえぞ」


「わかってるよ。大事にするよ」


「ま、お前さんのこった、何か事情があったんだろう。武器なんかよか、人の命の方が大事だからしょうがねえけどな」


ありがとうよ、ブルーノ。

左腕もあるんだ。

もう心配かけねえように頑張るよ。


「おい、フェルド。イーナちゃんが難しい顔をしているぞ」


難しい顔とは?


「あ゙ー……」


一番風呂に浸かったかのような、気持ちよさそうな声……


「おー、スッキリしたらしい」


「それって、ションベンかウンチじゃねえか!」


おんぶ紐を解いて、イーナを下ろす。

オムツを開く。


「おしっこだな」


俺が使える唯一の水魔法『ウォーター』。

ただ水が出るだけのもの……

いや、これは冒険者にとって大変有用な魔法なんだ。

水の確保は生命として重要だ。

一パーティ、最低一人の水魔法使いってな。

水にタオルをつけ、イーナのお尻を拭く。

汚れたオムツをはずし、新しいオムツへと交換。

汚れたオムツはマジックバッグへ入れて、後で洗濯する。

オムツの紐を結んで、ズボンを履かせて、終了。


「なかなか手慣れたもんだな」


ブルーノが感心する。

エルマさんに教えてもらったからな。

感謝だ。



そんなこんなしているときに、来客があった。


「ブルーノさん、剣のメンテナンスなのですが……。あ、フェルドさん。いらっしゃいましたか」


男性にしては高い声、女性にしてはボーイッシュな声。

『清廉なる赤い薔薇』というBランク冒険者パーティ。

その魔法剣士のシャノン・ガーネットだ。

戦士のマリオンと魔法使いのアシュリーもいる。


「酷い女性に騙されたと聞きましたが……」


シャノン、お前もかよ……


「そんなんじゃねえよ。ちょっと込み入っていてな。そのうち話してやるよ」


「なぜ、今ではないんですか? 私とフェルドさんの仲じゃないですか! 隠し事ですか!」


シャノンが頬を膨らませる。

キリッとした美人に見える顔で、頬を膨らませて、不満をアピールしている。

可愛いんだがなあ……

だが、なあ、男なんだよなあ、こいつら……


つまり、あれだ。

この子たちは男性として生まれた。

が、女性的な可愛い格好をしたい、恋愛の対象が男性な人たちの冒険者パーティだ。

で、俺より強い。

Bランク。

この街の最強パーティだ。

個人だとギルドマスターのバルドゥル・バルツァーが最強だがな。

まあ、いつかシャノンがバルドゥルを超えるんじゃねえかと、密かに思っている。

将来、ギルドマスターかね。


そして、何故か、シャノンは俺を気に入っている……

俺の恋愛対象は女性だ!

だが、このシャノンは美人なんだよなあ……

肌もつるつるで、まつ毛も長い。

いい匂いもする。

髭とかどうなってんだ?

謎だよな。


ちなみに、マリオン……

フルプレートに身を包んだ戦士で、兜で顔も見えないが、中身は美少女……な外見。

若い男性が好みで、冒険者になりたてのルーキーを狙っている。

というか、食っている……

この街の若い冒険者の三割は、彼と寝たらしい……

本当か、嘘かわからない噂だ。

真偽を聞いてみたこともあるが、本人は否定せずに、笑っているだけだった。

怖いね。


アシュリー。

身長も低く、童顔で、可愛らしい……男性。

こちらはおじさんが趣味らしい。

が、守備範囲は俺よりも年上。

ギルドマスターのバルドゥルや、この鍛冶師ブルーノ、ドミニクにアピールしているらしいが、恋は実らず、らしい。

まあ、奴ら妻子があるからな。

そうそう落ちねえさ。

つーか、落ちたら困るよ。

だが、こいつも可愛いんだよなあ。

守ってやりたいって思っちまう。

つい、ふらっと……

可能性がないわけじゃないよなあ。

危ねえよなあ。

ドミニクは範囲に入っているってのが気に入らねえな。

あれは俺より年下だぜ。

あれか、顔か?

結局は顔なのか?

アシュリーにモテたいわけじゃねえが、しかし納得がいかねえ。


「ああ、この子がその子ですね」


「あー」


イーナはオムツ交換が終わり、床にちょこんと座って、シャノンに手を振っている。

上機嫌だ。


「フェルドさんが育てていくんですよね」


「ああ、そうだな」


「なるほど……それなら、やはり、フェルドさんは私と一緒になったほうがよいですね。男手一つで子供を育てるのは大変でしょう」


まあ、確かに大変なのだろうが……


「フェルドさんは冒険者を引退して、子育てに専念してください。私がお金を稼ぎますから」


どうして、そういう結論になるんだ?

どうして、俺が冒険者を引退するよ!


「心配なんですよ。フェルドさんが怪我をしないかって。胸が張り裂けそうです」


「俺はそんな危険なことはしねえよ。それに左腕も復活したんだ、なんとかなるさ」


「え、左腕……。ああ、良かったです。フェルドさん、良かったですね……」


泣いて喜んでくれる……

が、なあ、なんで今まで気付かなかったんだよ。

俺の左腕の存在感よ……

せっかく復活してくれたんだからな。

俺は左腕のことをすごく大事に思っているからな。


「……フェルドさん。子育てで疲れた感じ。枯れた感じが増してる。……いいかも」


アシュリーが危険なことを呟いている気がするが、聞こえないふりだ。

まだ、疲れちゃいねえよ。

世間一般のご両親方にくらべりゃ、イーナの世話なんて、なんてこたあねえよ。


「アシュリー、フェルドさんは私のものだ」


「違うよ。まだ、シャノンのじゃない。僕にも可能性がある」


俺はシャノンのものじゃねえ!

アシュリーにもねえよ、可能性!

これ以上、ややこしくすんじゃねえよ。



まあ、あれだ。

この街にはいろんな奴がいる。

で、みんなそれなりに気のいい奴らだ。

何とかなると思う。

なあ、イーナ。


「うー、あー、あー!」


イーナも元気だ。

シャノンたちのやり取りを楽しそうに観戦しているな。

どう理解してるんだか?


まあ、こいつらはいったんおいておこうや。

俺は頭がよくねえ。

考えたってしょうがねえんだ。

体を動かしてナンボだ。

さて、少しだけお仕事を頑張りますかね。

ギルドからもらった金だけじゃ生きていけねえんだよ。

貧乏暇なしさ。



<<ステータス>>

シャノン・ガーネット

 年齢:24歳

 冒険者:Bランク

 LV:37

  生命力:148

  筋力 :114

  魔力 : 99

  素早さ:107

 魔法属性:水(C)


マリオン・アーミテイジ

 年齢:22歳

 冒険者:Bランク

 LV:35

  生命力:180

  筋力 :147

  魔力 : 45

  素早さ: 77

 魔法属性:金(D)


アシュリー・バーネット

 年齢:23歳

 冒険者:Bランク

 LV:31

  生命力: 83

  筋力 : 69

  魔力 :177

  素早さ: 73

 魔法属性:木(B)


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