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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第4話 お前と俺じゃあ、実力差がありすぎるだろうが

冒険者ギルド、荒くれ者どもが集まるところだ。

そんなもんで、街の端の方に追いやられている。

多少の疎外感があるが、しかし、冒険者ってのはそんなもんだから、しょうがねえよな。


ここまで顔見知りに色々と聞かれたが、「後で」の一点張りで突破した。

今日中には、俺の子連れの噂が広がるだろう。

どんなだよ?

ロートルのうだつの上がらない冒険者が、女っ気もないのに、子供を連れていた……

想像力を掻き立てるねえ。

実は他の街の女性がいて、出産させた。

女性は他の男ができて、子供を押し付けられたとか。

幼女趣味で、どこかの子供を攫ってきた。

自分の守備範囲の年齢になるまで、自分で育てるんだとか。

エトセトラ、エトセトラ……

まあ、こんな田舎の街、噂話が娯楽だからな。

色々な噂が立つだろう。


こりゃあ、街を出たほうがいいか?



「あー、マリアンネさん。ちょっと、マスターに話があるんだが……」


ギルド内はザワザワしている……

あー、あれだ。

俺が原因だな。

だが、無視だ。

しっかりと無視するぜ。


「おはようございます、フェルドさん……。え、と……そのお子さんはどうされたんですか?」


ほら、マリアンネさんも目が点だ。


「ああ、この子のことで、ちょっと込み入っていてね。バルドゥルに話があるんだよ」


「はあ、そうですか。フェルドさんが緊急ということは、私事じゃないんですよね。……それで、フェルドさんのお子さんということではないんですよね?」


「ああ、この子のことは……緊急かもしれない」


イーナは、冒険者たちのむさい顔を眺めて、楽しそうにしている。

怖くないのかねえ?

さすが、聖女というところか。



マリアンネさんと一緒にギルドの二階のギルドマスターの部屋へと移動する。


「失礼します、マリアンネです。緊急の要件です」


彼女がドアをノックする。


「おー、いいぞー。暇してたからなー」


中から、野太い声が返ってくる。

……暇なのかよ、バルドゥル。

仕事しろよな。

部下に書類仕事、ぜんぶ任せているんじゃねえだろうな?


この街の冒険者ギルドのマスター、バルドゥル・バルツァー。

俺の数年先輩の元冒険者だ。

年齢は40代中盤。

30後半で冒険者を引退し、ギルド職員になり、前マスターの引退もありギルドマスターを引き継いだ。

ランクは元A。

まだ、レベル40超えだろう。

身長がでかく、筋肉質で、熊のようなやつだ。

怪力の戦斧使い。

恐らく、いまだこの街の最高戦力だ。


「おう、フェルドか……。なんだあ、お前、いつ結婚した? で、もう子持ちかあ? めでてえじゃねえか!」


「違うって、バルドゥル。俺の子じゃねえよ」


イーナは不思議な生き物を見たように、じっくりとバルドゥルを観察している。

この筋肉馬鹿の強面を凝視できるとは……

やはり大物かも知れねえ。


「で、その子がらみか?」


「ああ、ちょっと不味いかもしれねえ」


「お前がか? 街がか?」


こんななりだが、バルドゥルは頭がいい。

学力があるってことじゃなく、頭の回転が速いということ。

まあ、見た目は野獣だがな。


「国……いや、世界かもな」


「ふん。マリアンネ、ドア閉めとけや。で、一緒に聞いとけ」


「あ、はい。……私もですか?」


「子供のことだ。女性がいたほうが便利なこともあるだろう」


「はい」



さて、どこから話そうか……

ぼつぼつと話し始める。

俺は話が得意じゃねえからな。

まあ、面白く話す必要もねえか。


「はははっ、穴に落ちたか! 相変わらずのドジっ子だな!」


問題はそこじゃない。

食いつくところが違うだろうが。

こんなおっさんを捕まえて、ドジっ子はないだろうが。


「がははは、笑わせるなよ! ……で、女神と聖女か」


急に真面目になるなよな、おっさん。


「ああ、左腕も治してもらったしな」


「え! 左腕がある!」


マリアンネさんが口を押えて、驚いている。

バルドゥルのおっさん(俺の五つ年上な)も目が点だ。

いや、左腕って目立つと思うんだが。

わかっててスルーしていたんじゃねえのかよ?


「すみません! その……フェルドさんが子供を背負っているのが衝撃的過ぎて、気付きませんでした」


「いいですよ、マリアンネさん」


「でも、良かったですね。本当に良かった……」


彼女は本当に嬉しそうに、涙ぐんで……


「マリアンネ、おっさんの左腕はどうでもいいんだよ。それよりも聖女だ」


いや、合っているが、バルドゥルも少しは感動しろよ。

十年来の付き合いだろうがよ。

あれ、そういや、宿のエルマさんもスルーだったな……

俺の左腕の存在感とは……?

俺の二十年は……

まあしかし、聖女が重要だということは合ってはいるんだよな。

きっと俺の左腕より重要なんだよな。


「確かなのか?」


「俺の腕も治す存在だぞ。あの方は女神様だよ。そして称号だ」


「『聖女の養育者』か。マリアンネ、魔道具持ってこい」


マリアンネさんが魔道具を持ってくる。

あのレベル・ランクを判定するヤツだ。

昨日、お世話になったな。


昨日と同じように魔道具に手を乗せる。


「あ、あります! 『聖女の養育者』あります!」


この魔道具はレベルと同時に称号も確認できる。

犯罪者等を判断するためだ。

ま、詳細な能力は判定できねえが、しかし、高性能だな。


「ちっ……本当だったか。嘘だったらよかったんだがな」


バルドゥルが舌打ちする。

さて、どういう感情なのだろうかな。


「ついでに、イーナも測ってみろや」


イーナをおんぶから下ろし、前抱きに抱っこする。

手を魔道具にのせる。

イーナは不思議そうに見ている。


「……見えません。何も……」


魔道具では聖女を測定できないらしい。


「ま、そうだろうな……。まったく面倒臭えことになった」


バルドゥルがガシガシ頭を掻く。


「まあ、『養育者』に選ばれたのが、フェルドだったのが救いか」


「どういうこった。俺は子育てなんてしたことないぞ」


「そういうことじゃねえんだよ。聖女だぞ。聖女の親だ。そいつが、どんだけ権力持って、影響力持つかってこった」


「あん? 俺はそんなのいらねえぞ」


「まあ、お前だからな。だからよかったんだ。聖女を上手く使って上に行こうとする奴がいるだろうってこった。こりゃあ、本部のほうには黙っとくかあ?」


「しかし、マスター。それは……報告の義務が……」


「マリアンネは真面目過ぎんだよ。報告忘れちまったって、しらばっくれればいいだけのこった」


「聖女様なんて重要案件を、忘れたじゃすまされないでしょう!」


「いいんだよ。こんな田舎街、だれも気にしねえって! 少なくとも、このちっこいのが大きくなって、自分で考えられるまでは静かにしておくんだな。それをしなきゃならねえんだ、フェルドは。そして俺たち、この街は」


ん?

街ぐるみか……


「どういうことだ、バルドゥル?」


「フェルドは知らねえか。マリアンネは?」


マリアンネさんは首を横に振る。


「まあ、知らねえのも仕方ねえか。賢者グウェナエル・フリオン。そいつがある本で書いていたんだがな。『聖女が健やかに育つのが最重要である。それは恐らく世界の存亡に関わることだからだ。彼女たちは正しく、幸せに育たなければならない。決して悲しみの中で育ててはいけない。それは世界の悲しみに繋がるからだ。人類の存亡にかかわる事柄だということは明白である』。そんなところだったはずだ」


こいつ、本なんか読むんだな……

顔に似合わず、博識なところ見せやがって。

まあ、それはそれとして……


「そりゃあ、聖女なんだから、よい子に育たないとダメだろう。そうじゃないと、勇者と一緒に魔王討伐なんてしてくれないからな」


「ああ、それもあると思う、が、だ。フリオンの書き方だ。なんかまどろっこしいたらありゃしねえ。それ以上に何かあるんじゃねえかってな、思っちまうんだよ」


賢者グウェナエル・フリオン。

歴史上でも有名な賢者の一人だったか。

最も神に近づいた賢者とか、そんな呼ばれ方をする人だ。

俺たちより何かを知っている可能性は高い。


「上のほうに知られて、お前からイーナを取り上げる。たぶん、それがダメなんだと思うがね。お前が『聖女の養育者』に選ばれた。そこで育たないとダメなんじゃねえかな」


「俺が育てるのは逃れられないってことか……」


「ああ、諦めな。まあ、女神様が選んだんだ。どうにかなるだろうって」


簡単に言うなよ……

なんか、プレッシャーがすげえよ。

押しつぶされるよ。


「私たちも手伝いますから、一緒に頑張りましょう!」


マリアンネさんの優しさが沁みる。

おじさん、泣けてくるよ。


「そういや、魔王はいいのか? 聖女が誕生したってことは、魔王が現れるだろう」


「ま、そいつはいいや。国の上のほうが勇者を召喚するだろうよ。そいつがどうにかするんだろうぜ。こんな辺境な街には関係ねえこった」


「いや、いや。イーナは、そのどうでもいい勇者と、魔王を倒さなきゃならんだろうが」


「勇者なんだから、どうにかするだろうって。心配するなよ。魔王がはびこったこたあねえんだからな。歴史上」


おい、おい、勇者も大変だな。

このおっさんにはまったく感謝されてねえぞ。

まあ、こんなむさいおっさんに人気が出ても、迷惑だろうな。



「あ、そうだ、フェルド」


「まだ、なんかあるのかよ……」


「お前の実力確認させろや。どうせ、ステータスがアップしてんだろ。女神様の祝福だからな」


やはり、女神様の祝福はそんな感じの能力か。


「やだよ。お前と俺じゃあ、実力差がありすぎるだろうが」


こいつ、元Aランクだからな。

そして、まだ、LV40を超える化け物だろう。

俺が相手できるはずはねえんだ。


「俺に勝てねえのはしょうがねえが、強くなんなきゃいけねえからな。聖女の養育者は」


なんとなく、それはわかる。

これから何か問題があるかもしれねえ。

上にバレるかもしれねえ。

そのときに俺が弱いままだとダメだ。

せめて足手まといにならねえくれえには強くならなきゃ、この子を育てられやしねえよな。


「ああ、ちょっとだけだ。ちょっとだけ、先っぽだけ、ちょっとだけでいいんだ」


お前の戦斧を先っぽいれられたら死ぬわ!


「……マスター。セクハラです。本部に報告しましょうか」


ほら、マリアンネさんに怒られるだろう。

彼女は冒険者ギルドなんて、荒くれ者を相手する職員なんだ。

優しいだけじゃなく、怖いんだぜ。


「ははは、お前も、そんなんだから、嫁の貰い手がつかねえんだぞ!」


「セクハラですね。……何回も報告しているのに、本部も動かないんだから。とっとと、このおっさんを左遷してくれればいいのに!」


まあ、冒険者ギルド、上の方には、こんなおっさんばっかりってこったなあ。

そいつらを一掃しない限り、変わんねえかもなあ……

いっそ、受付嬢たちがストでもすれば、冒険者ギルドはたちどころに運営に支障をきたすと思うんだがなあ。

彼女たちの優しさに支えられてるって気付かないかね?



ギルドの裏庭、練習場がある。

まあ、田舎のギルドだ。

土地だけは広い。

幸い、今は誰も訓練していない。

というか、訓練する奴が少ない。

若い奴らは「訓練より、実戦」と言って、魔物討伐に出る。

確かに、魔物を倒す方がレベルアップは速い。

が、それは、ステータスが上がるだけ。

技量が上がるわけじゃねえんだ。

ステータスだけでは乗り越えられねえ壁ってもんがある。

……技量だけでも乗り越えられねえ壁があるがな。



バルドゥルは練習用の槍を構えている。

奴の得意武器は戦斧。

が、練習用の戦斧なんてもんはない。

練習用の槍を使う。

まあ、ただの棒ともいう。


俺は木剣……

あ、俺、剣なくしてたわ。

どうしよう……


「お、そうだ。お前、イーナを背負ったままな」


「あん?」


「お前、冒険者家業を続けるんだろう。その間はイーナをどうする? 一緒に連れてくだろうが。とすると格好はそれだろうが」


ああ、なるほど。

仕事中はイーナを背負っているのか……

想像していなかった。

確かにイーナを宿に置いておくことはできねえ。

マリアンネさんに迷惑をかけすぎる。

そして『聖女』。

一人にするのは危険かもしれねえ。

事件に巻き込まれるかもしれねえよな。

それなら、俺が近くにいたほうがいい……

やはり、俺の実力が足りねえか……


イーナを背負い直す。


「あー、あー」


ペシペシと頭を叩かれる。

「頑張れよ」みたいな感じか?

しかし、これは……

後ろに倒れられない。

転げまわっての回避とか不可能。

思った以上に戦いにくい。


「じゃあ、打ち込んで来いや。俺が攻撃したら、あっさりと倒しちまうからな!」


まあ、そうなんだが……

こっちの自信とか、そういうのも考えろよ、ギルドマスターよ。

冒険者に自信を持たせるのも、マスターの仕事じゃねえのかよ?


やるしかねえ、なら、やるだけだ……

おうよ、少しひねくれた攻撃をしてやろう。


アクティブスキル《袈裟懸け》。

剣スキルで袈裟懸けに斬るものだ。

通常の攻撃よりも威力が増す。

が、アクティブスキルは決まった動作しかできねえ。

途中で動きを変化させることができねえんだ。

読まれたら、対応されちまう、諸刃の剣だ。

しかも、《袈裟懸け》程度の低スキルではバルドゥルには通用しないだろう。


だから、《袈裟懸け》は発動させず、しかしその動作をトレースして攻撃する。


「はん! 単純すぎじゃねえか!」


バルドゥルは棒で受ける動作。

が、これは《袈裟懸け》じゃない。

俺は剣の軌道を変える。

下から切り上げる。


「おう! 器用なことをする!」


チッ!

上半身を反らし、避けやがったか。

しかし、体勢を崩している。

チャンスだ!

体は動く。

さすが、ステータスが上がっただけのことはある。

若い頃に戻ったような気分だぜ。


しかし、このおっさん、デカい癖に器用に避けやがる。

当たる気がしねえ……


「ははは! 元気じゃねえか、おっさんよお!」


「お前の方が年上だろうが! このくそ爺が!」


「まだ、爺の歳じゃねえよ、っと」


バルドゥルが棒を振り回す。

木剣で受けるが……重い!

この馬鹿力が。


一度距離を取る。


「そんなもんかあ? まだまだ、できるよなあ!」


うるせえよ……

こんなもんだよ。

俺は全盛期でCランクだぞ。

Aランクのお前に敵うわけねえだろうがよお。

が、何か……

もう少し何かできねえのか?


『……お嬢……様……力を……』


頭の中、声が聞こえる。

イーナも聞こえているようで、声の方向を見ている。

そして、背中で魔力の上昇を感じた。


「うーあー!」


イーナが俺の頭を叩く。

クッ……なんだあ?

大量の魔力が流れ込む!

体が熱くなる。

剣に力がこもっている。

強力なバフか!

しかし、強すぎだぞ、イーナ。

だが、これなら!


《疾風突き》。

まあ、これも低ランクのアクティブスキル。

ただの突撃系の突き技だ。

だが、イーナの力が乗った今なら……


一息でバルドゥルとの距離を縮める。

片手突き。

風の力。

そうか、イーナは木の女神、メルフェイーナ様の聖女。

風属性か。


「むん!」


バルドゥルが棒で受ける。

が……


「折れたか」


「折れたな。がははは!」


俺の剣、そして、バルドゥルの棒は折れた。

この勢いの攻撃に木剣、棒が耐えられるわけがねえよ。


「あ、あ、あー!」


イーナもバルドゥルの真似をして、きっと「がはは」と笑っている。

……将来ガサツな聖女にならないだろうか?

俺は心配だよ。


「いいじゃねえか、お前ら! いいコンビだな! 合格だ、合格!」


「何の試験だったんだよ」


「合格と言ったのは勢いだ! どちらにしろ、お前が育てないといけねえからな!」


意味わからん、このおっさん……


そういえば、頭に響いた、あの声は……?

周りを見渡す。

ここにいるのは、バルドゥルとマリアンネさんだけ。

それらしい人はいない。

鳥がさえずり、黒い猫があくびをしているだけ……

おっきいあくびだな、おい。

犬歯が見えるぜ。


まあ、いい……

女神様に聖女。

俺はずいぶん大事に巻き込まれたらしい。

まあ、魔王を倒せとか言われてないだけ、ましか。

だが、イーナはそれをするんだよなあ……

バルドゥルとの手合わせが楽しかったのか、背中ではしゃいでいる幼児。

この子がね……

女神様、貴方は本当に正しいですかい?


おう、レベルアップしている。

バルドゥルが「やっぱり、俺みたいな高レベルとやりあうと、経験が違うんだよなあ」と喜んでいた。

レベル差がありすぎんだよ、たく……

もう、やらんぞ。

それと、レベル20で、Cランクに戻った。

よかったんだが、なんだかなあ……

前にCランクに上がるときは、あんなに苦労したってのによう……



<<ステータス>>

フェルディナント・エアハルト

 年齢:40歳

 冒険者:Cランク

 LV:20(Up!)

  生命力:131

  筋力 : 88

  魔力 : 48

  素早さ: 70


イーナ

 年齢:不明(1歳相当)

 LV:不明

 称号:不明


バルドゥル・バルツァー

 年齢:45歳

 冒険者ギルドマスター(元Aランク冒険者)

 LV:45

  生命力:293

  筋力 :212

  魔力 : 64

  素早さ:116

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