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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第58話 一昨日来やがれ、糞して寝てろ!

「何の用だろうね?」


バルドゥルに呼び出されている。

きっと面倒な話なんだろうな。

気が重えや。


「まあ、たまにはいい話もあるかもしれませんから」


ほら、マリアンネさんも苦笑いしてるじゃねえか。

どんな扱いだよアイツ。

有事の際は頼もしいが、平和なときは邪魔ものかよ。


「おい、バルドゥル。入るぞ」


「おう、フェルド、待ってたぜ」


ヤツの手には一通の手紙があった。

封は切られて、ヤツが読んでいたところだ。


「で、何だよ、用って?」


「んあ。これだ、これ」


手に持っている手紙をヒラヒラと。


「面白いぜ。読んでみろよ」


バルドゥルから手紙を受け取る。

ばかに上質な紙だ。

で、きれいな字がびっちりと書かれている。

……ああ、そっちの話か。


「ねえ、何、フェル。教えてよ」


「おう、つまんねえもんだぜ。燃やしていいよな、バルドゥル」


「いいんじゃねえか。いらねえだろ。燃やせ、燃やせ。大した燃料にもならねえがな」


「聞いてる、ねえ、聞いてる。見せてって言ってんの!」


イーナがゴスゴスと拳を脇腹に入れてくる。

だがなあ……


「本当につまらねえ話だぜ。いいのかい?」


「いいから!」


イーナが俺から手紙をひったくった。

まあ、いいがなあ。


「えー、ナニコレ?」


イーナが汚いものを見るように手紙を読んでいる。


「ええっと……。『君の瞳は夜空の星々より輝き、唇はサクランボのように甘いのだろう。私の手が君の頬に触れることを夢に見る。私の手のひらで君の頬を温めてあげたい……』。セクハラ?」


まあ、気持ち悪い文章ではあるな。


「ああ、求婚だろう。イーナを妻にだってな。知らねえ貴族が結婚を申し込んできたんだ」


それにしても、もうちょっと口説き文句を勉強したほうがいいと思うよなあ。

男らしく「あなたを一目見たときから決めていました、結婚してください」か?

いや、会ってもいねえんだよな。

噂話での求婚だ。

明らかに聖女が欲しいだけだ。

イーナが欲しいわけじゃねえ。


「え、貴族ですか」


マリアンネさんが驚く。


「そっか、イーナちゃん聖女だから」


「ま、そういうこった。デイヴィッド・フィッツアランだっけか? マリアンネさん知ってるかい?」


「フィッツアラン家ですか……。確か伯爵家ですよね。デイヴィッドは、えっと嫡男のはず」


そっか、一応、嫡男の嫁というところではあるんだな。

伯爵家ねえ。

イーナが?

似合わねえなあ。


「普通の女の子なら玉の輿なんでしょうけど、イーナちゃんは聖女ですからね」


「ま、聖女の名声とかそんなものが欲しいんだろうよ」


ロクなもんじゃねえな。


「で、イーナはどう思うよ」


「え、フェル、どういうこと?」


「ん、貴族の嫁になりたいか」


「あー、それはないなあ。顔も見たことない人でしょ。少なくとも、求婚するんなら顔見せにくるのが誠意ってものじゃないの?」


至極もっとも。

上から目線ってことだよなあ。

そんなところへ嫁にいっても幸せにはなれねえだろうよ。


「でも、いいんですか。貴族の求婚ですよ。燃やしちゃって。後で問題にならないですか?」


マリアンネさんは心配そうだ。

普通、貴族には逆らわねえからな。

だがしかし、俺たちは冒険者なんでな。

貴族なんて権力には従わねえんだよなあ。


「がははは。いいんじゃねえか、マリアンネ。手紙は届かなかった! 俺は知らねえ! だって届いてねえからな」


「そうだな。手紙なんて見たこたねえ。つーことで、イーナ、手紙をバルドゥルに返してやれ」


「うん、バルドゥルおじちゃん、お願い!」


「がははは。このしっかりと丁寧に書いてある手紙ってのが、逆に泣かせるねえ。だが、燃えちまえや」


バルドゥルの火の魔法で手紙は燃え上がる。


「ははは。貴族の手紙ってのはよく燃えるなあ! やっぱり紙が上質だからか?」


バルドゥルは貴族が嫌いみてえだな。

俺も同じだからいいけどな。

一般人ってのは権力者が嫌いなんだぜ。

特に冒険者って職業につくようなヤツは、権力者ってのが大っ嫌いなんだ。

一昨日来やがれ、糞して寝てろ!


「で、問題はイーナが聖女だってことが、王都まで広まったってことだよな」


「そうですね。イーナちゃんへの求婚がひっきりなしに来るようになるかもしれないですね」


マリアンネさんの指摘は正しい。

面倒だ。

今回は手紙が届かなかったことにした。

が、同じ手は何回も使えねえ。


「私が正直に断ればいいんじゃないの?」


「いや、イーナよ。貴族ってのはそんなに単純なもんじゃねえんだよ。もっと醜悪な世界に生きている生物だ。黒い思考をすることが得意な、体面とはったりだけで生きているような生物なんだぜ。どんな手を使ってくるか」


イーナが心底嫌そうな顔をする。


「私、そんな世界で生活したくない! それって楽しくないんじゃないの!」


「いや、奴ら、それが楽しいのさ。謀り、謀られ、騙し、騙されるのが好きな奴らなんだぜ」


「変態じゃないの、それ」


「まあ、一種の変態だな」


俺の想像の向こうの生物だよ。

同じ人間に括りたくねえやな。


「えっと、フェルドさんの偏見もすごいと思います」


マリアンネさんが呆れているが、俺の偏見は直らねえぜ。

貴族は関わらねえのが一番だ。


「じゃあどうすればいいの?」


イーナが心底嫌そうな顔をする。

おお、いいじゃねえか。

俺の貴族嫌いがちゃんと影響しているな。


『そうですね。魔王討伐までは恋愛はないと明言するのでしょうか』


そうだよなあ。

魔王だよなあ。


「で、でも。私、恋愛できないの?」


「え、え。ジリちゃんが何か言ったの? イーナちゃんが恋愛できないってどういうことです?」


おっと、マリアンネさんが反応する。

ジリの話はイーナと俺だけにしか聞こえない。

ジリの提案を伝える。


「そうですね……。貴族なんかに関わっている暇はないですわよね。イーナちゃんは大変な責務を背負っているんですから……」


「がははは、その通りだな。魔王討伐がメインだってことだ! だが聖女は実際に気合入れないでも、どうにかなるんじゃねえか? きっと勇者がどうにかするだろうぜ!」


いや、バルドゥル。

キーは勇者じゃなくて、聖女かもしれねえって話もあるんだぜ。

しかし、確実なことはわからねえ。

モヤモヤする。

が、考えたってわかんねえだろう。

なら、考えねえ。


「今はそれを有効に使うことを考えるってことだな。手紙が来たら全部、魔王討伐後に考える、で返しちまえ」


「うん、手紙はそれでいいよね。だけど、私、魔王討伐まで恋しちゃダメなの?」


「いや、イーナ。そりゃ、建前ってやつだぜ。人の心は建前どおりにはならねえよ。そりゃあしょうがねえ話だ」


「え、フェル。どういうこと?」


「恋愛なんて心が決めることだぜ。理屈じゃ決まらねえんだ。心が動いちまったらしょうがねえ。しょうがねえから、バレないようにすればいい。んで、魔王を討伐したら結婚しちまえばいいんじゃねえか。貴族も面子があるんで、既婚者に求婚はしねえだろう」


「あ、なるほど!」


と、イーナは納得するがなあ……

貴族ってのは、イーナの相手を殺しちまって、奪うって可能性もあるんだよなあ。

そんな非道なことを考えるのが貴族だよな。


……イーナの相手?

誰だよそれは!

俺はまだ認めねえぞ!


『まだイーナ様に思い人がいるって話ではないでしょう。親バカではなくて、バカ親ですね』


うっせえよ。

将来のシミュレーションだよ。

イーナを欲しいんなら、俺を倒していけってな。


『Aランク冒険者を? 無茶を言わないでください。それではイーナ様に幸せな将来が訪れないじゃないですか』


バカか、ジリ。

俺はきっと相手を殴り倒す。

んで、イーナに叱られんだ。

俺は泣きながら、ボコボコの顔の男を認めるんだよ。

しょうがなくなあ。


『フェルドにボコボコにされたら、普通は死ぬでしょう』


だから、死なない程度の男じゃねえとダメってこった。

なあ、イーナ……

あれ?

イーナが怒っている。

やはり殴り倒すのはまずいか。


「フェルはダメダメだよ。ダメダメのダメだ!!」


機嫌を損ねたらしい。

頬を膨らませて睨んでいる。


「いや、すまねえな、イーナ。ちと将来を妄想しちまった」


「私は……まだフェルの娘でいいよ。私がいないとフェルは寂しいでしょ」


やっぱり睨んでいる。

イーナがいなくなったら、前に戻るだけか。

それは――寂しいのかもしれねえか。

ここは素直にそういったほうがいいのかもしれねえな。


「おう、そりゃ寂しいさ。イーナのいない未来は想像できないよ」


「フェルがちゃんとするまで、私が面倒をみてあげるよ」


少しだけ機嫌が直ったようだ。

代わりにマリアンネさんが険しい表情をしているような気もするが、よくわからん。


『こちらを立てればあちらが立たず。人生すべて丸く収まることはないのでしょう』


イーナとマリアンネさんが対立軸にいるってのがわかんねえんだよ。


「がははは! なんだ、フェルド。大変そうじゃねえか! あれだ。いっそ俺の娘をやろうか? それならイーナがいなくなっても寂しくねえだろ!」


「マスター!!」


「バルドゥルおじちゃん、バカじゃないの!!」


バルドゥルがイーナとマリアンネさんに一斉に怒られる。

さすがのバルドゥルも女性二人の勢いに怯む。


「お、おう。すまねえ、冗談だ」


バルドゥルに負けを認めさせることができるのは、マリアンネさんとイーナくらいだよなあ。


しかし、バルドゥルの娘さんねえ。

小さい頃に会ったことがあったがね。

確か王都の冒険者ギルドで働いていたはず。

向こうで彼氏でも作っているだろう。

俺には関係ねえや。


でだ、貴族ってのは暇らしいぜ。

それか、イーナがモテモテなのか。

変なのに絡まれるってのは、災難でしかねえよなあ。

実際に会いに来るんだかなあ。

面倒ごとってのは向こうから歩いて来るから、避けようがねえ。

なんとか無難にお引き取り願おうか。


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