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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第57話 ユージンとリディアにはこの街を楽しんでもらった

「……っ! 私の負けです」


シャノンの眉間のすぐ前、ユージンの木刀が突き付けられる。


「もう一回お願いします!」


シャノンがユージンに稽古をつけてもらっている。

シャノンは忙しいから、俺みたいに毎日稽古をつけてもらえねえ。

その分、真剣だ。

自分がこの街のギルドの戦力で、強くならなきゃならねえと思ってんだ。

まあ、そんなに気負わねえでもいいと思うけどな。

俺たちおっさんもまだ現役だからな。


次のギルドマスターはシャノンかな。

それまではバルドゥルに頑張ってもらおう。

腰が痛えとか言い出したら、イーナの魔法で回復して、無理矢理働かせりゃいいだろう。



ユージンとリディアが来て、二週間が経った。

そろそろ旅立ちのときということだ。

次は帝国へと、土の聖女と会いに行く。

心配なのは土の聖女の話が出ていないこと。

さて、どうなってんだろうな。


しかしメリスの話だと聖女は確実にいるはず。

金の聖女、火の聖女もどうやって、魔王のところまで行くんだろうな?

疑問だらけだよ。



そう、メリスんとこにも、リディアを連れて行った。

アイツも水の聖女が見たいだろうってな。

喜んでたぜ。


「み、水の聖女じゃな! そうか、そうか! 聖女が集まっている!」


「みを一つ増やさないでほしいわ。ミミズみたいじゃないの。なによ、ミミズの聖女って」


リディアは結構気にしているのかもしれねえな。

ミミズねえ。

畑には必要だぜ。

そんなに嫌わねえでもいいじゃねえか。


「それでフェルドさん。このちまっこいエルフさんは何なんですか?」


「ち、ちまっこいとは……。別に好きで小さいわけではないわ!」


意外に口が悪いんだよな、リディア。

イーナとは違う方向でな。

やっぱり聖女ってのは性格が強くなけりゃあ、やっていけねえんじゃねえのかな。


『イーナ様の口の悪さは、フェルド譲りでしょう』


すまん、ジリ。

しかし、行儀のいい冒険者ってのは少ねえもんだぜ。


「こいつはメリスっていってな。こんないちっさいがちゃんとした大人のエルフだ」


「ちっさいは余計じゃ!」


「で、聖女の追っかけでな。リディアと合わせてやりたかったんだよ。これでも聖女とか勇者に詳しいからな。アマチュアの研究者だよ」


「アマチュア? 趣味っていうことでしょうか」


「まあ、そんなもんだ」


「どうせ、お金にならないのじゃ。わらわが楽しければいいのじゃ」


少し拗ねたか?


「しかし、わらわは感動している! 水の聖女を見れた。すごいではないか。のお、フェルド。すごいではないか。ここに木と水の聖女。二人もおるのじゃぞ!」


うん、その感想は同意できねえ。

二人そろったからってどうなんだよ。

融合して、スーパー聖女になるわけでもなし。

数はどうでもいいじゃねえか。


「す、少しでいいのじゃが、触ってもいいのじゃろうか?」


おう、少し気持ち悪くなってきやがったぜ、このロリエルフ。

ほら、リディアが引いてるじゃねえか。

会わせるのは失敗だったか。


「のう、のう。いいじゃろう、いいじゃろう。少し、ほんの先っぽでいいのじゃ」


退場させた方がよさそうじゃねえか。

もう無理だな。

てい。


「のおおぉぉ!」


脳天に手刀を入れておいた。

メリスは頭を抱えて悶絶している。


「つーことで、こんな聖女フリークなエルフもいるってこった。まあ、コイツは覚えておかねえでもいいかもしれねえ」


「はあ……。何の意味があったんでしょう」


リディアがため息だ。

俺が恥ずかしいよ。

こんなエルフを紹介しちまった。

後で説教な、メリス。



「あれ、美人が増えています。女神様……女神様ですね! きっとここは天国でしょう。僕はいつの間に死んでしまったのでしょうか」


そういや、衛兵のコンラッドっていう変態もいたなあ。


「ねえ、リディア。この人はコンラッドっていうんだよ。面白い人でしょう」


「そうね、面白いわね、私を口説くなんてね。ユージンに勝ってからにして頂戴ね。ユージンはいつでも挑戦を受けるわよ」


リディアには一蹴されていたけどな。

懲りないのがこの男のいいところなのかもしれねえ。



まあ、そんなこともあったが、ユージンとリディアにはこの街を楽しんでもらった。

色々な定食屋とか甘味屋とかも連れて行った。

意外にユージンはあんこ系の甘味が好きで、リディアは肉食だった。


「ユージン、お茶をしみじみとすすらないで! おじいちゃんみたいじゃない」


「すまないねえ、リディア」


「その言い方もダメ!」


まあ、ユージンとリディアはそんな感じだ。

どこへ行ってもこんなんだろうな。

微笑ましい。



さて、彼らの出発の日だ。


「とてもお世話になりました。こんなに親切にしてもらったのは初めてですよ」


ユージンと握手をする。


「田舎の街だからな。それくれえしかできることはねえんだ。ならやるだけだよ」


「ははは。フェルドさんらしいですね」


「こっちのほうこそ稽古をつけてもらって助かったよ」


「筋のよい人がたくさんいて興味深いですね。失礼ですがこの街にと、興味深かったです」


冒険者って危険な職業で生き残ってるんなら、それなりにコツとかを学んでいると思うぞ。

この街がってのじゃねえ気もするがな。


「日々精進だよ。死にたかねえからな」


「それが言えるこの街の冒険者は強いですよ」


ユージンは嬉しそうに笑った。



リディアとイーナも別れを惜しんでいる。

リディアはマリアンネさんとかラーレ達とか仲良くなった人も多いらしい。


「ありがとうね。私、とても楽しかったわ。この村に来られて、イーナちゃんたちに会えてよかった」


「うん、私もリディアと会えてよかった。また、後でだよね」


「そうね。魔王なんてサクっと倒して、平和な世の中にしなきゃだよね」


「一撃必殺、一刀両断だ!」


そんなにサクっと魔王を倒せるといいな。

俺も安心するよ。


「リディアちゃん、頑張ってね。ユージンさんを離さないようにね。離れ離れになって迷子になっちゃダメだよ」


「ユージンのほうが迷子になりそうよね。ちゃんと手綱は握っておくからね。大丈夫よ」


もう首輪と綱が見えている感じもするな。


「イーナちゃんも頑張るのよ」


「うーん、私は……」


「ちゃんとしないとダメよ。自分に正直にならなきゃダメ。自分の胸に手を当てて自分が何を望んでいるか考えてね。それがわかったら、逃げちゃダメよ。約束ね」


「うん。ちゃんと頑張るよ」


よくわかんねえ話だな。

だが、自分の望みってのは意外と気付かねえもんだ。

それに耳を傾けることは必要だと思うぜ。

イーナは聖女。

だが、その前に一人の女の子だ。

男親には言えないような、悩みもあるんだろう。

ちと寂しい気持ちになるがな。


「じゃあな、ユージン、リディア。また来いよ!」


バルドゥルの場違いなほど大きな声が響く。

声がデカすぎんだよ。

悲しい別れじゃねえからいいがな。

ユージンとリディアは苦笑しているじゃねえか。


「皆様、ありがとうございました」


「またね」


彼らを乗せた馬車は走り出す。

リディアが中から手を振る。

イーナは馬車に向けて手を振っている。

馬車がだんだん小さくなっていく。


「行っちまったな」


「うん。でもまた会うよね」


「そうだな」


それが魔王討伐の旅じゃなきゃいいんだがな。

しかし、きっとそのときなんだろう。

その後にも続けばいいだけか。


「あーあ、行っちゃった。ユージン、格好良かったなー」


「ラーレちゃん、珍しくアピールしてなかったよねー」


ラーレとアポロニアが馬車を見つめている。


「リディアちゃんのガードが固くてね。怖かったんだから、彼女」


……ラーレはユージンに手を出そうとして、リディアに怒られたんだな。

聖女、怖いな。

あのラーレが諦めるなんてな。


「せっかく相手のいない優良物件だと思ったんだけどねー。やっぱりお手付きだったんだよねー」


「素敵な人って誰かのものじゃない? だったら奪うしかないんじゃないかなー」


アポロニアよ。

その思想はダメだぞ。

世間を敵に回すぞ。


「この街だと、ルッツさんとフェルドさんよねー。フリーなのは」


なんでお前らはおっさんのみを狙ってんだよ。

カール、ヨハン、ディーターも狙えや。


「やっぱり大人のほうが落ち着いてて安心できます」


いつの間にかエラが近寄っていた。

いや、Aランク冒険者になって少しだけモテ始めたかあ、とは思っているが。

しかし、やはりおっさんだぜ。


「逆です。それが魅力です」


熱っぽい視線で見るんじゃねえ。


「フェルドさん、この後、お食事でも一緒に……」


「何してんのよ、フェル! エラちゃんを困らせちゃダメだよ。ほら、私が相手してあげるから、エラちゃんは諦めなさい」


いや、俺がエラを口説いてんじゃなくて、逆みたいなんだが。

イーナが有無を言わさず、俺の腕を取り、街の中へと引きずっていく。


「えっとね、イーナちゃん……」


「エラちゃん、大丈夫、フェルはちゃんと連れていくから!」


ずりずりとイーナに引きずられる。

体力ステータスも結構高くなってんじゃねえだろうか。


「なんだか、フェルドさんところは大変なことになっているねえ」


うるせえよ、ドミニク。

お前だって大変だろうが。


「ユージンさんたちがいなくなって、寂しくなっちゃった。ドミニクさん、癒やしてね!」


ほら、アポロニアが付きまとうじゃねえか。


「ウチの奥さんも怖いんだけどねえ。それは大丈夫なのかなあ」


「オッケーです。障害があったほうが恋は燃え上がるの!」


「元気なのはいいけれどさあ。ちょっと遠慮したいねえ」


「ダメ! ベテラン冒険者さんは、若手冒険者たちのメンタルケアもしなくちゃだめなんだから!」


ドミニクも女性の押しに弱えんだよな。

ラーレとアポロニアに左右を押さえられちゃあ、逃げ出せねえだろう。

後で、しっかり奥さんに怒られろや。


って感じで、いつもの日々だ。

ユージン達がこの街を訪れ、そして旅立った。

いつもの街に戻った。

だが、少しだけの変化があったみたいだ。

人と人は関わり合って、少しだけ影響される。

何がとはわからねえが、少しだけ変わっているんだろう。

そうやって日々は流れていく、俺たちは変わっていくんだ。

きっとな。


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