第55話 いやあ、参った。全然届かねえや
「がははは! いいじゃねえか。剣聖とはねえ。俺は初めて見たぜ」
バルドゥルの部屋だ。
そこでユージンさんの話を聞くことになった。
メンバーは、バルドゥル、マリアンネさん、俺、イーナ、ジリ。
それと、ちょうどギルドにいたドミニクをひっ捕まえた。
こんな辺境の街に剣聖がわざわざ来る。
何か問題が、と考えるのが普通だろう。
だが……
「別に大したことじゃないんですよ。私が剣聖なのでご心配をおかけしてしまいましたね。すみません」
重要な案件じゃないらしい。
「ダメよ、ユージン。少し重々しく話をしないと、剣聖としての威厳がないわ」
「しかし、リディア。私は剣聖になってしまっただけで、剣聖らしいことは何もしていないから」
「それでも! 剣聖は剣聖なんですからね。ちゃんとしっかりとするの!」
「ははは、これは厳しいですねえ」
リディアは怒りながらも、ユージンにぴったりと寄り添っている。
ほんとどういう関係なんだよ。
「おめえら仲が良いな。付き合ってんのか?」
おう、デリカシーがねえデカブツがいてくれて助かったよ。
ナイスだ、バルドゥル。
しかし、聞き方……
ただのガキじゃねえか。
「いやあ、私たちは……」
「もちろんです!」
答えようとするユージンにリディアが被せてくる。
「私とユージンはお付き合いしているんです。ラブラブです。とっても幸せです!」
いや、幸せかどうかまで聞いてねえが。
まあ、いいんじゃねえか、本人が幸せなら。
他人が年齢差とか言うかもしれねえがよ。
「いいねえ! 俺も若い頃を思い出すぜ」
おめえがモテモテな過去なんて俺は知らねえぜ。
妄想だろう。
「まあしかしねえ、新婚旅行だとしたってさあ、こんな田舎まで来るってことは目的があると思うんだよねえ」
ドミニクの言う通りだ。
普通に旅行していたらここには来ねえよ。
「新婚旅行だって! ねえ、ユージン、結婚はまだよね私たち。だけど、もうそれでいいわよね。新婚旅行ってことでもいいのよ、私」
「……さて、そうですね。ここに聖女がいらっしゃるということですよね?」
ユージンは慣れてんだろうな。
リディアの暴走を無視して話をする。
「『聖女』か。噂は広まっているってこったな」
オーガ戦、イーナの活躍と、回復魔法。
聖女の噂か……
「私たちはティルヴァール諸島国から、アーベランロード王国を旅していました。王都で聖女の噂を聞き付けて、ここを訪ねたということです」
「なぜ聖女を?」
「聖女だからですよ。リディアが水の聖女なのですよ」
「あ、ユージン。そんな簡単にばらしちゃダメでしょう! 何があるかわからないのでしょう」
「大丈夫ですよ、リディア。ここで話さなくても、金の剣聖が水の聖女を連れているという噂もすぐに広まりますよ。それに、この人たちは大丈夫だと思います」
「勘でしょう。それって」
「勘ですよね。でも、いいじゃないでしょうか。きっとそれが重要なのですよ」
ユージンは微笑む。
リディアがため息をつく。
リディアがしっかりしているように見えて、ユージンをリディアを大きく包み込んでいる感じかな。
なかなかの男だと思うが。
問題は『聖女』の方だよな。
「私のことだよね?」
「イーナさんでしたか。風魔法を使っていたという噂ですから、木属性ですよね。木属性の聖女ということでよろしいでしょうか?」
「うん、私が木の聖女、イーナ・エアハルトだよ」
「で、俺がコイツの養父のフェルディナント・エアハルトだ」
イーナの頭に手を置く。
彼らは安全そうだが、念のため、警戒しておく。
イーナは不服そうだが、手をどけるまではしない。
「はい。Aランク冒険者のフェルドさんですよね」
俺も有名になっているのか?
そんなはずはねえか。
ユージンが手を差し出す。
それを取って握手する。
「で、それにしても、どうして旅をしているんだよ」
「ああ、それはですねえ」
彼の話。
生まれは山岳国家イシュティムフォート。
しかし彼は故郷を出て、剣の修行の旅をしていた。
そのときはまだ剣聖ではなく、Aランク冒険者だった。
その旅の途中、ティルヴァール諸島国に立ち寄った。
偶然に水の女神ウルアリッリより、赤ん坊の聖女を頼まれる。
さて、偶然かねえ。
女神の意図があったんじゃねえかねえ。
まあ、いいか。
そして女神の養育者になった。
聖女リディアが成長したために旅を再開する。
旅の途中、剣聖となる。
どうしてだよ?
繋がってねえじゃねえか、話が飛んでいるよ。
「ああ、そうですねえ。私の祖父が剣聖だったのですよ。それを引き継いだということです。私の実力じゃありませんよ」
いや、実力がなけりゃあ、剣聖なんて引き継げないだろうが。
「その祖父ってのはどうなったんだい」
ユージンの年齢から考えて、祖父はそうとう高齢だろう。
「いえ、いえ、元気ですよ。ただ、孫へと継ぎたかっただけですよ。子供が娘で、引き継げなかったですからねえ」
「……ユージンの母は弱いのかい?」
「いえ、いえ、とても強いですよ。ただ、剣ではなくて、包丁の方が好きみたいですから。さすがに包丁を持った剣聖というのはね。それに属性が土だったので、金属性の剣聖は引き継げなかったんですよ」
おい、それって、土属性の剣聖より、ユージンの母ちゃんのほうが強いって意味にも受け取れねえか?
母ちゃん、怖えな。
「この子にね。世界を見せてあげたいのですよ。一つの国にとどまっていては、どうしても視野が狭くなる。色々なことを知ってもらって、経験してもらって、自分のことを、他の人のことを考えられるようになってもらいたい。それが私にできることだと思うのです。きっと女神様が私にリディアを託された理由でしょう」
ユージンがリディアに笑いかける。
リディアは少し不服そうだな。
子供扱いが気に入らないのか。
「フェルドさんも、同じでしょう」
「まあな」
この子に何をしてやれるか。
それを考え続けている。
戦いは近い。
俺は何をしてやれる?
このユージンも同じなのだろうよ。
「それで、この国に聖女がいると聞きまして。どんな方なのかと興味があり、ここへと寄らせてもらったということです」
「ま、重要な問題じゃなくてよかったじゃねえか」
「いやあ、フェルドさん。木の聖女と水の聖女が出会ったんだからよお。それは重要なことなんじゃねえのかなあ」
ドミニクは深く考え過ぎだと思うぜ。
まだ魔王討伐の旅には出ていねえんだ。
もう少し気楽にしていたほうがいいと思うぜ。
聖女たちも、まだ子供だ。
「ははは、ちょっとリディアに友達ができたらいいかなと思っただけですよ」
「わ、私にだって、ちゃんと友達がいるんだから! ティルヴァールに戻れば!」
リディアが頬を膨らませる。
少し大人びていると思ったが、ちゃんと子供だな。
まだ子供。
もう少しだけは子供だ。
「しかし、あれだ! せっかく剣聖がいるってんだぜ。おめえら稽古をつけてもらえ! こんな機会ねえぞ。俺も手合わせをしてもらいてえな!」
おい、バルドゥルよ。
さすがにそりゃあ不躾だろうが。
「ああ、いいですよ。私程度で良ければ存分に」
ああ、気さくな剣聖で良かったよ。
「えーっと。その『おめえら』ってのには、もしかして俺が入ってたりしますかねえ」
「ドミニクよお。俺だけしごかれりゃあいいと思ってんのかよ?」
「いやあ、フェルドさんはAランクじゃないですかあ。俺はBランクですよお。力不足ですよお」
「テオとルッツも呼び出そうぜ! もちろんシャノンもやりたいだろうな」
いや、バルドゥルよ。
皆をお前と同じに考えんなよ。
んで、さすがに人数が多すぎじゃねえか。
「ははは、お手柔らかにお願いしますね」
ほんと、剣聖がいい人でよかったよ。
……笑顔の裏で怒っていて、稽古で滅多打ちにされねえよなあ。
カッ、カッ!
木刀同士が当たる音が響く。
ユージンは余裕の顔、俺は真剣だ。
ユージンは受けに回ってくれている。
俺の攻撃を軽々と防ぐ。
「スキルを使ってもらってもいいですよ」
お言葉に甘えて、《疾風突き》、そこから《疾風連撃》へと繋げる。
簡単に防ぎやがるな。
《激流ノ歩・逆》で離脱。
距離を取る。
「すごいですね。そのような連続してスキルを使う人は初めて見ました」
余裕だな、ユージン。
実力差がありすぎんだろうがよ。
「では、こちらもいきます。防いでください」
ユージンがゆっくりと接近……
じゃねえ、速え。
動きはゆっくりに見えるが、一気に距離を詰めてくる。
袈裟懸け。
それを受け止める。
……っ!
重えって!
くそ!
冷静になれ。
《水流の構え》を発動する。
剣は速いが何とか合わせろ!
力はブラックオーガよりはないはずだ。
「あ、すごい……。ユージンとあれだけ打ち合える人って見たことないわ」
「ふーん、そうなの? ユージン、手加減しているように見えるけど?」
「ほら、ユージンって剣聖を倒して称号を得たわけじゃないから、ユージンを倒して剣聖の称号を奪おうとする人って結構いたのよね。その人たちをみんな簡単に倒しちゃうのよ、ユージン。手加減をしたままで」
「え、手加減したままなの?」
「そう。実力を出さなくても最強。すごくない、ユージン。格好いいわよね!」
「格好いい!」
「でも、そのユージンと打ち合えるフェルドさんも強いわよね」
「そうだよ。フェルは強いんだ。格好いいんだよ!」
なんか外野がうるせえな。
こそばゆい。
それにしても、イーナとリディアが仲良くなったようだ。
聖女ってのは一緒に魔王を倒す仲間だろう。
仲良くしておくのはいいことだぜ。
「捌きますねえ。面白いスキルです。ではこれではどうでしょう」
ユージンは腰に差していた短い木刀を抜く。
二刀か!
一撃の威力は落ちるが、回転は増す。
相手が人間であれば有効。
硬い魔物であれば不利になる技術かもしれねえな。
《水流の構え》でもギリギリ。
反撃する隙なんてねえ!
トプンッ……
ユージンの剣をギリギリで捌いていた。
急に水のなかに入り込んだような感覚に陥る。
ユージンの動きが少し遅くなったか。
手加減をしてくれている?
横を見る。
イーナとリディアがしゃべっている。
口の動きがゆっくりだ。
そうか、俺の思考が加速したってことか。
見えている。
ああ、動きが見えている。
二刀流の場合、左手の短い方は防御だ。
右手の長い方が攻撃。
攻防一体の構え。
長短の木刀なんで、実は間合いはどちらかになっている。
手数は単純に二倍にはならねえんだ。
そしてそれぞれが片手になっているんで、剣の威力、受けの力は半分。
俺に勝機があるとしたら剣の威力しかねえな。
《剛唐竹割り》を全力で打ち込むしかねえか。
しかし、動きは見えているが、反撃する隙はねえ。
防戦一方だ。
「ユージン! ちゃんとしなさい。本気を出しなさい。それでも剣聖ですか!」
リディアの叱咤激励が飛ぶ。
ユージンの視線が一瞬、リディアの方へ。
ああ、ここしかねえや。
《激流ノ歩》で飛び込む。
ユージンが二刀で防御する。
勢いそのままに《剛唐竹割り》。
振りかぶってもいねえし、中途半端な体勢だ。
威力は小さいな。
ユージンの剣を下に弾いて……
《迅突・無型》だ。
攻撃力は《螺旋突・無型》の方が高いが、速度は《迅突・無型》の方が上。
届くか……?
ユージンは体を逸らし、俺の突きは空振った。
ユージンの左手の木刀が俺の首筋へ。
負けたなあ。
「いやあ、参った。全然届かねえや」
「こちらこそ驚きましたよ。すごいですねえ、フェルドさん。あんなスキルの使い方は初めて見ましたよ。あなた、水の剣聖を取る意思はありませんか? 私がもう少し稽古を付ければ、あるいは……」
あん?
剣聖だって。
そりゃいらねえって。
「俺はそんなもんになりてえって思っちゃいねえよ。この街の一冒険者だよ」
剣聖を目指すってのは、ものすげえ努力しなきゃいけなくねえか。
そりゃ面倒くせえよ。
「それはそれとして、私がここにいる間はしっかりと稽古しましょう。聖女の養育者ですからね」
どちらにせよ、稽古はやるみてえだぜ。
こんなおっさんになっても、日々勉強ってことらしい。
あー、いつになったら楽させてもらえるんだろうなあ。
ドミニクもしごいてもらえや。
「俺は手合わせじゃなくてえ、基礎とかそっちを教えてもらうよお。手合わせしたってよくわかんねえからねえ」
サボってんじゃねえよ、ドミニク。
さっさと俺やバルドゥルを抜いて、ギルドのエースにでもなりやがれ。
「俺も天才じゃあねえからねえ。聖女の養育者のフェルドさんのほうが強くなるんじゃないかねえ」
ああ、そうなるか。
養育者になるまでは了解していたが、街の筆頭クラスになるのは予想外だったぜ。
強くはなりたかったが、筆頭は面倒くせえ。
強いやつが出てきたときは率先して戦わなきゃいけねえじゃねえか。
まあ、戦うがよお。
あーあ、全く予想外だぜ。
んで、なんだかパッシブスキルに《無型の流派》というのが付いていたんだが?
『そうですね、未確認のスキルでしょう。システムさんも色々と困っていると思います。フェルドはスキルの使い方が独特すぎるのでしょうね』
ジリに呆れられたよ。
効果的に使っていると言ってくれねえかな。
『効果的に使っているのなら、そのような未知のスキルを習得しないでしょう』
しかし、流派って何だよ。
別に無茶な体勢からスキルを使うのをメインにしているってこたねえんだがな。
『それを付けるから、パッシブスキル側の無型を外しますよってことでしょう。今後は更新しませんよということでしょうね』
システムさんが面倒になったみてえだぜ。
ま、いいか。
関係ねえや。
便利に使わせてもらうぜ、システムさん!
<<ステータス>>
フェルディナント・エアハルト
LV:45(Up!)
生命力:298
筋力 :206
魔力 :121
素早さ:166
パッシブスキル:
無型の流派(New!)
ユージン・ミッドウィンター
年齢:42歳
冒険者:Sランク
LV:51
生命力:279
筋力 :250
魔力 :186
素早さ:208
パッシブスキル
女神の加護(大)
称号
聖女の養育者
剣聖(金)




