第53話 メリスと俺の中だけの常識だろうが、範囲が狭すぎらあ
「はっはー! サモンソードレギオンじゃ! おぶぅ!」
メリスに手刀を入れておいた。
これで何回目だよ。
「アホか! ゴブリン相手にレギオン使ってんじゃねえよ。サモンソードで十分だろうが」
そう、メリスとゴブリンと戦わせてみている。
聞けばまだレベルは6らしい。
俺よりずっと生きてきて、レベルが6だと?
ティムより下じゃねえか、舐めてやがる。
それでもオーガ戦でレベルが一つ上がっての6らしい。
あのオーガでレベルが一つしか上がらねえってどういうこった?
『おそらく称号、偽りの賢者の影響でしょう。レベルの上がりも悪くなっているのでしょう』
そういうことか。
「つーことは女神の加護でレベルアップも少しはよくなっているか?」
『どうでしょうか? 女神様のご慈悲がどこまでかは私にはわかりません。どちらにせよ女神様に感謝はしておかねばならないでしょう』
少しステータスがアップしただけでもめっけものだよな。
これで一般女性くらいにはなったかもな。
「しかし、サモンソードでは当たらんのじゃ」
俺の手刀からメリスが復活する。
なんだか、ゴブリンが俺たちのやり取りを呆れて眺めているように見える。
が、気にしねえよ。
待ってくれている、ゴブリンの優しさに感謝だ。
「それを当てられるように訓練するんだよ! それが魔法制御ってもんだろうが」
「しかし、高位魔法が使えて、倒せるなら、それでいいのじゃないか」
「まったくわかっちゃいねえな。のじゃエルフよお。冒険者失格だぜ」
「そ、その、のじゃエルフというのは悪口なのじゃ! 撤回を要求するのじゃ!」
おっと、しまった。
心の中の呼び名が口に出てしまったか。
俺も修業が足りねえな。
「すまねえ、ロリエルフ。いいから、とっととサモンソード当てやがれ。ゴブリンさんもいつまでも待っちゃくれねえぞ!」
尻を叩いてやる。
「痛いのじゃ! 横暴なのじゃ、パワハラなのじゃ、セクハラなのじゃ! ロリエルフというのも悪口なのじゃ!」
「のじゃエルフよかいいだろ?」
「おう、なるほどのお。確かにロリエルフは一部に需要があるそうじゃからな」
言いくるめられてんじゃねえよ、チョロエルフが!
こいつ、基本的な生活能力が低すぎだぜ。
俺たちが面倒見ないと野垂れ死にそうじゃねえか。
騙されて、売られたりしねえか心配だよ。
結局、サモンソードを外しまくって、十発目にようやくゴブリンを討伐。
ゴブリンさん、お付き合いありがとうございました。
それでも、こっちにソードが飛んでこないようになった分、成長しているんだろう。
女神様に感謝だな。
そんな感じでメリスの強化をしながら街に帰った。
「おう、おう。フェルドよ、見てみろ! レベルが上がったぞ! 体力が2も、筋力と素早さが1もあがったぞ!」
感動してやがるな。
が、体力が2、筋力と素早さが1だと?
低すぎじゃねえか。
これはもとの素質かもな。
とするともともと魔力特化型か。
「……で、魔力は?」
「ああ、いつも通りじゃよ。8か9、上がったのお」
9、九、きゅう!?
バケモンじゃねえか。
コイツいくつ魔力があるんだよ。
今レベル7ってことだよな。
コイツがレベル10もあがりゃあ、80から90アップするってことだよな。
どんなだよ?
コイツがレベル40までいったら……
恐ろしい魔力じゃねえか。
本気でSランク目指せるよな。
……いや、魔法制御が子供。
ないな。
体力が少ねえから、冒険は無理。
勇者にくっついて魔王討伐なんて夢のまた夢だ。
いっそもっとくっついて、勇者がおんぶで戦うか?
滑稽だな。
この姿を見て、吟遊詩人がどんな歌を歌うか、興味はあるがな。
「ということでじゃ。疲れたのじゃー。フェルド、おんぶー!」
行きじゃあ、あんなに拒んでいたのに、帰りで疲れるとねだるのかよ。
体力が子供並みだからしょうがねえのか。
「おう、しょうがねえな」
「おう、くるしゅうない。おぶられてやるのじゃ。ごふぅ!」
うるさいから頭を後ろに振ってやった。
メリスの鼻っ面に当たったみたいだ。
「あーあ、フェル。もう少しメリスちゃんに優しくしないとだめだよ。女の子なんだよ。鼻が曲がっちゃったら大変なんだから」
イーナが回復してくれる。
イーナにしてみりゃメリスは子供か。
年齢はだいぶ上なんだがなあ。
メリスのへっぽこ返上はまだまだ先のようだ。
街へと無事に帰還。
イーナとジリは先に宿に帰った。
俺は一応、メリスを魔法屋まで送っていく。
コイツ、何しでかすかわからねえからな。
「よお、今日はご苦労さん。おめえさんも、これで少しは冒険者っぽくなったってことだな。森へ訓練に行きたきゃ、ギルドに言ってくれよ。たまにゃあ、付き合ってやるからな」
「こちらのほうが感謝しておる。本当にありがとう。わらわはこんなに親切にされたのは初めてじゃ。フェ……この街はいい街じゃな。優しさがあるよ」
「ま、田舎だからな。お節介なんだよ。それが面倒なこともあるがな」
俺は結構それを気に入っているがな。
他人がただ集まっただけよかいいじゃねえか。
どうせ人間なんて一人じゃ生きれねえんだ。
面倒だが、集まって、ときに喧嘩もしながら、だが仲直りして、そんな面倒なことを繰り返しながら生きてくしかねえんだ。
それが嫌なら、一人で生きるってことだ。
それは悲しいと思うぜ。
俺はこの街が好きだ。
「……少し話をしようかの。勇者について、女神について」
そのニュアンスに少し不安を感じる。
「んあ? どういうこったよ」
「ああ、フェルドにはわらわの考えを伝えておきたいと思うてな。お主はイーナの父じゃからな」
「ああ、父だ。だが、聖女の何が問題だよ?」
「問題ということではないのじゃ。わらわが女神様について調べていたのは知っておるじゃろう? そうすると聖女、勇者について調べることになる。そこでわらわは世間と少し違う考えを持つようになった。ただ、わらわの戯言だと思って聞いてくれたらいい」
さて、少しだけ話が長くなりそうだ。
お茶を出そう。
メリスはお茶を淹れられないからな。
お湯を沸かし、茶葉を入れる。
勇者と魔王。
その足音が近づいている。
それは別れの予感か。
珍しくセンチになっているな。
おっさんの背中は煤けてもいいが、センチは似合わない。
お茶は普通の緑茶だ。
渋く懐かしい香りがいい。
緑茶はカップではなく、湯飲みで飲むのがいい。
カップは似合わない。
「で……どんな考えに至ったんだよ」
「そうじゃのお。魔王とは、勇者とはなんじゃ? どうして人間と魔王は戦うのじゃろうな」
「そこからかよ。……相容れないんだろうよ。人間と魔族は。文化、思想、生き方。きっとすべてが相容れない」
本当か?
俺は魔族のことなんて知らねえんだぜ。
言い切れるのか?
「人間を、魔王を誰が作ったのか? そこからじゃよな」
「神様だろう、人間を作ったのは」
「とすると魔族を作ったのも神であろう」
「ああ、そうなるか」
両方ともを神が作った。
なら、どうして争う?
「可能性としては別の神がいる。もしくは五柱のうちの誰かが裏切っている」
「別の神様なんて聞いたこたあねえぞ」
「とすると裏切りか?」
「それもどうだよ」
「なら、五柱すべてが力を合わせて魔族を作った。我々と戦わせるためにか?」
「そりゃあ……」
人間からしたら、五柱の女神を信仰しているんだ。
彼女たちが愛し、慈しんでいるのは人間。
魔族も作って、戦わせているとなりゃあ、人間に対しての裏切り?
いや、人間がそう感じるだけかもしれねえな。
「女神は平等に人間と魔族を愛しているって言いたいのか?」
「そう考えるのが妥当と思う。そこで考慮すべきは、必ず魔王が負けることじゃ。なぜ勝てん? 人間よりも腕力も魔力も上の種族じゃぞ」
「確か……数が少ねえんじゃなかったか」
「どうして数が少ないのじゃろうな。それはきっと不毛の土地に追いやられているからかのお。しかしじゃ。魔王対勇者、そのときは数ではないはず。勇者パーティは少数。そして魔王は絶対的な強者。なぜ負ける? それも毎回」
考えたことはなかったな。
人間が勝てたほうがいいからな。
しかし、どうして勝てるのかは知らねえ。
「異世界召喚勇者だろう。それが強いってことじゃねえのかい?」
「そう、勇者は強い。が、人間の枠内なのじゃよ。調べると死んでおるのじゃ」
「んあ? 誰が死んでいるって」
「勇者じゃよ。魔王戦の前に死んでおる勇者がおるのじゃ」
「おい! 俺は魔王戦には五人の勇者、五人の聖女が揃うって話しか知らねえぞ」
「物語ではな。しかし、記録としてあるのじゃよ。勇者は死んでおる。魔王戦には、正しくは五人の聖女と、幾人かの勇者、それとそのパーティが幾人か」
「聖女は……必ず五人か?」
「ああ、五人なのじゃよ」
少しだけほっとする。
聖女が死亡しているケースはねえってことだ。
イーナは大丈夫。
「おかしくないかの? 聖女は死んでないのじゃ。おかしいと思うのじゃよ。勇者より戦闘力は低いじゃろう。じゃが、どんな困難も乗り越えて集まるのじゃ。魔王戦に」
「それは、魔王戦に必要なのは勇者じゃなくて、聖女だと言いたいのか?」
「そうじゃよ。わらわが考えていること。それは正にそれじゃ。魔王は聖女が倒す。聖女は神の娘。殺すことはできぬのではないか?」
メリスは勇者不要だと言う。
常識的にはあり得ない。
勇者の定義は、魔王を倒す者。
「しかし、聖女の戦闘力じゃあ、魔王は倒せねえんじゃねえか?」
「そうよな。わらわもそう思う。じゃが、魔王は倒されておる。なら、そう設計されておるんじゃないかと思うのじゃよ」
「設計とは?」
「女神様が設計したのじゃよ。魔王が、魔族が数百年ごとに人間の国に侵攻する。そして五人の聖女と幾人かの勇者が魔王と戦う。そして勝つ。そう決められておるのじゃなかろうか」
「そりゃ……魔王が負けることが決まっているってことか。なら、魔王は何のために戦うんだよ」
「さてのう。あるいは女神は魔族を愛しておらぬのかものお。ただの道具として使っているかもしれぬ」
「道具だと。人間を攻めるためのか?」
「そう、人間を驕らせないための道具じゃよ。増えすぎないために殺す道具。それが魔族」
「いや、それじゃあ、女神様ってのはずいぶん冷酷じゃねえか。メリスも女神様のご神木を見れて、感激してたじゃねえか」
「わらわは女神様が好きじゃよ。信仰さえしておる。じゃが、それとは別に冷静な学者としてのわらわもおるのじゃ。それは信仰とは別のレイヤーに存在するのじゃ」
よくわからねえ。
信仰と冷静な視点。
確かに信仰で盲目的に信じるってもの違うと思う。
が、神を批判するような研究ってものなんだかな。
「女神様は信仰の強弱はあるが、この世界の神様じゃ。そして女神様は確実に存在する。それは先ほど経験させてもらった。するとなおのこと、女神様の意思を思うんじゃよ」
「おい、メリス。こんな話、他のヤツにするんじゃねえぞ」
神を信仰する奴が激怒するかもね。
そして殺される可能性もある。
魔女狩りに遭う可能性もある。
こんな辺境の街だとしてもだ。
「フェルドじゃから、言うのじゃよ。お主は、いい意味で世間を斜めに見ておるからな。しかし、将来の希望も失っておらん。いいものじゃの、おっさんというものも」
いや、おっさんがみんなそうじゃねえよ。
それに、おっさんの定義ってなんだよ。
「結局、おめえさんは何を言いたいんだよ?」
「わらわの中でも結論は出ておらんのじゃよ。ただ、この世界の仕組みを共有しておきたかった。ただ他の人に話を聞いてもらいたかっただけじゃ、わらわが考えていることをな。もし、わらわがいなくなったら、消えてしまうじゃろう。それも悲しいのじゃよ。せっかく考えてきたことじゃからな。じゃから、別に賛同してもらえんでもいい。フェルドの頭の片隅にこんな話があったと記憶してもらえばいいのじゃ。それだけじゃな」
それだけにしちゃあ、重い話をしてんじゃねえか。
「まあ、俺も変わんねえかな。イーナに対する態度も、魔族に対する態度もな」
恐らく表面上はな。
中でどんなに悩むかはそれからだ。
この話が本当だとして、だから、どうしたとも思う。
が、本当だとしたら、魔族も悲しいものだと思う。
女神様を怖いとも思う。
さて、どうなるだろうかな。
俺はどう変わっていくかな。
「よいのじゃよ。フェルドは今まで通りイーナに関わればよいだけ。それでよいと思う。聖女は育ち、そして魔王と対決する。それが未来。それだけなのじゃ」
確定しているのかよ。
本当に決まったことなんだろうか?
わかんねえな。
この世界の決まり事なんて、メタな話は俺なんかには見えねえよ。
一つ深いため息をつく。
メリスは俺にどうしてほしいんだかな。
本当にただ聞いてほしいだけかもしれねえが、聞かされたほうはたまったもんじゃねえよ。
「フェルドはそのまま女神様に感謝しながら生きていくのがよいと思うのじゃ。世界の仕組みを探るのはわらわの仕事。ライフワークじゃよ」
「そうかよ。ま、困ったことがあれば言ってくれ。手伝ってやるよ。その研究が深まったなら、また聞かせてくれや。少しは興味がある話だからな」
「ああ、フェルド。きっと聞かせてやろう。そして驚け。世界の常識を覆すぞ」
世界の常識を覆すねえ。
メリスと俺の中だけの常識だろうが、範囲が狭すぎらあ。
まったく迷惑な話だ。
だが、面白いとも思う。
メリスの頭をグリグリと撫でてやる。
「なにするのじゃ! わらわは子供ではないのじゃ!」
「お茶、ありがとうよ。じゃあ、またな」
俺が淹れた茶だが、茶葉はメリスのものだ。
感謝はしておこう。
さてさて、俺はいつも通り、ジリに尻を叩かれ、イーナに怒られながら、イーナとジリの無茶ぶりを聞きながら、冒険者を続けようや。
それしかできねえからな。
さてさてと……
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メリスティア・ハルヴェリオ
年齢:126歳
LV:7(Up!)
生命力: 33
筋力 : 28
魔力 :281
素早さ: 27




