第52話 精神年齢の低さは称号のせいじゃねえ
「どーして、こうなったのじゃあー!」
「うっせえよ、メリス。耳元で叫ぶんじゃねえ!」
森にいる。
で、背中にメリスをおんぶしている。
おんぶ紐でしっかりと固定してな。
「わらわは赤ん坊ではないのじゃ!」
「だっておめえ、普通に歩けねえだろうが。森を舐めんなよ。足元は不安定で、魔物も出るんだ。おめえなら一分であの世行きだろうが」
コイツの体力、幼女並みだからな。
それに合わせてちゃあ、いつまでたっても目的地にたどり着けやしねえだろう。
「それにしてもじゃ! なんでフェルドの背中なのじゃ。あっちの黒豹に乗せてもらえばよいじゃろう」
ああジリな。
黒豹の姿に戻っている。
その背中にはイーナが乗っている。
「じゃあ、イーナはどうするよ?」
「フェルドが背負えばいいじゃろうが」
まあ、イーナの体力なら自分で歩いても問題ないんだがな。
急ぎなんで、ジリの背中に跨がっているんだ。
で、イーナを俺が背負う?
それもなあ……
イーナもだいぶ成長したからなあ、胸のあたりとか。
『フェルド、なにかいやらしい視線を感じましたが?』
おめえにじゃねえぞ。
たしかに黒豹のケツは綺麗なラインだがな。
「私、フェルに背負われるような年齢じゃないよ。それはない」
キッパリとイーナに拒否されちまった。
それはそれで悲しいもんだ。
ちっさいときはあんなにおんぶしていたのになあ。
んで、キャッキャッとはしゃいでいたもんだ。
あの頃が懐かしい。
「わらわのほうがイーナより年上なのじゃ!」
「メリスちゃんは見た目が子供だからしょうがないよ」
「うぐ……。フェルド、イーナが身も蓋もないのじゃ」
「まあ、諦めろ。俺がイーナを背負っているのを想像してみろよ」
「それは犯罪なのじゃ」
だろう?
悲しいが、大きくなった娘をおんぶってのはどんな絵だよ。
違和感しかねえじゃねえか。
「つーことで諦めな」
「くっ……。これも女神様に会う試練なのじゃな」
そんな大層なもんじゃねえよ。
これが試練なら、本当の試練ってのはどうなるんだよ。
じゃあ、行こうか。
「うぎゃああぁああ。速すぎるうぅぅ。少し速度を落とすのじゃあぁ」
いや、日の高いうちに帰りたいじゃねえか。
《身体強化》で全力で走ろうぜ。
「そこ、そこ! ゴブリンをはねたのじゃああ。や、矢が飛んでくるのじゃあぁぁぁ。ゴブリンアーチャーがあぁぁ」
うっせえな。
走っている途中で、ちょっとゴブリンを蹴り飛ばしただけじゃねえか。
ゴブリンアーチャーはイーナが魔法で仕留めてるだろうが。
問題ねえよ。
矢なんて、当たらなけりゃ意味はねえんだ。
おお、ガルムを発見。
ついでに斬っておくか。
こいつ毛皮が高く売れるんだよな。
《激流ノ歩》で接近し、《剛唐竹割り》に繋げる。
ガルムを切り裂く。
俺もAランクっぽくなったな。
「うっぎゃあ! 首が、首がグキリといったのじゃあ」
お、そっか、すまねえ、メリス。
人を背負った状態でのスキル発動って初めてだった。
なるほど動きについてこれないか。
むち打ちかな。
あとでイーナに回復してもらおう。
そんなこんなで、いつもの場所に到着する。
背中のメリスは途中から静かになっていた。
慣れたか?
「おい、メリス到着したぞ」
返事はない。
「えっとね、フェル。メリスちゃん、涎たらして気絶しているよ」
……ま、死んでなきゃいいだろう。
体力が幼女並みで、森のここまで来れた。
気絶くれえなら上々だ。
『さすがに謝ったほうがよいと思いますね』
「そうか、やっぱりダメだったか」
メリスを背中から降ろし、そのだらしなく開いた口を見ながら、ちょっとだけ反省した。
「死ぬかと思ったのじゃ。しかし、わらわはついにここまで来たのじゃ!」
メリスはガッツポーズ。
達成感に恍惚としている。
イーナの回復魔法で何とか復活した。
意外に元気だった。
罪悪感も薄れるってもんだ。
ちなみに帰りもあるんだがな。
メリスはそれに思い至っていない様子だ。
ま、それは帰りの問題だよな。
「で、どこじゃ、その大樹とやらは?」
「ああ、ここじゃねえんだ」
「おい、フェルド。だましたのか! わ、わらわを森の中に連れ込んで、手籠めにする気じゃな! こんなぺったんこを所望するとは、お主、ロリコンじゃな!! ほぶう……」
うっせえから、手刀を脳天に入れておいた。
ちゃんと手加減したぜ。
俺がまともに手刀を入れりゃあ、首を折っちまうからな。
コイツ、体力が幼女並みだからな。
「な、なにをするのじゃ!」
「のじゃエルフよ。話を聞きやがれ。いいか、ここからは神の御心のままにってやつだ。メルフェイーナ様が受け入れてくれなきゃ、たどり着けねえんだよ」
「そ、それは話が違う!」
メリスは狼狽え、瞳に涙をためる。
「わらわはやっとここまで来たのじゃ! 死ぬ思いをしたのじゃ。やっと、やっと何十年も夢見たのじゃ! どうか、どうかお願いします。わらわを連れて行ってください」
遂には泣き出す。
……ギャン泣きじゃねえか。
ほんとに幼女だよなあ。
「いや、連れて行かねえとは言ってねえよ。なあ、イーナ」
「うん。きっと女神様も会ってくれると思う。私もお願いするから。きっと大丈夫だよ」
イーナが優しくメリスを抱きしめる。
「メルフェイーナ様は優しい女神様なんだよ。だから、大丈夫。大丈夫だよ」
周囲、木々がほんのりと輝きだす。
これは……この力は女神様だ。
森が静かになる。
鳥たちのさえずりも、魔物の遠吠えも聞こえない。
ただ木々が、苔が、地面が緑色に光っている。
いつの間にか地面にぽっかりと穴が開いている。
道は開かれた。
「よお、メリス、よかったな。歓迎してくれるってよ」
「ああ……ありがとう、フェルド。本当にありがとう」
メリスは泣きながら笑った。
まだ早えよ。
それは大樹にたどり着いてからにしろって。
「んああぁぁぁぁ。落ちるのじゃあ。死ぬ、死ぬ! 激突して死んでしまうのじゃあぁぁ!」
「おい、メリス! 黙ってろよ! 舌噛んで、本気で死ぬぞ!」
「嫌なのじゃああぁぁ。ここで死にとうないのじゃああぁぁ!」
なら黙れよ。
さて、穴だよな。
なら落ちるんだ。
それが穴ってもんだよな。
だから泣くのは少し早いって言ったじゃねえか。
なんとか死なずに森の地下にたどり着いた。
いや、きっと地下じゃなくて、別の空間なんだろう。
別の空間なら、落ちる演出いらなくねえか?
もしかしたら女神様の意地悪かもしれねえな。
ここはお茶目くらいに言っておいたほうがいいか。
さて、女神様の空間だよ。
巨木が目の前にそそり立っている。
上を見上げる。
枝と葉に遮られて、てっぺんは見えねえ。
相変わらず圧倒的な存在感だ。
おそらく何千年も存在している木なんだろう。
もしかしたら万単位かもしれねえ。
圧倒的な年月を感じる。
押し寄せてくる。
俺では太刀打ちできない。
そう本能が告げる。
メリスは……
「あ、ああ。こ、これが世界樹……。女神メルフェイーナ様の依り代……」
ゆっくりと大樹に近づく。
そして、手を上げて、腫物を触るように大樹に触れる。
「……神は、神は確かにいるのじゃな。教会とか、そういう俗っぽい感じではない。確かに神を感じる……」
少なくともウェストフェルトの街の教会には神はいなかったがな。
もしかしたらどこかの教会にはいるかもしれねえ。
で、俺も女神様にはイーナを預けられた最初の一回しか会っていねえ。
今回も来ないようだな。
ただ、その化身たる大樹があるだけ。
「わらわは……わらわは……」
メリスは膝をつき、額を大樹につけ、泣いている。
そう、ただ泣いているだけ。
それでいいのかい?
あんたの望みを、女神に願わねえでいいのかい?
ああ、いいと思うぜ。
きっとそれが正しいんだ。
女神に願ったって仕方ねえんだ。
女神をただ感じるくれえがちょうどいいと思う。
しばらくして、メリスが落ち着く。
その顔は晴れやかだ。
「いいのか、何も願わねえで」
「そうじゃの。最初はどうにか神様にしてほしいと思っておったんじゃ。じゃが、次第に変わるものじゃのう。女神の研究をするうちに、いつしかその存在を確認したい、ただ近づきたいと変わっておった。わらわがこの称号に慣れてしまったのかのう」
「いいじゃねえか、それで。神様に頼って生きていたっていいこたねえさ」
神にすがり、自分で自分を変えることを放棄するのかい?
自分の力で状況を変えられねえとしても、その状況を受け入れることでだって生きていける。
それでいいってこともあるんじゃねえだろうか。
自分が不幸せだって思って生きるのは辛かねえかい。
なら、前向きに現状を受け入れたっていいんじゃないのかい。
「なあ、フェルド。わらわはこのままで……弱いままでいいのじゃろうか。迷惑じゃないのだろうか」
「誰も迷惑だなんて思っちゃいねえさ。メリスはオーガのときに俺たちを助けてくれた。お前がいなかったら、俺たちはきっと死んでいたんだぜ。誇りを持てよ、胸を張れよ。お前は俺たちの仲間だよ」
「そ、そうか。そうじゃな。わらわは頑張ったんじゃな。こんなわらわでも何か役に立つんじゃな」
別にメリスを泣かしたかったわけじゃねえ。
ただ、素直に思ったことを言っただけだ。
まあ、悪い涙じゃねえだろう。
よしってことでいいかな?
「お母さま……」
イーナが跪いて、手を胸の前で合わせて、祈っている。
「お母さま、私の声が聞こえていますか。少しだけ、少しだけでいいのです。メリスちゃんに祝福を。少しだけ優しさを与えてください」
聖女、女神の愛娘。
その願いは……
大樹が優しい金色に発光する。
その光の一部がゆっくりとメリスに向かう。
「な、なんじゃ!?」
メリスの体の周りを遊ぶように不規則に浮かぶ。
そして、ゆっくりと彼女の体に吸い込まれていった。
これはきっと……
「おい、メリス。ステータスを確認してみろ」
「あ、これは……『女神の加護(小)』。ああ……少しだけ、少しだけステータスが上がっているのじゃ」
イーナの願いは女神に届いた。
よかったじゃねえか、少しだけ生きやすくなるだろうぜ。
魔法制御のほうも訓練が必要だろうが少しはよくなるだろう。
もう、へっぽこエルフじゃなくなるかもな。
「こ、これでわらわもSランク冒険者の仲間入りか!!」
「なわけねえだろうが! 冒険者を舐めんじゃねえぞ! Sランク冒険者になれるようにしごきまくってやろうか!」
そうか、精神年齢の低さは称号のせいじゃねえ。
もともとへっぽこエルフなんだ。
世間を丁寧に教えてやらねえといけねえかなあ……
で、聖女って存在だよ。
彼女の願いは女神様に届くと証明されちまった。
そりゃあ権力者が欲しがるわけだ。
あいつら強欲だからよお。
女神様の力なんか、個人のために使うようなもんじゃねえと思うがね。
そんなことしてたら、いつか取り返しのつかないことになるんじゃねえのか。
んで、俺もそれにならねえように気を付けねえとな。
俺が一番、イーナの近くにいるんだからな。
『そのあたりは意外と心配していませんよ。だからフェルドなんでしょうね。いい意味で、世間を斜に見ているからでしょうね』
褒められているんだか、貶されているんだかな。
ま、おっさんってのはそんなくらいがちょうどいいんだ。
ギラギラ、ネトネト脂ぎったおっさんてのは嫌われるからな。
<<ステータス>>
メリスティア・ハルヴェリオ
年齢:126歳
冒険者:Eランク
LV:6
生命力: 32
筋力 : 27
魔力 :272
素早さ: 27
パッシブスキル
女神の加護(小)(New!)
称号
偽りの賢者




