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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第50話 世間はもう少しおっさんに優しくしなきゃいけねえと思う

さて、お仕事に行きますかね。

エルマさんの宿を出て、冒険者ギルドへと向かう。


ウェストフェルトの街はいつも通りで平和だ。

ノーマおばちゃんの件があって、大通りの一部はまだ仮補修のままで、家も再建途中のものが目立つ。

傷跡は完全に癒えたわけじゃない。

だが、それでも人々に笑顔は戻って、のんびりとした雰囲気になっている。

彼らの心に、どれだけの傷を残したかは俺にはわからねえ。

その人個人にしかわかんねえんだろう。

だけど、街は前に進んでいる。

いつか街は元通りになるだろう。

だが、人々の心は完全にもとには戻らない。

破壊の記憶を残しながらも生きていく。


俺はといえば、たまにノーマおばちゃんがいなくなったことを思い出して少し寂しくなる。

それでも俺たちゃ歩き続けなきゃいけねえ。

どこかを明確に目指しているってわけでもねえけどな。

でも、一歩ずつ、迷ったとしても、それでも進んでいく。

それが生き残るってことだよな。


ま、街の変化といえば、そんなところなんだろう。


と、細かい変化はまだあるんだがな。


「おはようございます。フェルドさん、イーナさん」


「おう、おはよう」


「おはよう。コンラッド」


コンラッド・オコンネル、イケメンの衛兵だ。

隣町ドルフェミレスタにいた衛兵なんだが、何でかウチの街に来た。


ノーマおばちゃんの件で、イーナが聖女だってバレちまった。

で、街の護衛を増やそうってんで、隣町から衛兵を借りているってことらしい。

なんでこいつはこっちに来たかな。

こいつの顔じゃあ、向こうでモテモテだっただろうに。

彼女を残してきたんじゃないだろうな。


「イーナさんは今日も美人ですね。日に日に美人になっていきますね! 見とれてしまいますよ」


で、さらっとイーナを口説くんだよ。

イーナを、聖女を守るためにこの街に来たんだろうが。

口説いてどうするよ。

で、俺はお父さんだから、許可しないよ。

イーナにはまだ彼氏は早いと思うぜ。


「おう、イーナは可愛いからな。手を出すんじゃねえぜ」


イーナを引き寄せておく。

あっ、とイーナは少し声を出す。


「いやあ、お父さんの壁は高いですね」


ヤツはそれほど残念そうでもない表情で笑う。


「フェル、失礼だよ。コンラッド君は口説いてはないと思う」


そりゃあイーナ、ヤツも可哀想だろう。


「ということだぜ。コンラッド。何で、この街に来てんだよ。ドルフェミレスタのほうがやりがいがありそうじゃねえか」


うーんとヤツが唸る。


「だって、聖女様の護衛でしょ。そりゃこっちのほうがやりがいがあると思いますよ。確かに田舎ですが」


田舎で悪かったな。


「だけど、のんびりとした街だし、住みやすいですね。で、聖女様を口説き落とせれば逆玉じゃないですか?」


逆玉ってなあ。

それを俺がいるここで言うのかい?

じゃあ、真面目に口説いてるってことでもねえのかな。


「イーナを王都で守ったほうがいいって考えはねえのかい?」


「えー、イーナはこの街が良いよ。王都って知らないし」


「まあ、そうだよな。仮の話だ。俺もイーナを王都に行かせる気はねえよ」


女神様はイーナを俺に託したんだ。

きっとこの街がいいってことだと思う。

それを支えにイーナの親を主張するぜ、俺は。

女神様ってのは、王様より偉えのさ。


「ここでいいんじゃないですか、のんびりしていて。魔王側もここまで攻めてこないでしょうからね」


コイツも適当だな。


さて、本気で王都がイーナを攫おうとしたときに、どうするかだよな。

それが世界のためなら……

いや、違うだろうな。

そりゃあ、人間の都合、人間の解釈で、女神様のじゃねえ。

なら、徹底抗戦だ。

冗談だ。

逃げるよ、俺は。

さて、どこに逃げようか?

候補を絞っておかなきゃいけねえな。



コンラッドと別れ、冒険者ギルドへ。

おばちゃんの事件で冒険者の死人はいない。

町民に数名犠牲があったんだ。

大手を振って喜べることでもねえがな。


んで、いつもの二人を見つける。


「なんだよ、テオとルッツ。仕事しろや」


奴ら、テーブルでしゃべっている。

だが、飲んでいるのは酒じゃなくて、茶みたいだ。

一応仕事をする気はあるらしい。


「おはよう。フェルド」


「おう、フェルド。お疲れさん。イーナちゃんも、今日も元気だな」


「おはよう、テオ。私は元気だよ。モリモリだよ」


「そうか、モリモリか! いいじゃねえか。俺も頑張って仕事するからな」


ちゃんとしろよな、仕事。

テオよ、イーナを見て、目尻下げてんじゃねえよ。

久しぶりに孫をみたおじいちゃんか。

そんな歳でもねえだろうが。


「調子はどうだい、ルッツ?」


「そうだね。最近はゴブリンの数も増えすぎてなくていい感じだね。『幸福の青い大樹』や『星を掴む強靭なる蔓』も育ってきたからね」


「ああ、カールたちと、ディーターたちだな。頑張ってるよなあ。ラーレたちも真面目に頑張っているようだしな」


ラーレたち『一角獣の透明な角』も意外に真面目なんだよな。

話のノリは軽いが、仕事はしっかりとこなすタイプだ。

いいじゃねえか。


「それで、俺たちはゆっくりできるってね。それが普通なんだよね。俺たちおじさんが主力っていうのもなんだかと思うさ」


「いいや、ルッツ! 俺たちはもう少し若い奴らの壁でなきゃいけねえのよ!」


テオが息巻いている。


「もう、『清廉なる赤い薔薇』に抜かれてるけど?」


ルッツは苦笑だ。


「あそこはしょうがねえ! が、他には抜かせねえ」


「じゃあ、働けよ」


と、ツッコんでおく。


「Aランクになったからって、偉そうに! 抜いてやるからな!」


「おう、抜けや。抜いてみろや」


テオが睨む。

が、その怖い顔も見慣れてるんだぜ。


「ねえ、フェル、行こうよ。私たちも働かなきゃだめでしょ」


「すまん」


イーナに怒られて、すごすごと受付に移動した。

すっかり、イーナもしっかりしちまったよ。

だが、おっさん同士のじゃれあいってのも生きていく上で必要なことなんだぜ。

その辺のニュアンスはまだ学べてないんだな。


『言い訳をしても、時間の浪費には変わりないでしょう』


ロマンがないんだよなあ。

女性にはわからないか。


『男女の関係はないと思います』


黒豹にはわからないってこったな!



マリアンネさんは……書類仕事が大変そうだ。

まあ、いいだろう。

森の奥のほうでゆっくりと上級薬草でも採取してこようか。



『さて、フェルドの強化ですね』


うん、わかってた。

ジリが楽をさせてくれない。


『イーナ様の養父として、恥ずかしくない戦闘力を身につけなければなりません!』


いや、聖女の養父に必要なのは戦闘力か?

普通は品格とかそういうもんじゃねえのか。

もちろん品格を身に付ける気はねえがな。


「おー! 森の奥で魔物狩りだね。いいねえ。行こうよ、フェル!」


ウチの聖女様がすっかり戦闘狂なんだが。

いいのかよ、ジリ?


『さすがはイーナ様。魔物を殲滅ですね!』


「殲滅だ!」


ウチのパーティの女たちは物騒だよなあ。

おっさんが一番平和主義なのは、おっさんだからかなあ。



「で、出くわすもんだな。なんで、森にミノタウロスがいるよ?!」


小物を倒して森の奥。

遭遇したのはミノタウロス、牛の頭と人間の体を持つ魔物だ。

身長が三メートルを超えている。

手には巨大な戦斧。

怪力が特徴のAランクの魔物だ。


ブモオオオオォォォ!


ヤツは雄たけびを上げ、こちらを睨みつける。

やる気だ。


『イーナ様、バフは不要です。あの程度、フェルド一人で倒せるようにならないといけません』


「了解。頑張ってね、フェル」


ああ、やりゃあいんだろうが。

《身体強化》、《魔法剣》のスキルを発動。

戦いの準備をする。


『少し水流の構えを試してください。そのスキルの熟練が、今後のカギになるでしょう』


《水流の流れ》というのは、防御スキルだ。

相手の攻撃を剣で、まるで水が流れるように逸らすスキル――だと、俺は認識している。

が、ジリに言わせると違うらしい。


『水というのは攻防一体なのでしょう。バランスの取れた属性なのです。まさに、一人で戦い続けたフェルドにぴったりな属性なのでしょう』


あー、俺のことボッチだと思っている?

これでも昔はちゃんとパーティ組んでたんだぜ。

『蒼穹を支える白銀の塔』というパーティ……

意味は不明だ。

レナーテが決めたんだ。

あいつ、金属性だからな。

金属的な響きを入れたかったんだろうよ。

支えていただけましか。

青空を貫いていたら厨二病だよな。

他の候補として『七色の橋を渡る白銀の鹿』とか『星界に揺れる白銀の羽根』とかな。

白銀が好きだったんだな、きっと。

七色のほうなんか、七色言っているのに、さらに白銀を入れるんだから、相当なもんだ。


まあ、過去のことはいいや。

今はミノタウロスだ。


ブルオオオオォォォ!


待っていてくれたようだ。

意外に律儀な奴だよ。

じゃあ行こうか!


ミノタウロスが戦斧を振りかぶる。

このタイミング、剣を構え、《水流の流れ》を発動。

戦斧の振り下ろしに剣を添えて、その流れを制御する。

イメージするのは川だ。

その水の流れを思い浮かべる。

敵の攻撃を受け止める必要なんてねえんだ。

当たらなきゃいい、逸られせばいいんだ。


戦斧が横から俺に迫る。

その流れを上へと導く。

次は袈裟懸けか。

少しだけその角度を変えてやる。


数合、逸らし続ける。

ミノタウロスは馬鹿力だが、速度はそれほどでもねえ。

ああ、バルドゥルとの訓練が活きているな。

慣れている。


ブルモモオオオォォォ!!


ミノタウロスが更に叫ぶ。

イラついているらしい。

俺は反対に静かになっている。

水流の流れの効果なのかもしれねえな。

頭がクリアだ。


ミノタウロスの渾身の唐竹割り。

それを少しだけ横にずらす。

それだけ。

さっきと何も変わらない。

なんとなく――その流れのまま体を動かす。

逆らわない、流れのまま。

俺の体がクルリと周り、そして、剣がミノタウロスの脇腹を斬り割く。


グオオォォ!


怒りか。

それじゃあ戦いには勝てねえぜ。

やつの横切り。

当たれば俺も上下に真っ二つ。

だが、当たらねえな。

上に流してやる。

そうすると、ほら、脇腹が丸見えだぜ。

《迅突・無型》を発動……

ああ、そうか。

水の流れに任せて、最後に剣に回転を加える。

迅突がいつもよりも、大きく、深くミノタウロスの脇腹に穴を穿つ。


ゴオオォン!


おっと、このスキルは少しフリーズが長えかな。

危なねえ、ギリギリでミノタウロスの攻撃を逸らす。

避けるでなく、逸らすなので、間に合ったがな。


さて、冷静にミノタウロスを見る。

両の脇腹に傷を負って、動きが悪くなっている。

体は少し前かがみになり、息が上がって、辛そうだ。

だが目はまだ死んじゃいねえな。

こちらを睨んでいる。


それでも、もう差は縮まらねえよ。

終わりだ。

悔しいかい?

でも終わらせるぜ。


《激流ノ歩》を発動、接近する。


ブオオォ!


それを見越したように頭を突き出し、角での攻撃。

そうだよな、まだ諦めてねえよな。


だが、俺の《激流ノ歩》もだいぶ柔軟になったんだぜ。

スライディング。

ミノタウロスの股を抜く。

その際にヤツの左足を斬る。


ミノタウロスは膝をつき、振り返れない。

ヤツの背中に飛び乗り、《迅突・無型》そして剣を回転させる。

剣は、ミノタウロスの首の骨を砕き、首を貫く。

背中を蹴り、飛び退く。

ミノタウロスはゆっくりと前に倒れた。


ヤツは怒りの表情のまま死んだ。

そうだな、殺し、殺されが俺たちの関係なんだろう。

ヤツらは俺たちを殺し、俺たちも奴らを殺す。

どちらが先だったかは知らねえ。

せめて話せるなら、何か違う未来もあるかもしれねえが、意思疎通もできねえしな。

俺はヤツを殺して、生活の糧とする。

ただその事実があるだけだ。


もうずいぶん魔物を倒してきた。

魔物の命の重さも気づかねえくらいになっている。

だが、きっと、少しずつ煤がたまるように心にたまっていくのだろう。

ベテラン冒険者ってのはその煤の払い方を知っているんだ。

自分なりに納得して魔物を倒している。

だが、どうしても胸に少しだけ残る。

まあ、それでいいんだと思う。

確かに俺たちは殺している。

ヤツを殺したこの手の感触は確かに残っている。



『ようやくモノにしましたね。よくやりました、フェルド』


なんか、ジリに褒められる。

久しぶりだな。

《水流の流れ》はあれでいいらしい。

ここ数週間、この訓練をさせられていたから、そろそろ成果が欲しいところだった。

まあ、俺もこの歳で成長できるってこった。


「おう、ありがとよ。ジリ。待たせちまったな」


『待ってはいませんよ。ただ、あまりに遅ければその尻を引っ掻くだけですから』


コイツ、知的なふりをして、すぐに暴力に訴えるよな。

自分で気付いているのか?

認識してやっているんだろうな。

まったく面倒なヤツだぜ。


「フェル、大丈夫? 怪我はない?」


イーナが俺の体をチェックする。


「おう、問題なしだ」


「すごいね、フェル。Aランクの魔物も、もう問題なしだね!」


俺もAランク冒険者らしくなってきたってことかな。

さて、ミノタウロスか。

これで数週間分の報酬は得られたかな。

少しゆっくりできるか。


『次はスキルの定着ですね。使い続けることでその精度が上がるでしょう』


おい、少しは休ませろよ!

ため息をつく。

と、黒豹が睨んできた。

わかったよ、やりゃあいんだろう!


俺はおっさんだが、それほど休めねえらしいぜ。

休養は必要だと思うがなあ。

特におっさんには。

世間はもう少しおっさんに優しくしなきゃいけねえと思う。



<<ステータス>>

フェルディナント・エアハルト

 年齢:43歳

 冒険者:Aランク

 LV:44(Up!)

  生命力:291

  筋力 :202

  魔力 :118

  素早さ:162

 アクティブスキル:

  螺旋突・無型(New!)


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