第49話 イーナと俺は相変わらず親子で、ジリが横で小言を言って
「フェルド、起きなさい! 朝だよ。ほら、こんな気持ちのいい日なんだから!」
シャーとカーテンが開く音がする。
朝日が部屋に差し込んで、俺の目に入り込んでくる。
ガチャリと窓が開く音がして、柔らかい風が吹き込んできて、新鮮な空気が部屋に入ってくる。
確かに気持ちはいい。
「って、まだ起きない!? しょうがないなあ。ならこうだね。えい!」
ゴスリ!
イーナの手刀が俺の頭に。
「痛えな、おい! イーナ、そこは毛布をはぎ取るだろうが! 順番が違う。それは最後だ!」
「えー、面倒くさいよ。だって、毛布とっても起きないじゃない。無駄な手順は省こうよ」
いや、イーナの育て方を間違ったか?
イーナの手刀。
Aランク冒険者である俺だからいいけどな。
一般人なら悶絶もんだぜ。
イーナが楽しそうに笑っている。
まあ、いいか。
イーナも成長した……
コイツの食欲ってその成長のためなんじゃねえかって疑っている。
もう十四歳とかその程度までいってんじゃねえだろうか?
つーことで、宿は別部屋をとっている。
俺もAランク冒険者になって、稼ぎもできた。
二部屋とることも問題ない。
というか、エルマさんからの提案だった。
「イーナちゃんも大きくなったわねえ。さすがにフェルドさんと一緒のベッドで寝るのは世間体が……。二部屋にしましょう。ウチの売り上げも上がりますし」
うん、エルマさんの有無を言わさぬ迫力があった。
男親というのはその辺がダメねえ、デリカシーがないわね、って感じか?
しょうがねえよなあ。
イーナは成長が早すぎて、そんなこと気が付かねえよなあ、うん。
女性のことは正直わかんねえ。
ということで、エルマさんがイーナの相談に乗ってくれているらしい。
ジリも一応女性。
アレは口では偉そうなことを言っているが、戦闘以外で役に立っているのか?
まあ、いつもイーナにくっついて護衛をしてくれている。
頼もしい相棒ではある、ということにしておこう。
んで、ジリはいない。
まだイーナの部屋で寝てやがるな、アイツ。
そのうち職務放棄で解雇されんじゃねえか?
「じゃあ、私、エルマさんを手伝ってくるね」
最近、イーナは料理に目覚めたようだ。
朝食の手伝いをしてくれている。
「あ、俺も行くよ。たまには手伝わねえとな」
「うーん、どうだろう?」
イーナが首を傾げる。
そりゃ、どういう意味だよ。
子供だけに任せちゃいられねえだろう。
『さて、不要な手伝いということもありますからね』
うっせえよ、ジリ。
いつの間に、しれっと起きてきたんだよ。
イーナと一緒に起きてきたような顔をしてるんじゃねえよ。
料理の手伝いなんかした方がいいじゃねえか。
世の奥さんは家事を手伝わねえ夫にご立腹じゃねえのかよ。
『まあ、行ってみればわかるでしょう』
「はい、フェルドさんは大丈夫です。庭で剣を振っていてくださいな」
「はい……エルマさん」
なんでだよ、どうしてだ?
『体が大きくて邪魔なのでしょう。キッチンが大きくないんですから』
ああ、なるほどね……
「イーナちゃん、目玉焼きお願い」
「了解、ティム。任せなさい」
ティムとイーナは仲良くお手伝いしている。
なんだろうな、この疎外感。
子供が大きくなったら、父親なんてこんなもんかよ。
「ふふ、手伝いができなくて不貞腐れるなんて、変わってますね、フェルドさん」
エルマさんが笑う。
そりゃ、手伝いなんて面倒だが、のけ者にされるものそれはそれで……
「あ、おはようございます、フェルドさん。朝の鍛錬ですよね。行きましょうか!」
ディーターに引きずられるように庭へ。
ま、いいか。
ディーターもだいぶガッシリしてきたな。
魔法使いにしちゃ力もある。
……若干育て方を間違えた感もあるが。
べつに魔法使いが体を鍛えたっていいじゃねえか。
「おはよ、フェルドさん」
「おはようございます。フェルドさん、よろしくお願いします」
クリスタとグレーテも下りてきた。
この子たちは……逞しくなったというよりも女性らしくなったなあ。
まあ、レベルも上がって強くなってんだ。
いいだろう。
「よお、今日もよろしくな」
こいつらも育っているってことだろう。
いいじゃねえか。
「フェ、フェルドさん……。あの、横斬りなんですが、見てくれませんか?」
「ああ、いいぜ」
グレーテの指導をする。
俺の剣技も我流なんだが、まあ、基本は知っているからな。
グレーテは俺に懐いてくれてうれしい。
グレーテの横斬りは不安定で力が入っていない。
腰の回転が足りないんだ。
「腰はもうちょっとこうで……」
「あ、こんな感じですか?」
なかなか伝わんねえもんだ。
「いや。少し……」
「ええっと、こうでしょうか」
そうだなあ、ちと違うんだ。
グレーテの腰を……
「で? 何で、フェルはグレーテさんを手取り足取りしてるのかな!」
「うお! イーナ……」
朝食の手伝いを終えたイーナが合流。
凄く睨まれている。
なんで怒ってんだよ。
「ちとグレーテに剣を教えてただけだが」
「教えるのはいいでしょう。だけど触りすぎ。グレーテさんが困るわよね」
「えと……私は別に大丈夫」
「グレーテさん、フェルを甘やかせちゃダメだよ。すぐに調子に乗るんだから」
なんだろうな、イーナのエルマさん感が増している。
そして最近、俺へのあたりが強いときがねえか?
「はい、はい、フェル。グレーテさんから離れましょうね」
イーナが間に割り込む。
で、一睨みされる。
おう、親の威厳はどこにいったよ。
『もともとそんなものはないでしょうね。どこを探しても見つからないでしょうね』
ジリよ、んなこたねえと、俺は思うんだがなあ。
イーナも育ってきたってことかなあ。
俺に意見することが多くなってきた。
反抗期、じゃねえよなあ……
前は可愛い感じだったが、美人寄りになってきた。
相変わらず聖女らしさってのはないが、少しだけ言葉遣いが女性らしくなった。
身長もたぶん160センチくらいになった。
胸も……いや、俺が言うのは違うな。
見た目は聖女だ、見た目はな。
『フェルドの影響が強いでしょうね。想定外です。もう諦めました。それなら、戦う聖女を目指すべきでしょう』
ジリよ、ちとやけになっちゃいねえかい?
『あなたに言われたくないでしょう。あなたには』
だから、爪はよせよ、爪はよう。
んな感じで、イーナはしっかりと戦う聖女へまっしぐらだ。
朝の訓練のあとは朝食だ。
「目玉焼き、イーナが焼いたんだよ。食べてね」
何故か機嫌が直ったイーナが隣に座っている。
なんだかなあ、よくわかんねえや。
「おう、上手く焼けてるじゃねえか。だいぶ上達したな」
イーナが最初に覚えたのがゆで卵で、次が目玉焼きだ。
最初は黄身がつぶれて、目玉にならなかったからな。
それはそれで美味いのだがな。
「えへへ、すごいでしょ? 今度、だし巻き卵も教えてもらうんだ」
「おう、いいじゃねえか」
とりあえず、頭を撫でておく。
イーナは目を細めて嬉しそうにしている。
俺としては卵料理以外も覚えてほしいところなんだが。
それは言わない方がいいってことは、俺だってわかるぜ。
柔らかいパンに、カリッと焼けたベーコンを乗せる。
その上に目玉焼きを乗せ……
「なんで、乗せるかなあ。フェルはなんでもパンに乗せるよね。目玉焼きだけで食べてもらいたかったのにい!」
おっと、イーナの機嫌を損ねちまったらしい。
『何やってんですか、フェルド。それくらいベテラン冒険者ならわかるでしょう』
いや、冒険者関係ないだろうが、これ。
パンにベーコンと目玉焼きは黄金のトリオだろうが!
さらにマヨネーズかけりゃあ、最高じゃねえか。
「せめて塩コショウで食べてよね」
マヨネーズを封じられた……
イーナの先読みよ。
いや、美味いよ、塩コショウで。
だが、マヨネーズのコクがなあ。
「ふふふ、なんか微笑ましいですね。娘に翻弄されるお父さんって感じですよね」
エルマさんに笑われちまった。
「でも、イーナちゃん。あまりお父さんを困らせちゃダメよ。お父さんも拗ねちゃうかもしれないから」
いや、俺は拗ねねえよ。
いい大人だからな。
「でもエルマさん。フェルはだらしないし、面倒くさがりだから。ちゃんとしないと」
「イーナちゃん。男の人ってずっと子供なのよ。大人にならないの。でも、いざというときにしっかりしてればいいのよ。フェルドさんはそのときに頼れるちゃんとしたお父さんだと思うわ」
エルマさんに褒められた?
なんか嬉しいねえ。
イーナを育てて数年だが、これまでの頑張りが報われた気がする。
「ほらあ、エルマさん。フェルを甘やかさないでよ。顔がデレデレでだらしなくなってんだから!」
なんだよ、だらしない顔って。
「ふふ、私はそんなだらしない顔も好きですよ」
「もう! エルマさん!」
イーナが頬を膨らませる。
この辺はまだ子供だな。
ちとほっとする。
最近はいつもこんな感じだよ。
イーナと俺は相変わらず親子で、ジリが横で小言を言って、エルマさんに笑われて、ディーターたちを鍛えてやっている。
Aランク冒険者になったからってやることは変わんねえんだ。
ま、こんな辺境の街じゃあ、Aランクだって威張ってもしょうがねえよ。
俺はおっさん冒険者のままだ。
つーか、歳を取った分、おっさんが進んだ感じなんだろうな。
それでいいんだと思うぜ。
「女性との交流が少し増えてきたように思うんだけど、フェルドさんが、そのあたりをどう思っているのか気になるところだよね」
うっせえよ、ティム。
別に変っちゃいねえよ。
いつも通り、平和な毎日が続いているってことだよ。
<<ステータス>>
フェルディナント・エアハルト
年齢:43歳
冒険者:Aランク
LV:43(Up!)
生命力:285
筋力 :198
魔力 :116
素早さ:159




