第47話 【シャノン視点】これが私たちとフェルドさんの出会い
私たち三人は友達になった。
いつも一緒だった。
そして冒険者を目指した。
運よく、私は運動神経が良かった。
マリオンは力が強く、体力があった。
アシュリーは魔力が高くて、実家もお金持ちで、魔法の勉強もできた。
「ねえ、シャノン。冒険者ってどんなのかなあ。僕も立派な冒険者になれるかな。冒険者になればみんな優しくしてくれるかな?」
アシュリーは子供らしく素朴な疑問を聞いてくる。
「うん、きっとそうだよ。冒険者は実力の世界だからね。きっとどんな服を着てたっていいはずだよ」
「そうだよね! とっても可愛くしててもいいよね。僕を愛してくれる男の子もいるよね!」
「そうだよ。きっとね!」
アシュリーが本当に可愛らしく笑った。
「そのためには訓練しないといけないよ。私とシャノンは体を鍛えて、アシュリーは魔法ね」
「うん、マリオン。僕、がんばるよ!」
ちなみにね。
この頃って、私、まだ恋愛対象は女性だと思っていたんだ。
だから、女の子の格好している男の子を愛してくれる女性って、もっと少ないかもしれないな、なんて思っていた。
恋愛もしたことないのにね。
だって、私たちと仲良くしてくれる子供っていなかったから。
だから、どっちが好きなんてわかんなかったんだ。
しょうがないよね。
後にフェルドさんに会って、その認識は覆されるんだけど、それはもう少し後の話ね。
……マリオンは男の子を遠くから眺めていたっけ。
その頃からね、体の小さい、可愛い男の子が好きだったんだよね。
変わらないなあ。
私とマリオンが十四歳。
アシュリーが十三歳。
冒険者ギルドの門を叩いた。
「いい? マリオン、アシュリー」
「いこう。シャノン」
「僕、やっと冒険者になれるね!」
希望に満ちてね。
だけど、現実はそれほど甘くはなかった。
世間はもっと硬直していたんだ。
冒険者ギルドは思っていたより、ギスギスしていた。
空気が重くて、目をギラギラさせた冒険者たちがたくさんいた。
お酒を飲んで、大声で話していた。
これが冒険者の世界かと思った。
正直、怖かった。
だけど、三人だから、重い足を必死に動かして中に入った。
「おー、嬢ちゃんたち何しに来たんだよ」
「よう、よう。可愛いじゃねえか。こっちきてお酌してくれや」
「ははは! お洋服屋さんと間違っちゃかな? おじさんが連れて行ってあげようか」
酔っぱらいのおじさんたちが声を掛けてくる。
無視だ。
気弱な表情をしたら侮られる。
アシュリーはマリオンの後ろに隠れるようにしている。
何とか受付まで来た。
受付には恰幅の良いおばさんがいた。
「どうしたの、お嬢ちゃんたち。ここはガラの悪い冒険者がたくさんいるのよ。お嬢ちゃんたちみたいに可愛い子が来るところじゃないわ」
優しく声を掛けてくれた。
このおばちゃんはボニー・オーモンドさんといって、この後、私たちに世話を焼いてくれた、優しい人だった。
「ぼ、冒険者になりに来たんです」
ちょっとだけ、どもっちゃった。
緊張していた。
とたん、ギルド内に爆発したように笑いが起きた。
「こんな可愛い嬢ちゃんが冒険者かよ!」
「あー、笑うなあ! 笑っちまうぜ」
「嬢ちゃん、冒険者ってのは花を摘むお仕事じゃねえんだぜ!」
恥ずかしい、逃げたい。
でも、ダメだ。
ここで逃げちゃダメなんだ。
こんなこと、いつもと同じじゃないか。
いつも、笑われていたんだ。
「そうなのね。親御さんの了解は得ているの?」
「はい、みんな相談しました。説得しました」
家族は私たちが幸せになるのならと、認めてくれた。
今のままじゃ、幸せになれないと思っていたんだろう。
危険な仕事だと知っている。
だけど、それでも……
「冒険者になりたいです」
しっかりと言えた。
「そう、わかったわ」
ボニーさんは優しく頷いてくれた。
「あら、あなたたち男の子だったのね」
私たちの記入した情報を見て、ボニーさんが驚く。
彼女の言葉を耳ざとく聞きつけた冒険者が騒ぎ出す。
「おい、おい。お嬢ちゃんじゃなくて、お坊ちゃんだったのかよ? そりゃすげえなあ。女より美人じゃねえか!」
「ははは、男に相手してもらいてえってか! いいぜ、俺が可愛がってやろうか」
「男に気に入られてえってか? そりゃあいいや。遊ぼうぜ!」
違う、男の人に気に入られたいからじゃない。
私たちがこれを好きだから、ただ自分を偽っていないだけなんだ。
「この酔っぱらいども! うるさいよ! さっさと仕事に行きな。甲斐性無しどもが! 行かないなら借りてきた猫のように静かにしてるんだねえ。じゃないと冒険者の資格を剥奪するよ!!」
ボニーさんが冒険者たちに凄む。
ギルドがちょっとだけ静かになった。
「ごめんなさいね。聞こえないように気を付けたんだけど」
でも、すぐにバレることだ。
これに耐えられないと冒険者になれない?
アシュリーはマリオンの背中に額を付けて、たぶん泣いている。
「問題ありますでしょうか?」
「ううん、問題はないわ。冒険者に必要なのは性別じゃないからね。だけど、大変よ……。ううん。きっとそれを承知で来たのよね、あなたたちは」
「はい」
それは自信を持って言える。
だけどその自信は揺らいでいる。
本当にここが私たちの目指した場所なのだろうか?
自由、そして居場所なのだろうか……
ボニーさんは少しだけ考えてから、優しく笑った。
「そうね。あなたたち、隣町のウェストフェルトへ行きなさい」
「え、冒険者は……」
「ああ、違う、違うわよ。冒険者にはなれます。だけど、ここはいけないわ。こんな男どもの巣窟よ。だから、隣町で冒険者をやりなさい」
それは何が違うの?
「あそこのギルドマスターはちょっと変わっててね。そんなマスターに似た冒険者が集まってきているのよ。ちょっと変わったところ。ここよりは全然マシ。いえ……たぶんあそこ以外はダメかもしれないわね」
変わった冒険者ギルド?
そこなら私たちを受け入れてくれるの……
「でも、移動のお金が」
「いいわよ、私が出します。出世したら返してね。ちょっと色を付けてくれてもいいわよ。でも、返却は十年後とかでもいいからね!」
ボニーさんが円らな目で、ウインクした。
ああ……優しい人はいるんだ。
助けてくれる人はいるんだ。
その優しさにすがろうと思う。
きっと今より良くなる。
その薄い希望を抱いて。
冒険者登録を行い、移動費をもらって、逃げるように街を出た。
思っていたのとは違う船出。
馬車に揺られている。
ドルフェミレスタの街が小さくなっていく。
一度も出たことのない街。
私たちの世界の全部だった街。
「ねえ、シャノン。ウェストフェルトってどんなとこかな?」
アシュリーが不安そうにしている。
だから私たち二人は楽しそうにしないとダメだ。
「ちょっと田舎みたいだね。のんびりしていいんじゃないかな」
「二日くらいだから。すぐに着くよ。大丈夫、きっと良いところ」
マリオンがアシュリーの頭を撫でる。
アシュリーはマリオンに体重を預けて、目を閉じた。
不安がある。
だけど、やらなきゃいけない。
三人だから、何とかなる、そう言い聞かせて。
ウェストフェルトに到着した。
ドルフェミレスタよりもだいぶ小さい街。
そして、冒険者ギルド。
やっぱり田舎らしくドルフェミレスタより小さい。
ここで……ここなら大丈夫なのだろうか?
「いいね。行こうか、マリオン、アシュリー」
「行こう、シャノン」
「うん……」
ゆっくりと扉を開ける。
少し小さめのギルド。
テーブルがあり、数人の冒険者のおじさんが座っている。
少しだけ躊躇する。
また笑われるのだろうか。
「シャノン、大丈夫?」
「マリオン……。大丈夫だよ。いける」
ここがダメだったら……?
今は考えちゃいけないんだ。
女性の格好をした僕たち三人が、冒険者ギルドに入っていく。
冒険者側から見たら、おかしなことだろう。
だけどそれは私たちの個性なんだ。
けっして崩せない、譲れないことなんだ。
テーブルに座っている隻腕の冒険者がチラリとこちらを見た。
すぐに興味をなくしたようで、テーブルにうつ伏せた。
よかった……何も言われなかった。
だけど、彼は何をしているのだろうか?
受付の人は大人の女性だった。
少しつり目で、髪を後ろで結んでいる体の大きな女性だ。
「あの……」
「お嬢ちゃんたちどうしたんだい?」
私は手紙を差し出した。
大事な手紙だ。
しっかりと握りしめていたから、少しぐちゃぐちゃになってしまったけど。
「ボニーさんからの手紙です」
「ん、ああ、ドルフェミレスタのボニーさんか。懐かしいねえ。あの人、元気かい?」
「はい、とてもよくしてもらいました」
「そうかい、そうかい」
彼女は手紙を受け取り、読み始めた。
「なるほどねえ……。お嬢ちゃんじゃなくて、男の子だったのかい。で、どっちがいい?」
「え、と……何がでしょうか?」
「呼び方よ。お嬢ちゃん、お坊ちゃん?」
「いえ、シャノンでお願いします」
なんかずれている。
問題はそこじゃないと思う。
私たちが男の子で、女性の格好をしているってことじゃないのかな?
「ま、大体のことはわかったわよ。私もボニーさんには世話になっているし、できる限りのことはするわ」
彼女が手を出す。
私はおずおずとその手を握った。
「私はカミラ・クンケルね。よろしく!」
「はい。私はシャノン・ガーネットです」
「マリオン・アーミテイジです。よろしくお願いします」
「僕、アシュリー・バーネット」
「はい、みんなよろしくね!」
彼女は豪快に笑ったんだ。
びくりと私は冒険者ギルドの中を見回した。
幾人かいる冒険者は目を丸くしていた。
けれど嘲ったりしない。
ここは、なんか少しだけ違う気がする。
「なに楽しそうなんだよ、カミラさん。面白いことでもあったのかい?」
あの隻腕の冒険者が声を掛ける。
「ああ、この子たちね、Eランク冒険者なのよ。ドルフェミレスタから流れてきたのよね」
「ん、ドルフェミレスタ? ああ、そうかい。ま、そういうこともあるか」
「で、ボニーさんによろしくされちゃったんだよ」
「ボニーさんがねえ」
「ということで、フェルド、よろしくね」
「おい、ちょっとどういうことだよ。よろしくって何だよ!」
隻腕の冒険者、フェルドさんが慌てる。
よろしくって何だろう?
彼は冒険者であって、ギルドの職員じゃないと思うけど。
「この間、話していたでしょう。新人教育よ。新人教育」
「いやー、確かに話していたよ。だが、何で俺よ? で、こんな女の子……」
「いや、男の子」
「んん?」
フェルドさんが私たちを見る、じっと。
怖い。
きっと……
「そっか、そりゃすげえや。普通の女の子より美人じゃねえか。すげえもんだな。じゃなくて、俺が新人教育ってなんだよ!」
じゃなくて、なの?
え、どうでもいいの?
「だってアンタ、仕事ないでしょ?」
「あるわ! しっかりあるわ!」
「そこで暇してたのに?」
「これから頑張るんだよ!」
「ダメな子みたいな言い訳してないでしっかり教えてきなさい! ギルドから少しは報酬を出すから」
「がー」
フェルドさんは頭をかく。
「しょうがねえなあ。やったるよ。やりゃあいいんだろが!」
「そんな嫌そうに言わない! この子たちが可哀想でしょう!」
大の大人がしっかりと怒られている。
フェルドさんはこちらを見て。
「すまねえ、気を悪くしたら悪いな。お前たちのせいじゃなくて、俺が面倒くさがりなだけなんだ」
「わかっているなら、しっかりやる」
「だから、この子たちと話してんだろうが! 一言多いんだよ、カミラさんは」
「フェルドも一言多いからね。シャノン、マリオン、アシュリー。この男は口は汚いが、悪い男じゃないからね。むしろ信用していいよ」
「だから、むしろってなんだよ。やっぱり一言多いんだよ」
フェルドさんとカミラさんは言い合っていた。
口は悪いけれど楽しそうだった。
きっと信頼しあっている仲なんだ。
そう思った。
これが私たちとフェルドさんの出会い。
まだ私が十四歳。
そして、フェルドさんが三十歳。
フェルドさんも若かったなあ。
今のフェルドさんはもちろん好きだけど、この頃の若いフェルドさんもそれはそれで好きかも。
今より少しだけギラギラしていたんだよね。
このときは、第一印象はちょっとだけ怖いと思っていたんだ。
それは秘密だ。




