第46話 【シャノン視点】希望に満ちた、子供の頃の話だ
「フェルドさん、大丈夫でしたか!」
ギルドへ帰還し、フェルドさんを見つけた。
良かった、彼は大丈夫そうだ。
私たち『清廉なる赤い薔薇』は森での魔物討伐から街へ帰って来た。
街の大通りや大通り沿いの家が壊れている。
戦闘の痕跡がある。
大地が切り裂かれ、陥没し、赤黒い血で汚れている。
「シャノン、これ、相当激しい戦闘の跡よね」
マリオンが呟く。
「せ、戦死者とか出てないよね? ドミニクさん、大丈夫だよね?」
アシュリーが青ざめている。
フェルドさん、ドミニクさんが、チャールズさんの護衛として依頼を受けていた。
この街に帰ってくる予定が今日。
私たちはそれに合わせて帰って来た。
っ……なんで私たちがいないときに!
私はこんな大事なときにいなかったんだ!
急いで冒険者ギルドに向かった。
「よお、シャノン。お帰り」
フェルドさんは疲れた顔をしている。
だけど五体満足。
本当によかった。
ドミニクさん、テオさん、ルッツさんもいる。
みんなボロボロで泥だらけ。
みんな、本当に疲れた顔をしている。
だけど生きている。
イーナちゃんはフェルドさんの膝で寝ている。
少し大きくなっているイーナちゃん。
少しだけ羨ましい。
何歳までそれができるのだろうか?
私がそこにいたなら。
むしろ私が膝枕をフェルドさんにしたい。
「オーガですか?」
フェルドさんの話。
ノーマさんが魔道具を使ってオーガを召喚する門を開けたらしい。
細かいことは調査中で、わからない。
なんでノーマさんが、と思う。
だけど、フェルドさんたちが無事だったこと、それが嬉しい。
私がいないところで、私の見ていないところで、フェルドさんが傷つくのは嫌だ。
それは、本当に嫌なんだ。
「でよお、聞いてくれよ。シャノンちゃん」
テオさんが麦酒をあおっている。
ルッツさんは苦笑だ。
「フェルドの野郎がよお。ついにAランクになりやがった! レベル四十一だってよお! がっつり抜かれちまったのよ、俺は」
「え、Aランク? フェルドさんが!」
アシュリーが驚いている。
フェルドさんは恥ずかしそうに頭をかいている、可愛い。
そうか……遂に、フェルドさんがAランクなんだね。
Bランクに上がったときに、そうなるとは思っていたけど、思ったよりも早かった。
フェルドさんを冷静に見つめる。
今は抱きしめたいとか、触りたいとか思っちゃダメ。
冷静に見る。
そうだね。
きっと私よりも強くなっている。
元々技術ではフェルドさんに届いていないと思っていた。
それにステータスが追いついた感じだ。
すごく強くなっている。
このギルドではマスターに次ぐ強さ。
だけど、いつものようにちょっと苦笑気味に笑っている。
変わらないんだね。
少し、私たちの話をしておこう。
私はシャノン・ガーネット。
Aランク冒険者。
剣士でアタッカー。
隣にいる鎧の子が、マリオン・アーミテイジ。
私の友人、心の支えだ。
Aランク冒険者で、タンク役。
身長の低い子が、アシュリー・バーネット。
パーティの盛り上げ役。
私の友人。
これでもとても繊細な子なんだ。
Bランク冒険者で、魔法使い。
属性は木。
パーティ名は『清廉なる赤い薔薇』。
愛に、美に生きようという決意を強烈に込めている。
私たちは男性だけれど、女性の衣装が好きな集まり。
だから、余計に意識してパーティ名を付けた。
別に男性が愛に生きていてもいいと思う。
世間は男らしさとかいうけれど、人間には違いないだろう。
愛に生きるのは男だから、女だからってことはないと思う。
ちょっとマリオンの愛は……と思うこともあるけどね、彼女の愛は少年に向いているから。
ノーマルの少年たちにちょっと刺激が強いかなと思ったりもしている。
けれど、彼女は、それ以外はとてもいい子なんだよ。
わかりにくいけどね。
私たちの生まれは隣町のドルフェミレスタ。
このウェストフェルトより少しだけ大きくて、活気のある街だ。
私はそこの農家の生まれ。
そして冒険者を目指した。
農家だからってことで、冒険者を目指したんじゃないけどね。
一人姉がいる。
結婚して、婿をとって、実家の農業を手伝っているはず。
私が子供の頃はとても貧乏だったから、いつも洋服は姉のおさがり。
一緒に遊ぶのも姉。
姉の影響は大きかったと思う。
だけど、それは嫌じゃなかった。
普通だと思っていた。
両親も私のことは可愛いって褒めてくれたし。
それがとても嬉しかった。
可愛いものが好き。
ぬいぐるみが好きだし、花も好き。
だけど体を動かすのも好きだし、チャンバラも好き。
そんな子供だった。
年齢が少しだけ大きくなって、男女の差が出始めると友達と居心地が悪くなって、少しだけ距離ができた。
私もなんとなく、他の子とは違うのかなと思い始める。
私は可愛いものが好きなだけ。
可愛い洋服が好きで、それを着ている自分が当たり前だと思っていた。
だけど、恋愛対象は男の子。
あのときはそう思っていたんだよね。
「シャノンは変だと思う」
男の友達が私を指さした。
「どうして?」
「だって、男なのに女の格好をしているじゃん! おかしいよ」
「可愛い服が好きなだけだよ。そんなにおかしいことかな? 私に似合ってないかな?」
「に、似合っているかじゃないよ! 変だよ!」
少し顔を赤くして必死に否定した。
女友達はクスクス笑った。
「シャノン君はそんな格好をして恥ずかしくないの?」
「だって、君たちと同じ格好だよ。君たちは恥ずかしいの?」
「違うわよ! 男の子なのに女の子の格好をして恥ずかしくないのって聞いてるの!」
「なんで、男の子がスカートをはいちゃダメなの? スカートが女の子のものだって誰が決めたの?」
「そ、そんなの昔から決まっているじゃない。何言ってんのよ? シャノン君、やっぱり変よ!」
友達と一緒にいてもなんとなく楽しくなくなったんだよね。
だから、一人で街を歩いていた。
楽しくなかったけど、友達と一緒にいるのも嫌だった。
そうだね、それはもう友達じゃなかったんだね。
楽しくないけれど一人で歩いていた。
街の端の方、木が茂って森のようになっているところ。
少女が、いや、少女に見える人が剣を振っていたんだ。
あ、可愛い。
私はそのとき最初にそう思った。
私よりもかわいい服を着ていた。
ふんわりと柔らかそうな髪の毛、大きな宝石のような瞳、とても小さな顔。
まるでお人形みたい。
だけど、真剣な表情で剣を振っていた。
その可憐さとはとても不似合いで、だけど、真剣だから笑うことはできない。
なぜだろう、私と同じような空気をなんとなく感じたんだ。
「あ、あの……」
声を掛けると、綺麗な瞳が私を見つめた。
「何か用?」
そっけない、だけど、可愛らしい声。
「うん、君がとても綺麗だなと思って……」
「口説いているの?」
「ち、ちがう」
慌てて否定した。
純粋に綺麗だって思っただけだから。
「ふふふ。ねえ、きっとあなたも男の子よね」
「え、あなたもってことは……」
「そう、私も男の子。だけど可愛いのが好き、男の子が好き」
この男の子は笑った。
見たこともないほど可愛い子だと思った。
どんな女の子よりも可愛い男の子。
なら、それでいいじゃないかな?
私も彼女のようになりたいと思った。
それが、マリオンとの出会いだった。
マリオンと出会ってからはずっと一緒にいた。
マリオンはよく剣を振っていた。
「ねえ、マリオン。どうして剣を振っているの?」
馬鹿にする男の子を黙らせるため?
「私、冒険者になりたいの」
「え、冒険者?」
「そう、冒険者なら私のような人間もいると思うの。だって、自由人じゃない」
「自由人なの?」
「そうよ、自由人。国にも縛られず、常識にも縛られずに、自分の実力だけで生きていくの。きっと楽しいわ」
そうか、冒険者ってそんなんだ。
そのころの私は漠然と両親の仕事を継ぐんだろうなって思っていた。
だから冒険者になりたいなんて思っていなかった。
マリオンが目を輝かせて言う。
とても楽しそうに聞こえた。
「私もなれるかな、冒険者に」
「うん、なれるよ。だけど練習しなきゃだめ。一緒に練習しよう」
マリオンが、持っていた剣を私に渡した。
私はそれを受け取ったんだ。
そう、私もマリオンと冒険者を目指すことにしたんだ。
二人で剣の練習をした帰り道。
空は夕空で、空気は少しヒンヤリとしてきた。
細い路地、夕日の当たらない暗がり、一人の少女が泣いていた。
声を押し殺して泣いていた。
「どうしたの? 君」
マリオンが声を掛けた。
その子は小さくて、とても可愛い子だった。
きっと私たちより年下だろう。
そして、なんとなく私たちと同じ匂いがした。
「えぐ……えぐ……」
服は汚れ、スカートはところどころ切れていた。
「どうしたの? 何があったの」
なるべく優しい声を出した。
怖がらせないように。
「なんで……なんで、みんな、僕をいじめるの? 僕、何もしていないのに。ただ、女の子の服を着ているだけだよ」
そうか、この子も同じなんだ。
彼女も男の子なんだ。
なんだろう……
「ありがとう」
私は嬉しくなり、感謝の言葉が出た。
彼女を抱きしめた。
同じ人がいる。
たぶん今はふさわしくないんだ、彼女は泣いているから。
だけれど嬉しくなったんだ。
「私も同じ。男の子だけど、女の子の格好をしているの。仲間外れ」
「お姉さんも男の子なの?」
「そう、あの子も男の子なのよ」
彼女は目を丸くしている。
「あんなに可愛いのに?」
「そう、男の子。仲間外れの男の子。だけど、三人集まれば、もう仲間外れじゃないよね」
「う……うわーん。僕、僕、スカートはいていいんだよね。可愛い格好をしていいんだよね」
「いいんだよ。私たちは可愛くていいんだよ。自由なんだ」
マリオンがそっと私たちを抱きしめた。
たった一人で泣いていた子供、そうアシュリーだ。
これが彼女との出会い。
女の子の魂を持っていたのに、男の子の体に生まれちゃっただけで、いじめられていた彼女。
女の子よりも可愛いのに、可愛いから余計にいじめられていたんだ。
普通の人と少し違うだけなのに、たったそれだけの理由で。
だけど、そんな普通じゃない子供が三人集まった。
集まれたんだ。
きっと女神様が導いてくれた。
そう思う。
今から思うと、恥ずかしくなる。
私たちは本当に小さかった。
世界のことなんか何も知らなかった。
だけど三人だったから、何とかなると思っていた。
希望に満ちた、子供の頃の話だ。




