第42話 黒い門が禍々しい力を放っている
ノーマおばちゃんが倒れているその横に、巨大な黒い門が立っている。
高さは五メートル弱ってところか。
扉の表面に角のある顔のレリーフ。
魔族か?
「あれはオーガじゃ。召鬼の門。オーガを召喚する魔道具じゃな」
「おい、メリス。知っているのか?」
魔力以外はポンコツじゃねえのか?
「これでもわらわは魔法関連の知識には詳しいのじゃ。間違いはないのじゃ」
「オーガならCからBランクだよな。その数は?」
オーガはノーマルでBとCの間くらいの脅威度とされている。
数が少ないなら俺たちだけで対処できる。
「さて……。それは魔道具の質と、捧げられた魔力、代償の大きさなのじゃ」
召喚の代償はノーマおばちゃんの命。
それは……大きいってことでいいのかな。
「おそらく上位種が出てくるのじゃ。気を付けろ、フェルド」
なるほどメリスにも得意分野があったんだな。
さて、何とかノーマおばちゃんをあそこから運び出したい。
対処が早けりゃ、もしかしたら助かるかもしれねえ。
しかし、黒い門が禍々しい力を放っている。
本能的に恐れる。
あれには近寄りたくねえ。
「ジリ。ノーマおばちゃんを退避させてえ。行けるか?」
『すみません、フェルド。私でも少し無理です』
ジリで無理なら、この街じゃあ、バルドゥルくれえしかいねえ。
あの馬鹿ならこの恐怖に立ち向かえると思うが。
欲しいときにいねえな!
そして街の連中だ。
ザワザワと遠巻きに急に現れた門を見ている。
危ねえ、逃げねえといけねえんだ。
冒険者と違ってその辺の感覚がねえんだ。
ドミニクは緊張し、冷や汗をかいている。
チャールズはバカみたいな顔をして、門を眺めているだけだ。
「おい! お前ら逃げろ、逃げろ! すぐにオーガが出てくるぞ!」
叫ぶ。
が、住民は顔を見合わせて、困惑している。
「チャールズ! とっとと逃げろ! 死にてえか!!」
とりあえず近いやつを動かせ!
「フェ、フェルドさん。し、死ぬんですか?」
「すぐ死ぬ。ぶち殺される! お前なんて、虫を潰すように、踏みつぶされるぞ! 死にたくなきゃあ、死ぬ気で逃げろよ!」
「っ! 本当っぽいですね。私は逃げます! まだ、死にたくない! だから逃げます!」
チャールズは頭がいい。
わざとらしく「死にたくない」と叫びながら逃げ出す。
本当に恐怖した表情を作って。
本気で怖がっているのかもしれねえがな。
住民たちはそれを見て、逃げなきゃいけねえって思いはじめている。
幾人かは逃げ出している。
まだ、迷っているヤツがいるが、しょうがねえ。
そこまでは面倒見切れねえ。
「フェル、ジリ、ドミニク。強化いくよ!」
イーナのバフ、聖女のバフだ。
少し恐怖が後退する。
「ジリ、行けるか?」
『イーナ様のお心遣い、無駄にしませんよ』
よし、これなら……
ギギギ……
くそが!
門が開きやがる。
開いた隙間から気持ち悪い空気が流れ出す。
中から手が扉を掴む。
ギャン!
そいつが一気に扉を開けやがった。
顔が見える。
くすんだ緑色の肌、金色の目、頭の左右に角がある。
筋骨隆々、身長は三メートルくらい、片手にこん棒。
オーガだ。
ノーマルのオーガ。
こちらを睨んでいる。
俺たちを認識したようだ。
「出てくるぞ、ドミニク!」
「おうさあ。どんだけの数か知らねえけど。やるしかねえよねえ!」
戦力はBランクの俺とドミニク。
それにAランクのジリ。
たぶんAランク近いイーナ。
それと魔力だけSランクのメリス。
……メリスはこれに付き合う義理はねえよな。
「おう、メリス。おめえも逃げとけよ。レベルも低いんだろう。だれも責めやしねえよ」
「な、何を言うか。わらわはエルフぞ。誇り高いエルフなのじゃ。オーガごときから逃げることはないわ!」
声が振えてんじゃねえか。
だが、心意気だけは合格だ。
しかし、状況判断は不合格だ。
足手まといになりかねねえぞ。
じゃあ、少しヒントをやろう。
「なら、メリスは魔法で防御してろ。お前の魔力ならオーガごとき、無傷だろう」
制御は難しいなら、飛ばさなきゃいい。
高魔力をそのまま防御魔法に使い続けていれば、怪我もしねえだろう。
「しかし、それでは戦力には!」
「タイミングってもんがあるだろう。そんときは頼るよ」
あるか知らねえがな。
「っ……。わかったのじゃ。無理するなよ、フェルド!」
お前の方が心配だよ。
俺よりも、自分の心配をしろよな。
さてと……
じゃあ、やろうか!
「まずは俺とドミニクが行くぞ。ビビッてねえだろうな」
「もう問題なしだよお。イーナちゃんのおかげだよねえ。じゃあ、やろうじゃないかね」
「ジリはノーマおばちゃんをどうにかしてくれ」
『黒豹になっても?』
「しょうがねえ。そろそろ黒豹を公開だ! 救出後、イーナの護衛な」
『私はそれほど大層なものではないですが。了解です』
「イーナは俺たちがやれなかったヤツを対処してくれ。魔力は温存。無駄弾は撃つなよ」
「わかった。フェルも気を付けてね!」
「行くぞ、おめえら! 鬼なんかぶち殺せ!」
戦闘開始だ!
まず先頭のオーガ、ノーマルだ。
それなら俺たちおっさんズで問題ない。
最初の一体。
オーガってのは外見が人間に近い分、大きさに圧倒される。
が、そのこん棒、大きすぎねえか。
いくら怪力だってなあ、攻撃が遅いぜ!
ガアアア!
叫んでいるヒマがあるのかな?
振り下ろすこん棒を避ける。
こん棒は地面をえぐり、穴を開ける。
馬鹿力だ。
が、当たらなきゃ意味がねえ。
そのまま膝を斬り付ける。
オーガはグラリと体勢を崩す。
念のためこん棒を持っている腕も斬っておく。
ギャアア!
うっせえよ。
頭を落として、終わりだ。
横を見る。
ドミニクのやつもオーガを一体対処したところ。
問題はなさそうだ。
「すげえもんだね、イーナちゃんのバフは。ノーマルオーガなら問題なしだよお」
「おう、さすがイーナだぜ。だが、気を抜くなよ。数がわからねえ。それと上位種か。話すと出てきそうで嫌だが、想定はしとかねえとな」
「ははは、まったくだよ。この街はおっさんたちを休ませてくれないねえ」
「まだ、若い奴らには辛えだろう。ま、できるやつができることをやるだけだ」
門から湧いてくるオーガどもをドミニクと倒していく。
たまにイーナの魔法がオーガの頭を打ち抜く。
ジリは……おばちゃんは道の端の方に横たわっている。
今はイーナの護衛か。
たまに飛んでくる魔法にはジリも含まれているな。
周辺では住民が遠巻きに眺めている。
馬鹿じゃねえのか?
逃げろって!
何があるかわかんねえんだからよ。
が、そいつらに構っている暇もねえ。
何かあっても自己責任だぜ。
文句言うなよ。
いくつ倒しただろう。
周辺にはオーガの死体が山になっている。
血地面が血の海になっている。
靴底がベチャリとして気持ち悪りい。
「で、こうなるよなあ」
「ありゃあ、ブルーだよねえ」
一回り大きいオーガが出てくる。
皮膚はくすんだ青色。
手にはでかい鉈を持っている。
それが二体。
「Aランクだよな。ドミニクいけるか?」
「あー、ちと大変かもしれねえなあ。イーナちゃんのバフがあるから、なんとか持たせるよお」
まあ、ドミニクはBランクだからな。
俺もBランクだが、A寄り。
しかも女神の加護が付いている。
「イーナ、ジリ。ドミニクの援護を頼む!」
「了解!」
『フェルド。あれは魔法を持っています。注意を』
なるほどそりゃ、怖ええな。
なら攻め続けようぜ。
魔法を使う暇を与えなきゃいいじゃねえか。
スキル身体強化、魔法剣を発動。
ドミニクの方のブルーへと、イーナとジリの魔法が飛んでいく。
「ただの色違いじゃねえか! 手抜きしてんじゃねえよ!」
と言ってみる。
ノーマルとブルーで実力が全然違うのはわかってる。
グルオォォ!
鳴き方も違えじゃねえか。
鉈の速度が違う。
が、俺も身体強化中だ。
躱すぜ。
コイツの怪力を受けてたら体力が持たねえ。
で、膝に斬り付ける。
硬えな!
が、斬れねえほどじゃねえんだよ!
「いったれや!」
スキル《横一閃》を発動。
無理矢理、横に切り裂く。
ガラァアァ!
オーガがよくわかんねえ声を上げる。
「危ねえな!」
口から冷気のブレス!
慌てて躱す。
魔法陣も何もないのかよ。
魔法というよりもスキルに近いかもしれねえ。
ブレスは家に当たり、家を凍らせる。
バリィ!
音を立てて、凍った家の壁が崩れ落ちる。
どんだけの冷気だよ。
町全体の気温が下がった気がする。
これを何回もやられると危ねえ。
俺は水属性で身体強化も使っているからいいが、住民はしんどいぞ。
早く倒さねえといけねえ。
が、強いんだよ、硬えんだよ、コイツ!
足の傷も気にせずに、鉈を振り回してくる。
躱して、反対の足への斬り付け……
ヤツはそれを見越したように体を回転する。
回転斬りだ。
地表を削るような低い軌道だ。
ジャンプで躱す。
ブルーが笑ったような気がした。
口を大きく開ける。
ブレスか?
俺が空中で逃げられねえと思ったんだろう。
「甘えんだよ!」
《迅突・無型》三連。
顔面に穴を穿ってやった!
ウガアアァァ!
痛みで顔を押さえて苦しがっている。
じゃあ、楽にしてやるよ。
《剛唐竹割り》。
ブルーを切り裂く。
ドミニクのほうは?
ドミニクはブルーの前。
ブルーはイーナとジリの遠距離魔法でボロボロ。
もうすぐ死ぬだろう。
いいじゃねえか。
じゃあ……
門から、ブルーが二体出てくる。
おいおい、まだブルーかよ。
おばちゃんどんだけ魔力をくれてやったんだよ。
勘弁してくれよ。
ブルーは登場と同時にブレス。
そりゃあ卑怯じゃねえか?
街が凍り付く。
いや、厳しいねえ。
が、やらなきゃならねえ。
この街にはエルマさんもティムもいるんだ。
俺たち冒険者が頑張んねえといけねえんだ。
俺たちは魔物退治の専門家だ!
「やってやるよ!」
「がははは! 苦戦してるじゃねえか。喜べ、ヒーローの登場だぜ! 助けてやるってんだ!」
筋肉の巨漢が現れた。
馬鹿でかいバトルアックスを担いでいる。
初老の筋肉達磨。
呼んじゃあいねえ。
が、助かった。
「バルドゥル、遅えよ!」
「フェルドもまだまだひ弱だな! 引退した俺に頼るようじゃあ、ギルドマスターの座は渡せねえよ!」
何月何日、俺がマスターになりたいって言ったよ?
だが、心強え!
脳筋だが、その分、戦闘力は確か。
俺たちのマスターだ。
じゃあ、ブルー退治と行こうか!




