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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第40話 そんなこんなで一人、旅の連れが増えた

翌日、俺たちの街へ帰る日だ。

チャールズは問題なく商売を終えている。

森で討伐された魔物の素材、薬草、木工品、手織り布等々、なかなかの金額で売れたらしい。

特に魔物の素材だ。

最近上位種が現れている。

危険度は増しているが、素材は高く売れる。

総合的にいいこととは言えないがな。

リスクは少ないほうがいい。

ギャンブルじゃねえんだからな。


仕入れも上々。

ウチの街で収穫できない農作物や、鍛冶屋のブルーノから頼まれていた素材類だ。


ということでさっさと帰ろう。

ちとエルマさんの料理が食べたくなった。

どうもエルマさんの料理に慣れ過ぎているようだ。

いかんね。



「ねえ、フェル。エルマとティムにお土産を買わない?」


「いいねえ。気が利くじゃねえか、イーナ」


頭をグリグリと撫でてやる。


「で、イーナは何がいいと思う?」


「そうだねえ。あ! あのお店のケーキが美味しそう。お土産にいいんじゃない?」


そりゃあ、イーナが食べたいだけじゃねえのかなあ。


「なるほど、エルマさんとティムの分を買うかね」


え、という表情で俺を見る。

やっぱり自分が食べたいんじゃねえか。


「イーナも食べるか?」


「フェルはたまに意地悪。ちゃんとイーナ分も買わないとダメだよ!」


「はい、はい。きっと美味しいぞ」


イーナのふくれっ面ってのも可愛いもんだ。


『……で、マリアンネの分はどうしますか?』


「ん、マリアンネさん。そうか、世話になっているし買わないとまずいか」


『……まあ、いいでしょう。その八方美人がどう出るか。その結果はいつ出るのでしょうね』


ジリが何か深いことを言っているらしい。

が、意味はわからん。

気にするようなことじゃねえだろう。


「じゃあ、イーナ、行くか……」


店に向かう途中。


「ちょ、ちょっと……」


後ろから声。

フードを被った小さいのが慌てて走ってくる。

顔はよく見えねえ。


「あっ……」


で、躓く。

俺の方へと倒れてくる。

しょうがねえから片手で受け止めてやる。

軽いな。

で、細い、細すぎだろうよ。

どうも女性と思われる。


「こら! なに触ってんのじゃ!」


彼女は何とか体勢を治して、ビシッと俺を指さす。

指差しってそりゃあ失礼だろう。

俺は助けてやった側だと思うが。

んで、「のじゃ」ってなんだよ。

また珍しい口調だな。


「何とか言ったらどうなのじゃ、おっさん!」


呆れてものも言えねえんだよ。

こりゃあ無視したほうがよくねえか?


「って、逃げるな! わらわを無視しちゃダメなのじゃ!」


あー、「わらわ」呼びのやつとは関わっちゃダメだと、マリアンネさんから言われているからな。

まともな奴はいねえらしいぜ。

まあ、マリアンネさんは嘘だがな。


「ちょ、ちょっと、待つのじゃ! あんたたちウェストフェルトの人だろう! 待ってと言っているのじゃ!」


「んあ、ウチの街がどうしたって?」


あ、しまった。

反応しちまった。

あれだな、街への愛が深すぎたんだ。

それならしょうがねえじゃねえか。


「そ、そうじゃよな! ウェストフェルトから来たのじゃよな。で、これから帰るのじゃよな!」


「……だとしたら」


「つ、連れて行くのじゃ。わらわをウェストフェルトへ連れて行くのじゃ!」


「あー、依頼か? 金があるなら受けてもいいぜ」


本当はギルドを通さないといけねえんだ。

問題があった場合に対処ができねえからな。

だが、人を一人連れていくくれえなら問題ないだろう。

しれっと荷物に紛れ込んでいたってことで済ませられたり……しねえかな?


ま、どうせ帰るだけだ。

少しでも稼ぎは多いほうがいいだろう。

ドミニクとチャールズには確認が必要だがな。


「ない……」


嬢ちゃんは下を向く。


「なんだって?」


「お金はない! ないものはないのじゃ! 悪いか!」


「悪いわ!」


無賃乗車かよ。

そりゃ犯罪だろうがよ。

ダメだなコイツ。


『フェルド。この子……魔力がすごいわよ』


んあ、ジリどういうこった?


『魔力はSランク級よ。魔力だけならね』


そりゃあ……魔力の他は?


『Eランク、そんなところでしょうね』


そりゃあアンバランスな。

が、魔法使いならアリだ。

周りが守って砲台として機能すればいい。

しかし、そんな魔法使いが文無し?

……やっぱり関わっちゃいけねえ気がする。


「フェル。ダメなの? この子の助けてあげられないの?」


イーナは優しいな。

しかし、ときに優しくしちゃいけねえヤツってのもいるんだ。

が、イーナにその優しさをなくしてほしくもねえ。

さてどうしたもんか……


「っ……勝負するのじゃ! わらわが勝ったら一緒に連れて行くのじゃ!」


「えっと。なんで俺が勝負を受けねえといけねえんだ?」


「お、男だろうが! 勝負から逃げるのか? 女性からの勝負なのじゃよ!」


「いや、俺は女性とか関係ねえから。勝負から逃げたって生きていけるし、問題ないだろうよ」


「な、なんでなのじゃ! チキン、チキン、チキンなのじゃ! 玉がついていないのじゃ、このおっさん」


地団駄踏んでいる。

やっぱり駄目じゃねえか、コイツ。


「いいよ、チキンで。つーことで、サヨナラだ」


「フェル……」


ああ、イーナが悲しい顔をしている。

しょうがねえなあ、連れて行ってやるか。

イーナにあんな顔されては負けるしかねえよ。


「じゃあ、おめえをつれ……」


「よし、勝負じゃ! わらわが勝ったら連れて行ってもらうのじゃ!」


連れていくって言おうとしたら、勝負になった……

人の話聞けよ。

頭が痛くなってきたよ。



ちょっとコイツの魔法に興味があったってこともあって、勝負をそのまま受ける。

さすがにコイツも俺を殺すほどの魔法は使わねえだろう。

そのくらいの常識はあるよな?



「で、フェルドさんが勝負を受けたってことかい?」


「なんか大変な子ですねえ。まあ、少し面白いかなとも思いますが」


ドミニクとチャールズを捕まえて、街の外まで移動した。

嬢ちゃんの魔力がSランクなら、普通の魔法でもかなりの威力だ。

広範囲に影響があるかもしれねえ。

もちろん街のなかで使うのはダメだろう。


「こ、こんな所まで、い、移動させて……わらわの、体力をうば、奪う気なのじゃな……」


これくらいで息切れ?

そりゃあ一般人より体力が低いんじゃないのか。

もしかしてレベルがだいぶ低い?

とすると、逆に魔力の高さが気になる。

天才、か?


「深呼吸しろよ。ゆっくりとだぜ。待っていてやるからな」


「そ、そっか、深呼吸……」


嬢ちゃんは吸って、吐いてする。

時間は二分ほど。

やっと呼吸が整ったらしい。

これじゃあ冒険者とは言えねえなあ。

この体力じゃ、どうしようもねえ。

俺ならまず走らせるかな。

一年くらいは体力強化が必要かもしれねえな。


「じゃあ。勝負なのじゃ! わらわが勝ったら約束は守ってもらうからの!」


お嬢ちゃんが負けても連れて行ってやろうと思っているよ。

言わないが。


「おう、じゃあ始めようか」


「余裕じゃな。しかし、それが油断だということに気付かないとは! 気付いたときには遅いのじゃ! 出てこい、サモンソードレギオン!!」


彼女の魔力が爆発するように上昇する。

ジリが言っていたのはこいつか!

地面に複数の魔法陣。

そこから金属製の剣が召喚される。

こいつは金属性魔法、《サモンソード》の上位版か!

二十本の剣に囲まれた。


「っ、やるじゃねえか」


正直、コレを躱しきる自信はねえぞ。

観客も「おおー」、「やるじゃねえかね、お嬢ちゃん」、「なるほど、自信満々のことはありますね」とか歓声を上げている。

どうするよ、コレ。

怪我を最小限で負けるにはどうすりゃいいよ。


「ふふふふ! これがわらわの力なのじゃ! 心ゆくまで味わうがよい!」


彼女が腕を俺に向けて振り下ろす。

剣たちがガチャガチャと方向を定め、動き出す……

くそ、回避!


あん。

……いつまでも、ガチャガチャいってんな。

んで、剣同士がぶつかってんじゃねえか。


「ああ、なんでなのじゃ! そっちじゃないのじゃ。あいつめがけて……。ああー、違う! そこの子、そっちじゃないのじゃ!」


お嬢ちゃんは明らかに慌てて、バタバタしている。

制御できてねえじゃねえか。


剣たちはガチャガチャぶつかり合い、んで、俺とは別の方向に飛んでいく。

おい、全然こっちに来ねえじゃねえか。

さすがにひどすぎるだろう。


「むあぁー。どうしてこうなっちゃうのじゃ! 違うのじゃ、そっちじゃない! ちゃんと動くのじゃ!」


おう、ダメそうだな。

スタスタと無人の道を行くように、お嬢ちゃんに歩み寄る。

彼女は俺のプレッシャーから、余計に慌てる。

可哀想なくらいにな。


「ちょ、ちょっと待つのじゃ。こっち来るな! 今、今ちゃんとやるのじゃ! ちょっと待ってって言ってるのじゃ!」


終いには叫び出す。

んで、剣がガチャリと……こっち、正確にはお嬢ちゃんの方へと。


「あー、違うのじゃ! こっちじゃないのじゃ!」


普通なら自分に当たらないように制御すりゃいいだけ。

この嬢ちゃんはできないんだろうな。

って、ギリギリか!?

《激流ノ歩》で突撃。

嬢ちゃんを抱きしめるように、飛び込む。

地面に激突させちゃあ、この嬢ちゃんの体力じゃ、大変なことになるかもしれねえ。

しっかりと抱きしめて、俺が地面にあたるように倒れ込む。

剣は三十センチ横に突き刺さった。

ほんと、ギリギリじゃねえか。

お嬢ちゃんが死ぬところだったじゃねえか。


「おい、大丈夫か?」


「あ、ありがとうなのじゃ……」


お嬢ちゃんの青い澄んだ瞳が俺をおずおずと見ている。

フードが下りていて、顔が見える。

青い髪の毛、そしてとんがった耳……

この子、エルフだ。

珍しいことだな。


「おまえ、エルフだったんだな」


「あっ」


お嬢ちゃんは慌ててフードを深くかぶる。

エルフってことはお嬢ちゃんじゃないかもしれねえ。

いや、エルフってのはスラリとした長身だ。

この身長ってことは子供ってことだよな。


「え、エルフで悪いか!」


「別にいいんじゃねえか。珍しいと思っただけだ」


俺にはお嬢ちゃんがどんな種族だって関係ねえよ。

それよりもあの魔法の拙さが気になるがな。


「なによりお嬢ちゃんみてえな、エルフの子供に会ったことはなかったんでね」


おう、俺の言葉にお嬢ちゃんの目が一気に怖くなる。


「わらわは子供じゃないのじゃ! れっきとしたレディーじゃ!」


胸を張る。

が、ぺったんこじゃねえか。

いや、エルフは貧乳が多かったか。


「しかし、その身長……」


「身長のことは言うな、デリカシーがないのじゃ! わらわは百二十六歳じゃ。もう大人なのじゃ。エルフにだって身長が小さい人もいるのじゃ!」


「ほう。俺の年齢の四倍か」


嘘の可能性もあるが、本人が身長を気にしているのに、年齢を上にいう必要はないよな。


「な、なんじゃ。女性に年齢を聞くなんて。男性としてあるまじきことなのじゃ!」


って、あんたが自分で言ったんじゃねえか。

怒りの拳が飛んでくる。

が、甘んじて受けよう。

ペチリ……

全然痛くねえな。


「鋼鉄の胸板なのか! わらわの手が骨折するのじゃ!」


鋼鉄じゃねえよ、お前がひ弱すぎんだよ。


「それで、勝負はどうなったんでしょうか?」


チャールズよ。

そこは放置していていいんじゃねえか。

なんかややこしそうだぜ。


エルフの女性は思い出したように、目を見開く。


「わ、わらわは負けてないからな! まだ、勝負は続いているのじゃ!」


面倒臭えや。


「てい」


今、俺の攻撃範囲内なんだよ。

で、チョップを軽く、頭に落としてみた。


「おごおぉぉ!」


彼女は頭を押さえてうずくまる。

いや、だいぶ加減したんだが。


「フェル。やりすぎだと思う」


『さすがに女性にそれはないでしょう。大人の男性としてそんな小さい子に手を上げるなんて』


体は小さいが、ちゃんとレディーらしいぞ。

なので俺は無罪。

じゃねえか。

ステータス差がある女性だよな。

しょうがねえ……


「俺の負けでいいや」


「な、何を。お情けは無用じゃ。実力で勝つのじゃ!」


うずくまったままで何言ってんだか。

涙目の顔だけがこっちを向いている。


「連れてってやるよ、ウェストフェルトに。それを賭けてたんだから、もう勝負する必要もねえだろうが」


「じゃ、じゃが、勝負は……」


「目的を忘れてんじゃねえだろうな。行きたかったんだろうがよ」


「むーん……。なんか納得いかないのじゃ」


知らねえよ。

こっちは忙しいんだよ。

時間をかけると野営場に着くのが遅くなるだろうがよ。


「よいしょっと」


彼女を抱き上げる。


「な、なにをするのじゃ! このスケベ!」


「うっせえ。もう出発するぞ。ウェストフェルトへ、だ」


彼女の抗議を無視して、馬車へと運ぶ。

荷台の荷物の上でいいだろう。

ちっこくて、体重が軽いからな。

荷物の上に置いてやる。

一応レディーらしいので優しくな。


「一応お礼を言っておくのじゃ……。ありがと」


少し恥ずかしそうにしている。

お礼を言い慣れてねえのかな。


「で、お前さんの名前は? お前さんって呼ぶのも面倒臭えよ」


「メリスティア」


「そっか、メリス。よろしくな」


「早速略すな! 馴れ馴れしいのじゃ!」


メリスのパンチが飛んでくる。

が、その距離じゃ当たらねえって。

すぐに息が切れてゼエゼエしている。

何をやりたいんだか……


そんなこんなで一人、旅の連れが増えた。

まあ、それほど悪いやつじゃないだろう。

こんな体力で悪いことをできるはずがねえよな。

悪いことをできる金もねえし。


さて、やっとこさ帰るぞ。

自分の部屋でゆっくりしてえな。

エルマさんの料理も食べてえしな。


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