第38話 小さい女の子に癒やしてほしいって願望の強い男性のことだよ
「あ、チャールズさん、お疲れ様です」
ドルフェミレスタの街、門での検査を受ける。
荷物を簡単に確認して、街に入る人が犯罪者ではないかどうかをチェックする。
俺とドミニクも、門番のおっさんに冒険者証を見せる。
「ドミニクさんも、フェルドさんも……ああ、久しぶりですねえ」
「そうですね。ランクがBになったからね。あまり護衛の依頼は受けないんだよ」
「で、イーナちゃん。どうして子供を?」
「この子にドルフェミレスタを見せてあげたくてね。いい経験になると思うんだ」
「ああ、なるほど。それはいいですね。子供は色々なものを見たほうがいい」
彼は頷いた。
腰を落として、イーナの目線に合わせる。
「イーナちゃん、この街を楽しんでね。ウェストフェルトと比べるとちょっと大きい街だから、楽しいものがあるよ。でも、ちょっと悪い人もいるから気を付けてね。悪い人に捕まったらおっちゃんに言うんだよ」
「うん。気を付けるよ。それにフェルとジリとドミニクがいるから大丈夫だよ!」
ジリがミャアと鳴く。
『私がしっかり警護します。ご心配なく』と言ってもおっちゃんには聞こえねえだろうがな。
さて、荷物検査も無事に終わり、門をくぐり、街の中へと入る。
「おー! これがドルフェミレスタか。大きいねえ! 人が多いね!」
イーナが声を上げる。
門から石畳の道がまっすぐに伸びている。
道の左右には三階建ての建物がびっしりと並んでいる。
茶色のレンガ造りの家だ。
統一感があるが、少しそれが圧迫感にもなっているか。
道の真ん中は馬車が忙しげに走っている。
左右に遊歩道が設けられていて、人々はそこを歩いている。
色々な人が行き交っている。
男性、女性、子供、老人。
元気な人もいるが、疲れている人もいる。
少し目つきの悪いやつもいるな。
ありゃあ冒険者かもしれねえや。
「イーナ、こっちの冒険者には気を付けるんだぞ。荒っぽいのが多いからな」
ウェストフェルトのほうは荒っぽいが気が良い奴らだ。
こっちには荒っぽくて、粗暴な奴もいる。
ごく一部だがな。
その一部が目立つんだよ。
冒険者ってのはレベルが上がる。
一般人とステータスが違うんだ。
そうなると力で押し通そうとするヤツも出てくる。
それじゃあいけねえんだ。
力だけじゃあ生きていけねえ。
魔物と戦うだけじゃあ、生きていけねえんだ。
野菜を作る人がいて、パンを作る人もいる。
洋服を作る人だって必要だし、家を作る人ももちろん必要だ。
そういう人たちがすべて合わさって街になってんだ。
誰が偉いってわけじゃねえんだ。
だが、それを忘れる冒険者がいる。
それじゃあダメなんだよな。
「そうなのか? 冒険者のおっちゃんたちはみんないい人だよ。おっちゃんたちだけじゃなくて、シャノンちゃんたちとかも」
「まあ、そうだな。向こうはみんなイーナを知っているからな。でも、こっちはイーナを知らねえ。そうなると問題が起きるかもしれねえんだ。俺たちゃあ、ここの住人じゃねえ。外の人だ。それは認識して気を付けねえといけねえんだ」
「ふーん……。そういうことなんだね。了解だ! 気を付ける」
「おう。ま、そんなに気を張るなよ。いつも通りいい子ならいいだけだ」
「了解!」
さて、宿を取り、一泊する。
で、翌日、チャールズは商人の仕事だ。
それにはドミニクさんが同行する。
俺たちはフリーにしてもらった。
イーナに街を見せてやろうって気遣いだ。
ありがたくその提案を受ける。
今日一日は自由行動。
そして、明日、ドルフェミレスタを出立し、ウェストフェルトへ向かう。
「おー、これは好きだよ。美味しいねー」
ということで、イーナと食べ歩きをしている。
今食べているのは五平餅ってやつだ。
ご飯を半殺しに潰し、甘い味噌をつけて、焼き目を付けたものだ。
甘辛い味噌だれってのが美味いんだよな。
まあ、おしゃれじゃあねえ。
だが、茶色い食べ物ってのは裏切らねえ。
それを選ぶあたりがイーナだな。
『あなたの方、おっさん冒険者の影響だと思いますが』
そう言うジリは肉串を食べている。
お前、肉ばっか食っているな。
もう少しバリエーション増やしてもいいんじゃねえか。
『黒豹ですから、それが当たり前でしょう』
今は黒猫じゃねえか。
その姿で言われてもなあ。
「フェル、あれはー?」
「おう、ありゃあ餅だな。三種類のタレで食べるやつだ。あんこ、きなこ、大根おろし醤油だ」
「このお餅と違うの?」
「ああ、五平餅は半殺しで、餅は皆殺しだからな。食感が違うまったく別の食べ物だ」
「皆殺し? それは美味しそうだねー。食べたい!」
物騒な、皆殺しと美味しいを結び付けるなよ!
いや、餅を皆殺しって言っている時点で物騒なんだよな。
だが、そのセンスは好きだぜ。
しかし、お前、食べ物ばっかだな。
しかも、その選択がおしゃれじゃねえ。
が、ナイスチョイスだ。
確実に美味いものを選んでいる。
いいじゃねえか。
『あなたのその基準がおかしいと言っているのです。炭水化物に偏りますよ』
おう、ジリよ。
そこじゃあねえだろう、ツッコむところはよお。
俺は炭水化物が問題じゃねえと思うんだがなあ……
「つーか、イーナよ。あの可愛いアクセサリーとか、あのフリフリな服とかはいいのか?」
イーナが俺が指す方を見る。
少し見て、そして首を傾げる。
「んとね。あのアクセサリーは森で木の枝に引っかかりそう。あの服は動きにくそうだよ。魔物と戦うのに邪魔かも」
おう、ちゃんと冒険者として育ってやがる。
聖女も冒険者ってことでいいんだよな?
『まあ、いいでしょう。イーナ様が聖女様であられることはお変わりありません。ならば元気に育っていただけるだけで、それだけでいいのです』
意外と聖女ってのも定義がゆるい。
俺としては気楽でいいけどな。
「ま、おらあ、イーナが幸せに育ってくれりゃあ、それでいいんだがな」
「うん。イーナ、毎日楽しいよ!」
イーナは屈託なく笑った。
それが聞けりゃあ、俺は十分だよ。
ちと目頭が熱くなるけど、内緒な。
武器屋を外から覗く。
別に買う気はねえ。
ブルーノは腕がいいから、その必要はねえんだ。
ここの街のはどの程度かなって感じだ。
まあ、店側からしたら感じのいい客じゃねえ。
つーか、入りさえしてねえんだから、客でもねえな。
実際、こんなもんだよなって感じだし。
あれ、イーナは?
「ねえねえ、お嬢ちゃん、可愛いねえ。どこから来たの?」
「君、すごい可愛いよ。ねえ、お兄さんたちと一緒にご飯とかしない?」
イーナが男性二人に声を掛けられていた。
ありゃあ冒険者か。
二十代後半の兄ちゃんたちだ。
実力はギリギリCランク程度だな。
ま、ジリが傍観しているんだから、問題ないだろうよ。
「フェルとジリが一緒にいるから、行かないよ」
ちゃんと断っているな。
偉いぞイーナ。
「そんなこと言わないでよ。そんな人たちより俺たちの方がいいよ。きっと楽しいから」
「俺たちは冒険者なんだぜ。Cランクだ。強いんだよ」
Cランクってのはそれほど威張れるランクじゃねえぞ。
まあ、一般人からしたらずいぶんステータスが違うからな。
恐れられる存在ではあるかもしれねえがな。
「行かないって言ってるでしょ! しつこいよ!」
「なあ、お嬢ちゃん。俺たちゃ冒険者だって言ってんだろう」
「そんなこと言って大丈夫かな。大人しく一緒に行こうぜ」
冒険者Aがイーナの腕を掴む。
あー、イーナの表情な。
ありゃあ爆発寸前。
いや、いくな。
イーナは腰を少し落とし、腰の回転を効かせて。
「ぐはああ」
イーナの拳が冒険者Aの腹に突き刺さる。
で、キッと冒険者Bを睨みつける。
「ひっ」
冒険者Bは逃げ腰になる。
が、イーナは逃さない。
一瞬で踏み込んで、懐へ。
「ぐへえ」
アッパーが冒険者Bの顎を跳ね上げる。
冒険者Bは大の字に道に倒れた。
ま、そんなもんだよなあ。
イーナのステータスは見えねえが、きっと高いぜ。
直接戦闘もできる聖女。
もういっそ、それを目指そうや。
「大丈夫かい、イーナ」
「うん。弱っちい冒険者だった。女の子の腕を掴んだら、倒していいんだよね?」
「おう、オッケー、オッケー。イーナの言う通りだ。で、こいつらどうしようかね」
冒険者Aは腹の痛みから立ち直りそうだな。
「もうちょっと寝ておけよっと」
「くあ!」
ちょこっと顎を殴って、脳を揺らしておいた。
冒険者Aはぐらりと倒れた。
これでよし!
『よし、じゃあないでしょうね。衛兵が来ましたよ。どうしますか?』
「俺たちは悪いことをしてねえんだから、逃げる必要はねえと思うぞ。なあ、イーナ」
「おう! 悪を二つ退治した!」
悪が何かの定義が必要だな。
イーナとは少し話し合う必要があるかもしれねえ。
悪かは知らねえが、殴られてもしょうがない奴らだってのは確かだろう。
「どうしたんですか、これは!」
来たのは若い衛兵だ。
二十代中盤くらいで、結構なイケメン、金髪に碧眼ってやつだ。
モテるだろうな。
俺にはねえ要素だよ。
「おう、娘がこいつらに連れていかれそうになったんで殴った」
誰がとは言っていない。
俺とイーナなんだがな。
「そんな乱暴な。この人たちが悪いからって、殴るなんて物騒ですよ。……ん?」
衛兵は二人の冒険者の顔を確認する。
「あー、なるほど、この二人ですか。前科アリですね」
「ん、どういうこったい?」
「少女を連れ去って、いたずらしようとしたんですよ。運よく未遂で終わっていますが。いわゆるロリコンですねー」
「ロリコンか」
しかし……
「ロリコンってやつは基本ノータッチだろうがよ。それが奴らの誇りじゃあねえのかい?」
「まあ、基本的にロリコンは無害ですよ。ですが、どの組織にも過激派がいますからね。それはしょうがないことですよね」
「いや、それで済ますなよ。こいつら犯罪者じゃねえか。しっかり逮捕してくれよ」
衛兵はポリポリと頭をかく。
「いやあ、未遂だったので、二週間で出てきちゃったんですよね。今回も未遂ですのでどうだか。でも二回目ですからしっかりと矯正されると思います」
大丈夫かよ。
過激なロリコンなんて世に放っちゃあいけねえだろうが。
「あ、僕はコンラッド・オコンネルと言います。何かあったら連絡ください」
まあ、用事はねえと思うよ。
この一日で二回も世話になる予定はねえよ。
「おう。よろしくな。俺はウェストフェルトの冒険者でフェルドってもんだ」
が、そこは丁寧に。
それが大人ってもんだ。
彼とは会釈をして別れる。
ま、後は彼がどうにかしてくれるだろう。
冒険者AとBを殴ったのは少しやりすぎたかと思ったが、過激派ロリコンじゃあしょうがねえな。
「ねえ、フェル。ロリコンってなに?」
「おう、イーナ。ちと心に傷を負って、小さい女の子に癒やしてほしいって願望の強い男性のことだよ」
「じゃあ、あの人たち可哀想だったの?」
「いや、あれはあの対応で正解だぜ。ロリコンってのもこじらせると悪になるんだ。それは覚えておけよ」
「うん。わかった!」
わかったかなあ?
女性にはわからないかもしれねえよなあ。
男性の心はナイーブなんだよ。
ときに壊れてしまうことがある。
そして壊れてしまったやつがいる。
そういうことだ。
だが、他人に迷惑をかけるのは違う。
それも正しいことだ。
そして、ロリコンはノータッチ、これが絶対だ。
『フェルドはロリコンじゃありませんよね?』
なに疑問に思ってんだよ。
俺の普段の行動を見りゃあわかんだろうが。
俺はロリコンじゃねえよ。
大人の女性が好きだよ。
だらける俺のケツを、たまに蹴っ飛ばしてくれるような人がいい。
って、俺の好みはどうでもいいじゃねえか。
『まあ、そうですよね。さすがに女神様がロリコンを選ばないと思います』
悲しいかな、ロリコンの社会的地位よ……
まあしょうがねえかな。




