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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第34話 だから、その物言いが胡散臭いんだって!

結局、ブルーノに払った代金はバジリスクの分だけだ。

それ以上は受け取らなかった。

アイツも頑固だね。


で、アラクネの報酬がまだ残っている。

つーことで、俺の強化の続きで、魔法を追加するってことになった。

まあ、ジリの提案だな。


『イーナ様は聖女様ですので、成長に伴って使用できる魔法も増えていきます。しかし、フェルドは普通の剣士ですので、しっかりと計画的に強化する必要がありましょう』


まあ、そりゃそうだ。

ずっと下の方のランクでダラダラしていた冒険者だぜ。

聖女と比べられてもねえ。


「ちょっとワクワクする。イーナ、木属性だから、フェルの水属性の魔法って楽しい!」


なるほどイーナは木の女神メルフェイーナ様の娘だからな、おそらくすべての木魔法を使えるようになる。

が、俺は水属性だからな、イーナの知らない魔法ってことか。



早速、ノーマおばさんの魔法屋へ行く。


「おう、おばちゃん、やってるかい?」


「ノーマおばちゃん、こんにちは!」


「……ああ、フェルドちゃんとイーナちゃんかい。こんにちは。今日はどうしたい?」


店の奥、おばちゃんは暇そうにしていた。

この街じゃあ、それほど魔法使いってのもいねえからな。

まあ、暇だろう。


しかし魔法屋ってのは薄暗くていけねえ。

気が滅入らねえのかね?

魔法陣に日光は良くないらしいんで、店は窓もなく、ランプで明かりを取っている。


「ちと魔法を買おうってね」


「あら、珍しい。というか最近はいくつか買ってくれていたわねえ」


おばちゃんにいくつか魔法を見せてもらう。


「どうだ、ジリ。よさそうなのはあるか?」


『そうですね……。フェルドに必要なのは、このあたりでしょうか』


「おばちゃん、これ」


おばちゃんが魔法陣を手に取る。


「なるほどねえ。フォグヴェールの魔法だねえ」


「フォグヴェールって?」


「霧を発生させて、視界を邪魔するんだよ。剣士のフェルドちゃんにはもってこいじゃないかしらねえ」


なるほど……

しかし、地味じゃないだろうか。

もっと派手な攻撃魔法とかねえのかよ?


『いらないでしょう。フェルドは剣があります。それに才能はないのですから、攻撃魔法を覚えたところで大したことはありません。アナタは地味な魔法が似合っているんですよ』


ジリの評価が厳しい。

が、まあ補助魔法ってのはアリだ。

派手な攻撃魔法よりも嫌らしい。

相手の嫌がることをするのが、勝利への近道。

俺には似合っているのだろうな。


「そういや、フェルドちゃん……」


「ん、どうしたい? おばちゃん」


「うん……イーナちゃんのことなんだけどね」


「ん、イーナのこと! おばちゃん、何を聞きたいの? 何でも聞いてね!」


イーナが元気に手を上げる。

魔法屋ってのは元気いっぱいの子が来るとこじゃねえような気もする。

が、明るくなっていいかもな。


「あのねえ……。イーナちゃんは聖女様だよねえ」


ああ、その話か。

ノーマおばちゃんは小さいときのイーナも知っているから、急激に育っているのも知っている。

そして、おばちゃんは魔法使いだ。

イーナの魔力の成長、その大きさも感じているんだろう。

聖女だって気付くよなあ。


「うん。イーナは聖女なんだって! 勇者と魔王を討伐するんだって!」


イーナも自分が聖女だとは知っている。

だが、それがどんな運命かを理解はしていない。

勇者と一緒に魔王を倒す役目だとは知っている。

だが、それがどんなに苦労する役目だか、まだ理解はしていないだろう。


「やっぱり、そうなんだねえ……。魔王を倒す旅なんて大変じゃないかねえ。そんなことをイーナちゃんがやらなきゃいけないのかねえ。この街で勇者様が魔王を倒すのを待っていればいいんじゃないかねえ」


おばちゃんはイーナを心配してくれている。

そりゃあ、俺だってイーナが心配さ。

だが、聖女を育ててくれと女神様に頼まれたんだからな。

イーナは聖女じゃなきゃダメなんだろう。

おそらく、イーナを役目から遠ざけようと逃げ出したとしても、逃げられないんだろう。

それは聖女が、勇者が逃げ出したという話が残っていないからだ。

五属性の勇者と聖女は出会い、魔王の討伐の旅に出る。

そして魔王は倒され、世界の平和が保たれる。

これは人間視点の話ではあるがな。

魔族の側から見たら、別の物語かもしれねえな。

だが、人間側には魔王を倒すことが必要なんだ。

だから、それをしなきゃあならねえ。

そうしなきゃ、人類が滅んじまうんだ。

イーナには重い責任を押し付けちまっている。

可哀想に思う。

だが、俺たち大人は、それを表情に出しちゃいけねえんだ。


「でも、それをしないと、みんな大変になっちゃうんでしょ? なら、イーナやるよ。だって、イーナはみんなが好きだから! みんな笑っていたほしいもん!」


イーナは純粋に育っている。

優しく育っている。

ほんとうに聖女なんだ。

俺には過ぎた娘だよ。

少し泣けてくる。

が、堪えねえとな。


「ああ、そうかい。そうだよねえ……。イーナちゃんならそう言うよねえ。イーナちゃんはこの街が好きかい?」


「うん、大好き。みんな優しいよ! エルマもティムも、バルドゥルもマリアンネもみんな優しい。冒険者のみんなも好き! 八百屋のおじちゃんも、魚屋のおばちゃんも、農家のおじいちゃんも。もちろんノーマおばちゃんも大好き!」


「そうかい、そうかい……私を好きって言ってくれるかい。こんな私をねえ。本当にありがとうね。おばちゃんもイーナちゃんが大好きだよ」


「うん、ありがとう!」


イーナは満面の笑みでノーマおばちゃんに抱き付く。


おばちゃんは複雑な笑みを浮かべていた。

きっと、イーナの将来の過酷さを思ってだろう。

ゆっくりと優しくイーナの頭を撫でている。

おばちゃんは優しい人だと思う。

きっと、優しい人たちに囲まれて、イーナは優しく育つのだろう。

それが、女神様が俺に、この街でイーナを育てさせた理由かもしれねえ。

少しだけ戦闘狂に育っちまってはいるが。



でだ。

帰宅し、《フォグヴェール》を覚える。

宿の庭で試してみる。


コイツは前方に霧を発生させる魔法だ。

俺の場合、まだ熟練度が低いから、そんな広範囲にはできねえ。

五メートル四方ってところで、それじゃあ戦闘には全然足りねえ。

熟練が必要だね。


しかし、この魔法の人気がねえ理由がわかった。


「なあ、ジリ。これって、俺も相手が見えねえんだが」


霧の中の状況がわかんねえんだよ。

これじゃあ攻撃できねえじゃねえか。


『まあ、逃走には使えるんじゃないでしょうか』


「そりゃあ、地味すぎんだろう」


『攻撃に組み込みたいのであれば、敵を察しなさい』


「ん? どういうことだい」


『微かな音、霧の動き、それらから相手の位置を、動きを察しなさい』


おいおい、剣聖みてえなこと言うなよ。

そりゃ人間技じゃねえだろうが。


『あなた何年冒険者をやっているんですか。それくらいできるようにならなければなりませんよ』


「聞いたこたねえよ、そんな技術。俺を剣聖にでもするつもりかよ!」


『それができるのが剣聖ならば、剣聖にでも何でもなってしまいなさい』


ジリよ、そりゃあ乱暴じゃねえか。

剣聖ってのは剣士の最高の称号。

そりゃあよお、なれたら嬉しいだろうが、おりゃあ普通のおっさんだぜ。

それが剣聖になれたら、みんな剣聖になれちまうってこった。


『あなたには女神様の加護もついているのですよ。女神様を信じなさい。信じる者は救われるのです!』


おいおい、胡散臭い宗教家みたいなことを言ってらっしゃいますよ。


『いいから、やりなさい。やれ!』


ジリが爪を光らせる。

少し牙もむいている。

凶悪な表情だ。


「だから、暴力に訴えんなって! お前、いつも俺が野蛮だって言っているがなあ。お前の腕力で自分の意見を押し通すのはどうかと思うぞ」


『私はあなたのためを思って言っているのです。すべてあなたのためなのです。素直に従いなさい』


だから、その物言いが胡散臭いんだって!


「気配を感じるのって、格好いいね。イーナも一緒に修業していい?」


イーナは乗り気だな。

聖女って剣聖スキルを取得できるのだろうか?

まあ、女神様の娘だからな、なんだってできるのだろう。


今後、瞑想を修業に取り入れることになった。

心を静かに自然と調和する。

世界の中の自分を感じ取るらしい。


これで剣聖スキルを習得できるのかね?

はなはだ疑問だ。

が、ジリには言えねえな。

確実に引っ掻かれるだろうからな。



<<ステータス>>

フェルディナント・エアハルト

 魔法:

  フォグヴェール(New!)


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