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ロートル冒険者の俺が聖女の養育者でいいのかよ? ――のちに辺境の英雄と呼ばれる男の話――  作者: 月見里 嘉助


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第33話 この剣を使って、俺は強くなるよ

今日は森でオークを狩っている。

オークの繁殖力は、ゴブリンには及ばないが、相当高い。

こいつらの繁殖を放っておくと色々と問題がある。

もちろん街の近くまで出てきて人間に害をなす。

それ以外にも問題がある。

この豚のようなオークは美味いらしく、上位の魔物の餌になるんだ。

俺は食ったこたあねえよ。


で、餌が増えるとどうなるか?

そりゃ上位の魔物が増えるんだ。

ガルムとか、バジリスクとかな。

ガルムはまだいいが、問題はバジリスクだな。

あれは巨大な蛇の魔物なんだが、スキルが凶悪だ。

視線に神経麻痺、牙に猛毒を持っている。

視線で相手の動きを止めて、牙の猛毒で仕留める。

で、丸飲みだよ。


Aランクの魔物なんだが、ソロの冒険者にとってはランク以上の危険がある。

神経麻痺を食らった時点で死確定だな。

パーティで仲間がいるなら回復とか、撤退とかできるんだがな。


で、オークが繁殖すると、そのバジリスクが増える可能性があるってんだ。

それだけでもオークを狩る必要性がわかるってもんだろう?


ちなみにオーク狩りをしていると、そのバジリスクに出くわすことがある。

気付かれないように隠れるのが吉だ。

戦うのはガルムよりも面倒だ。


『フェルドもAランクに近いのですから、バジリスクも狩っていかなきゃいけないでしょう。危険な魔物ですから、他の冒険者のためにも我々が討伐するのがよいと思いますよ』


「しかし、正直やりづらいんだよなあ。あの蛇」


『同意はします。しかし、私たち三人で負けることはないと思います。イーナ様の回復があれば神経麻痺は問題ないでしょう』


「おー! イーナが回復すれば問題はないよ!」


「……ちなみにイーナに神経麻痺は?」


『もちろん無効です。聖女様ですから』


すげえな聖女、さすが勇者パーティだ。


「さらに、ちなみに勇者に神経麻痺は?」


『もちろん有効です。しかし、聖女様が回復しますから問題ありません』


……聖女は勇者よりチートじゃねえか?

どうなってんだよ聖女。



話はそんなところで、オークを狩っていく。


「イーナ、そっち行ったぞ!」


「了解! ウィンドカッターだ!」


風の刃がオークの体を真っ二つにする。

ほんと、聖女の魔法ってのは怖いねえ。

確か賢者って魔法の専門家も、勇者パーティにはいるはずだよな。

聖女がこれなら、賢者はどれほどってことだよ。


俺も剣でオークを斬っていく。

スキルを使う必要もねえな。


ジリは魔法を使うこともなく、オークを爪で引き裂いていく。


まあ、俺たちならオークの団体さんでも問題なしだ。



「ああ、あれだな。噂をすれば何とやらだ」


『まあ、いいんじゃないですか。あなた、オークではもうレベルアップしないでしょう』


「フェルー、でっかい蛇だねえー。あれはきっと食べられないよねえー」


とさかを持つ十メートル級の蛇がオークを食べている。

いやいや、イーナよ、まだまだだな。

蛇の肉は鶏肉に似ていて、結構いけるんだぜ。


『まだ、小さいサイズですね。今のうちに倒しておきましょう。成長すると厄介です』


あれで小さいサイズなんだな……

まあ、ジリが正論。

なのだがなあ……

ソロ時代の苦手意識が染みついている。

アイツまだこっちに気付いていないじゃねえか。

逃げちゃダメかい?


『ダメでしょうね。もうすぐAランク冒険者になろうという者が。アナタはイーナ様の養育者なのですよ。イーナ様の手本となるような冒険者でありなさい』


「イーナは行けるよ! フェル、行こう!」


イーナがすっかり戦闘狂っぽく育っちまったよ。

俺の影響なんだろうなあ。

そんな信頼した顔を向けられたらさあ、行くしかないよなあ……

一応、イーナのオヤジってことになってんだからな。


「おう、奇襲で一気に決めるぞ」


『妥当ですね』


「オッケー! 圧倒的勝利! イーナ好き!」


確かに圧倒的勝利が一番リスクが少なくていいんだが……

俺、イーナの育て方、間違ってねえよな?



戦闘を開始する。

バジリスクは食事に夢中で、まだこちらに気付いていない。


『ウッドバインド!』


ジリが木属性拘束魔法を発動する。

木のツタが地面から伸びて、バジリスクを拘束する。


シャアア!


バジリスクは暴れるが、抜け出せない。

さすがジリ!


「ウィンドブレス!」


イーナからの俺へのバフ魔法だ。

体が軽くなる。

まるで羽のようだ。


俺も身体強化と魔法剣を発動する。

突撃系のスキルがいい。

《疾風連撃》!


バジリスクと視線を合わせないように、突撃!


始めに袈裟懸け。

くっ!

バジリスクの皮が硬い、傷は浅い。

が、しかし連撃だ。

横一文字、逆袈裟懸け、唐竹割り。

どうだ?!


ギシャアアア!


ダメージは与えたが致命傷ではない。


『フェルド回避を!』


ジリの声。

スキル硬直が切れた瞬間、飛び退く。

ギリギリだ。

そのすぐあと、バジリスクは毒のブレス。

バジリスクの周囲が紫の霧で覆われる。

危ねえな。

ありゃ、猛毒って話だ。


それで俺との距離をとったってか。

だが、相手は俺だけじゃねえんだぜ。

それで十分なのかな?


「ゲイルランス!」


『ゲイルランス!』


イーナとジリの魔法があるんだ。

《ウィンドジャベリン》の上位魔法の《ゲイルランス》。

巨大な回転する風の槍がバジリスクを貫く。


ジャアアア!


よお、バジリスク、ボロボロじゃねえか。


風の槍でバジリスクの毒霧は散っている。

道が見える。

じゃあ、俺も働こうかね。


イーナのバフは残っている。

《疾風突き》で突撃。

しかし、これは移動にのみ使用。

接近したところでキャンセルし、《剛唐竹割り》へと切り替える。

タイミングが難しいが、慣れちまえば簡単なもんだ。

ずいぶんと訓練したんだぜ。


水属性で強化された剣が、アクティブスキル《剛唐竹割り》でさらに強力に。

激しく、しかし正確にバジリスクの首へ。

そして、その首を斬り落とす!


バジリスクの体はまだ暴れるが、ジリの拘束魔法で拘束されたまま。

体が動かなくなるまで、その拘束は解かれなかった。


「まあ、こんなもんかな?」


「おー! 勝利だ! 圧倒的じゃないか!」


『そうですね。しかし、フェルドの攻撃力が課題ですね』


イーナ的には合格点だが、ジリ的には不合格らしい。

主に俺が。


「しかしなあ。俺は頑張ったと思うぞ」


『あなたの武器。それは正しいのでしょうか。あなたは満足しているのですか』


俺の剣はイーナと出会ってすぐに買った物。

前の剣よりはいいヤツだが、まあ、比較的安物ではある。


『Aランクになるためにできることはすべてすべきではないでしょうか。それとも武器に頼った戦闘は受け入れられないというのでしょうか』


そりゃ、俺だっていい武器が欲しいよ。

武器で強くなれるんなら、それがいい。

わかっちゃいるが、しかし資金がなあ。


『このバジリスク。前回のアラクネ。その資金を充てればどうでしょう』


アラクネのは『清廉なる赤い薔薇』と分けた。

が、そこそこの金になった。

今回のバジリスクはうちらだけだ。

足りるか?


「フェル、ダメなの? フェルは強くなれないの?」


「いや、そんなこたあねえよ。心配するな、イーナ」


心配するイーナの頭をグリグリと撫でてやる。

イーナは気持ちよさそうに目を細める。


強くなるために、良い武器が必ず必要ってことじゃねえ。

が、強くなりたいなら武器に頼ったっていい。

いや、頼ったほうがいい。

自分の腕だけでってのも、自惚れている。

「弘法は筆を選ばず」という言葉もあるが、しかし、俺は凡人だ。

筆は選びまくっていこうや。

金が足りないなら借金もして……



じゃあ、まあ、鍛冶屋のブルーノの所へ行ってみようか。


「ブルーノさん、いる? フェルが剣が欲しいんだって!」


イーナが先頭で工房に突撃していく。

なんかずいぶんしっかりしてきた……じゃねえよ。

俺の要件なんだから、俺が言えるよ。

子供じゃねえんだから。


「おう、イーナちゃん。今日も元気で、美人だね」


「ありがと。でも褒めても、お金の管理はフェイだから、意味ないよ」


「だがな、イーナちゃんがねだればフェルドのヤツも財布のひもがゆるくなるってもんだぜ」


「なるほど……。世の中そう回っているのか」


イーナよ。

俺とイーナの関係だけで世の中を理解した気になるなよな。

一般的には……

いや、娘にねだられりゃあ、父親は断れねえか。


「で、剣だよな。フェルド」


「ああ。いいヤツをくれ」


ちと格好をつけて行ってみる。

懐具合が心許なくて、内心バクバクだな。


「ふん。やっと、おめえさんもAランクになろうってところなんだろう。遅えよ、遅え。Aランクなら、Aランクにふさわしい剣を持つのが当たり前だろうが」


「なんだかな、その当たり前ってのが、オレあいまいちわかんねえんだよなあ。みんながするからって、俺もする必要はねえだろうが」


「馬鹿だな。そりゃあ、必要があるから、みんなするんだろうが。利点があるんだよ、利点が。それがわかんねえたあ、フェルドもまだまだ」


「うっせえよ、ブルーノ。てめえの髭の方が普通じゃねえよ。異常だよ。長すぎじゃねえか。飯を食うにも苦労するだろうがよお」


こいつ、どうやって飯食ってんだよ。

ご飯粒が付くだろうが、髭に。

パリパリに乾いたら取れねえだろう。

無理に引っ張りゃあ、髭が抜けんだろうよ。

大事な髭を切るのかよ?


『フェルド……』


なんかジリの声が低くて、怖え。


『真面目に話を進めなさい。ただ剣を買いに来ただけでしょう。なぜ、話が進まないのですか。しゃべりすぎなのですよ。この街のおっさんどもは!』


あー、なんかジリのうっぷんが爆発してねえか。

普段ため込んでたのかなあ。

「おっさん」なんて言葉使わねえもんなあ。

普段のうっぷんなら、俺だけじゃねえよな。

バルドゥルや、ドミニク、テオにルッツも悪いよなあ。


『は、な、し、を進めなさい!!』


爪を出して脅すんじゃねえよ!

悪かったよ。

真面目にやるから!



「まあ、正直そろそろ来るころかと思ってたんだがよ。で、遅えってことだ」


「あん? どういうことだ」


「こいつだ」


ブルーノが一振りの剣を出す。

片手剣。

俺が使っている物より少し長い。

シンプルな鞘、シンプルな鍔、シンプルな柄。

だが……


「なんだか、いい物のような気がするな」


「ふん。ほれ、抜いてみろ」


剣を受け取り、鞘から抜く。

鈍く光る刀身。

シンプルな直刀、片手剣。


「フェル。綺麗な剣だね」


イーナが呟く。


そう、何かわからねえが、美しい。

美学がある。

この剣には美学があると感じる。


「おい、ブルーノ。……なんだこりゃあ。すげえじゃねえか」


「気に入ったか。なら、持っていけよ、フェルド。それはおめえが使え」


「いや。こりゃあ、おめえの作品じゃねえよな。おめえじゃ、こんなの作れねえよ」


「俺の腕を何だと思ってやがる! が、しかし、残念ながら正しいんだよなあ」


ブルーノが苦笑する。


「そいつは俺の師匠の剣だよ。使う奴がいねえんで、ずっと蔵で眠ってたんだぜ。そんないい剣がよお」


「おい! おめえの師匠って」


ブルーノの師匠は、名匠ルーサー・ダウズウェルだ。

残念ながら、もう他界している。

俺も会ったことはなく、ブルーノから聞いたことがあるだけだ。

厳しく、そしてストイックな鍛冶師だったそうだ。

冒険者は彼の剣を使うことを夢見て、しかし、彼の眼鏡にかなわない冒険者は使うことができなかった。

伝説の鍛冶師。


「その剣を俺がか?」


「ああ、おめえが使えよ。ここじゃあ、バルドゥルは斧だし、シャノンにはそいつは無骨すぎらあ。なら、おめえくれえしか使う奴がいねえだろうがよ」


いや、いるだろうが。

テオも、ドミニクだって。

……いや、違うんだろうな。

俺に使わせたくて、持っていたんだろう。

だが、俺が遅かったんだ。

下の方でモタモタしていたんだ。


「剣はよう、見世物じゃねえんだ。武器なんだよ。使ってやんなきゃ可哀想だ。使わねえといつかは錆びるんだ。研げば綺麗になるがな。だが、ほんの少しだけ小さくなるんだ。月日を重ねりゃあ、徐々に小さくなっていく。本来の形じゃなくなっていくんだ。それは寂しいじゃねえか。できるなら生まれたときのまま、師匠が作ったときのままで使ってやりてえじゃねえか。使っていくうちに形を変えるとしてもよお」


ブルーノの表情は真面目だ。

本気なんだな。


「おう。なら、俺が使う。後で返せって言っても返さねえぞ。俺のだからな」


「ふん。使いこなして見せろよ。で、Aランクになってみせろ。イーナの嬢ちゃんを守ってみせろよ」


ダウズウェルの剣を俺が使う日が来るとはね。

なんだかこそばゆいような、とても嬉しいような。

わかんねえけど、頑張んなきゃって思う。


「で、代金だがよう……」


ブルーノが要求した金額は、アラクネとバジリスクの報酬を足しても足りないものだった。

この商売人が!


「高いって、もう少し安くしろ!」


「まあ、おめえじゃ払えねえだろう。利子無しの出世払いでいいぜ!」


そういうことかよ……

お人好しかよブルーノ。

一生、コイツに頭が上がらねえかもしれねえ。

が、今後も軽口は叩くよ。

おっさん仲間だからな!


「よかったね、フェル。いい剣をもらって」


イーナがにっこりと笑う。

それだけで、まあいいかと思える。

数年で本当に美人に育っちまうよな。

そして聖女として旅立つ……


「ああ、いい剣だよ。さすがダウズウェルさん。俺にはもったいねえや」


「せっかく俺が持たせてやったんだから、見劣りしねえくれえの剣士になれや」


「わかっているよ。ブルーノ」


ありがとうな。

この剣を使って、俺は強くなるよ。

イーナが旅立つまでは俺が守る。

それが父親役の務めだからな。



帰宅し、夜。

イーナは横でベッドに横になって、足をばたつかせながら、本を読んでいる。

ジリはベッドの上で毛づくろいをしている。

俺はステータスを確認だ。

ふと変なスキルに気付く。


「よお、ジリ。なんか激流ノ歩ってアクティブスキルを覚えたんだけどさ、知ってるか?」


ジリは毛づくろいを止めて、俺を見る。

何故か呆れたようにも見える。


『知りませんよ。あなたが突撃系のスキルをキャンセルなんて無茶なことをやり続けるから、システム側が新しいスキルを作ってくれたんでしょう』


「ああん? キャンセルできるなら、キャンセルするだろうが。便利に使わねえとスキルも可哀想だ」


『それは普通じゃないんですよ。異常です、異常。変態ともいいますね。システム側も悩むんじゃないでしょうか』


「なんだよそりゃ」


『今後は突撃するときは激流ノ歩を使ってあげてくださいね。システム側が悲しみますよ』


なんだよ、そのシステム側ってのはよお。

そのシステムさんってのは、そんな柔軟にスキルを作ってくれるのかよ。

……なら、無茶するべきじゃねえ?

色々スキル作ってくれるんじゃね?


『変なことを考えていると、怖いことになるかもしれませんよ。あなたは少し真面目になったほうがよいと思います』


おらあ、ずいぶん真面目だと思うんだがなあ。


『本人の評価と、外からの評価というのは往々にして異なりますからね』


ま、他人の評価なんてどうでもいいやな。

強くなりゃあいいんだよな。

スキルをもらって、儲けもんだ。


ジリがため息をついたような気がするが、無視していこう。

いいじゃねえか、多少、問題があったって。

上手くいってんだからな。


「な、イーナ」


「うん。フェルはそのままがいい!」


ほらな!

俺はこのままでいいんだぜ。

なんてたって聖女様のお墨付きだからな。



<<ステータス>>

フェルディナント・エアハルト

 年齢:42歳

 冒険者:Bランク

 LV:39(Up!)

  生命力:260

  筋力 :181

  魔力 :105

  素早さ:146

 アクティブスキル:

  激流ノ歩(New!)


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